隠れてコソコソやってました
誤字訂正しました。ありがとうございました!
お楽しみ頂けると幸いです。
「それでさ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
鍛冶という新しい方針を打ち出したところで、リセルには疑問があるらしい。
「材料として渡される金属類が思った以上に多いんだよね」
「そうかなぁ」
表情には何も出していないが、背中には冷や汗が出てきている。まずい。隠していたことがバレる、
「そもそも手に入れてたのって最初の車と拾ってきた武器でしょ?『移動お任せくん』に使った量とか考えたらおかしくないかな?」
ロイーグさんめ!その辺りは誤魔化しておくってことになったのに!完全に疑われてるじゃないか!
いいか、イレブン。動揺するな。自然に振舞うんだ。
「気のせいじゃないか?」
「いやいや。他にも色々と何かに使ったのかもしれないけどさ。おかしくない?私だって作る時に色々勉強してるんだよ」
「そうは言ってもなぁ。あるのはあるとしか言えないぞ」
何か他に逸らせるような話題が無いかと必死に探す。ちょっとリセルの方は見ていられないので、違う方向を見てしまう。
「それともう一つ」
俺の前に回って指を一本立てて、ずいっと顔を近づけてくる。
「イレブンが何か隠したいことを話す時はね。目線をそらすし、少し汗ばむんだよね。私も獣人だよ。言いたくないけど五感は普通の人間よりも鋭いんだよ」
確信を持たせたのは俺の動きのせいでした!ロイーグさんに一瞬でも罪を擦り付けてすいませんでした!
「で、金属って考えるとロイーグさんと何かやってたんでしょ。別に怒らないから言ってよ。今更でしょ」
これは信用しているというか、何をしても怒らないからってやつか。う~ん、どうしようかな。結構怒られることをしてる自覚はあるんだよな。
何か隠していることはバレたが、中身まではバレていないからと見える形で悩んでいることを見せる。
「確認するけど本当に怒らないか?」
「一応。気を付ける」
なんか格下げされてる気がする。だが確かに鍛冶をするとなると材料やら金属加工の技術やらでここにいないことが増える可能性もある。姿を消すにも限度があるし、俺を探して一人で洞窟に入られても困る。
「わかった。白状する。一応言っておくが知っているのはロイーグさんとコトシュさんもだ」
「コトシュさんもなんだ。私だけ秘密か」
「ふくれるな。獣人の村のみんなは誰も知らない」
それでも眉間に皺を寄せて頭をぐるぐると回している。
「ん~。それでも秘密ってあんまり作ってほしくはないなぁ」
「分かったよ。これはバラしてもそこまでではないものだと判断して打ち明けるよ。実はな、ロイーグさんたちの元居た国をぶっ潰している最中なんだ。素材が増えているのはそれが原因だ。いや~、言えてよかったよ。よく考えたらリセルに見せる前に色々と手を加えるのは面倒だったんだ。俺がやった方が早いからリセルにはさせないけど、隠れなくていいってだけで楽だな。早速そこからやるか。インゴットづくり!」
「ちょっと待って」
がっしと肩を掴まれた。これは結構手加減を忘れているな。リセルは動揺しているようだ。
「もう一回言って」
「ボケなくてイイんだよな。ロイーグさんたちの元居た国をぶっ潰している最中なんだ」
「2回聞いても意味が分からない!」
落ち着くまで待って事実を受け入れてもらうことにした。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「一体いつの間に?」
「いや~。朱雀のところでスキルポイントを稼いだ後にこそっとな」
「じゃあスーちゃんも知ってるんだね!」
「怒るのはそこか」
「言うことがたくさんあり過ぎて処理できるところから話してるだけ!」
種明かしをするなら要塞に打ち込んだ楔を元にたまに監視してたんだよね。で、何とか向こうさんのところに帰り着いたから他にも楔をいくつか増やしにお邪魔したわけだ。密入国し放題だね。むこうもやってたから文句は言われる筋合いが無い。
「ロイーグさんとコトシュさんも何回か連れて行って向こうのものを回収したり、反政府組織と渡りを付けたりしたのさ」
「まあ生まれた国だもんね」
「そうだな。だが外向きの武力を誇る国なんて内側に欠陥がありますって言ってるようなものだからな。何か隠したいことや無理矢理押さえつけてる何かがあるってことだよ」
歴史的にもよく使われる手だよね。内側に問題があるから外側のせいにして意識を統一することで不満が出ないようにしているという手段は。
外側の情報が得られなかったとしても、どんな国にも反体制なんてものはいる。平和な時は潰した方が良いが、戦争を吹っかけようとしている国ならどちらかと言えば援護に回りたい。
それに侵略国家なんてそのうち負けるのが運命づけられているようなものだ。その中でも侵略するのに20年近く時間をかけて、侵略する前に国が亡ぶってのはほとんどない事例だとは思うけどな!
「何とか呑み込めてきたよ。それで今はどういう状況なの?」
「要塞を始めとして軍事拠点と思われる工場は材料や現物を片っ端からアイテムボックスに収納して強奪、そのまま大爆発させてブツが無くなっていることには気取られないようにしてきた」
「手口が鮮やか過ぎない?」
「よく言うだろ?攻撃は最大の防御なりって。俺が攻めてる間は新たに侵攻されることは無いし、拠点を潰してきたから新たに乗ってくるための要塞はしばらく作られることは無いと思うよ。教えてもらったところ全て潰してきたから。残ってるとしたら秘密裏に隠されたところくらいだろうな」
「隠されてるってことは最先端の技術を研究してるところじゃないの?」
お?詳しいな。獣人の村の村長だったことだけあるな。
「俺もそうだと思うけど。やっぱり数が重要なんだよ。俺一人で出来ているのは相手の急所を速攻で潰していることと、普段は向こうの工作員の人たちにがんばってもらってるからさ。そのあたりはロイーグさんとコトシュさんに協力してもらったから出来たことだ」
「そうなんだ。なんか知らない間に話が広がってることを感じるよ」
「後はな」
「他にもしてるの!?」
「当たり前だ。そもそも戦争ってなぜ起こると思うんだ?」
「えっと…、考えたことも無いや」
「まあこの辺りでは戦争なんてしばらく遡っても無いもんな」
この世界、というよりもこの大陸の戦争だと魔国の中で四六時中起こってるか、ゲーム本編が始まる前に帝国が中小国家を併合していくときとゲーム本編くらいなものだ。
想定している人自体が少ないと言っても良いだろう。魔物がいるから争っていられないということもあるけど。
「俺も戦争なんて自分で経験したわけでもないけどな。シンプルに戦争を起こす奴がいるからだ。そして俺の性格を考えれば答えは自然と出てくるだろう」
「イレブンの性格……。もしかして、やった?」
「うん。ちゃんと声明も発表してもらってる」
秘密裏に侵略されていたことで自然のバランスが崩されて魔物の被害があったこと、人的被害としても見過ごせないことを通知した。
時間を置くことで反戦の雰囲気が少し現れたけど、侵略をやめる様子が無かったのでこちらも力の行使を行うことにした。
朱雀に対しての報復として(個人的にはリセルの分も含んでるけど)予告した上で工場の各拠点を破壊させてもらった。
破壊工作のついでに主導していたとされる人物たちに表舞台に出てくることを要求している。←イマココ
「工場破壊の段階で何人か攻撃してきたやつは反撃してしまったんだけどな」
「そうなんだ…。大丈夫?」
俺が精神的に落ち込んで無いかを気にしてるな。
「一応重傷くらいで済ませてたはずなんだよ。だから自分では命を奪ったって感覚はあまり無い。その代わり何かで読んだことの中で一番ひどいことはした」
「う…。心配した自分を少し後悔しそう…」
「じゃあ言うのはやめておくか?」
「いや、聞くよ。スーちゃんとか他の神獣に手を出してくる人たちには私も怒ってるんだから」
俺もリセルのことがバレたときにどこまでも反撃に出られるように今から慣れておこうと思っての行動だしな。
「戦場では10人の死者よりも1人の重傷者の方が負担になるらしいんだ」
「……なるほど。助けたいからだね」
「鋭いな。だいぶ落ち着いてきたみたいだな。見捨てたなんてバレたら兵士の士気にも関わるし、反体制の人たちが黙ってない」
「一石二鳥なんだね…」
「そんなもんじゃ済まないぞ。救護に人手を割くから援護部隊に負担がかかる上に実際の前線戦力が減る。物資だって通常よりも必要になる。職業軍人だから退役するってやつが出てきたらお金もかかるけどその人数が洒落にならないくらいに多い」
さすがにリセルが黙ってしまったが、言いたいことは言っておく。俺は戦争の経験は無いが、戦争の話は聞いた。原因となった奴らに対しては煮え滾る感情がある。
「戦争を起こすやつにロクなやつはいないし、それを分かった上で兵士になって攻撃を加えてきたんだ。俺はケガも死ぬことも覚悟して行ったんだから向こうにも同じ覚悟があったと考えての行動のつもりだよ。要するに文句を言われる筋合いは無いんだよ」
「そっか。そうだよね」
「やつらは俺たちの大事なものを危うく奪うところだった。放っておいたらゆくゆくはこの大陸全てを巻き込んだ戦乱が起こるところだったんだ。二度と手出しできなくなるくらい徹底的に潰す必要はあると思ってるよ」
俺自身がそれでどうにかなろうと構わないと思ってるしな。だから武闘大会に出場する以上に強くなることが必要になってるんだよな。
「だからって危なくなったら無理してほしくは無いからね」
「当たり前だよ。まあ楽しむための前準備として仕方ないからやってることだ」
「……次に何かするのは決まってるの?」
「3日後だ。それまではあるものを使って鍛冶をするよ。スキルポイントを貯めてスキルを取得しておいたら安心だしな。今までは奇襲だったし、対象はモノだったけど次は人だからな。警戒度も段違いだろうしな」
「ついて行くのは「基本的に無し」なんで!?」
先回りして通告したら思ったよりも噛みつかれてしまった。心配してくれてるのは分かるけれど。
「一人でいくから逆に安心なんだよ。これで周りに守らないといけないやつがいたらいざってときに余計に危険だ」
「じゃあ現場には行かない。向こうの国について行くだけ」
「…3日で諦めさせれば良いんだな」
「絶対に諦めないからね!」
だからあんまり言いたくなかったんだよなぁ。
ステータスの奪取スキルを増やしてたのはそれだけのことをやっていたという証拠です。
お読みいただきありがとうございました。




