多くなり過ぎた魔力をきちんと制御できるようにしなさい!
お楽しみ頂けると幸いです。
いくらここで吠えたところで何も変わらないことは分かっている。だから涙を飲んでリセルには言っていない。名前以外は希望通りにしてもらったから!
≪で、あなた試練に来たんでしょう?≫
「…うん。お願いします」
いつまでも落ち込まれては面倒だという雰囲気を感じる。自分でももうそろそろ折り合いを付けないくてはいけないということは分かっている。せっかく気を使って話題を変えてくれたし、乗っておこう。
「今日はどんな課題?」
≪魔力の制御よ。MP1消費の魔力玉を作り続けなさい≫
「おい。話聞いてただろ」
それが出来ないからスキルを取得しようとしてるのに。
≪ダメよ。魔力の制御は基本中の基本。ザル操作で垂れ流しにしてばかりではいけないわ。スキルは便利だけど、楽するために使ってほしくはないわね≫
それを言われると辛い。試練の内容は9割が戦闘だが、たまにスキルとは違う技術面を要求してくる。それは自覚の有無に関わらず役に立つことである。
ここはスキルを取得するとかでショートカットは認めてもらえないらしい。
「分かったよ。やるよ。でも、どうやって出力を抑えてたのか感覚が良く分からん。今の俺のMPが3675ある。そこから1だけ使うとか難しいんだけど」
≪そうねぇ。じゃあ報酬は3000ポイントにしておこうかしら≫
「それって3日は必要だってことか!?そうだよな!?」
≪じゃあ見てるからがんばりなさいね~≫
そう言って消えて行った。2か月で小鳥から少し成長したサイズになった朱雀は出来ることから神獣の仕事を再開させているらしい。何をしているかは知らない。聞いたところで分からないだろうし、違う感覚だから聞かない方が良いとも言われた。
神に側に立つものが気を使うということは命に関することなのだと思う。それはさすがに重い。俺の罪も奪取スキルとして刻まれていることだし、自分で抱えたくないものを拾いに行く趣味は無い。
「仕方ない。やってみるか」
みんなが何かしらをしていることは分かっている。ましてやこれに関しては自分のワガママでみんなに作ってもらった四輪を動かすために必要な技術だ。諫められて文句を言うようでは自分が情けなくなる。黙って練習しよう。
まずは自分の魔力放出を絞りに絞って放出してみる。
「……無理だ。1だけ出そうとしても30くらい余分に出る」
しかし、最初からうまくいくことなんて無い。運動神経は自慢では無いがほとんど無かったようなものだ。一度出来たことなど無いと言ってもいいくらいなのだから何度でもやっていこう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「で、結局どんな感じなの?」
「出来てない」
何とか10に抑えるところまでは出来たが、圧縮された水鉄砲みたいに魔力を放出してしまう。聞くまでもなく不合格なのが分かるので朱雀を呼ぶことなく帰宅した。
「イレブン様は規格外ですからね」
「そうです!少し出来ないことがあるくらいで我々も安心できるくらいです!」
「薙刀さん、それは全くフォローになっていませんよ」
一応フォローだろう万花、薙刀、毎果の言葉を頂戴する。毎果の言う通り、俺が安心できていないのだが良く分かっていない薙刀は良く分かっていない表情をしている。
万花と毎果はここ半月くらいはようやく落ち着いてきている。寿命も普通のフレンドビーたちとは違っているし、進化したフレンドビーたちも強く長く生きることが出来ているようだ。
進化した働蜂たちは最初は農蜂になるものが多かった。農作業や魔力草の栽培をメインにお願いしてたからね。その中で次第に特に気に入った植物専門に進化するようになった。
名前だけ出していた綿蜂がそれにあたる。俺には分からないが、一緒に作業している獣人たちには品質が良くなったと喜ばれるので良かったと思っておく。
毎果受け持ちの蜂たちの活躍はそれだけでは無いが、そのあたりの詳しい生活状況の変化はまた今度にする。
薙刀は戦闘探索隊と一緒に、最初の面影が見当たらないくらいレベルを上げまくっているが、トップ集団は中魔石の魔物くらいなら余裕で倒せるくらいになっている。これは鋼級冒険者くらいなら生かしたまま追い返すことが出来るくらいには強くなった。
ただ、彼女たちは蜂なので本質は集団戦である。1つ例を挙げると、金属製の小型の槍(爪楊枝より少し大きいくらい)を持って数十匹の蜂が突っ込んでくるとなると見た瞬間に逃げる冒険者もいるだろうな。
それは一例だ。他にも色々と場合によって作戦を使い分ける。蜂一匹ずつにも得意武器があるらしいが、最初は突撃槍を持って鍛錬させているらしい。一番性に合う武器として選ぶものが多い。
はぐれ者はどこにでもいるので、そういった蜂たちは個別に聞いて武器を作成している。鍛冶というよりも細工の範囲だ。小さいけど武器のため気を使いながらの作業だったのは確かだ。
「どうしようかな。朱雀は3日は必要だって考えてるみたいなんだ」
「この後も練習はするんでしょ?」
「当然!…なんだけど、練習するとなるともう一回どこかに行かないといけないんだよ。危険だから」
全員がピタッと止まる。俺が危険だって言ったから?
「俺が魔力の制御を失敗するわけないでしょうが。ただ、圧縮した魔力が誰もいないと思ってた方向に飛んで万が一誰かに当たったら危険でしょ?」
「元村長に権限があるわけじゃないけど、村内での練習は禁止ね」
「分かってるよ。わざわざ人がいるところでしないって」
それに今のやり方ではうまくいく気がしないから、日も暮れたし話をしながら一旦休憩なのだ。垂れ流しがダメってことは要するに考えろってことだと思う。
面倒なことを勢いに任せて片付けることが多いのは自覚している。ゲームで例えるならプレイヤースキルを磨くこともするけど、ステータスでゴリ押しできるなら後者を選ぶことが多い。これはもう生まれ持った性格だと言わざるを得ない。
「考えろって言われてもな。手加減すらスキル頼みにしていた俺には荷が重い…」
「そうだなぁ。何かヒントになるようなものがあればいいけど」
「魔法としてプログラムするとかでしょうか」
「MP1の『着火』ならできるんだよ。でも属性が入ると四輪にこめる魔力として適切じゃないんだ」
リセルが困っている俺を見かねて皆に意見を求めると毎果が早速意見を出してくれた。ありがたいことだが、今回リクエストされたのは魔法ではなく、魔力そのものの話なのだ。
「私には主の言っていることの違いがイマイチ分からないのですが…」
「じゃあ良い機会だから少し講義しておこうか。MPってのは魔法とかに使うエネルギー量のことだ。魔力ってのはその純度の高さを示している。俺は1203だから一般の人よりもすごく高い」
「4桁がどれくらい凄いかなんて分からないよね」
俺もこの世界の常識が分からないので知りません。理論上は5桁まで上げられるらしいけどな。
「魔法ってのは元から世界に存在している“理”にエネルギーを流し込んで発現させるんだ。最低限のMPは決められているが、上限はいくらでも調節できるし、上限を超えて使用することが出来る」
「イレブンは何かそんなスキルも取得してるんだよね?」
「『魔過剰』ってやつな。一部の基本魔法ではスキルレベルを上げたら上限が外れて操作可能な奴もある。その方が汎用性があるから便利だし、イメージ通りに発現しやすくなる。だから可能なら上限までスキルレベルを上げる方が良い」
「普通は上がらないと皆様に補足しておいた方がよろしいですか?」
「何が普通かは私も分からないけど、別に言わなくても大丈夫だと思うよ。毎果の気遣いは嬉しいよ」
毎果と万花がそんなことを言っている。普通とか常識ってのは、生きる世界でコロコロ変わるものだ。俺の普通を把握したら世間の常識は捨ててくれ。
「ただ、魔力そのものだけを扱うんだったら体から直接放出することになるんだ。魔法じゃないから自分で調節しないといけないんだ」
「そしてそれは普通は意識することは無いし、困ることもあまり無い。こんなことで困るのはイレブンだけだよ」
「どうしてですか?」
「生産のときに魔力だけを放出するってことはあるけど、1だけって厳密に調整することはないんだ。あったとしてもそこまで抑えるのは楽なんだよ。持っているMPが少ないからね。10しかない人が1出すのは楽だけど」
「なるほど!主は3000を超えるため調節が難しいというわけですか!」
薙刀が理解してくれたのなら、この場にいる全員が理解していると考えて良いだろう。そうなると蜂娘たちが言ってきたことに驚く。
「そうなると主から繋がっているように感じる魔力は通常よりも大きいのでしょうか?」
「え?繋がっている?」
テイムした時にそんなのが繋がっていたのかな?
「糸というか空間全体を満たしていますよね」
「日々の食事とは別にエネルギーを頂いているように感じております」
「それってつまり…?」
俺の魔力は垂れ流しであるがゆえに、そのあたりに漂っているってことか?
お読みいただきありがとうございました。




