戦闘方針は赤
ご飯ものの回のPV上昇もブクマ及び評価もありがとうございました。書くのが楽しいこともあるのでまた何かいい食材を仕入れたら書こうと思います!
今回のは割と好みの別れる話だと思いますが、お楽しみ頂けると幸いです。
雨の原因となっている雲を嵐魔法で無理矢理動かして移動させていく。ついでに自分たちも結界に乗って移動する。非常時で仲間の安全も確保してあるので直感でとりあえず動いてみよう。
同時並行でも精霊の腕輪の制限は解除してくれているので、全力行使中だ。さすがに馬の持ち主の命が助けられるか分からない状況で手加減してはいられない。
雨雲を吹き飛ばし終わってあとは移動だけに専念というところでリセルが話しかけてきた。
「ねえ、イレブン」
「ん?」
話しかけるタイミングを見計らっていたらしい。
「戦闘が必要になったとしたらどこまで制限解除する?」
「そうだなぁ、たぶん盗賊相手だから制限無しでいいよ。自分で調節するから。というよりも精霊さん達も俺の状況を感じ取ってその辺りは協力してくれるし」
「分かった。じゃあイレブンの言う通りにするようにお願いしておくね。あと1つ質問。なんで盗賊だって分かるの?」
質問しつつ、精霊達へと指示を与えてくれている。戦闘になったときに俺の力を抑え込むのにエネルギーが必要になったら使うためだ。そこも余分にあって困るものでもない。
そこまで自分の力の制御が甘くなることはないが、心配からの行動だし。場合によっては精霊たちが自動防御もしてくれるらしい。一度もお世話になったことは無いけど。
「盗賊だっていう理由か。馬が逃げてきたからだよ。魔物だったら食料として食べるだろうからね。人間よりも食べるところがあって、その上外をずっと歩いてるんだもの。まずそっちを狙うんじゃない?」
「そう、なのかな?」
「もう一つ理由を挙げるなら装飾までしっかりとしてある馬だったからかな。馬が曳いてた馬車に乗る人を目当てにして、まずは移動の足を逃がしたってところじゃないかな。馬をその場で始末しなかったあたりに何か作為じみたものを感じるけどね。俺も一番可能性が高そうなことを言っているだけだから」
話している間に襲撃現場が探知の中に入ってきた。リセルには静かにするように伝えて入ってくる情報に集中する。
馬車だけが取り残されていて、残っている護衛はなんと1人だけで奮戦している。護衛対象は1名だけか。両方ともが女性か。もう少し用心しておくべきではないのか?もしかしたら動かない中に護衛が含まれているのかもしれない。
馬車の周囲に既に何人か動かなくなっているものが転がっているが、まだ周りに十数人ほど取り囲んでいる。こっちは盗賊で間違いなさそうだ。
「到着するまではあと30秒ってところなんだけど」
「急いだ方が良い感じ?状況は?」
とりあえず分かったことを話そうとしたとき、護衛の女性を陰から狙い撃ちにしようとしているやつがいることに気付く。でも剣で必死に追い払おうとしているから気が付かない。
ただ移動するしか手段がなく、放たれた矢が腕を貫通してしまい剣を持てなくなってしまう。剣を打ち合っていた男に殴られて動かなくなってしまう。でもまだ生きている。
声は聞こえなくても盗賊たちが笑っていることが分かる。
「方針は赤。悪いけどここからは自分で追いついて来てくれ」
「はいはい」
手短に自分の動きを伝えると結界の移動を手放す。リセルも移動するくらいは問題無いから自分でやってくれるだろう。
現地到着だけを最優先事項に頭を切り替えて前を向く。
空中を駆け上がって高度を確保すると、一直線で突き進む弾丸になったつもりで突き進む。現場上空へと時間をかけることなく到着する。音が後から発生してきたことで周囲に何かがはじけた音が響いた。
すぐに着地するととにかく生存者の確認をする。護衛の女性は気を失っているだけだ。特に大した武装をしているわけでもないが、武術の心得はあったらしい。年齢は俺よりも年上かな。女性の年齢は聞かないと分からない。
転がっているのは全て盗賊らしい。違うか。一人だけ身なりの良いお爺さんが倒れている。御者をやっていたっぽい感じがする。
万が一勘違いしていたでは申し訳ないので『鑑定』を走らせて、名前よりも所属などの説明を確認する。
立っている奴らは全員盗賊で間違いなし。つまりこの世の害悪なので何をしようがお咎め無し、と。
「勇敢なる守護者に大いなる癒しを、『完全治癒』」
最近知ったことではあるけれどこういった詠唱を行うことで魔法の効果は高くなるそうだ。余程でない限りは何を使うかバレるので、威力の減衰やMPの消費が多くなるなどのデメリットがあっても好まれないそうだが。
何となくこの護衛の方を讃えたくて、名称だけで良いところを詠唱まで行ってしまった。詠唱の言葉自体は何でも良いらしいんだけどね。
「護衛対象の方、とりあえずここは俺が制圧します。気絶までは治療していないのでこの勇敢な護衛さんをお願いしても良いですか」
「……はっ、はい!」
「横から何を言ってやがる!邪魔するなら、てめ…え…も………」
『清潔』で2人ともきれいにして、寝ている護衛を寝かせて毛布をかけておく。馬車自体もかなり傷つけられていて天井部分にも壁にも傷が多く付けられている。
しゃがんでいれば外から丸見えということも無い。結界を張って攻撃が通らないようにしておく。この場で飲食は色々と精神的に無理だろう。それはこの場を移動するか、皆と合流してからで構わないかな。
「さて、もう話しても良いですよ。自由に動けるようにもしてあげます」
守るべき対象の2人を固めた時点で一番近い場所に立っていた男の喉を持って持ち上げていた。この時点で盗賊たちの攻撃対象が全て俺へと移る。そう。強いことはバレてもいい。少しがんばれば倒せるくらいに見せておかないと逃げてしまう。
それでは困る。このロクでもないことを仕出かした奴らにはしっかりと反省してもらわなくてはいけない。護衛の女性に倒された奴らは幸せだ。
「ゲホッ!この野郎、どこのどいつだ!」
「あ~、名乗るほどのものでもないので。あなたたちも名乗らなくていいですよ。覚える気も無いので。確認しますけど、2人の命を狙ってるってことで良いんですかね?」
「ケッ!お頭!どうするんですか!?」
目の前の男は喉を掴まれただけでは懲りなかったらしい。どこかから回復魔法が飛んできて既に治療完了だ。まあ人を持ち上げるくらいなら少しレベルを上げたら出来ることだから驚かれることは無いだろう。俺が現れたことには疑問を持たないのかな。好都合だけど。
それでお頭さんとやらは見えるところにはいないけど、後ろから二番目で見ている男だね。全員の意識がそっちに集中してるところにいて盗賊の中で一番強い奴だ。誰が司令塔かバレないようにしてるのか。集団戦闘として正しいのかな。
「続行だ」
声を出したのは一番後ろに控えていたやつが声を出す。
「と、言うわけで妙な正義感を出したことを後悔するんだな」
「分かりました。では、終わりましょう」
風魔法で全員の両手首から先を落とす。
一瞬何が起こったか分からなかった盗賊たちだったが、痛みを自覚して絶叫をあげる。しかし聞こえたのは自分の声だけで周囲の仲間の声が聞こえないことで段々と恐怖が大きくなっていく。
全く状況が理解できないまま気を失いそうになるが、時折体に加えられる衝撃で気を失うことも出来ない。この出血量では死んでしまうだろうことは学のない盗賊でも理解しているのだろう。顔色が真っ青だ。
声に関しては悲鳴を聞くのがイヤなので全員の個別で遮音の結界を一人ずつ頭周りに張っている。自分の声や息遣いは聞こえるが、お互いの声は聞こえない。
明らかに泣き叫んでいる顔が見えるのに、そいつの声が全く聞こえない。それよりも自分の体から出ていく血の音すら聞こえないだけで理解不能だろうね。
俺がこいつらを慮ってやる事情は一切無い。話など聞けなくても盗賊の話を聞いたところで信用できるか別問題だからだ。聞くとしても一番頭だけでいい。
念動魔法で持ち上げて全員を普通に見える範囲に集める。止血をしたわけでは無いので周囲に凄まじい血の臭いがまき散らされる。
「人との戦闘ってこれがイヤなんだよな…」
「何してるの、イレブン」
「赤って言っただろ」
「ここまで物理的に赤くなってると思わないでしょ」
戦闘前の基本方針を色で示すことにしている。赤は血の色だから流血沙汰を覚悟する。青は事を荒立てないとか、黄色は相手次第だけど注意、黒は完全に殲滅するとかね。
まあこれから増やすつもりだけど、基本方針が一言で済むならそれが楽だ。今まで高速戦闘が多かったからイチイチ言うと時間が無いのだ。魔物相手だから大体黒の後で撤退の白だったけどね。
「もう。この人たちは盗賊か何か?」
「そう。同じ盗賊でも何人か死んでるけど、御者らしき人が死んでたから。反省を促してる」
「私が話を聞いた方がいい人はそこの2人?」
「任せる。俺は死なない程度に反省させておくから」
「いや。もう少し落ち着こうよ」
リセルが何か言ったかもしれないけど聞こえなかった。
お読みいただきありがとうございました。




