何事も無いとはいかないようで
しばらく冒険します。ご飯描写がなくてもお楽しみ頂けると幸いです。
グレイブ村を出発して数時間すると珍しく雨が降ってきた。朝の段階から少し天気が怪しくはあった。普通なら出発は避ける天気なのだろうが、四輪で進むことが出来る俺たち一行には全く関係が無い。
ライトもきちんと点灯して進む。運転席には俺一人だ。後ろのスペースでは魔力を使って危険な威力は禁止で遊んでいる。
火の球を風でお手玉を回してみたり、土や水を人形にして劇をしてみたり、プラネタリウムに見えるように天井に闇を満たした後に光を配置してみたり。
「お~」
「きれい…」
このように好評な感想が聞こえている。外にいれば花火や虹を再現したり、色々と自然現象の再現が出来るがさすがに車内では無理だ。
コトシュさんなんかは純粋に身体能力を強化する方向で魔力を使うことを希望しているが、まず魔法を色々と使いこなすために初心者は色々と細かい動きを思い通りに出来るようにするそうだ。
遊びという言葉を使っていることから察するが子ども向けのことではあるようだが、純粋にこれで遊んだ子どもの方が大人になってからの習熟度が全く違うそうだ。
魔法が使える平民の子どもなんて1万人に1人くらいの割合だそうだから滅多に現れない。特異な能力があると仲間に入れてもらえないから一人遊びが上手くなるという例もあるらしい。
貴族となるとそれが10人に1人くらいの割合になるそうだ。遺伝が関係していることがハッキリと分かるが、魔法が使えなくても教育は貴族社会で生きていくだけの生活をしていくだけのものは仕込まれる。
全部元王族貴族からの受け売りだが、色々と出来るに越したことは無いと方法だけは聞いていたそうだ。平民の話は冒険者になってから聞いたことだそうだ。
さっきの一人遊びの子どもは村から引き取ってきて色々と仕込んだ後、一人前の冒険者として活躍しているそうだ。今は別の国に行っているそうなので機会があれば紹介してもらえるそうだ。たぶん武闘大会かな。
終着地点を見終わったら全員で出来る共通点が魔力操作なので全員で色々とやっているそうだ。俺も運転席から参加しようと思ってこっそりと参加していたら、ただの怪現象だからやめろと先程怒られた。
結構真剣に隠していたのだが、逆に誰もやっていないところで冷たい風が吹いたり、白い影を出したことでバレてしまった。俺は無防備状態となり、リセルに精霊の力を全力で込めたデコピンをされてしまった。脳震盪を起こしかねないと思って休憩を必要としたくらいだ。
そんなわけで今は運転席に一人ぼっちだ。
昼食のときはあんなに俺が作ったサンドイッチでみんなが喜んでいたというのに、何という悲しいことだろうか。まあ悪ふざけが過ぎたのは確かなので、被害者のようなふりをするのはやめよう。俺が悪かった。
「それでも寂しいものは寂しいんだよな~」
隔離された場所で笑い声を聞きながら一人という状況は結構効く。
まあ意図的にこの状況を作り出したのはある。ちょっと集中して作り出したいのだ。俺がいなくても『空間接続』が出来るようになる仕組みを。
きっかけはフレンドビーたちの交流ではあるが、他にも利点はある。移動時間の問題は行けるところが増えると絶対にぶち当たる壁のようなものだ。
ゲームのようにみんなが俺に文句も言わずについて来てくれるなら問題無いが、そんなことはない。
俺が行ける人が住んでいる場所は3カ所だが、それだけでも色々と移動できた方が楽になってきている。今からマルクトが増えるし、うまくいけばダコハマリも増える。
グレイブ村は勝手にダンジョンに入られると困るから勝手に行かせはしないけど、自由に行き来できた方が楽だ。
さて、どう作れば良いかな。今は魔法を起動させるのに何となくの術式を組んでいる。そこに必要なMPを注ぎ込む。『空間接続』ならそこに、周囲のどこに入り口を作り、出口をどこの目印にするのかを選択している。
開ける穴が大きければ消費が大きいし、あまりに長時間でもいけないし、大量に通されると消費することも分かった。まあ俺がいたら全く気にならないのだけど。設置するとなるとその辺りは気にしないといけない。
「そういえば『魔法付与』ってどんな原理だっけ。あれは付与してしまえば使用者の魔力で使用できるよなぁ。威力も操作できるんだったな。他にも併用して何とかならないかな」
必要なものを絞ってみよう。まずは術式は必須、魔力は他人のものでも行けるはず。入り口は固定しておけば問題無いはず。出口も同じように固定するか、出来れば選択したいけどそれ用に何か作るか?完全に目立つよな…。ここが一番ネックだ。
あ~、こんなときにスマホがあればヒントでも何でも調べられるんだけどなぁ。やっぱりスマホって便利だよな。
……ん?スマホ…。行先が選択できればいいんだよな。ステータスは自分にしか見えないようになっているけど同じように何とか…。
そこまで考えていた時に『探知』に引っかかるものがあった。雨の中をこちらの方へと進んでくる馬2頭を見つけた。距離から考えるとあと1分もすればすれ違いそうだ。
考えるのを中断して、そちらへと集中する。加えて後ろへと声を飛ばす。
「ちょっと前方から馬だけ走って来てるから様子を見に行きたい。交代頼む」
すぐに返事が来てロイーグさんとリセルが顔を出した。
「代わるよ」
「ありがとう」
交代自体は少しなら手を放しても魔法で少し補助すれば問題無い。
なんとなく思いついたけど自動運転機能も付けた方が良いな。高性能AIとかも面白そうだ。これは今じゃないな。悪い癖だ。
「直接見に行くの?」
「そうするつもりだ。馬だけが爆走してるとかどう考えたって普通の事態とは思えない。ロイーグさん、目的地は地図を取り込んで印を付けてあるからこのまま目指してください」
「分かった。いざというときの薙刀ちゃんも準備を始めていたから安心して行って来いよ。コトシュさんも一般人相手なら十分動ける方だ」
「ありがとうございます。リセル」
「なっ、何?」
このタイミングで声をかけられたことに驚いているな。いつもだったら待ってろって言うところだからな。
「雨の中だとさすがに不測の事態が起こりかねない。一緒に来てくれるか?」
本当だったら何が来たところで問題無い。それこそ金級冒険者に複数で襲われたって何とかなるが、救助対象が多いとか、その中に女性がいたとしたら男の俺だけよりも安心してもらえるだろう。
色々と理由を付けたけど、リセルだって同じように冒険者になったのだ。安全マージンは十分すぎるほどに取った。レベル81は保護対象というには強すぎる。本編クリアしていてもおかしくない数字だからな。
「いつまでも保護者面していたらただの邪魔ものだ」
「対等に見られていないというのは簡単に分かるものです。同時に侮辱していると取られますよね」
結構真剣にデテゴとサティさんに言われてしまった。救助という場面に人手が必要であるように、俺も人を頼ることを覚えようと思う。
分業だからと理由を付けたものではなく、ちゃんとお互いに認め合う形のもので。結構急なタイミングで機会が訪れたとは思うけれど。
リセルは俺の申し出に割としっかり固まった後に、みるみる嬉しそうな表情になって、必死に首を縦に振ってきた。
これを見るだけで分かる。ガマンさせてたんだなぁ。申し訳ない気持ちになってくるが、それは抑え込んでアイテムボックスから戦闘用の装備を引っ張り出して身に付けて行く。
リセルの分も出して装備していく。服の上から身に付けていくだけだから着替えのわけでは無いからその場で大丈夫だ。
2人とも身に付け終わったときには馬は見えたが、見たことも無い四輪を目にした瞬間に1頭が方向を変えて走って行ってしまった。もう1頭もそれを追いかけて方向を曲げてしまう。
運転席の前は前方がしっかりと見えるので見えた馬についての分析をしておく。
「結構しっかりとした馬だな」
「商人用の馬じゃないのかな。色々装飾が付いてるし」
「それでも戦う用の馬には見えないぞ。どちらかというと金を持っている商人が馬車を曳かせる馬だと思うな」
ロイーグさんはあんまりこっちの馬の装飾を直接見たことは無いと思うけど、俺も同じ感想だ。
「とりあえず元の持ち主に返したいから抑えておこうか。『嵐魔法』で雨を止ませるから、みんなで馬を落ち着かせて一緒に来てくれ」
「「了解」」
応えたのはロイーグさんと後ろから覗き込んで話を聞いていたコトシュさんだ。
蜂娘たちと糸太郎は俺とテイムでパスが繋がっているので、自発的にこっちの意図を読み取って勝手に動く。フレンドビーたちへの指示も既に出していることだろう。
改めて考えると本当に一人だけで何とか出来ていると思っていたのが恥ずかしいな。食事当番くらいまた引き受けよう。それぞれの装備品もがんばってちゃんと良いものを作ろう。
「雨やんだな」
「じゃあ行く?」
「よし、いこうか」
運転席に直接乗り込む扉を開けて、外へと出る。出たところに見えるように飛ぶ用の結界を設置する。風が激しかったのでそれも防ぐように防御もしておく。リセルの手を握って外へと飛び出す。
≪注意≫
走行中の車から飛び出したら危険だから良い子は真似しないでね。異世界専用で出来ることだから。
お読みいただきありがとうございました。




