覚醒!秘奥義『料理の〇人』!!(本文中には登場していません)
全力を出し切りました。お楽しみ頂けると幸いです。
まず俺は猛省しなくてはいけないと思っている。いや、懺悔か?償いたいという思いがあるから贖罪か?
俺の思い上がりを誰かに聞いてもらいたいのだ。そして可能であればこれを聞いた誰かが心を動かされたのだとしたらすぐに自分の心にある思いを封じ込めることはやめろとまた広げてほしいと思うのだ。
以前の俺は確かに言ったことだと思う。『○○』なんて別に何でもいい、なんてことを。
興味が無いなんてことまで言っていたかもしれない。
馬鹿馬鹿しいことだ。なんて罪深い考えだろうか。信じられない。自分のことながら本当にあり得ない。世間知らずの甘ちゃんが何を言っているのか、と唾棄すべき考えであると言うしかない。
そうだ。いつでも近くにあるから気づきもしなかった。これは今から思えばどれだけのことから目を背けていたのかよく分かる。
身近にあり過ぎてその存在に対しての感謝を忘れているということが。
不意に失った時にそのありがたみを思い出し、ただ渇望してももう取り戻すことが出来ない。ふとしたときに思いだしてしまい、そっと枕を涙で濡らしてしまう。
親しい人と話している時でも頭を過ってしまった時、自分の笑顔が本当に心の底からのものだったか?と思い直す。一度頭を過ってしまうと正直なところ自信が無い。どこかぎこちないものになっていたと思う。
だから、もう一度出会う奇跡が起こったときには素直な気持ちになることを決めていた。いつかは、そう!いつかはきっと出会えることを信じていたから。
自分に嘘をついたまま生きていくのは、それだけで罪深いことだと今の俺なら自信を持って告げることが出来るんだ!
そして!
今!
俺はもう一度巡り合うことが出来た!!
ならばいつかそのときに、と自分が決めた思いを再度口にしようじゃないか!恥じるところなど何もない。今の自分の素直な気持ちを打ち明けよう!
「米、最高……!!」
溢れる思いを、万感の気持ちを込めて言葉を紡いだ。
「もう思い残すことは無い…」
「いや、死んじゃダメだって!!ねえ!明日出発するって言ってたでしょ!?みんながあっちで荷造りしてるからね!?」
遠くからリセルが呼んでいる声がする。ははは。慌てるなよ。俺がこれくらいでどうにかなるわけないじゃないか。
いや、死んでいる場合じゃない。目覚めるんだ!
「見たこと無い笑顔で涙流してるよ」
「なぜでしょうか。あの両手を顔の前で合わせるポーズに何かの境地を感じるのですが…」
「何それ、剣姫の勘みたいなもの?」
無宗教の俺だけど、お国柄的に本当に心の底から感謝を表す時はこのポーズになると思うよ。涙は今までの自分の罪を流したいという己の浅ましさが流させているんだろうけど、このままじゃいけないね。許されるはずもない。
「さて、みなさん」
精一杯の笑顔で3人の方へと向き直る。
「顔違」
「ポーションの作り方教えてもらった時よりも今の方が怖いよ」
「お二人ともそこまで言わなくても…」
何と言われようとも今の俺には関係ない。今、俺は天啓を得た。
俺の使命の1つを得たのだ。
「米の素晴らしさを布教します」
まずはシンプルに行こう。素材が勝ってしまう可能性はあるけど、いつかのためにと仕込んでいおいた『あれ』を解放するなら今だろう。
ふふふ、沼に沈めてやる。沈めてやるぞお!
「そういえば、こんなものももらっているんだ。一緒にもらったんだけど細々としていたし、手順が多かったからそのままなんだけど。イレブンは分かるかな」
「そ、それはぁぁぁぁっ!!!」
後光が指しているように見える!タイミングよく現れすぎでしょうがああぁぁぁぁ!!!
「もういい加減しつこいと思うんですけどね。デテゴ様やザール様からも一言伝えていただく方が良いのでは?」
「許してやれ。あれでも最初は結構ひどい顔してたらしいから」
今の俺なら何か新しい境地に達することが出来ている気がする。本気でやるとしよう。
「いくぞ!『覚醒』!!」
解放したエネルギーが店の中に渦巻く。しかし荒らしてはいけないため大きくするのではなく、静かに自分の中に留めるように集中を研ぎ澄ませる。
今までになかった感覚だ。これはある意味で何かの悟りを得たかもしれない。
「本気中の本気!?」
「あたしんちで何をしてるんだ!?」
「これが『覚醒』ですか。武の極致の1つですね…」
「サティ!帰ってこい!そっちに行くな!」
何か聞こえているが、今の俺にはそれを心に留めている余裕はない。炊き立てのうちに仕上げなくてはいけないという時間制限を課せられたのだ。本気でやらずにいたら最高の瞬間を逃してしまう。
自分の持てる最大限の力をぶつけるためならば『覚醒』の使用くらいなんてことは無い。
「最大限でいくぞ!」
まずはかまどの形に添って結界を張って俺の供給する過剰なエネルギーで破壊されないように補強する。
次に鍋を用意し、湯を沸かす。薪も使用しているが、火魔法も放り込むことで熱を余すことなく使用する。当然ながら鍋や他の調理器具も俺の力に耐えるために結界コーティングは済んでいる。今の俺は包丁を握り潰しかねないからね。
まずは湯を沸かし、沸いたらがっしと掴んで湯の中へと入れておく。少し時間を置いておきたいので今のうちに具材の準備だ。
アイテムボックスに入れてあるものを使うことにする。フレンドビーたちに作ってもらった今の俺が手に入れられる最高の素材だ。収納段階できれいに洗ってあるのですぐに使用することが出来る。
俺は野菜の皮は剝いた方が良いものは剥くが、今から作るメニューに関してはそのまま使用するつもりだ。
頭の中で切った後のイメージを思い浮かべたときには既に作業は終了している。『覚醒』を使った時に心が俺のイメージ通りの動きを与えてくれる。
切ることが終了すればそれぞれの具材を炒めていくのだが、かまどが不足していたため自前の『火魔法』を使うことにする。
硬い具材ほど長めに、風味を出すものは後で一緒に煮込むときで十分だから今は置いておく。最後に肉を加えて十分に火を通しておく。今は旨味を閉じ込めるだけで十分だが。
準備が整ったところで鰹節を取り出し、十分に出汁を取ることを味見して確認する。
「今日のところはこれで良いだろう」
「本当に誰だ、こいつ」
「まあまあ」
「調合のときの真剣度と全然違うじゃないか!あたしはこんなのに負けたと思っていたのか…」
「メディさん泣かないでくださいよ~。サティさ~ん」
「これが『覚醒』…。すさまじい集中ですね。これが戦闘のときにはどうなるというのでしょうか…」
「誰か帰って来て~!私だけじゃ無理~!」
またリセルの叫びが聞こえた気がしたが、今の俺はそれに構っていられるだけの余裕はない。危険が無いことだけは確認して最後の仕上げに取り掛かる。
まずは炒め終わった具材を合流させる。ここからは無駄に火を通し過ぎないように気を付けながら、出汁が具材の味を引き出し、逆に具材からも出汁へと更なる旨味を染み出していくことを期待する。
そして完全に調和がとれたと確信した時、味噌を適量取り、だし汁へととき入れていく。ここから先は過熱は抑えめだ。風味が飛んでしまう。じんわりと、だが更に深まるように思いを込めながら火の勢いを抑える。
これで、ひとまずこちらは完成だ。
次は白米の仕上げになる。こちらは今の俺には特に問題は無い。
十分に蒸らした白米を持ってくる。水魔法で水塊を浮遊させて、手を湿らせると手に塩を振って躊躇うことなく白米へと突っ込む。女性が食べることも考えて気持ち少なめにして手に取る。好き嫌いが出るかも、いや嫌いなんていうヤツは確実にいないと断言することが出来るが、一応、念のため、万が一に備えてだ。小さめにしておく。
熱々のまま握ってすぐに1つ出来上がりだ。すぐに水塊で再度手を湿らせればあとは同じことの繰り返しだ。数個作ったところで、少し工程を加える。今日の秘密兵器を取り出す。
「くっくっく…」
これでもう逃れることは出来ない。味見をしてしまったせいであぶなく俺は溺れるところだったのだ。立ち直るために我を忘れるまで魔物を狩ることになった日のことを俺は忘れない。この秘密兵器に関しては後出しだ。少し進んだところで出すために別に取っておいておくことにする。
全ての白米が形を変えたときにちょうどのタイミングで俺の『覚醒』がちょうど時間切れになる。
「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!間に合ったか…」
「素晴らしいですね…」
「サティさん…。ありがとうございます」
「いえ。素晴らしいものを見せていただきました。こちらこそ感謝の言葉を伝えさせていただきたいです」
握手しようとしたが、米粒が付いてしまっていたので念動で一粒残さずに回収して小玉にする。その後にしっかりと水洗いしておまけに『清潔』をかけて綺麗にした後に、がっしりと握手する。
「サティさん、帰って来て。あなたはこっち側の人だと思ってたのに…」
「しばらくはあいつのためには『調合』はしてやらんからな」
「もう少ししたら正気に戻るだろうから許してくださいぃ~」
「いや!わかりやすくいこうじゃあないか」
「え?」
リセルとメディさんの会話は聞こえなかったが、突如メディさんの周囲の魔力が変わったような感じがした。
「あたしに『うまい』と言わせたら許してやるよ!」
「いいでしょう。望むところです!」
「イレブン様、メニュー名を教えていただけますか?」
「はい。お伝えしましょう!」
『おにぎり』と『豚汁』です!!
「ねぇ。正気なのは私だけ?」
次回!実食!!
お読みいただきありがとうございました。
正式に秘奥義になるかは予定にはありませんが、面白いと言っていただければということで。
あ、メニューのチョイスは、南〇料理人ですね。たぶん史上最高にお腹がすく映画です。寝る前に見てはいけません。




