特に何でもない日
誤字報告頂きました。ありがとうございます!
それではお楽しみ頂けると幸いです。
「で、結局どうなったんだ?あ、そこ注意な」
「まあ2つ付けられただけで何とか事なきを得てます。ダメでした?」
「いや、まだセーフ。作業のやり直しが出来るとか反則だよな」
「でも基本をちゃんと学んだ方が何でも作りやすいですからね」
ロイーグさんに呼び出されて溶接作業やら機械の組み立てを学んでいる。そこそこに学んでおかないとスキルがうまく身に付かないというあれだ。
見せてもらってやってみてアドバイスをもらっているうちに何となく出来ることが増えていく。今日は初日だ。ある程度の作業を実際に行っている。俺ならケガの心配も無いのでいきなり実践だ。
なぜ教わっているかについては、呼び出されたこともあるが、鍛冶も一通り終わってこれ以上成長の手ごたえがないのだ。新しく作っても品質性能が似たり寄ったりなのだ。
別の技術を身に付けることで何か新たな気づきが得られないかと思って、教えてもらえることを吸収しようと簡易の弟子入りだ。
ついでにせっかくだから良く使いそうなものを作成中だ。簡単に言えばコンロやオーブンといった台所で使えそうな調理家電ならぬ調理魔道具だ。
「実際の起動に関してはリセルさんにやってもらえればいいので、ガワの部分は相談して作れば良いだろう」
「ガワの部分?ああ起動部分以外のことか」
「前に自分で言っていただろう。火の出力によって味の入り方が違うとか」
「あ~、それは確かに。でもそれは調節機能を付ければいいんじゃないの?」
「機械ならそれでいけるが、それに対応できるような燃料や魔石の加工が難しい。使用にも作成にも簡単にするならこっちの技術だけで出来るようにしてきた方が良いだろう?」
それは確かに。お互いの良いところの技術を持ち寄って新しい革命になればいいなとは思う。
量産が出来るなら普及させてもいいとは思うので、最初からハードルを落とせるところまでは落としておきたい。
「魔道具だとそんな微妙な調節機能は簡単じゃないぞ。常に一定の威力が基本だからな。それをどうにかするのがガワの部分だし、相談してくれってのはその工夫を何とかしてくれってことだ」
「調節レバーをつけるだけでは何とかならない?」
「魔法の火や熱に耐える加工となるとなかなか大変だし、魔法無効化金属だと魔道具の作動そのものを消してしまう。加減が難しいんだよ。俺が扱うにも色々と限界があるしな」
ここまで調べてたんだから、後は金属加工に慣れて扱えるようになったお前がやれということみたいだ。たしかに魔法で思うように加工できるし、学問としてちゃんと学んだ知識を使えば壊れにくくも出来る。
だが1つ確認しておこう。
「じゃあ課題をクリアするまでは火力の大きさの数だけ作らないといけないってことなの?」
「そういうことだ。イレブンならそれで良くてもイチイチ面倒だろう」
弱火中火強火でコンロが3つに分けるとかは面倒だな。それなら調節可能なコンロが3つある方が便利だ。なんなら普通のかまどの方が使い勝手が良い可能性まである。
「わかった。金属を加工するだけなら相当に慣れてきたしやってみるよ」
「助かった!これで1つ俺の手から離れた!以前の話はほとんどリセルが引き取ってくれたけど俺はお前の言ってた工場の設立で大変なんだ。なんだよ、個人で工場を作り上げるとか」
「まあまあ他に頼める人がいないんだよ。必要な物があれば向こうから取ってくるからさ」
「はいはい。点検のためのマニュアルやら仕組みについても分かるように作っておくよ」
「ありがとう。助かる」
「俺も開発だけ出来るような生活がしたいからな」
さすがに基本をほぼ知らない分野だったため戦闘にも行かずに色々と教えてもらって身に付けることに専念した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「リセル~。ロイーグさんから色々と学んできたぞ」
「おつかれさま。私がしばらく必要な物は無いからイレブンが作りたいものを作ってくれたら良いよ。リクエスト通りの仕上げをするから」
「了解。俺が作ったカバンには不都合無いか?」
「無いよ。イレブンのアイテムボックス程じゃないだろうけど十分便利だよ」
「自信作だからな!」
カバンと隠語を使ったが、実際のところはマジックバッグだ。
リセルが自分で作ったショルダーバッグに俺が『時空間魔法』を付与した。取り出す時と入れる時に登録使用者がMPを消費することで出し入れが可能となる。
奪ったところで俺を何とかしないと出し入れは出来ない。まあリセルからカバンを奪った奴に対して俺が許可を出すわけが無い。むしろ奪った時点で敵対関係だ。そこまで分からずに実力行使に走る奴がいたとしてもリセルも強化してるし、俺が防犯グッズを仕込んであるのでそれを使えば大丈夫だろう。
「材料をイレブンに管理してもらわなくなるだけで気が楽だよ。手間をかけてると思ってたからね」
「手間とは思ってなかったけどな。何か足りないものとかあるか?」
そんな目的で作ったんじゃないけどな。せっかくリセル用に作ったのに俺がアイテムボックスに入れていると意味が無いと思って作っただけだ。
ちなみにマジックバッグはもう2つ作って万花と薙刀にも渡してある。時々蜂の巣の様子を見に行ってお互いに交換をしているようなので色々入っているらしい。
あとは新しく仲間にした魔物の成果物の管理は万花の仕事だ。最近は統率者としての仕事もしているのでかなり頼もしくなってきた。こちらは蜂たちの成果物を大量に入れている。
薙刀は巡回中に倒した魔物のドロップアイテムを漏らさず拾ってくるようになったので自動的に在庫が増えている。彼女たち自身は使わないので戻ってきたら俺や万花に渡しているので大体いつも中身は入っていない。支給しているポーションくらいかな。
話は戻して。
「材料だけじゃないけど普通に木材が欲しいかな。薪としてもそろそろ補充しておきたいかな」
「俺もあんまり在庫が無いな。じゃあ村の外で適当に伐採してくるよ」
アイテムボックスの在庫を確認するとあんまり木材の在庫が無い。今余っているのは『極上の果実』
「ふふっ。最近街に行ってないから良いんだけどさ」
「ん?」
「アイテムボックス見てるんだろうけど、いきなり空中見てるとやっぱり怪しい人だね。知らない人からしたら空中を見て踊ってるみたいに見えるよ」
自分では笑われるほどにおかしいことか分かってなかったけど、実際に笑われると少し恥ずかしい。確かに気にせずに使っていたし、向こうの大陸だと仮面をつけているから何を見ているかなんて疑われることも無かったからな。
そろそろ各地のギルドに行ってみようかと思っているので気を付けるようにしよう。
「踊ってるように見えるんだな。前はカバンに手を突っ込むふりをしてたんだけど面倒なんだよな」
「よく使う物は同じようにマジックバッグに入れるようにしたら?」
「それも根本解決にならないと思うけどな。とりあえず前から使ってるカバンが結構古くなってきてるから新しく作ってもらってもいいか?」
「いいけど。雑に扱わないでね。デザインのリクエストはある?」
「特にない。任せた」
「それが一番困るんだよ」
怒ってはいないが溜息を吐かせてしまった。だって別に使えればいいから本当に無いんだもの。
「分かったよ、好きに作るから。あと外に行くなら腕輪のデバフ解く?」
「別にいいよ。このままで。魔法や装備で十分にゴリ押せるから。それに薙刀たちが巡回してるからほとんど魔物は見ないし」
「そっか。まあ危なかったら精霊たちに呼びかけてね」
「今の俺が本気出すやつがそのあたりにいたら危険がすぎるけどな」
「送り出す挨拶みたいなものだよ。じゃあお願いね」
「お~ぅ」
伐採したあとの加工は村に帰ってからでいいとして、伐採しすぎて森に影響を与えてはいけないのでそこそこ離れて切るとしよう。
途中で出会ったフレンドビーに手を振りながら森の中を進んでいく。
「さて、戦闘無しの日々を暮らしてみて分かったのはステータスがおよそ10分の1か。おまけに魔法の威力も結構削られてるな」
さすがに基本的な属性の精霊たちが邪魔してくるだけあってすごくやりづらい。本気で危ないときは自動で解除してくれるけどリセルにバレると色々と面倒だからな。俺くらい心配するのが普通と思われているようで最初の接し方を間違えた気がするんだよな。
俺がじっとしないから押さえつける意味での腕輪だとしても、これ以上にデバフを付けられると戦闘の時に感覚が違い過ぎてしんどい。
使える魔法の種類が変わるわけでもないし、装備品の数値まで変わるわけでは無いから動けるなら村の外での戦闘には支障はない。
どちらかというと使用が厳しくなったのは『空間接続』だ。使用前に申請と許可が必要になった。俺のスキルなのに。
「まあそろそろ一人行動が出来なくなってくるのかもな。冒険者活動するなら自重するか」
なんとなくこの木が良いのではないかと思えた木が目に入ったので、斧を取り出す。
「せぇ~いのっと」
スパーンという音の後に木が倒れる音が森に響きわたった。
お読みいただきありがとうございました。




