獣だから炎が苦手だと思ったととの供述をされました
お楽しみ頂けると幸いです。
まずは目の前にいる一番最後に確認した3匹目だ。剣・刀・鎚・槍で攻撃を仕掛けると迷わず後ろに下がって遠ざかろうとする。
だが甘い。後ろには盾と大剣が控えている。盾でこちら側へと弾き、大剣の一撃を与える。動きが止まったところで先程の4種類の攻撃で沈める。
これで1匹仕留めた。本番はこれからだ。向こうもこっちの動きをしっかりと学んでくる。
残った2匹が同時に襲い掛かってくるために、腕を4本ずつに分担して当たれと念じて振り回す。
ある程度は自動で動いてくれる。俺が手で持っていたらどう動かすのかというイメージが勝手に実現されている、というのが正確なところだが。
ただ、一気に仕留め過ぎたのか、こちらの勢いに躱す方へと専念されてしまっている。こちらが攻撃の手を緩めたら攻撃をしてくるだろう位置なので攻めるしかない。
「援護する!」
リセルからそう声が聞こえた。間を置かずに光の球が現れる。
「ライト!」
現状は暗い洞窟内、相手が小さく素早く動くため見つけづらいのが一番困るところなので明かりをつけるという判断は間違っていない。
だが、それは無駄に終わる。シュー…という音をたてて光球はみるみるうちに小さくなっていく。発生した光は俺のところに届かず俺とリセルの真ん中の距離にも届かずに消えてしまう。
「なんで…?」
「ここは明かりのための光は付かないんだ!そういうもんだと思え!入ってくるなよ!」
一本道ではあるが極上シリーズの洞窟は外と中の切り替えのためにそういう設定になっている。なぜかと言われるとそういうものとしか言えないけど、トンネルを抜ける瞬間ってわくわくするよねってことらしい。
だからか、ここは戦闘はもちろんあるが、通常よりも暗い状態で戦わなくてはいけない。迷惑な話だ。
あとは、リセルの立ち位置が未だに洞窟の外ということも関係しているだろう。
安全圏から危険の代名詞のダンジョンでしかも戦闘中に状況に水を差すのは中々難しいのだろう。教えたこともあった気がするから思い出してはいるようだが、確認をする時間は無い。
いくら武器が多かろうと相手の視界に入ることは危険だと理解していたらしく、1匹が俺の視界内に留まるが届きにくい位置でウロチョロし、もう1匹が視界から外れる動きをくり返す。
「くっ、面倒な!」
まだ発動してから15秒ほどしか経過していない。リスのくせに頭良すぎない?
せめて少しでも止まってくれたら一撃当てられるのに!一気に決めるくらいは出来るんだけどな。
何とか状況改善の一手を考えようとしていた時に、再度洞窟内が明るくなる。おそらくリセルだろう。この明るさは先程の比ではない。
まず間違いなく洞窟の中に入ってきている。戦闘中に乱入は出来るのか?出来ているのだろう。でなければ説明が付かないことだし。
「下が……れ?」
カオススクアールに踏み込んで攻撃しようとして躱されたが、体制として入り口の方を見ることが出来るようにして叫ぼうとしたらリセルの方を見た。危機感を感じて語気が弱くなる。
ふとカオススクアールを見ると奴ら2匹も危機感を持っているようだ。俺も今お前たちと同じ気持ちだぞ。
なにせ入り口が見えない。入り口から外の景色が見えないどころか入ってきたはずのリセルも見えない。
なにが どうなってるって?
恐らくは踏み込んできたリセルが、彼女によりサーちゃんと名付けられた火の大精霊の力を借りて洞窟の入り口を同じ大きさの火球―いやこれは炎の爆弾とでも言った方が良いのではないか―を作り出したのだ。
だから中側に俺とカオススクアール2匹には大火球しか見えない。そして魔法の使用目的は大体見れば分かる。敵対している対象へと攻撃を加えるために使用するものだ。
リセルさんや、前に教えたよな?フレンドリーファイアって言葉を。
「そのまま放ったら俺にまで当たるんだけどーーーー!!??」
大火球は容赦なく近づいてい来た!!
☆ ★ ☆ ★ ☆
【リセル視点】
「『オクトブラキオナス』!!」
イレブンが戦闘で秘奥義を発動した。まだ3種類しか使えないって言ってたけどその3つ目だ。思ったよりも発動時間が短くて悩んでいたやつだ。
その代わり接近戦には強い。1人で8種類の武器を使うんだから攻撃力が単純計算で8倍だ。当てさえすればすぐに終わる。
言っていた通りに1匹はすぐに倒した。私からも煙に変わる瞬間が見えたので残りは2匹だ。
そのとき自分でも何かしないといけないことに気が付く。洞窟が暗いのだから明るくするだけでもイレブンなら何とかするはずだ。
「ライト!」
下手に攻撃してカオス何とか…、リスがこちらに来たら危ないので危険でも何でもない魔法を選択したのは間違っていないはずだ。
すぐに戦闘の邪魔にならないようにイレブンの頭上目掛けて飛ばす。しかし、まだ距離があるというのに小さくなって消えてしまった。
「なんで…?」
「ここは明かりのための光は付かないんだ!そういうもんだと思え!入ってくるなよ!」
そうか。ダンジョンの外からだと弱くなるみたいなこと言ってた。たしか理由は、ってそれどころではない。
言われたと通りに待つが、数秒で危険だと理解する。イレブンの表情に焦りが見えたからだ。わずかではあるが、いつもの戦闘中の表情ではない。あれはピンチだって考えている。
リスが明らかに躱すこと主体で攻めていない。時間切れがあるとは知らないだろうけど、様子見に回られてしまっているんだ。
イレブンがなんとも出来ないなら私が何とかするしかない!サーちゃん、中に入るよ。全力でやっちゃって!!非常事態のため会話をせずに意思の確認だけが伝わってくる。
「いいよ。イレブンだもの。自分で何とかしてくれるよ」
もう村人たちが束でかかってきても私は負けるところが想像できないくらいになった。
ステータスが大きく上回ったことによるところもあるし、大精霊が1人に精霊たちもたくさんついて来ていることも大きいだろう。
けど何度手合わせしても、全く勝てる気配の無いイレブンが私が少しくらい何かしたってピンチにはならないはずだ。だからサーちゃんが本気を出しても大丈夫!
こちらに意識が向けられていないことを確認して洞窟の中へと一歩踏み込む。
「下が……れ?」
すぐに気が付いたイレブンが注意をしてくるが、サーちゃんが生み出した火球が邪魔で何も見えない。あれ?大きすぎたかも?
え~と、でもなぁ。イレブンの秘奥義の時間切れが怖いし。サーちゃん、やっちゃって。
了承の意思と共に通路よりも少し小さいくらいの大きさの火球が奥へ向けて放たれる。
イレブンが何か叫んだ気がするけどきっと何とかするよ。大丈夫大丈夫。
…………大丈夫だよね?
☆ ★ ☆ ★ ☆
【イレブン視点】
一先ずは奥へと逃げよう。縮地も使ってダンジョンの入口へと向かう。
ふと横を見ると、カオススクアール2匹も同じように走っている。目が訴えかけてきている。
『逃げ切れるまで一時休戦だ』
俺もこいつらも同じことを考えていた。
「良いだろう」
そう返しておく。
さて、もう洞窟の出口だ。ほぼ同じタイミングで抜け出た。すかさず俺は右側へと飛ぶ。一瞬の間を開けて大火球が横を通って行った。少しだけ飛ぶと大爆発を起こした。
周囲を確認するとカオススクアール2匹は出口を抜けると左側へと移動していたようだ。2匹一緒にこちらを向いている。再度戦闘開始だな。ただ、時間切れだ。秘奥義が終了して武器を持っていた腕は既に消えている。限界まで維持しようとしたので鼻血も出ている。
武器たちもアイテムボックスへと収納した。手に持っているのは右手に片手剣、左手に盾の剣士としてもオーソドックススタイルだ。
洞窟から足音が聞こえるのでリセルが近づいて来ているのだろう。出てくるまでには決着を付けよう。
カオススクアール2匹が殺気を発生させて、目の前から消える。それほどの速度で接近を試みたのだろう。だが、もう無駄だ。
べちゃっと嫌な音がして2匹とも地面に落ちる。
俺が仕掛けておいた結界に勢いよくぶつかってきたからだ。周囲全体ではなく、一方向のみに仕掛けた壁状とも言えるものにしたのでいつもよりも強固だ。そこに俺が見失うほどの速度で突っ込んで来たら、そうなるでしょという結果が待っていた。
ピクピクと痙攣していたので、自分から近づくことなく苦手らしい火魔法を強めに発生させる。
「獄炎」
半球状にどういった作用か黒くなった炎が発生する。温度が上がると普通は透明になるはずだけどなぁ。
「イレブン、大丈夫だった?」
余計なことを考えていると出口からひょこっと顔を出してきた。
「ん。これ」
火力をグッと高めてすぐに消した。そこには何も残っておらず、続いて魔石が出現した。ドロップアイテムは毛皮だ。魔石にしても毛皮にしても、あいつらの体のサイズの4倍くらいはある。どこにそんなものを持っていたんだと突っ込みたいくらいの話だ。
「じゃあ、戻って拾ってくるね」
「頼む」
倒したところに発生するから洞窟の中に落ちているだろう。すぐに引っ込んだリセルから視線を外して、改めて観察する。立っている場所は高台になっていて、中の様子がよく見えた。
どことなく『食材の宝庫』と雰囲気が似ている。出現する魔物は桁違いだが。遠目に見ても色んな種類の果実が生っている森が見える。
果物はあんまり自分から食べようとは思わなかったんだよな。ミカンとかバナナは簡単だから食べたけど。理由は簡単、皮を剥くのが面倒だから。今は手元にすぐナイフを持ってくることが出来るし、ある程度慣れもあるのでそこまでイヤではない。収穫出来たら食べてみよう。
「拾ってきたよ~」
「ありがとう。助かった」
そう言って受け取って収納すると無言でリセルの頭を掴む。
「え?」
「お礼だ」
何の打ち合わせも無しに味方を巻き込む攻撃をする子にはお礼が必要です。結界を張って声が響きにくい状況を作ってアイアンクロウをプレゼントした。
お読みいただきありがとうございました。




