破壊成功
お楽しみ頂けると幸いです。
「氷槍!!」
一先ず発射口は相当な熱を溜めているので氷槍くらいでは時間稼ぎに過ぎないが、到着が遅れているようなので苦し紛れの抵抗だ。
「なんだ驚かせおって!そんなものでは時間稼ぎにもならんぞ!」
新総司令官殿(仮)の声が辺りに響く。正直うるさい。もう少しで来るはずだから大人しく見てろよ。
後方から走ってくる足音が聞こえる。試運転しておいただけあって問題無く動いているようだ。
「出番だ!来い、ゴーレム!」
これがリセルのために用意していた奥の手だ。材質は一旦岩を削り出した。俺にセンスは無いから不格好だが、動けば良し!大きさは俺の倍くらいの大きさだ。とにかく物理的な圧迫感がすごいぞ!
結界で階段を作っているのでそれを足場にして駆け上がってくる。動力としては土の精霊をメインに宿らせて動かしてもらっている。他の精霊たちにも少し力を借りている。単一よりも色んな属性を秘めている方が強くなるからだが、岩がメインになっているだけあって土の精霊がメインにならないと動きが鈍る。
これで魔法的な防御だけでなく、物理的な護衛としてもリセルを守ることが出来ると精霊たちには好評だ。不便なのは持ち運びするのに困るということ。しかし、解決手段はあることが分かった。奪い取ると遺恨が残りそうだから自作か自分で手に入れよう。きっと出来るはずだ。
そんなゴーレムが大きく跳躍して俺の前に着地する。顔に当たる部分にはそれっぽい紋様を描いていおいた。精霊は全方位確認できるから初見さんへの油断のためだ。
ロイーグさんにも確認してこんな技術が向こう側に無いことも確認済みだ。動力として魔法を使うことはあっても技術としてはあまり確立せず、中途半端に科学技術と結びついているようだ。自立して動くなんてロマンあふれるはずなのに、そんな構想すらないなんて遊び心が無いからだと言ったら苦笑されてしまった。
「そんなもので何をしようというのだ!貴様ごと打ち抜いてやる!残り時間を教えてやろう。あと10秒だ!」
俺も現実に戻って来ないと。新総司令官殿(仮)の声が響いている。
ゴーレムが来た時点で氷槍は解除しているから発射準備は着々と進んでいる。
「こっちの準備も完了だもんな。頼むぞ」
ゴーレムをパンと叩く。岩だから冷たいはずだけどなぜか温かく感じる。
「発射!!」
砲口が一際輝いたかと思うと一気に光り輝く。進行方向の俺には目の前が光っているようにしか見えないが、近づいて来ているのだろう。
まずは俺が張っていた結界がほんの少しだけ作動する。余波でこれか。その微妙な感触から着弾点を感じ取り、その地点を特に強く強化する。しかし即座に破壊される。ほんのわずかでも威力が弱まればいいのだ。たとえ十分の一秒でも削れるならそれでいい。
そして、ゴーレムの構えた両手の平に熱線が衝突する。
反射の仕組みは分からないけど、分かっているのは一度受け止める必要があるということ。リセルという術士の実力と今回の場合は対象物であるゴーレムの許容量で反射できるかが決まるということだ。
一度反射してしまえば許容量は元に戻るが、溢れてしまうと反射失敗となる。つまり、向こうの技術力がリセルとゴーレムの反射の許容量を超えていれば、元から受けて止めていた分も含めて一気に溢れてくる。当然近くにいる俺もただでは済まない。
受け止めきれば、術者の任意のタイミングで元の方向へとはね返すことが出来る。物理的なものでも魔法的なものでも、おそらく科学的なものでも。なんだ、このチート。
そして、その結果は。
ゴーレムはきちんと吸収し尽くした。やはり熱エネルギーが膨大だったためか岩が赤熱している。近くにいるだけで熱い。
「問題無く受け止めきれたな」
「土ちゃんの話だとまだ半分くらいみたいだよ」
「リセル!こんな近くまで来る予定じゃなかっただろう!」
集中しすぎてリセルが近くにいることに気が付いていなかった。反射のタイミングがあるから連れて来てはいたが、岩場から隠れて見ることになっていたはずのリセルがゴーレムが駆け上がってきた階段を上ってきている。
「私だってちゃんと確認しないと心配だったんだからね。また無茶されても困るし」
「それを言われると…」
前科も心当たりもある身としては反論できない。
「『吸収』がこんなにうまくいくとは思わなかったね」
「普通は付けられるものでもないと思うぞ。俺の魔法が何かの武器に宿るわけでは無いから。きっと固有スキルであることが関係しているんだろう。色々と試しておいたおかげだ」
「実験はなかなか辛かった…」
知らないことに対して色々と検討するのは当然のことだと思うけどな。何でもないところで意外な効果を発揮することだって多い。
そもそもの発想としては、『吸収』にしても『反射』にしても、その最初の光景が同じに見えたことが原因だ。よくあるよね。スキルや魔法のエフェクトが同じってこと。たぶん、それが関係してるんだと結論づけている。
まあ2つとも実際に見たことの無いスキルだったから自信は無かったんだけどさ。
「もう一発来そうだよ」
砲口がもう一度光を放ってきている。
「あと一発ならいけるんだよな?」
「いけるよ。サーちゃんも作戦通りに動いてるし」
「じゃあ受け止めることにしよう」
もう一度発射された熱線も一発目と同じ末路を辿る。途中で爆発音とともに一発目よりも短時間で砲撃が治まる。
既にゴーレムは存在するだけで熱いものへと変貌している。少しだけ水と氷で伝わってくる熱を和らげる。これ以上は熱が伝わってこないことを確認してリセルに確認する。
「で、どうなってる?」
「砲台のことなら黒い煙が出てるよ」
「ほんとだ。ゴーレムの方は?」
「えっとね。9割ってところだって。満タンにならなかったのはサーちゃんが熱暴走とかいうのを起こした成果だね」
「そうだな。作戦成功と言って良さそうだ」
2発受け止めることが出来たのは良かった。思ったよりも威力は高かったが、ゴーレムの耐久力も高かった。
念のためにサーちゃんには火の大精霊サラマンダーらしく熱を更に上昇させてオーバーヒートさせることで、威力の減衰と砲台としての故障を狙った。
こちらはひたすらに耐えるだけだ。1発で耐えられないようなら、2発目の発射と同時に解放して相殺を狙ったがそこまでする必要も無かった。
向こうの2倍の攻撃力でもって破壊すれば良いのだから。
「じゃあ、リセルいけるか?」
「うん」
少し震えている。無理もない。
「いいか。まずお前は殺されかけているから撃つ理由はある。それにやつらがこのまま進んだとして最初に犠牲になるのは獣人の村になる可能性は高い。この辺りで一番近い集落だろうからな」
手を握って更に続ける。
「それにここまでやればこっちが何をしようとしているかくらいは分かる。砲台付近に留まっているやつなんてほとんどいないよ」
だからと言って気軽に放てる威力の攻撃ではないけど。
「大丈夫。出来るよ。みんなを守るためだからね」
覚悟を決めたのかしっかりと見返してくる視線にそういえば村長だったことを思い出す。
「じゃあ、頼んだ」
「わかった。――――『反射』!」
リセルのキーワードと共にゴーレムが一度輝く。ゴーレムの構えは受け止めた時から変わっていない。構えた両手からはまず光の球が生み出され、一瞬後に打ち込まれた熱線よりも一回り大きい光の束が砲台へと向けて打ち出される。
着弾した瞬間だけが見えて嫌な予感が背中から襲ってくる。反射的に周囲にあるものを包み込んで結界を作り出す。作れたのが三重の結界だったがそれくらいでちょうど良かった。
凄まじい轟音が響き、激しい光が襲ってきた。今度は闇魔法で遮光実験でもしてみても良いかもしれない。
目を開けてみると上部の3割くらいが吹き飛んでいる要塞がそこにはあった。
「侵略者の末路なんてこんなもんだよな」
「私はちょっと割り切れる自信が無いかな…」
「それなら俺の知っているひどい侵略者の話をしてやろう。少しは気がまぎれるかもしれないぞ」
歴史として振り返っても良いし、近現代として侵略者として名高い人物の話をしても良いだろう。あくまで表面的なことしか知らないが、大体が虐殺者として名高いのが多いからそれを止めたと考えれば気も少しは楽になるだろう。
「気を使ってくれてるんだろうけど、私がイレブンから聞きたい話はそこじゃないなぁ」
「何か話してないことあったか?」
「この世界がどうなっていくかって話は教えてくれないの?」
「そうか…、話したこと無かったか。それはうっかりだ。細かいサブイベントまでは良いだろう。メインストーリーの大まかな流れは知っておいても良いか。向こうの出方が分かるまでの暇つぶしで話そうか」
要塞の攻撃意思はこれで根本から叩き折ったから再起は出来ないだろう。これ以上は本当に殲滅戦になってしまうので帰ってもらいたい。
「あと1つはどうするの?」
「今はまだ向こうも現実に頭が追いついてないだろうから少し落ち着いてから行くよ。とりあえずは目立つところから退散しよう」
ゴーレムを収納して、向こうからは直接見えないところへと移動した。
さて、何から話そうかな。
お読みいただきありがとうございました。




