紋様の除去と初めての弟子
お楽しみ頂けると幸いです。
紋様を写し取った後に使用するのは聖魔法だ。系統として呪いの成分が強い。本人の意識を希薄にした上で命令通りに動くようにされているのか。なるほど、それなら確かに意識が無い状態でも強制的に動かすことが出来るのだろう。
魔法としては良く出来ているな。もはや魔法陣と呼んでもいいだろうね。これは使える技術だ。時間さえあれば俺がいなくても『空間接続』が使えるようになる可能性が高い。良いものを知った。だけど、はっきり言えることが1つある。
胸糞悪い。
この魔法を使った者と、この子の契約者となっているものには存分に地獄を味わってもらうことにしようか。
マルクトに行ってからすることが分かってきたな。どちらにしてもここまでレイさんに関わった以上は街をひっくり返すような事態を起こさないといけなかったわけだし、1つくらい因縁が増えても構わない。
それに同じ紋様を刻まれて自分の意思とは無関係に奴隷にさせられている人が他にもいるはずだしな。
解除に関しては最初は手探りではあった。聖魔法だけでは簡単にはがすことが出来なかったのだ。ただ、手段だけはいくらでも持っているのが俺という存在の特徴だ。
そして解決方法は割とあっさり見つかった。同じ呪魔法を兼用して発動することでほころびを作ることに成功した。
取っ掛かりが出来ればあとは聖魔法で無理矢理剥がすことが可能だ。そこで頭をはたかれた。
「女の子相手に力づくで何とかしようとするんじゃない!」
「何しようとしてたのだ?」
「イレブンが威力強めで魔法を使おうとしたから止めたの!」
「魔法に関してはまだ魔力感知が使えるようになったくらいの私が言うのもなんだが、それはマズいだろう」
「いや、リセルもコトシュさんも落ち着いてくださいね。そんな無茶なことはしませんから」
止めてもらわなかったら不機嫌なままの魔法行使で悪影響が無かったとは言い切れなかったな。
肉体の補助強化と治癒、解除の際の魔力の影響の遮断と手順を1つずつ丁寧にすることで影響を抑えつつ解いていくことにしようか。
「そこまでするなら良し」
「リセルにはもしかして何しようとしてるか分かってる?」
「私は分かってないよ。精霊さん達が何をしようとしてるのか、どういう結果になりそうかの解説をしてくれているだけ」
「何それ。俺も聞きながらやりたいんだけど」
「え~とね。今すぐは無理だって。もう少しがんばれってさ」
「何をがんばればいいのかだけでも教えてほしいけどな」
結局は教えてもらえず、少しずつ進めていくくだけになった。精霊たちにも何か事情でもあると思おう。俺も未だによく分からん存在だしな。
それだけ精霊魔法は特殊ということなのか、結果がどうなるかなんてことも教えてくれないならリセルが特殊な存在だというのが強調されるだけだな。
今の自分にできることからやるのが一番だな。
ほころびは出来たけどどこから手を付ければ良いのか分からなかったおかげで作業は夜を徹して行うことになった。
完全に解けたときには太陽がほぼ真上にまで登って来ていた。
「あ~。疲れた…」
「はい。お疲れ様。ここから先は私たちが面倒見ておくからね」
「任せた。移動できそうならしてても良いけど」
「明日まではここで休憩だ。あとのことは任せて寝ておけ!」
「あ~い。わりと制御細かくて大変だったし、寝るわ」
紋様を剥がした女の子を毛布で抱えて撤収するコトシュさんについて行くリセルたち、俺はロイーグさんに背中を押されて四輪の運転席へと押し込まれる。
俺一人くらいが寝るくらいのスペースはある。女性陣の方が人数も多いし、まあこの扱いにされること自体は仕方ないとしよう。俺は寝られればそれでいい。
寝る前に栄養剤代わりにスタミナポーションを飲み干して寝る。寝てる間に身体の復調を期待してお休みなさい。
☆ ★ ☆ ★ ☆
【リセル視点】
「イレブン寝ました?」
「寝た寝た。あいつがあそこまで疲れるなんてな」
「細かい制御を覚える前に強くなってしまったので、そのあたりが大雑把なんですよ」
それでもほとんど一瞬で寝たみたいだ。ここまで丁寧に出来るようになったのならかなり上達していると思う。
今なら精霊の腕輪を付けていればより色々と細かいものを作れるようになっているんじゃないだろうか。
「魔力に関しては色々できそうだが使い方も難しいのだな」
「コトシュさんもまだまだ甘いですね。イレブンの性格ですよ。あいつ絶対元から大雑把なんですよ」
「ロイーグさん正解」
「ほら~」
しばらく男二人だったこともあってかロイーグさんはよく分かってる。コトシュさんは食事の時とか限られた時しかイレブンと話す機会が無いからまだ掴みかねていたみたいだね。
まだ一緒にいる予定だし、何か仲良くなれそうなことを考えてあげようかな。
「私が知るイレブンは料理中くらいだが、そのときは割と細かい性格をしていたがな」
「ん?」
今コトシュさんは何て言った?聞き間違い?
「よく『2人で』料理をするのだがな。そのときは割と細かいぞ。話を聞くと最初は大雑把だったが、こだわらないと美味しいものには出会えないとかなんとか言っていたな。一度完成すれば気が緩むようだったが…」
そのイレブンは私は知らない…。いつも料理するときはお互いに調理の仕方が違うから別々に作業していることが多かったからだけど。いつの間にコトシュさんとそんな関係になっていたんだろう。
「リセルは肉よりも野菜の方が好みだろう?」
「ぅえ?う、うん」
「無用な心配を呼んでいる気がしたから言っておくが、私は味見役だぞ」
心を読まれたような気がして、耳と頬が熱い。絶対に表情に出てる。
「私だって一応女だからな。味の好みについての意見くらいは言える。どんなものが一般的かのコメントをしてあとはイレブンががんばっているだけだ。そして私は満足するまで食べる量が多いからな」
「はい、ありがとうございます」
最後の方は消え入るような声になったが、気にするなと言われた聞こえたか何を言うか分かっていたみたいだ。
そうなったら私がやることは1つだ。最近手に入れた米をイレブンが好きなように作ってみよう。何に合わせても美味しいと言っていたけど、基本的には濃い味が好きだし。
「あの~、米の調理なら私もお手伝いしましょうか?」
「あ、レイも知ってる人?そっか。仕入れる商品がどんなものか知るために食べたんだね」
「そんなに知っているわけじゃないけど、一番簡単なものなら」
「レイ…、あれを調理と言うには少々詐欺だと思うぞ。疲れている人に勧めるには良いと思うが…」
アンナさんが呆れたような少し睨むような感じだ。調理と言うほどでもないことだすると。
「おにぎりってやつ?前にイレブンが作ってくれたけどすごく美味しかったよ?」
「いやまあ、何でもそうだと思うが料理上手が作ればおいしいけど、手順や味付けさえ間違えなければそこそこのものは作れる。それはあたしでもそうだ。そしてそれはレイもそうだ」
「作れるんだから良いでしょ!お父さんも喜んでくれたことあるし!」
「そりゃあ病み上がりに娘が作ってくれたら喜んでくださるだろうよ」
「もう!」
レイがポカポカ叩いているけどアンナさんには全く効果が無いようだ。二人の仲がいいことだけは分かる。
少し獣人の村が懐かしい。みんな元気にしているかな…。
「リセルも料理が上手なんだったら一度作ればすぐだよ。いくらでもアレンジできるからイレブンさんが起きるまでに試してみよう?」
何を作るのかは分からないけど、せっかくの申し出だから受けておいた方が良いよね。
それに襲撃を受けても気丈に振舞ってくれていることは分かる。気持ちだけでも受け取っておいた方が良いのは確かだ。
イレブンも言い方にごまかしがあったように思うけど、ザールさんは支援してくれることは決めてくれたようだ。いつマルクトに来るとかまでは決まっていないようだけど。
とりあえずはマルクトに乗り込んでイレブンが好き勝手にかき回すらしい。2人からすればどういう状況か掴みかねているだろうけど、危険に晒されることだけは無いと全員で強調した。
実際に規格外の力を見たし、信用はしてくれたと思う。想像の上を行き過ぎて深く考えることはやめているような気はするけど。この申し出も気を紛らわせようとしているのと、少しでも私たちのことを知りたいのだと思う。
乗っかっておこう。マルクトに知人が出来るのは喜ばしいことだし。
「うん。作り過ぎてもマジックバッグで保存できるから自分で食べられるし、教えてほしいな。何ていう名前なの?」
「私の一番得意料理だよ~。名前はね、おかゆ!」
温かい印象を受けたのは正解だった。そしてアンナさんが調理と言うほどの工程が無いことも分かった。
レイがなぜここまで自信を持っているのか分からなかったけど、すごくシンプルな味がした。熱の加え方でご飯のままで食べるのも、おにぎりやチャーハンにするのとも違う。スゴイ食材だなと思った。
「じゃあリセルも作ってみてよ!」
せっかく見せてもらったのだからと私も自分で考えて作ってみた。その味見してもらった時のレイの顔はたぶん忘れられない。この世の終わりみたいな顔をしてた。その顔を見せたのは一瞬だけだったけど。
なぜかって?食べて私を見た後に泣きながら走って行ったんだ。アンナさんが私はここにいるように言って追いかけて行った。すぐに気づかれないようにフレンドビーたちが追いかけて行ってくれたし、私も精霊さんを少し見守りに行ってもらった。
アンナさんと戻ってきたときのレイは私を見るなり、大きな声で叫んだ。
「弟子にしてください!!」
初めて弟子が出来ました…?
お読みいただきありがとうございました。




