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集中したら時間の経過なんてあっという間です

お楽しみ頂けると幸いです。

【イレブン視点】


ぐっすりと寝た。普段使わない上に使い慣れていない聖魔法を使ったせいでかなり眠ってしまったようだ。時間を確認すると翌日の夜明け前に目が覚めてしまったみたいだ。

言葉が適当かは分からないけど、思い出すに解呪は大変だった。いくら魔力を注いでも紋様に作動させるはずの魔力が留まらずに抜けていく感じがした。どこかに抜けて行っているような感じ?

これが戦闘だったら気にはしないけど、相手は少々強いとはいっても俺と比べればステータスが遥か下の女の子となると力任せにやるわけにはいかない。流し込む魔力を抑えてゆっくりと長く作用させることを意識しての長時間の作業となった。

察するに同じ状況になっている人も多くいるだろう。もっと手軽に解除できるように練習しておきたいところだ。


さて、寝かされていたのは運転席の床だ。布団も敷かれているしスペースもあるから寝苦しいことは無い。見上げるとロイーグさんは運転席に座って寝ている。この寝方で訓練されているらしく、どこかの冒険者と違っていびきはかかないので静かに寝かせてもらうことが出来た。きっと心配してくれたのだろう。1人用のテントも渡しているというのに。

感謝の気持ちを念じつつ、音を出すことの無いように『隠密』スキルも使用して外へと出る。


どのくらい寝たかな。16時間は寝たか?前の世界を含めても最長記録ではないだろうか。一徹だけとはいえ、寝る直前まで気の使う作業をしていた。それだけ疲れたからと思っておこう。

これだけ寝ると空腹と渇きがすごい。とりあえず水分補給をしているとこの時間の見張りを担当していただろうフレンドビーたちが寄ってきた。


「ご苦労さん。だいぶ寝てしまったけど何もなかったか?」


毎果や薙刀の教育のおかげでイエスとノーの教育だけは済んでいる。イエスは頭の上で○を、ノーは体の前で×を作るし、極め付きは集団でやってくれるので集団で確認するから何かあったときも分かりやすい。1匹だけ違うやつがいたら詳しく聞けばいい。蜂娘たちを呼ぶことになるけど。


今は×印を出してくれているので俺が寝た後は特に何も起こらずに平和に過ごすことが出来ていたようだ。それならまあ良いだろう。憂いが無くなったのなら次は空腹だ。アイテムボックスから簡単に食べられるおにぎりを出して食べようとしたときだった。


「なっ!?………何するんだよ?」


最初の『なっ』だけが思わず大きくなってしまった。おにぎりを持っていない方の左手で口を塞いで静かにフレンドビーたちを責める。

おにぎりを持った右手と口の間にニ十匹以上のフレンドビーたちが×印を出して割り込んできている。何が×なのかの説明を聞きたいのだが、フレンドビーたちとは言葉でのやりとりが出来ないので俺が推測するしかない。


「めちゃくちゃ腹減ってるんだけど、食べちゃダメなの?」


一斉に〇に切り替わる。


「なんでだ?う~ん、俺が何食べようと自由じゃないか?」


今度は×になった。俺の自由はいつのまに俺のものでなくなってしまったんだ。一度空腹を自覚するともう一度寝るまでに時間がかかるし、みんなが起きるまで寝るのも暇だ。しかし何かするにも空腹で集中するのがしんどい。


「あ、俺が自分で作るってのはどうだ?」


変わらず×、むしろ5匹ほどが顔の近くまで寄ってきているから一番ダメな行為のようだ。とにかく食べるなということか…。水分でしばらく誤魔化そう。

その気になったらどこか見つからないところに行って食べても良いのだが、それはしてはいけない気もする。ガマンするしかないか。なんで俺はこんな中途半端な時間に起きてしまったんだ…。


運動代わりに狩りや演武するのは余計に空腹を感じそうで嫌、聖魔法も細かい作業を今の状態で練習するのは集中出来なさそうで嫌、気を使わずに集中できることか…。


「とりあえず紋様を写し取ったやつでも見てボーっとするか」


おにぎりを戻し、アイテムボックスから取り出したのが紙であることを確認するとフレンドビーたちは3匹だけ残して散っていった。ここにいたのは外周組ではなく、警戒範囲の内側を確認する部隊のはずだからどちらかというとまだ若くてマジメな奴が多いんだよな。

指示に忠実なのも良いけど、もう少し柔軟に対応してもらいたい。本来なら宿泊ベースの中なら蜂娘のうち誰かが(といってもほぼ万花)がいるはずだから通訳としても聞けるし、何なら事情を説明してもらえるはずなんだが。起きた時間が悪かったことに尽きる。

気配だけは今も完全に消してるからな。姿が見えないようにしたらフレンドビーたちも俺には気が付かなかっただろうし…。うん、腹減った。


そのまま紋様を眺めていてようやく思い出す。


「魔法陣って言葉が合ってるかはともかく、転用を考えてたんだったな」


解呪したものは人体に貼り付けていたので根本的に仕組みは別だと思う。こっちは物に貼り付ければ良いから仕組みは簡単だろう。必要となるMPに関しても、物なら不足する分は信用ある人に注いでもらうか、使用者に負担してもらうので良いだろう。何なら魔石から流用出来ないかも検討すればいい。

いやいやエネルギーをどこから持ってくるかの話の前に、魔法陣に『空間接続』を落とし込むことが出来るかどうかが先だ。使用しているときに使用している術式そのものは魔法で文書を書き込んでいるような感じだし、それをそのまま円の中に書き込んでみるか?

それならまずは今回の魔法陣の中から使われた術式を読み取ってみてその差異を比較してみるのはどうだろう。落とし込むために必要な工夫が見つかるのではないだろうか。

解呪の最中だったからはっきりとは覚えていないが、どんな感じだったかな。一度同じような魔法を作ってみるか。命令には逆らえないように、意識を失っても操作か操縦が可能、かなり強く相手を縛る、って感じの特徴だったな。

他にも色々と詰め込んでいる気はするけど基本に込めるものが分かればあとは自分で隙間を埋めて行けば良いだろう。『思考領域拡大』の全てのリソースを使って組み立てていく。いっそ紙に描くよりもこの方が速い。


自分でもグッと集中して取り組めていると感じるからだが、楽しくなってきたところで中断するのもおもしろくない。こんなものかなという納得がいきそうなものが出来上がる。

ざっと確認してみた感じ、一応仮完成と判断する。使われていた呪魔法と同じ効果か試してみたいが、罪も無い生物に付与して良い類いのものではない。あ~、あいつら引き渡すのが早かったかもしれない。どうでもいいやつで人体実験すれば分かりやすかったのに。

仕方ないので早速頭の中の術式を紙に写してみて魔法陣と見比べてみた。



なるほど、大筋は間違っていないような気がする。多少違うところは見られるが、初めて見るものを最初から全部理解することは出来ない。『鑑定』もあまりに俺の理解や知識から遠いものは文字化けしているように見えるので詳細は分からない。

『鑑定』も一度理解すれば有能スキルなんだけど、未知のものには弱いんだよな。勉強を継続しなくてはいけないのはこの際ガマンするが、初見のものに対してもう少し優しい仕様にはならないものか。

誰かがどうにかしてくれるようなものでもない愚痴は横に置いておく。


1組しか無いが参考になりそうなものが手に入ったわけだ。これを参考にしながら『空間接続』の術式を落とし込んでみようか。これもまた時間のかかる作業だが、最初からうまくいくわけが無い。

とりあえず実行してみよう。それで発動するなら良し、ダメならそこから何が原因かを探してみれば良い。なんとなくだけど、10年単位で専門に研究するようなテーマな気がするなぁ。


ざっと描き上げてみたところでかなり直径5メートルの円形と大きくなってしまった。呪魔法よりも空間魔法の方が干渉するものが膨大だから仕方ないことではあるが、必要なMPが俺が自分で使うよりも多くなりそうな気がするな。


「こんな~ときでも~、とりあえず~やってみ~よ~う~」

「集中してるのは良いけど、さすがにみんな起きてるからね。レイとアンナさんなんてすごく驚いてるよ」

「は!?リセル!おはよう!?」


スタートは地面に座っていたが、作業用にと色々と散らかしながら行っていたことにも今気が付いた。おまけにリセルは正面に座って肘を付いて俺を観察していたようだ。

反射的に挨拶を返してしまったが、あきれ顔で見られていたにも関わらず気が付かなかったみたいだ。しかも周囲は真っ暗だったはずが、すっかり明るい。


「おはよう。それよりも歌うほど楽しいのは分かるけど、朝ごはん出来てるからね」


気が付くとすっかりと太陽も昇って朝だった。少なくとも3時間は軽く経過しているようだ。遠巻きに皆が起き出して活動を始めている。リセルも気を使ったのか、気配を出来る限り消してくれていたようだ。今更ながら気が付かなかった自分が恥ずかしい。顔が赤いことを自覚する。


「これは…、恥ずかしいな」


遠くでこちらを見ている視線を感じつつ、散らかしているものをとりあえず全てアイテムボックスへと放り込む。勝手に整理してくれるから雑に扱うことに問題は無い。

どう誤魔化すか、いっそのこと開き直るか、既に実験段階であると無駄に自慢しながらいくかを考える。答えは一瞬で決まる。開き直ることでいこう。デテゴでも無い限りからかってくる人はここにはいない。


後日、リセルから伝わってしまい、まだまだお子様だとの扱いを受けることになるがそれはまたの機会に。


そして朝食時に食事禁止を言い渡された理由を知った。そういえば1日以上何も食べていなかったんだった。

疲れているだろうからと作られたおかゆは程よく粒が残っており、塩加減も絶妙だった。他の料理に作っていたであろう、鶏がらスープが良いベースになっている。加熱具合や塩加減を変えて3種類あったので全て食べてみた。


「あ~、めっちゃ染みる~。さすがリセルだな。量があるのも良いな。寒いから温まるし」

「レイが教えてくれたんだよ。これもイレブンが知ってる料理?」

「知ってるぞ。ここまで美味いのは食べたこと無いけどな」


一瞬残念そうな反応を見せたが、褒めたことで表情は基本変わらず笑顔だ。美味しいのは事実だから気にしなくて良いのに。


「梅干しとかおにぎりの具になるものなら一部使えたりするぞ。物によっては合わないから注意は必要だけどな」

「今あるものだと…、梅干しが一番おいしそうかな?」

「ああ。先入観かもしれないけど、海のものが相性が良いと俺は記憶している」

「どんなのがあるの?」

「海藻の昆布、魚だと鮭が俺は好きかな。大きくない程度にした鶏肉なんかを入れる場合もあるな」


はやくそちら方面のものも手に入れたいものだ。まだそちら方面に派遣した組もまだ到着はしていないようだから気長にいこう。

そんな俺たちを横目にレイさんとアンナさんが何かに驚いているようだった。コトシュさんに何か聞いている。


「これ、まさか毎食見せられるのか?」

「リセルが作ったときは大体そうだな。慣れた方がいいぞ」

「朝から血を吐くような場面に出会うことになるなんて…」


胃痛かな?何か効く薬でも出してあげようか。そう聞いたら怒られた。解せぬ。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
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