あんたら迷惑なんですよ
お楽しみ頂けると幸いです。
守ってくれるはずの兵士がいないまま切り抜けるわけもなく、1人2人と処理を進めていく。
ただ、壁のギリギリではなく、一直線に走る者も出てきたので後ろを振り返ることなく処理する必要が出てきたことが面倒に感じる。
面倒に感じるだけで同じように処理は可能だ。合計で2分経過時点で寝ころんでいるのは国家元首を含めた8人と兵士と俺だけだ。
後ろ向きに走るのは後にして兵士の方へと近づいて話しかけることにする。彼は他の兵士を叩き伏せた時点で抵抗はやめている。
兵士は銃は無駄だと悟って撃つのはやめているが、体術で組み伏せることは銃で制圧するよりも不可能なことだとも理解している。
抵抗も守ることも無く立っているだけだったので話をするのは容易だった
「ねえ、兵士のあなたに聞いておきたいんだけど」
「なんだ。俺にできるのは時間稼ぎだけだ。それが分かって話しているのか」
「この状況で逃げられると思う方がおかしいと思うけどね。ほら」
自分が助けるべきだと叫んでいた国家元首は当然ながら一番遅かったが、出口まであと少しで出られるというところで地面の中に沈んだ。
もちろん、毎度おなじみの落とし穴だ。
落ちたのをきっかけにドンドンと地面が崩れて広がっていく。ほとんど一塊だったため走っていた者たちは距離を開けて走っていた国家元首だけを地上に残して落ちていった。
深さはどれくらいか?5メートルはあるかな。打ち所が悪ければ残念なことになっているだろうね。特に上から落ちてこられたらひどいことになっているかもね。
穴の下に何も仕掛けが無いだけマシではないだろうか。竹槍とか土の棘とか仕込もうと思えば出来たけど。簡単に死んだらいけないからね。
状況は声を聞けば分かるんだろうけど、兵士と話をするために遮音してある。まあ穴に落ちなかった人が膝をついているから走る気を無くすくらいには大変なのかもね。
ああ、落とし穴がゴールの手前だけではないからかな。出口まではどう見ても10メートルが全て穴だけど出口の手前一か所だけが地面を残している。出口の直下は落とし穴だよ。
だけど外側も同じくらいの大きさの落とし穴を仕掛けてある。外側に関しては内側の落とし穴が作動した時点で見えるようにカモフラージュしていたから、ようやく見えただろうね。
最終的に助かるためには俺が邪魔をしないうちに助走をつけて10メートルくらいをジャンプ!残してある足場に着地を決めることがまず必要だ。
そこから下へと一度落ちて出口を通過するしかない。外側の穴の深さは内側の倍の10メートルほどだ。壁を作るのにそれくらいの土が必要だったんだよね。こればかりは仕方ない。
差かがあるわけでは無く直滑降を決めるか、何とか絶壁となった部分にしがみついて落ちていくしかない。
まあ外側の心配をする前に穴を飛ばなくてはいけないので、それ以前の話だ。生きるためには飛ばなくてはいけないことは理解したようで、不必要なものはポイポイと脱ぎ捨てている。
スーツみたいな服にジャラジャラと勲章みたいなものを付けてたからね。重そうだもんね。ただ、体格は良いから一縷の望みを持っているみたい。
何とか助走をつけて走り出そうとしたときに出口方向から強風を吹かせて向かい風を演出する。顔を引き攣らせて、足を止めてしまった。
文句が来ないのはなぜかって?剣の素振りをして剣圧をバシバシ飛ばしてるからね。文句を言ったら当てられることを理解しているんだろうね。
「ってことで話す時間はあるよ」
「………何が聞きたい」
良かった。会話に応じてくれた。
「なんで守ったの?奴らがゴミだって分かってるでしょ?」
「侮辱するな!」
おっと、急所だったらしい。怒った。掴みかかって来そうなそぶりを見せた時点で両手の剣の腹を肩に叩きつけて止める。すぐに交差して首を挟む姿勢で止まる。
「続けてどうぞ」
痛みに顔をしかめていたが、治まってきたのか続きを始める。
「………他は知らないが私は兵士としてありたいと望んだからだ。この国に生まれて、この国のための剣となり盾となり守ることを誓ったからだ」
彼の誇りだったようで顔を上げてしっかりと目を見て話してきた。感情的には怒っているけど。先を続けるように催促する。
「この国は、この大陸の中でも特に恵みが少ないのだ。だからこそこの地に前身の国が出来たころから我々は意思を統一する必要があった。魔物の脅威だけでなく国同士の争いもあるのだからな。
だから高い意識の元で国の役に立つように教育を受ける。それは自分たちの家族だけではなく、周囲の人たちにも助けられながら育っていくものだ。自分がそのように育ったからこそ次も同じようにしてやりたい。だから守りたいのだ。
そして、どうやっていけば守るのかの方針を出すのがを考えるのが国家元首を始めとした政治家たちだ!彼らが出す方針に間違いは無い!これだけ豊かになったのだ!我々には守る力はあっても方針を出すための力は持っていない。適材適所と言うだろう。出された方針に従うことでずっとうまく回ってきた!
建国してからまだ数十年の我が国だが、その時から伝えられる新技術があるのだ!そのおかげで今までにない、かつてない程の国土を得ることが出来た。この地の国の名は幾度か変わってきているが、かつてない繁栄が今この国にはある!
だが、まだ足りない!
そのための力が必要だと言われた!
お前がこの国の繁栄を、象徴たる力を奪っただろう!だから許せないし、目の前で奪われようとしている国を私は守りたい!だから守ろうとしたのだ!」
言いたいことは言い切ったと切れた呼吸を整えるように肩を上下させている。残り時間は1分か。
そもそもが間違ってるんだよな。最初にこの国の枯渇原因を教えてあげよう。
「まずこの地で恵みとやらが少ないのは神獣を殺したからだ。時期としては40年前くらいからだろう?神獣を殺したのが50年前だから計算は合うでしょ?この国の方針がこの国が亡ぶ方向へと進めているんだ。この大陸は緩やかに死に向かっているよ。他の神獣まで悪影響が広がってるからな。
なあ、自分たちが起こしたことの責任を取らずに、情けなくも他から奪うことで生きながらえようとするなんて生き汚いにも程が無いか?一度地の底まで落ちる覚悟で自分たちでなんとかしてくれよ。亡ぶなら勝手に亡んでくれよ。他国やましてや別の大陸の俺たちにまで迷惑をかけないでほしいね」
俺が他国の人間であるのは見た目からして分かるし、告知もしているから把握しているだろう。その俺が歴史のことについて話し出したのだ。
兵士も驚いているが、国家元首も後ろで止まっている。内容も内容だし。他のやつらは知らん。
「なっ…な!」
「なんで分かるのかって?お前らがこっちの国の神獣を殺そうとするから助けて、その代わりにと色々調べて教えてくれたんだよ。仲良くもなったからね」
信じるかどうかはお前ら次第だ。ただ、朱雀も他の神獣から教えてもらったことは俺にも惜しみなく教えてくれた。
この地の神獣は金属の神獣だったらしい。機械の材料に使える金属が大量にあるのは彼のおかげらしい。そして自分が死んでからも困ることは無いように死の間際ギリギリまでこの地の力となるようにしたそうだ。
名前は教えてもらえなかったけど、見かけからして俺が思い浮かべるようなゴーレムで色んな金属で体を構成していたらしく、力持ちだが性格は温厚だったそうだ。朱雀よりも白虎が仲良かったらしく、そいつを偲んで泣いていたらしい。
「自分たちで守護するものを殺して、その代償を『守る』の題目掲げて他の国から奪うのか。おめでたい奴らだな。分かってるか?お前は守るって言ってた割に他から奪うことを前提としてるぞ?何が守りたいだよ、奪いたいの間違いじゃないのか?
そういう教育を受けてきたから気づいてないのか、分からないふりをしているのか知らないけどな。自分のためなら人の物は取って当然って俺には聞こえたぞ。自分の知っている人たちのための略奪は許されるっていうようにな」
呪いを込めて伝わるように深呼吸して叩きつける。
「お前は守護者じゃない。略奪者だ。薄汚い盗賊だ」
どれだけ地位や力のあるものだろうが、方針が間違っているなら周囲が止めないといけない。言葉で無理なら力づくで。死んでしまってからじゃ遅いんだから。俺も気を付けたいし、言葉には耳を傾けるようにしよう。
こいつらを放っておいたらここも亡ぶだろうけど、朱雀だって封じられて死んでしまっただろうし向こうの大陸だって悪影響があったのは間違いない。いずれ迂回してゴルドクラン帝国により洗練された技術を持ち込んでゲーム本編で登場するものになるんだから。
ハッキリって事前に潰しておいてプラスしかない。マイナスはこちらの国の歴史が変わることでどういった変化が起こるのか分からないというくらいだが。
「神獣がいない土地はまず自然の力が暴れまわることになる。この国だと砂漠もあれば、気温が極端に低いところもあるんだろ。原因に心当たりが無いとは言わせないよ?」
朱雀がいなかったおかげで火山が結構過酷な環境になってたことが懐かしい。いくら火の大精霊でも全てをカバーしきれてはいなかったよ。
さっきから告げることの整合性があるからガンガンと頭の中でショックを受けているようだ。まあ少し信じやすくなるようにしている俺が言うのもなんだけど。
「それに耐えられる奴だけが生き残ればいい。根底からおかしな選択を取ったんだ。とりあえずこの国は自分たちの周囲の国のことを考えたら罪滅ぼしのために一回滅んだ方が良いぞ。謝罪のために奴隷になって他の国を支えてきてもいいくらいだよ。
そんなわけで、お前が受けていたのは教育じゃなくてこの国にとって都合良いように洗脳されてただけだよ。バカみたいに盲目だから騙されただけだ。そんな自分を十分に恥じるようにな。で、これからは頭を使わずに生きていることをちゃんと自覚して、周囲から息を潜めて隠れて生きていけな。生きているだけで迷惑なんだからな。勘違いの残念くん」
兵士の顔からは既に怒りは消えて、顔色は白い。肌が白いからその辺りの変化が分かりやすいね。ゆっくりとうなだれたまま動かなくなった。
周囲にいるやつらも鎮静で落としていたとしても意識まで奪ったわけじゃない。話は聞こえていたはずだ。大義ある守護者とかではなく、自分たちの失敗を他から奪うことでしか埋められない生きてるだけで大失敗の国だと分かってもらえただろうか。
「さて時間だね。責任を取る時間だよ」
既に制限時間は過ぎているので振り向く。情けなくも震えていらっしゃる。せめて向こうの足場まで飛ぶくらいの気概を見せておけよ。まあ結構な年齢のいったジジイだし最初から無理か。
「アックサンド・ペリメニバッチ。こっちの神獣に手を出す決定を出したお前だけはこんなもんじゃ済まさない」
お読みいただきありがとうございました。
潰したい国のモデルですか?もちろんあります。気持ちはタイトル通り、どうしたいかは内容通り。




