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マルクト現地調査……デート!?

お楽しみ頂けると幸いです。

「お嬢様!お帰りなさいませ!」

「なぜ徒歩なのです?どうなされたのですか!?」


店といってもパッと見た感じでは普通の家だ。あまりに不思議そうな顔をしていたのだろう。コトシュさんがこそっと教えてくれた。


「何も全ての持ち家で商品を扱っているわけでもないだろう。商談で使っている本拠地というところではないか?」

「なるほど」

「お前、時々年齢相応になるな」


素直に頷いただけだというのにロイーグさんから妙な扱いを受けてしまった。まだこの世界の仕組みに慣れてないだけだと主張したい。

レイさんが外で話す内容ではないからと中で話すと告げて、一緒に屋敷の中へと通される。俺たちは危ないところを助けてくれた恩人だからと紹介された。


中に入ると驚くほど質素だった。外見は立派できれいに掃除され整えられているが、中はギリギリまで切り詰められていると俺でも分かる。ザールさんが行くたびに内装をより華やかにしていたことで一応目は養われていたようだ。

先程言われたことも併せると、見た目からが勝負なのだと分かる。内装を見せることで、これくらいのものを飾っておけるほどの収益がありますとか、色々と見栄を張ることに繋がるのだろう。実際にそう言っていたし。

この様子から考えるとマークル商会は外見はともかく内部に気を使う余裕すらなくなってきているのだろう。ここまで見せられるとレイさんのもう譲り渡そうと考えるのも選択肢として浮かんでくるのは仕方ないと思えてしまう。


通された応接室はまだ客人をもてなすだけの部屋になっていると納得できるものだった。


「さて、何から話そうか」


居合わせた使用人の方々は眉を顰める。主人のレイさんではなく、客人の中でも一番年下であろう俺が仕切りだそうとしたからだ。何か言おうとしたところでレイさんが手で止める。


「いいから。私の話は後でするから。先にイレブンさんの話を聞く方がいいわ」


何か感じるところがあったのか、真剣な顔でレイさんがそう言って場を治める。その勘は正しい。屋敷がどういう状況に置かれているかよりもこれからどうするかを考える方が先決だ。何をやられていようと、こと商売戦争において俺たちが負ける要素は何一つ無いからだ。


「何からやっていくかなんだけど」

「はい。何からでしょうか」


レイさんが緊張した顔で頷く。


「まずは街中を見るところから始めようか」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


同行者は俺とリセル組だ。リセルの服の大きめのポケットの中に万花と毎果が入っている。他の人たちはお留守番だ。屋敷から少し離れたところを歩いている。街中にいても違和感の無い格好に着替えている。

使用人の方々への説明もあるし、武力で出られたときのための防御の構築、俺たちが敵情視察から戻ってから作業を行うためのスペースの準備などそれぞれお願いしてきた。コトシュさんだけは寝ている女の子を頼んでいる。もうそろそろ起きると思う。


「これって、周りから見たらデートに見えるかな」

「ん~。そうみる人もいるかもしれないけど、今の状態だと似てない姉と弟じゃないかな」


若干だけど成長したリセルは俺よりも大きい。とはいえこの世界に来てから少しずつ身長も伸びているのでそのうち追いつくことを期待する。

しかし、どこからどう見ても美人の類いのリセルと前に比べれば見れる顔になったとはいえまだまだ細い少年感のある俺とでは男女の間柄には見えないだろう。

その俺の発言に思うところのあったリセルは、むっとした顔になると腕を組んできた。……腕を!?驚いて『縮地』を発動して少し離れる。


「何してんの!?」

「いつまでも手を出してこないからですぅ―」

「今はそういう状況でもないだろう?」

「いい加減さ。覚悟決めてくれない?」


半眼になって見てくるリセルに言葉が詰まる。いや、まあお互いに執着心があることは理解している。そういうことではあるという理解もしているのだが。恋人いない歴を着々と更新している俺には何をどうしていいかなんて分からない。


「あ~、こういう経験はないのね。じゃあ積極的に行くとしますか」

「ではそういった情報も今後は集めていくことで指示しておきます」

「私も恥ずかしながら興味があるので教えてくださいね」


毎果と万花まで介入してくる。そうだ、こいつらもいた。毎果はどこ経由の情報収集をしようって言うんだ?


「あ~もう分かった。そういう設定の方が色んな店を見て回りやすいのも確かだ。行くぞ」


そう言って手を出す。リセルも少々驚いた顔を見せたものの、にっこりと笑って手を繋いできた。万花は声に出さずに笑顔になっており、毎果は無表情ながらメモを取っている。そのメモは何ですか…。

しばらく歩いて商店の中でもトップクラスの店が多く集まる、メインストリートへと到着した。歩いているうちに手を繋ぐのは慣れた。よく考えたら組み手とかで何度もぶつかってるんだからそこまで気にすることは無いと思い込めばいいのだ。簡単なことであった。ふはは。


「何から見るの?」

「とりあえずボウカツとやらの商店の店の売ってるものからかな。たしかカンジョー商店とか言ってた気がする」

「どこにあるんだろうね。聞いてみようか」


近くにあった屋台から良い香りがしていたので買うついでに情報収集だ。魔国が近いから今までに味わったことの無いものを期待したい。


「おじさん、串肉2本ちょうだい」

「あいよ!なんだ見ない別嬪さんだな!」

「ふふ、ありがとう」


焼いている最中だった肉を2本取ってタレの中に入れて再度焼き始めた。ぶわ~っとタレの焼ける香りが広がる。ものすごい香りの暴力だ。満腹時以外なら確実に負ける自信が持ててしまうな。自然と期待値も上がる。


「出来上がりだ。また来てくれるなら今度はサービスしてやるぞ!」

「ありがとう。はい、イレブン」

「あぁ。お代は?」

「銅貨6枚だ」


1本三百円くらいか。ちょっと高めの良い串肉かな。おじさんに渡して早速一口食べてみる。


「思ったよりうまいな」

「そうだよねぇ~!肉とタレの相性もあるけど焼き加減の調節も上手だね!下味が良いのかな。使ってる肉の部位かな」


おいおい、そこまで言ったらダメだろう。おじさんの顔が少し警戒心が含まれた。


「なんだ?同業者か?良い舌を持ってるじゃねぇか」

「俺たちは冒険者だよ。趣味で料理をするから気になってるだけだよ。リセルも変に分析するな。迷惑だろ」

「ごめんなさい。おいしくてつい…」

「あ~あ~だったらこっちも早合点だ。疑って悪かったな。あと、兄ちゃんよ。思ったよりってのは中々に失礼な発言だぞ?」

「それはゴメンナサイ」


追加を頼みながら少し雑談に興じる。その間に少しずつおじさんの調理技術を聞き出していくリセルが怖い。


「それでお前ら、次はどこに行くとか決めてるのか?」

「マルクトには着いたばっかりだからね。どこ行けば何が買えるとかも分からないんだ。品揃えの良さそうなところを教えてくれない?」

「そうだな…」


一瞬おじさんは目を泳がせたが、何事も無かったかのように口を開く。


「あっちの通りにはカンジョー冒険商店街って名前が付いてるんだが、今やこの街の一番の商店が通り全部を自分のところの店で揃えた通りがある。冒険者が使いそうなものは大体のものは揃うようになってるよ」

「へ~」

「逆方向に行けばカンジョーグルメ通りだ。晩飯を豪華にいけるなら行ってみると良いだろう。あとは別にこの街の住人用のものを売っているところもある」

「どこに行ってもその『カンジョー』って人の店なんだね」


リセルがそう聞くと罰が悪そうな顔でおじさんが答える。


「この店の仕入れもカンジョーグループから行ってるからな。決して安くは無いが他に買うところが無いから仕方ねぇ」

「そうなんだ。タレもそこから買ってるの?」

「タレはの材料はそうだが、配合は俺のオリジナルだ。例え嬢ちゃんにねだられても教えることは出来んぞ」

「え~、そうなの。残念~」

「はっはっは」


上手かは分からないけどおじさんの話を少し明るい方向へと修正してくれた。情報の切りどころとしておじさんに別れを告げる。


「で、どこ行く?」

「とりあえずは物価調査だからな。冒険者用のものでも見に行くか」

「オッケー」


最初に教えてもらったカンジョー冒険商店街へと向かうことにする。途中にある商店は流し見しながらだが、どこも同じマークがあるから多かれ少なかれカンジョーとやらの影響は受けているようだ。地方都市丸ごと乗っ取っているかのようなやり方だな。


「これくらい離れれば良いかな。さっきの串肉はどう見る?」

「おいしいのは確かだよ。おじさんが上手なのも本当だけど、少し高いんじゃないかな。ユーフラシアなら1本銅貨2枚だね」

「同意見だな。ってことは」

「元値が高いんだと思うよ」


肉が高いのか。早速手を出せそうなところが1つ見つかった。楽しくなってきたと思わず俺はリセルと笑顔を見せあった。


「ねえ、毎果」

「何でしょうか」

「思ってた笑顔ではないですよね」

「イレブン様の笑顔ですから」

お読みいただきありがとうございました。

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