お世話になりました!
お楽しみ頂けると幸いです。
翌日の夕方ごろに朱雀を呼び出すために再度火口に訪れた。
「朱雀~。たぶん出来るようになったぞ~」
スッと姿を現す。神獣をお手軽に呼び出すって凄いことをやっているけど、いずれにせよほとんど日課みたいなものだ。
≪明日くらいだと思っていたけど良いヒントをもらえたみたいね≫
「ああ。自分の魔力を無理矢理閉じて調節しようとするから無理があったんだな」
俺も今日中に出来るとは思ってなかったけどね。それでもゴリゴリに強化している俺にとってはコツさえつかめば何とかなった。
自然と漏れてしまう量も近くにいる人たちには気にならないほどだったが、テイムされた蜂娘たちは敏感に感じ取っていた。
だから自分の中にある魔力ではなく、放出された魔力の有効利用をすることで課題をクリアすることにした。とはいえ、無意識に流れているものを制御下に置くのは少し苦労した。
一見すると体から離れた魔力だが、まだ制御はできるらしい。自分で細かくするのは難しいので自然と細かくなった魔力を操作することでMP1の魔力玉を量産する。
夕暮れにほんのりと光る球体が無数に浮かんでいるから、光景だけ切り取ってみると幻想的な光景だと言えるものになっていた。人工的なものがもったいないくらいだ。バラバラに動かすことが出来ないから気分的にはルミネーションってところだ。
しかし俺が改めて操作することで、攻撃力や属性を付加することも可能だ。乱暴な言い方をすると多数を相手取った戦いにも対応することが出来るようになった。
MPを絞ったとしてもオーバーキルが多かったから困ってたんだよな。本来ならそのまま消えてなくなっていたMPに使い道が出来たのだから効率が良いどころの話ではない。
≪それでも裏技のような解決方法ではあるからちゃんと今後も練習はしなさいね。今回はそれで及第点をあげることにしましょう≫
「やっぱりか。今回の課題はこれで解決って言って良かったのか?」
裏技の解決方法で解決したと判断されるのはそれこそ公平ではない気がしてしまう。訴える先もないことではあるけど。
≪構わないわ。期待しているものに少しくらいは贔屓するのもまた自由だもの≫
「そういうものか。あんまり仲良くしすぎても良くないよな」
≪久しぶりに出来た話し相手だから気にしてほしくは無いけれどね。あと注意点だけど、いきなりステータスが上がりすぎたから制御が追いついていないのよ。危険なことを理解してくれているから大丈夫ではあるけど、人の多いところでは気を付けなさいね。大惨事になるから≫
「やめてくれ。何かの事件が起こるみたいじゃないか」
マジメに正面から見つめられてしまって本気であることを察する。本心からのアドバイスだと察する。
近々出発することは伝えてあったし、戻ってこようと思えば毎日でも来ることは出来る。だがいつまでも同じ場所に居続けるのも問題だと考えていた。
だから出発する前にある程度の安全を確保することを課題としたことに、はじめて気が付いた。全部を言ってしまうのは何というか、気遣いを無にしてしまうような気がする。
「本当に気を付けます。ありがとう。ただ、リセルのために欲しい魔法があるから少しだけ許してくれ」
≪まったく。仕方ないわね≫
言葉に気持ちを込めて伝えておこう。少しだけ柔らかく返ってきた言葉も感謝と共に受け取る。
≪獣人の村なら大概のことは許容してくれるでしょうけど、普通の人間がそこまで度量が大きくないことはあなたも知っているでしょう。きちんと自覚しなさいね≫
「分かった。本当に色々と感謝する」
≪こちらこそ助けてもらったのだからこれくらいは許容範囲だと思ってくれていいのよ≫
思ったよりも感謝されていたし、同じくらい心配もさせていたらしい。改めて考えると俺の行動は周囲を振り回し過ぎているのかもしれない。
あまり急激にステータスを変化しかねないスキルを取得するのはしばらく控えようか。ステータスの上がらないものだけにしておこうかな。
じゃあキリの良いところまで取得したら、あの種類を上げていくとしよう。リセルにノーマルシンボルを渡したからどうしようかと考えていたところだったしな。
≪もはやスキル狂ね≫
溜息交じりにそう呟かれてしまう。考えていることを読まれたようだ。
「身の安全を考えれば当然じゃないか?」
≪まあ別に構わないけれど。そこそこにしておきなさいね。聞かないでしょうけど≫
「だな~。俺だって安全に生きたいからね。正直に言っておくけど、俺がおかしな真似をしたら頼むな」
≪今言うのね。言われなくても関わったからには責任持つわよ。何も無いことを頼むわね≫
「そうする。じゃあまたそのうち顔出すよ」
≪あなたが死ぬところは想像できないけど、気を付けてね≫
「ああ!またな!」
≪ええ、またね≫
朱雀のところから獣人の村に戻ってきて、まずはもらった報酬ポイントを目当ての魔法に辿り着くまで振っていく。よし、ギリギリ足りた。
それもこれも使い切ったところで改めてスキルを見ていた時に急に出現しているのだからたまらない。それまでは確実に存在していなかった。時々見ておかないと取得できるスキルは随時更新されていくらしい。
次に目標にしたスキルは取得しようにも必要ポイントが大きいので簡単には取得できない。地道に貯めていくことにする。
家の入り口まで回るとリセルが待っていた。わざわざ外で待ってくれていたらしい。
「大丈夫だった?」
「ああ。一応な。でも地道に練習しておきなさい、って言われたよ」
「スーちゃんがお母さんみたいだね」
「種族が違い過ぎるんだが」
苦笑しながら話を聞き流そうとするが、言っていることにも納得できる気はする。まああれほど心配した上で見守り、送り出してくれるのなら母親の感覚と似ているのかもしれない。
さて、四輪の心配が無くなったのなら明日にでも出発しても良いだろう。四輪でも目立つけど、空を飛ぶことに比べたらマシだ。一応ザールさん所の新開発した魔道具でモニターをしていると触れ回ることで許可を得ている。
代替品として魔石で推進力を補助する台車と馬車を提供しておいた。これもリセルの発明だ。
代替品を用意した方が良いと提案してくれたのはザールさんだ。何もないまま四輪に乗っていたら怪しまれると言われた。
どんなものが良いかと考えたときにアイディアを出してくれたのはロイーグさんだ。四輪開発に使用した技術の1つを簡易版にしてくれた。
ちなみに元の業者を犠牲にするのは本意では無い。これで少しは楽になると思うし、これくらいなら技術の安売りにもならないだろうし、許される範囲だろう。(誰に?)
その気になれば四輪の大量生産、とまではいかなくても少しくらいは作ることは出来る。しかし俺の知り合いたちはいらないと言ってきた。
「貴族たちの執拗な粘着から逃げることが出来るのは転移が出来るイレブンだけ」
と、異口同音で次々に言われてしまった。確かに俺だったら面倒になれば逃げるな、とこの意見には納得した。楔はこれからも色々なところに打っていくつもりだし、それが街の近くだと限るつもりも無い。
「じゃあ、明日出発な」
「昼くらい?」
「そうだな。万花たちの引っ越しもしないといけないからな」
四輪の中に万花たちの家とついて来ることになったフレンドビーたちの巣を引っ越しする作業が残っている。
慣れればいつでも外に設置できるようにしておけば何かあったときに対応できるので壊さないように引っ越しの練習をする。
フレンドビーたちの多くはもはや獣人の村に必要だし、産業を支えるために残ってほしいと言われている。
それに厳密に俺がテイムしているのは万花、毎果、薙刀の3体のみだ。テイムしているわけでは無いが、共生と言っても差し支えない間柄の獣人の村とフレンドビーたちだから希望を聞いてもらっておいた。
ついて来る、村に残るの選択を。ついて来るのは確定しているのは、まだ進化していない生まれたての子たちや訓練中の子たち、それから薙刀の腹心たちだ。
結局残る選択をしたのは進化した先が農業に関係する蜂たち、それを守るために残る選択をした戦闘探索隊や残って巣を守りたいと考えたものたちだった。
いつでも会えるので選択に関しては全く構わない。それに別れは初めてではない。
2か月の間にユーフラシア近くの隠れ家周辺を巣にするために先に旅立った蜂たちがいる。数日に1回は会うので全く遠くに行った気がしない。こちらでも順調にハチミツを集めたり訓練もしている。
万花とは違うが、フレンドビーの女王蜂になりそうな個体が出てきてもおかしくはなさそうだ。早くても年単位は先だそうなので、位置づけは万花たちの別宅らしい。
「じゃあ晩ご飯食べようぜ」
「そうだね」
一応明日出発なので獣人の村を出る前のお祝いの食事会をしてくれる。面倒なことは忘れて色々と楽しむこととする。
お読みいただきありがとうございました。




