旅の途中でも戻れると一人だけ大変
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睡眠薬の関係上明日の朝までは起きないだろうことからとりあえず今日は休むことになった。
しかし、俺にはまだやることが残っている。不届き者の搬送だ。
「俺だけやたら動いてない?」
「一番顔が効くのはイレブンだしな」
「行くだけならいいが戻って来れないのは困る」
「その開発の時間も取れないからじゃないか」
さっきから全く勝てないのはなぜだろうか。味方がいないのが悲しい。
「レイもアンナさんも気にしなくていいよ。強いけど口では勝てないってことを時々分からせておかないと、いきなり何かやらかしてくるんだから」
「これくらいへこませておかないといけないんだ。イレブンは」
「ロイーグさん…」
唯一味方になってくれそうな同性へと視線を向けるが、既に両手を挙げている。
「俺もさすがに勝てる気がしないからな。すまんな」
がっくりと肩を落とす。でも全て事実だ。送り出すことは出来ても、こちらに戻そうと思うと結局は俺が見ていないといけない。
冒険者組合への引き渡しも説明も当事者の俺がやらなくてはいけないことを考えると俺がやるのが一番話が早い。
「行ってきます」
自分が適任であると認めるとさっさと終わらせたくなる。外へと出てまずは届ける者たちをしっかりと拘束し直しておく。既に抵抗する体力も気持ちも根こそぎ奪ってあるので問題無く終了する。
『空間接続』を使用して、隠れ家の方へと移動する。メディさんの家に繋ぐと犯罪者を秘密裏に街へと入れたことになってしまうので俺が捕まってしまう。遠いが仕方ないのだ。
隠れ家周辺を縄張りにしているフレンドビーたちに挨拶を交わす。特に困っていることも無さそうなので、差し入れとして果実をいくつか渡しておいた。喜んでいるところを見て少し心が癒される。
さて、移動をどうするか。アイテムボックスを確認して死蔵されているものを見つけたので使うことにする。適当に乗せると、落ちないようにだけ結界で工夫したら出発だ。
買ったはいいがほとんど使ったことの無かったこちらの技術で作られた台車や荷台だきっとよく揺れて大変だろう。盗賊だろうと冒険者だろうと慣れているかもしれないが知ったことではない。
一応危険の無い速度で移動するとなると30分くらいだろうか。落ちはしないが、揺れはする。どうなっても止まりはしないが、到着したくらいで『清潔』は使ってやるから十分に楽しんでほしい。
俺個人としては『空間接続』を誰でも使えるようにする案を考えていたけど、そんな簡単には思いつかないうちに到着した。時間があっという間に過ぎたことだけが救いだと言えるかな。
ユーフラシアの入り口の門まで到着した。色んな時間に出入りしていたから門番の中でも知り合いになった人が何人かいるが、運よく顔見知りだった。挨拶もそこそこに俺の後ろを見て驚いている。
「ど、どうしたんだ?そいつらは一体…?」
「あぁ、盗賊と護衛依頼を受けた癖にわざと逃げて反故にしようとした冒険者だよ」
「それは分かったが、何というか。生きてるのか?」
「あぁ…」
スピード重視で急いでたから後ろを見てなかった。思った以上に吐瀉物でひどいことになってる。『清潔』は信じてるけどもう使いたくは無いな。
人は捨てるわけにはいかないので『清潔』をかけて下ろす。さすがに歩けるようにはしてあるので、2本の縄で繋いだ捕縛者たちを無理やり引っ張って歩かせる。
少し話したが、冒険者が関係した犯罪であるので俺が直接冒険者組合に連れて行くことになった。構わないのか確認したが、俺が連れて行くことが一番安全であることを言われてしまった。まあそうだろうね。
「じゃあ自分で連れて行きます。あと、きれいにはしてあるのでこの荷車は寄付していいですか?」
「まあもらえるものはもらっておくが。いいのか?」
「もっと良いやつを持っているので大丈夫です」
一応誤魔化し用にいくつか使える物はあるけど、これよりは揺れないし荷物を載せる量も多い。この2台が無くなったところで特に問題は無い。
「それならもらっておくか。今あるやつも既に古かったんだ。助かるよ」
「丈夫ではあるんで使ってやってください」
「ありがとうよ!」
「いえいえ」
俺と門番さんだけが和やかに会話して中へと入る。さっさと目的を果たしてしまおう。道を歩いていると俺が見える範囲の人たち全てが驚いた表情でこちらを見る。
特に冒険者組合の建物が近くなってくると、冒険者が好む酒場が何件かある。わざわざ外に出てきて見てくる人たちもいる。何人か知り合いもいるので苦笑いして手を振っておく。
犯罪者を捕まえることがあっても、中に連れてくることは稀だし、ましてや人数が人数だ。そして率いているのは俺。嫌でも注目が集まってしまった。
そうなると冒険者組合の前には見たことのある人物が立っていることになる。
「お前は一体何をやっているんだ」
「言い訳ではなくて主張をさせてもらうが、俺は被害者を助けただけだ。そしたらこいつらが罪を犯していたから連れてきただけだ」
「嘘ではないんだろうが、信じるが。お前の周りにはいつも事件が起こるようだな」
「疫病神みたいに言うな」
まだ勤務中だったのか、帰っていたところを呼び出されたのか。息が乱れているわけでもないし前者かな。
「できたらザールさんにも話したいことがあるから、こいつら引き渡してもいい?」
「こいつらは何だ?」
「こっちの全員とここから後ろのやつらはマルクトへ向かう途中で出てきた盗賊ね」
結局は18人いた。アジトまで攫ってきてないけど全員ではあるそうだ。回収してきたものはまた持ってくれば良いそうだ。こそっと言われたが欲しいものは自分の取り分にしても良いらしい。が、持ち主にバレると面倒だからその辺りの扱いに気を付けた方が良いそうだ。さすが十年渡り歩いた冒険者だ。じゃあそんなベテランから見て残りはどう見えるのかな。
「こっちの4人はマルクトの冒険者だけど、護衛任務以外に闇依頼を受けて闇依頼を優先させたやつら」
「ほぅ」
お、魔物討伐を一緒に行った時以来の本気の表情だ。危機感は感じないけど恐怖を感じるくらいには怖いな。
元冒険者の4人なんか顔色が真っ青だ。盗賊たちの中には腰を抜かしたものまでいる。俺とは違う反応だな。何が違うのかなぁ。経験なんだろうなぁ。
デテゴがハァッと息を吐くと空気が元に戻る。デテゴもいつも通りの表情に戻る。
「中で話を聞こうか。ん?盗賊まで連れてくる意味あったか?」
「闇依頼の方に盗賊も関係してたからさ。領主さんにも連絡いくだろうけど、冒険者組合も巻き込もうと思って」
「また面倒な」
「後始末だけやってくれたらいいよ。きれいにはしておくから」
「お前な!後片付けの方が面倒なんだぞ!」
何か既に歴戦の冒険者から、平凡な一般事務員のようなセリフへと急激な変化だ。もう少しカッコいいところを持続させてほしい。
「まあこっちに迷惑かからないように気を付けるからさ。とりあえずぎゅっと絞ってよ。それで向こうの街に手を出す口実を考えてくれると嬉しいな」
「はいはい。俺よりも大変なやつらがいることが分かったし、言われた通りやってやるよ」
「あ、そうなの」
デテゴ以上に大変な目に遭わせている人がいないので、少し驚く。心当たりが思いつかない。
「お前が手を出すんだから、マルクトの関係者は全員大変だよ。むしろ善良なやつほど全ての後片付けを背負わされることになるから大変だな。人員の手配くらい今から考えておいた方が良いかもしれないと言っておくか」
「妙な信頼をしてくれてるのな」
にかっと笑われてしまった。こういう顔が出来る男になりたいもんだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆
とりあえず捕縛者たちの正式な取り調べは明日からになった。領主の方からも担当官を呼んでくる必要があるし、冒険者組合としても簡単に済ますわけにはいかない罪状だ。
俺は把握している経緯を全て伝えておいた。そこそこ遅くなったが協力することはやぶさかではない。一時的に牢屋に大量に罪人が入ってしまうことで大変になることから、食材になりそうなものを多めに納品しておいた。こういうときは自分が得るお金よりも顔見知りの職員さん達が苦労しないことが一番だ。
どうやら俺が原因で振り回してしまっている部分も大きいらしいし。納品だけでなく個人的にも今晩の食事や、休憩時のお菓子として食べてもらえればOKなんでと色々と摘まめるものを差し入れた、
「苦労かけますが、どうかがんばってください」
一応未成年の俺が言ったことで笑いを引き起こしてしまった。
「犯罪者を捕まえてきたんだから気にするなよ」
「こういうのも仕事の内だから気にしないで」
「むしろイレブンからもらえたらラッキーだよ」
「遅番で得したなんて今まで無かったな」
良い意味に受け取ってもらえてよかった。マジメに活動していたからこその関係性だな。今後も気を付けるようにしよう。
話すことは話したので俺は解放される。明日からのことを考えてデテゴも俺とタイミングを合わせて一緒に勤務終了だ。
「ザールとの話ってのは何だ?」
「マルクトで商会を引き継いだ女性がね、ザールさんに商会を引き取ってほしいってさ。たぶん提携ってことになると思うな。それかデテゴさんの配下につくみたいな」
「なるほどな。話を全部聞いたつもりだったが、まだ広がるんだな」
「そうそう。だから冒険者組合が動く前に話しを終わらせておくよ。金と権力で好き勝手なことする奴って一番嫌いなタイプなんだよね」
デテゴがため息を吐いて呟いた。
「一番大変な目に遭うのはそいつらだな。好き勝手やってたなら自業自得だけどな」
それな~。
お読みいただきありがとうございました。




