理不尽で嫌われる者、理不尽でも根底では慕われる者
お楽しみ頂けると幸いです。
襲撃されたところから少し移動して、夕食の作業中です。あんまり2人の前でぶっ飛んだ性能を見せ続けるわけにもいかず。
こっそりと見えないところ(四輪の物置スペースに積んでいたように装うなど)からアイテムボックスやマジックバッグから取り出している。
四輪は時空間魔法で見かけ以上に広いが、そこはこれが超希少な魔道具を見つけたということにしてある。四輪自体があり得ないものなので外も中も不思議がいっぱいと押し通した。変に魔法をかけることにならなくて良かった。
夕食の作業をするもの、話が出来る範囲で別のことをするものそれぞれだ。レイさんとアンナさんは無理せずに休憩してもらっている。
「どうやって逃げるつもりだったんだろうね」
「何も考えてなかっただろうな。戻って来ずに俺が捕まえなかったとしてもそのうちバレたはずだし」
「結局誰が闇依頼を頼んだのかも知らないって言ってたけど、アンナさんが、こいつがって名前言ってたよね?」
「聞いてもいいですか?」
大道芸を見せた後は非常に大人しく首振りマシーンになってくれたので聞きたいことは聞けた。
冒険者たちは結局、盗賊の襲撃は知っていた。およそ仕掛けられる地点も知っていて、最初に御者を仕留めて馬を逃がしたところで逃げるように指示されていたそうだ。
だが、依頼人については不明。顔も見えなかったし、声すら聞けずに筆談でやりとりをするという徹底ぶりだ。変声機とかありそうだと思ってたけど、そういったものは無いらしい。ロイーグさんに試作品を頼んでみよう。
成功報酬は盗賊がきちんと始末したことを確認した上でマルクトの町で受け取ることになっているそうだ。おまけに逃げる手伝いもしてくれることになっていたらしい。よく信じたと思う。絶対に始末されるやつだ。
代わりに行ってみよう。別に囮で同行させることはしない。どちらかと言うと組合の制裁を受けさせる方が優先だ。
今回のこいつらの行動は冒険者組合の存在意義を真っ向から否定するものだ。
真っ当に引き受けた依頼を遂行せずに逃げ出すだけならまだマシで、金に目が眩んでわざと逃げたということ過失を犯した。
当然ながら冒険者組合の規定に違反している。どういった裁きが下されるのかは俺は知らないが、碌な未来は待っていないだろう。
逆にここまで徹底しているのならこれからやって来そうなことも大体予想できる。
「ボウカンって言ってましたっけ?」
「ボウカツだ」
「失礼しました。そのボウカツってどんな奴なんですか?」
聞き覚えも無いから隠しキャラってことも無いだろうし。
「ボウカツ・カンジョーと名乗っている。いつのまにかマルクトの商業ギルドを牛耳って自分に従う商人たちの店を優先して、従わない店は少しずつ削っていくのさ」
「父がまだ生きていた時には大人しかったのですが、父が亡くなってから気が付くと今のような状況になっていました。気づくのが遅かったのか、父が生きていた時から企てていたのかは今となっては分かりません」
「まさかお父さんも…?」
正直なところ何かやられているとしか思えないが。
「過労がたたって倒れてからあっという間でした。母も私が幼いころに亡くなっています」
「言いにくいことをごめんね」
「いえ、構いません。先程も言いましたが助けていただけるのであれば私のことなどお気になさらず」
素直に受け取っていいのだろうけど、悪く取ると私も悲しいのに無理に聞き出したかのような気持ちになってしまうな。
さて、整理するとそのボウカツってやつが怪しいかな。商人としてトップに立てるなら何でもしそうなやつなんだし、商売人が集まる街ならユーフラシアよりも権益が強そうだ。
今回の手口から考えると、お父さんに関しても関係ないと言われても怪しさは残るな。悪い奴は関係なくても疑われるってやつだ。
「手がかりは冒険者たちの報酬を受け取る日時だな」
「直接乗り込んでもいいけどね」
「さすがにそれはいけません!マルクトにいる権力者全てを敵に回す可能性があります!」
「全部相手に出来るからね」
「そうだよね」
俺の発言を常識的に止めようとするレイさんだが、俺もリセルも完全に違う世界の人間になってしまったかのような発想になってしまっている。
マジメに考えていたアンナさんも止めるべきかけしかけるべきかって顔してるし。
「待て待て。武力で全部を解決していこうとするな。まずは証拠を押さえろ」
「そこから傷口を広げていくんだね」
「リセル、言い方が悪いって。人的な証拠と物的な証拠だね。レイさん、無茶ぶりでもいいので証拠を押さえる手段ありますかね?忍び込むとか、返り討ちとか何でもありです」
まだまだ力づくの解決手段ではあるが、向こうが隠れてこちらに攻撃を加えに来ているのだからこちらが反撃しても良いだろう。
レイさんやアンナさんは相手の大きさが分からなくて止めようとしてくれているが、俺にとっては既に国一つ落とした身だ。今更街一つ仕切っているだけの商人が抱える武力に怖気づくほど気は小さくない。
「まだ何とかボウカツに屈していない職人や店はありますから、そこにいれば手下を抑えることは出来ると思います」
「本当なら衛兵がなんとかしていてもおかしくないんじゃない?」
「そこも既に抑えられているってことでしょ?」
リセルの疑問に対して俺が先に答えるが、俺のも質問の形を取っている。レイさんはゆっくりと俯き、アンナさんは怒りの表情で何度も頷いている。
「物的証拠は何なら根こそぎいくか」
「なんか悪いこと考えてるよね」
「悪人の人権を尊重する理由は無いからな。前にも言わなかったか?殺してくださいって言ってからが本番だ!」
「その発言が充分に物騒だよね」
「違いない」
新規参加のお客さんは笑っていないが、こちらとしては笑いどころだ。頼むのは間違ったか持って顔をしているが、損はさせないから安心してほしい。
「ではまずは友好の証の第一歩として、食べ慣れているかもしれないけどご飯に合うおかずとどうぞ!」
「やっほ~!」
「さすがイレブンだ!」
リセルとコトシュさんが既に準備完了している。そこにレイさんとアンナさんも合流する。
「ご飯に慣れてるかもってのはどういうことだ?」
「魔国から仕入れる時にマルクトを経由するからね。自分たちで味を知らないものを国内に流通させる商人はいないでしょ」
「なるほど、納得した」
さて、じゃあ早速始めようかな。
「あ、外で薙刀が呼んでるから少し行ってくるよ」
「おにぎりだけでも食べなよ~」
「こら、投げるな!」
「サンキュ!」
受け取って食べると梅干し入りだ。ラッキーな気持ちになる。感謝を感じながら四輪の外に出る。
周囲には誰もいないように見えるが、感知系を使うといることは分かる。結構な練度だ。俺とは違う方向で強さを磨いているのがよく分かる。
「捕捉しているか」
「問題無く」
「よし、監視者を捕えようか」
☆ ★ ☆ ★ ☆
『空間接続』を抜けて降り立ったのは森の中だった。すぐに薙刀が近づいてくる。
「主に報告致します。ここはマルクトから離れた場所です。主なら10分ほどで到着するでしょうが」
今は夜だからこの周囲には誰もいないくらいには離れているね。この距離なら昼間は人がいても夜になる前にがんばってマルクトへ帰ろうと思う距離だ。
「対象はここにあと2分ほどで到着するものと思われます」
「オッケー、ありがとう。疾風隊はもうマルクトに到着してる?」
「既に。隠密隊からはまだ監視者には見つかっていないと連絡が来ています」
「分かった」
俺も改めて周囲を確認するが、怪しい存在もどこかから見られていることも無さそうだ。
ここに来たのはもちろん楔目掛けて移動してきた。冒険者に大道芸を見せている時には薙刀をトップに据えた戦闘探索隊が行動を開始していた。
盗賊や冒険者任せにしたとしても、当然ながら確認する者は必要だ。襲撃してきた者たちとは違う存在を薙刀たちが発見したことからこの追跡は始まっている。
数が多いってのは非常に便利だ。戦闘能力は低いがハイドビーやサイレントビーが追跡をし、ソニックビーが先にマルクトに到着して逃げられないように陣を形成している。薙刀は現地での調整役兼万が一の切り込み役だ。
そして止めに俺も参戦しに来たけど、帰ったら労わないといけないな。ご飯を少し豪華にするくらいしか思いつかないんだけど。
「強化訓練を少し優しくしてもらえると喜ぶものが多いです」
「え?」
薙刀の声がしたのでそちらを向くと全力で顔を背けている。強化訓練ってコトシュさんが考え出した戦闘探索隊用の訓練のことだよな。そんなに厳しいのか?
出会った時から薙刀の方が強いよな。体格の差はあるけどステータスの差や魔物と人間という存在の差がひっくり返している。これは紛れもない事実だ。今の薙刀は強くなったぞ。
おまけに言うなら進化をしたフレンドビーたちも同様だ。色々と枝分かれしたから元の名前で括っているけど今では結構多種多様だ。彼ら、いや彼女らか?確実にコトシュさんよりも強いはず。
「訓練時には逆らうなど出来ないのです……」
「あ~……」
どれだけ強くなっても、逆らえない人って確かにいるよな。先輩とか上司とか尊敬に値する人だと関係なく敬うものだしな。
でも訓練が厳しいから何とかしたい。その役割を俺に願っている、と。訓練時のコトシュさんってさすがに俺も少し怖いんだよな。
「…下手に言うと訓練が逆に増える可能性があるのにか?」
無言で震えている。
そう。仮に「夜中に本番があったから休ませてやってくれ」と言おうものなら「夜間時の訓練が不足しているから疲れるのだ!」とかいって夜間訓練が増える。
少しぼかして「がんばったから一日休暇をやってくれ」と言えば「分かった。その間に何か考えておこう」と言って新たな厳しい訓練方法が生み出される可能性が高い。訓練方法に関しては勝手に増える場合があるが、休みだと確実に何か考えている。そのおかげで進化先が増えたので悪いことではないと思う。その訓練を受ける立場でなければ。
「だから逆に君たちに良い方法を教えておこう」
「何でしょうか!」
「コトシュさんと「もうすぐ来ます!」……あとで言うよ」
「よろしくお願い致します!」
良いタイミングで来てしまった。変にやる気のスイッチを押してしまったぞ。薙刀を始め、フレンドビーたちの目が燃えている。
どんな訓練してるんだろうか…。
お読みいただきありがとうございました。




