1か月後の精霊の腕輪の扱い
お楽しみ頂けると幸いです。特に言い訳はしません。
精霊の腕輪をリセルにはめられてから1か月が経過した。この腕輪が思った以上に色々と役に立った。
あの時のように俺は夕食後にリセルに正座をさせられている。
「正直本当に何と言って良いか分からないよ。なんで腕輪をはめたか覚えてる?」
「当たり前だ。俺がみんなの知らないところで戦闘を行うことが無いように負荷をかけるためだろう?」
「そうだよ。危険なことを行わないように戒めるため、把握させてくれれば場合によっては手伝うことが出来る。仲間だと思うからこそ暴走しないでほしい。手伝うからって意味を込めたつもりだよ」
「ありがたいと思ってるぞ」
本心で話したつもりだが、イマイチ受け入れてもらえていない。
「最初は雷で麻痺に似た状態に、土で体が重くなるようにと負荷をかけたね」
「ああ。負荷は多ければ多いほど良いからと思って色々と追加させてもらったな。火・水・風・氷・闇と追加したから常に風邪をひいたような体調不良の上に視界も悪いし、平衡感覚狂うしで大変だ」
体は熱いくせに背筋は寒いとかまさにそれだし、五感も鈍るし思考のまとまりも弱くなっている。
常にこういうわけでは無い。『極上の果実』で強い魔物と戦闘するときにはそうはならないが、誰にも言わずにグレイブ村の外に出たり、言っていた予定を違うところに行こうとすると自動で発動する。
本気の戦闘中は精霊も少し手伝ってくれるが、予定にない弱い魔物との戦闘のときは完全に俺を封じ込めようとしてくる。リセルの精霊への影響力が想定以上に強すぎる。精霊系のスキルはまだ取得にならないけど俺が使えるようになる必要はないと考えるほどだ。
相手がいることだからな。相性というものがあることが良く分かる。
「じゃあなんでその弱体化の状態で戦闘しに行こうとするかなぁ!」
「それは村周辺の本当に弱い雑魚魔物相手だから良くないか?それに体調悪いときに戦闘になることもあるだろう?常に万全の体制で戦えるとは限らないからさ。これも良い練習になるぜ」
「本当に頭が良いのか悪いのか…、信じられないことをしてくれるよね」
「それは…褒めてないな?」
「褒めるわけがないでしょ!?」
レベルの高い治療が出来る魔法を習得しているため、戦闘前に体調を崩しているということは俺に関してはほぼあり得ない。
だが、あり得ないからといって未体験なのはいかがなものか。俺が体験することで何か新しい知見を得ることが出来るのではないかと思って試してみたのだ。
そのおかげで新しい装飾品を作り出すことが出来たのだから良くは無いだろうか。いや、この怒りを前に通じないだろうことは理解した。
「新しく作った装飾品の効果も試しておきたかったんだよ。おかげで自分の体を使った実験で分かったこともあるぞ」
作った装飾品はミスリルのカフスと言って、耳に付けるアレだ。音を聞くのに邪魔にはならない。また、色々と『付与』系のスキルを手に入れた。
装備品に色々と魔法を付与できるようになったので試している。リセルが精霊の腕輪に精霊をくっつけた感覚を聞いてやってみているうちに出来た。
2週間かかったのだから今までで一番使えるようになるまでに時間を必要としたスキルである。
これが精霊の腕輪から受ける精霊たちのデバフの対抗手段になるかと思ったが、半分も打ち消しの効果が無い。どのくらいの割合かと思っていたが興味深い結果だ。
ステータスだけ言うなら俺の方がリセルよりも明らかに魔力は高い。色々とスキルを身に付けたこともあるが、イメージが明確にあるので攻撃魔法の威力なんかも全く違う。
しかし、こと付与したものに関しては精霊が直接ずっとついているものだから及ぼす影響力が根本的に違うのだ。
リセルの精霊魔法の使い手としての技量の高さや精霊との相性の良さが窺い知れるというものだ。俺がやっていることはあくまで自分が使える魔法を技術として定着させただけだということが良く分かる。
「少しマシにはなるが、リセルの腕は俺では追いつけそうにないということが分かった。俺にしか作れないものがあるのは確かだがこれからも色々と頼みたいな」
「ぐ…褒めても騙されないぞ」
後半は小声で何を言っているのか聞き逃してしまったが…。
ちなみに同時並行でレベル上げ・鍛冶・そこそこに行商の真似事・そして付与の練習をしている。それなりに忙しかったが楽しかった。
おかげで装備品はまだ手を入れる余地は残しつつ、魔鉄を使ったものよりも一段も二段も性能の良いものが手に入った。単純に攻撃や防御の性能アップだけなので、他にもステータスや耐性などに手に入れる余地がある。
レベルは88まで上がった。あと目標まで12だ。
武術スキルは剣と槍と弓を聖級まで上げた。諸々の威力と速度が上がっている。これで遠近中距離で使い回しが出来る。
唯一弓に使える木材と弦が手に入っていないので少し武器の質が悪い。矢も同じだ。矢は何なら魔法を使うから必須ではない。魔法として打ち出すよりも物理的な力を加えた方が威力が桁違いだ。
どれくらい違うかというと、魔法として放つだけだと表面に刺さるだけ、弓を使うと根元まで完全に刺さって見えなくなる。何にって言うと大型人型戦車の表面に使われていたアダマンタイトという硬い金属の塊に対しての違いだ。
鍛冶に使う前に細かく割るのに色々と試してみたのだが、しっかりと工夫しないと簡単に攻撃が通ってしまいそうなので出来上がったことに油断せずに仕上げていく予定だ。
武器や攻撃に使いそうな手甲や靴はミスリルを使った。魔法無効化金属をしっかり精錬したことで輝きだしたことで分かった。
馴染ませることで自分用の装備として魔力も通るようになるし、今まで使っていた魔鉄を混ぜることでより早く俺の魔力に馴染んで俺用に使いやすくなった。
ミスリルが手に入るのは魔国に行ってからだと思っていたのでここで手に入ったのは僥倖だった。何度も言うが俺にはデザインセンスが無いので、見かけに関しては獣人の村でアドバイスをもらいながら仕上げた。
俺にミスリルを渡そうとしたら、ナイフを作ってもらうだけで良いと言われた。ミスリルを扱うなんて怖くて出来ないそうだ。それなら最初から使える物としてもらう方が家宝にも目標にもなると言われて言われた通りにした。
えらく感謝されたので、ミスリルナイフは投擲武器としても贈答用としても呼びを多めに作っている。
目下リセルへのお願い事は俺が作ったという証の印だ。出来上がれば今までに渡した人たちにも改めてもう一度押しに来ると伝えてある。
丸投げしているが、俺が自分で作らない方が良いことは分かっているので引き受けてくれた。作業をしながらふと手を止めてメモを描いていることを聞いている。
まあこれでこの1か月の成果についてはおよそ並べることが出来たと思う。
直接褒めるというよりは俺の作ったものでは太刀打ちできていないという言い方をしたので、遠回しに話を逸らしたことに気が付かれていない。
こういうときのために取得した『ポーカーフェイス』のスキルが仕事をした。良かった。
と、思ったその時だった。
「ん~。無茶をする理由にはなっていませんよね?」
「え?」
「薙刀っ!アホ!」
何か意図を持って話すことはしない天然の直観娘が本質を突いてきた。
「主が戦闘を楽しく取り組まれているのは存じ上げています。自分の力や装備でどこまで出来るのかいつも楽しく取り組まれていますが、どちらかというと楽しいからやっているだけの部分が大きいと思います。私も同じだからすごく良く分かるんですが…。えへへ…あれ…?」
「イレブン、精霊の腕輪を外すからちょっと貸しなさい」
「はい」
そう言って俺の腕から腕輪を外すと笑いながら自室と決めた部屋へと入って行った。
戦闘中ではないから付けていても外しても変化は無い。何かあるのはあれが俺の腕に戻ってきたときだろう。
「私余計なこと言ってしまいましたか?」
「いや~、余計ではあったのだが。いつか勝てるようになるためにがんばってるんだけど、更にハードルが上がってしまったな。だから怒らなくて良いからな、毎果」
「かしこまりました」
「ひっ!?いつの間に後ろに…」
薙刀さん、シャカシャカ動くのはやめなさい。違う虫に見えるから。
「あと対抗するには『スキル付与』の方面にも伸びるしかないか。スキルは消耗品にしか付けられないみたいなんだよな。時間制限もあるし」
「抗うのをやめたらよろしいのではないですか?」
「そういうけどな、万花。暗躍は男のロマンなんだ」
「いつか本気で怒られると思いますけど…」
「心配してくれているうちにやめた方が良いと申し上げます」
格好つけて言い放ったつもりだったが、思ったよりも万花と毎果の言葉が現実味を帯びていたので、すぐには挑戦せずに大人しくしていることは決めておいた。
翌日に付けられた『精霊の腕輪』は今までの倍の出力の上に両腕に付けられたので今までに4倍押さえつけれられることになった。
「下手に戦闘に出ても体は動かないし、戦闘そのものは精霊さん達が終わらせるからね。イヤなら無茶なことはするんじゃないよ」
あかん、怒らせ過ぎた。しばらくは戦闘と鍛錬に集中しよう…。
情けない姿をさらす男が一人床に転がっていたという…。
お読みいただきありがとうございました。




