監視者確保のあれこれ
お楽しみ頂けると幸いです。
まあ報告される前に俺も『探知』で既に把握している。どちらかと言うと任務に忠実で報告してくれた毎果を褒めたい。というかいつの間について来ていたのか気づかなかったよ、毎果さん…。
「メイドビーたちに戦闘を見学させようかと思いまして」
「今日の戦闘は参考になるようなところはないと思うよ?」
「派手なものばかりが華ではございません」
「おぉ」
確かに戦闘では真っ先に仕掛けることが多いから何か違う視点からの一家言をもらったみたいだ。ちょっと心をくすぐられるものがあった。覚えておこう。そうだよなぁ。結局は忍者ムーブの特訓できてないもんな。優先度は確かに低いんだけどさ。
「いくら相手が取るに足りない小物でも緊張感は無くさないようにしていただきたいです」
「…仰る通りですね」
余計なことを考えていたのを読まれたのか。すぐさま釘を刺し直されてしまって俺もぐうの音も出ない。素直に頭を下げるしかない。いつも行き当たりばったりの勢い判断で申し訳ない。
ちなみに薙刀は俺を盾にして毎果から隠れている。バレてるから無駄だって。
毎果からすると戦闘担当の薙刀が気配を察知していなかったことは許せないことらしい。いや、お前が本気で隠れてたら俺も苦労してるって。
「まあ全部あとで、ね?」
「かしこまりました」
色んな意味で後回しにしておきたかったので、穏便にいくように願ったら要望が通ったようだ。少し安心した。
薙刀、戦闘の間は延命したから何か考えておけよ。
ちょうど対象の監視者の視界に俺たちが目に入ったようだ。ここまで気が付かないということは焦っているのか、疲れているのか。たぶん両方だな。あの様子だと休みなしでずっと走って来て、もうすぐマルクトに帰ってくると安心してもおかしくない距離だ。気が緩んでも仕方ない。俺と違って単独行動だしな。
立ち止まって固まったのは一瞬だけで、すぐに自分の身が隠せる太さの木の陰に隠れる。こちらの視界には何とか入らないところで止まったのでひとまず落ち着いているようだ。すぐに攻撃してこないことを考えると戦闘要員では無いのかな。
待つのはあまり好きじゃないし、待たせてもいけないからはやくご対面といこう。
「風刃」
右手を無造作に水平に振る。目に見えない風の刃が木々の合間をぬって進んでいき、監視者が隠れていた大木を切断する。ちょうど屈んで隠れていた監視者を傷つけない位置にしている。少しくらい髪の毛を切ったかもしれないがそれくらいは許してくれ。
監視者が反応する前に切り株と呼ぶにはまだ長い切り口の上に着地する。ついでに倒した木は倒れる前にキャッチして持っている。アイテムボックスに入れる前に視覚的に驚かせよう。
「いや、接近してたのも気が付いているから。隠れないでよ。でも君の方が、盗賊や冒険者たちよりも情報を持っていそうだね」
実際に目で確認すると、思ったよりも小さい。あいつらの話では小さいなんて特徴は無かったはずだ。もしかして別の人物だったのかな。組織的な動きをしていることになるな。
一瞬は俺を見て固まったが、すぐに体勢を立て直して無言でナイフを2本投げつけてきた。手に持っていた木をアイテムボックスに収納してナイフを防ごう。とは言ってもただのナイフでは傷つくことは無いのでそのまま掴もうとするが、イヤな予感が背中を駆け巡る。これは刃から感じる?
すぐに手の動きを修正してナイフ二本の持ち手を掴む。声は出さなかったが、目が大きく見開かれる。投げナイフを躱すでもなく掴まれたらそうなるよね。『鑑定』でナイフの刃を見て致死性が無いことだけを確認する。
「はい」
「あぇ?」
刃を手に少しだけ刺したことで即効性が発揮されたようだ。まともな発音では無かったが変な声を出して昏倒してしまった。刃を触らなくて良かった。ってそうじゃなくて。
想定よりも早い効き目にもしかして毒かと思って慌ててもう一度確認する。『鑑定』によると使われていたのは強力な睡眠薬で一刺しで約半日は効き目があるようだ。となると起きるのは明日の朝くらいかな。
相手の素性もついでに確認してみての結論は、武器は持たさない方が良いということだ。持っている武器から道具まで根こそぎ奪っておくことにする。
出てきたのは持ち運びに便利な刃物に簡単な薬や毒、持っていた食糧なんかもかなり質素だ。今回は移動速度が重視されるから余計なものを持ち運びできないことは理解できる。ただ通常の冒険者よりもスキル持ちなのに扱いと仕事が不遇に感じてしまう。
なんというか、もの悲しい気分になってしまった。持っている情報は起きないと聞けないのでまた明日聞くことにしよう。最後に貴重品袋の中身を見て驚いた。
「身分証だけで3種類持ってるよ。諜報も兼ねて色々とやってるんだな。プロはこれくらいするのか。すごいな~」
あとは各種のコインくらいしか無かった。当然だけど指示書をそのまま持ち歩くなんてことはあり得ないようだ。
ちなみにフレンドビーたちには毎果の指示のもと切り倒してしまった木を根こそぎ掘り起こしてその跡も埋め直す作業と周囲の確認を行っている。ここで戦闘があったという証拠を無くしているわけだ。
正規の道から外れたところだから木が一本無くなったところで不審に思われることは無いが、中途半端に切った木が残されるのは目立つ。今は少しでも跡を残すわけにはいかない。
変な戦闘の仕方をしてすいません。お手数おかけします。
「普通に戦えばそこそこ強いだろうに変に薬に頼ってしまって自滅か。俺を人質にしたかったんだろうかな。敵わないことも分かっただろうに。まあこいつに恨みがあるわけじゃないから連れて帰ろうか」
担ぐと分かる。俺の筋力のステータスがあるとか関係ない。すごく軽い。子どもか?もしかして女性か?いや、もしかして…?気が付いてしまったことに汗が止まらない。もう一度『鑑定』を確認して最上段を見て固まってしまう。
服自体は完全に剥ぎ取っていなくて良かった。主に武器を取り上げるだけだ。この段階で気が付いて良かったと思うのだ。冷静だ、冷静を装うのだ!!
「気が付かれませんでしたか?」
「ナ、ナニに!?」
いきなり声をかけられて声が上ずってしまった。本当に心臓に悪いな!毎果には忍者の才能が確実にあるねぇ!
「もしよろしければ、そちらの方のご様子は私の方で見させていただきます。あまりリセル様にも女児をあっさりと組み伏せたと報告するのもよろしくないでしょうから」
はい、無理~。
「本気で勘弁してください。それに気が付かなかっただけなんだから大目に見てくれないかな?」
「どう受け取るかはリセル様ですので」
こんなときだけ笑顔ですか。使いどころが分かってらっしゃる。
「…うん。おまかせ、いや、お願いするよ」
「承りました。薙刀、手を借りても?」
「イエス!マム!」
「お前ら同等のはずだろ。なんで上下関係が出来てるんだ…」
薙刀が完全降伏の姿勢を見せたことで先程のやり取りも一旦後回しだ。そもそも気配を隠すのだって俺もスキル頼りだ。獣人たちのは天性のものがあるので聞いても再現しづらい。
詳しいことは同じ人間から聞きたい。薙刀と毎果の場合は取り込める技術があれば何でも取り込みたいのだろう。
ということで、この監視者ちゃんはしばらくの間は俺たちが持ちえない技術を持っているのでしばらく同行してもらおうか。
説得に関しては万花とリセルも同席させた方が良いだろうな。
「とりあえず帰ろうか」
細工やら荷物を没収している間に、マルクト近辺の目立たないところに楔を打ち込んでもらったのでいつでも『空間接続』で来れるところが追加された。
むこうにもこっちにも時間が欲しいところだったのでゆっくり来ることにしよう。街の方角の方を見たがまだ見えもしないのですぐに向き直る。
「金と権力に狂った商人か。この世界には存在してほしくないな」
誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
戻ってきたときにはまだ夕食中だった。抜けたのなんて15分程度だったからね。
「戻りました」
「お、もう用事はおわりか?」
「はい。で、とんでもない拾い物をしまして。あとで話しますね」
「今でも構わないぞ?食事がまずくなるなら勘弁だが」
ロイーグさんの言葉にみんなが頷いてくれている。問題無いよな…?まあ全部を正直に話すことは出来ないので打ち合わせ通りに多少嘘を混ぜた話をする。毎果監修済み。
近くを倒れている人を見つけたので薙刀の部下たちが発見、そこから薙刀経由で俺へと連絡が来て回収ということにした。
これなら起きた時にレイさんとアンナさんがいない状態で口裏を合わせればいい。
「はぁ。こんなかわいい女の子なのに倒れていたんですか。随分軽装ですね」
「それは起きた時にいきなり混乱して暴れられても困るからな。武器類は外しておいたよ。治療の邪魔だし」
「もちろん、イレブン様が直接手を触れることなく我々が分担して行っております」
「ならいいか」
俺の発言を聞いてリセルから一瞬だけ表情が曇ったが、毎果の発言により治まった。毎果の機転に感謝だ。
「っつーか、よく女の子って分かったな」
「見れば分かるでしょ」
「それは俺でも分かる」
「顔だけだと分かりにくいかもしれないが骨格を見ればな」
「それが出来るのはコトシュさんだけではないでしょうか。でも分かりますね」
「そうだな。イレブンさんは分からなかったのか?」
「……ハイ」
全員からフルボッコされた。まだ異世界人の特徴なんて抑えきれてないんだよ。でも『鑑定』をよく見れば最初に気が付けたはずだ。注意力不足は確かだ。気を付けよう。
お読みいただきありがとうございました。




