2つ目の秘奥義!
お楽しみ頂けると幸いです。
要塞付近まで戻ってくる。今度は堂々と歩いてだ。無傷で戻ってきたことで相手にもならなかったと思ってくれたら良いな。実際そうだけど。
「ハードローラー部隊が…?」
「仕方ない!奥の手だ!」
まだ色々と繰り出す手は残っているらしい。何をやっても敵わないという報告を持って帰ってほしいので、出し惜しみはせずにどんどん来てほしい。こっちもまだ出し惜しみしているのだから。
向こうで一番奥に控えている人が何か動くと要塞から一部の扉が開く。人が出入りするためのものではなく、完全に物を出すだけのようだ。そこから出てきたのは腕や足の部品だ。とりあえず何をするのかと見守っていると、合図を出した人ではなく一番体格が良い人に装着し始めた。攻撃力と機動力が増すってことかな。
「まさかこいつを使うことになるとは思わなかったぞ。拡張腕と拡張脚は正式に使用しているとはいえ、装着した攻撃力は先程までの5倍以上は確実だ!」
「機動力も増している!何をどうしたのか音声だけの報告では要領を得なかったが、落とし穴のような卑怯な手段でも使ったのだろう!」
使ったけどその対応すら出来てなかったからな。汎用性の無い装備の割に、これが一番強い部隊か。マヌケな軍隊だな。勝手な結論をつけるとすると訓練や理論だけを学んで、実戦に関しては整える必要性すら感じてなかったような印象だ。前の世界の軍隊の方がよっぽどマシだぞ。俺たちが魔法を封じるだけで何とかなると思ってそうだし、割と近代武器が揃っているからとかなり甘く見られているような感じがする。
そう思われている根底から破壊する必要があるな!何をするかだけは決まっている。向こうの鼻っ柱を折るのに必要な条件は2つ。
1つ目は何をしても攻撃が効かない。2つ目は魔法が何とかなるなんて思えない。
徹底的な恐怖と共に二度とでは出さない、とまでいかなくてもしばらくは手を出さないくらいにはしておきたい。こっちも暇ではないのでいつまでも相手をしていたくない。
待ち時間をしっかりと取ったおかげで装着が終了した。待ち時間にただ観察して待っていたわけでは無い。要塞の方からはまだ潰しきれていなかった地上付近からの銃撃や砲撃が飛んでくるし、ただのアーマースーツの人たちも散開して銃撃を受けている。ちゃんとその辺りの相手もしている。
「まあ、強めの『雷魔法』で十分行動不能に出来るし、地面に這いつくばらせたうえで『氷魔法』を使えば順調に数は減っていくんですよね」
何度も同じような攻撃を見せられたから、既に慣れた。所詮は火力と銃という珍しい攻撃手段に頼っていたからだな。当たらなければどうということは無いし、どれくらいの力を込めれば防御を上回る威力を出せるかも分かった。先程の隠れて撃退ではなく、しっかりと向こうに見せつけた上での蹂躙劇というものを見せることが出来たのではないだろうか。
「じゃあそっちの相手をすればいいんだよね。早く始めよう。キミたちも早く家に帰りたいでしょ?」
一応怒らせると動きが単調になるので、初見はそういう状態に持っていきたいんだけど。
「所詮は子どもだな。私は訓練により感情を抑えて任務に当たるように訓練されている」
「そうですか。まあそれならそれで真正面からよろしくお願いしますね。では、『雷槍多連』!」
当たるかと思ったら要塞から打ち出された避雷針のようなものに引き寄せられてしまった。見たことの無い不思議現象に驚く。そういうのもあるんだな。感心していると要塞からの一斉射撃が飛んでくる。躱すことはできるが、発射するための準備行動が見えないので常に不意打ちをされている気分だ。生身の人間相手の方がよほどやりやすい。
「今度は君が喰らいたまえ」
銃撃の間の隙を突いて先程までのハードローラーと違って、よりスピードの増した突進で一気に距離を詰めてくる。呼称の紹介をされていないので、ハードローラー改とでも呼んでおこう。
拡張腕に関しては左手はさっきよりも大きなローラー部分が付いているが右手部分は通常の手を大きくしたものだ。飾り気のない金属を棒にしたものが握られている。
拡張脚はたぶん移動力の向上だな。うまくすれば多少は飛行も出来るような気がする。あんな重そうな状態では確実に機動力は下がるだろうから狙い撃ちの的だ。向こうも分かってるだろうからしないんだろうな。
まあ攻撃は受けましたよ。右手で持っていた棒の一撃をね。受けないと話が進まないからね。衝撃で3回地面にバウンドして地面の上を滑っていく。痛いかな?少しは痛いか。ぴょんを飛び起きて、自分に異常が無いかを確認する。
「思っていたよりかは痛いけど見た目ほどではないね」
「そんなバカな!」
「あんたたちの勝機は魔法や魔力を使用した攻撃を大部分無効化できる点しかないよ。許容量を超えるだけの攻撃を受けるとしばらく使えなくなるし、それ以外はあまり特筆すべき点はないね。さっきも見せたけど、これについて来れる?」
そう言って『縮地』を使用してハードローラー改の後ろに回る。やつらの先頭部分に出ていたハード…、面倒だからハード改でいいや。ハード改は俺を見失っているが、周囲は俺が後ろに回ったことに気が付いている。声がかかったわけでもないのに後ろを振り返ると俺から距離を取る。もう一度後ろに回るとすぐに振り返って距離を取られた。
「攻撃することにだけ特化して発展してるよね。でも、当たらなければ意味が無いって言葉知ってる?」
どんな世界でもスピードが一番重要だ。まぐれ当たりの一撃を狙って攻撃するよりも、ヒットアンドアウェイをくり返す方が安全に勝てる。たまに後ろに回らずに銃を構えて隙あらば撃とうと構えていた奴を問答無用で殴って沈めておく。ルールが無い争いだから隙あらば撃つのは間違ってないが、打たれる側からすると未然に防ぐことは当たり前だ。
何度も繰り返していくうちにハード改の装着者も焦って来たらしい。では、狙いどころですな。次からは足の関節部分になっているところを蹴って尻もちをつかせる。俗に言う膝カックンである。相手もこけたくらいではダメージを受けるような装甲では無いので安心して仕掛けられる。安心して出来るとなると、膝カックンが決まるのは楽しい。
慌てて立ち上がるが、当然尻もちをつくころには既に離れている。立ち上がるまでの間に確認できていた要塞の砲口に土を詰めていく。起き上がればすぐに膝裏への攻撃をヒットアンドアウェイ。砲口を詰めていることが分かるとハードローラー隊の二人にも攻撃を加えて沈めておく。これで間違いなく戦闘はあと1人を仕留めれば終わりの状態だ。
だが、向こうの士気は戦闘を続行できる状態ではなくなっている。何せ一番強いとされていた部隊が転ばされて何もさせてもらえていないのだから。そして忘れてはならないのはここは敵地。もう少し南に進めば海らしいからそこから上陸して攻めてきているのだろう。彼らは要塞が無事に海を進める状態でなければ、俺に殺されるしか道が残されない。それが見えてきたようだ。場の空気が変わってきているのを感じる。
「そして、ここでBOMB」
要塞上部にあった一番大きい砲台―火口に狙いを定めていたやつ―の砲身に込めていた土の圧縮を解く。そうなると土が溢れ出てきて爆発と共に土まみれになる。一番立派な砲身がなくなると貧相になってしまうね。唖然と見上げている顔を見ると、仕掛けるタイミングが今ではないかと悟る。
「はいは~い。BOMB、BOMB、もひとつおまけにBOMB!」
ドカン、ドカンと音を立てながら砲身が爆発していく。安心してくれ。比較的上部の方は圧縮した土を詰めたが、下部の方は本当に土を詰めただけだから、海を進んでいる間に雨が降らなければ浸水されることは無いと思うぞ。あとは細かいことは知らない。どうせ敵だし。
「これで攻撃されることは無くなったし、君たちの武器が役に立たないことの証明も出来たかな。あとは魔法無効化ってのも否定しておこうか。命が惜しいならそのハードローラーとやらは捨てて逃げた方がいいよ。『覚醒』!」
ひさしぶりに覚醒を使用する。前回はサイクロプスを撃破したときに使用した。今回は前回とは違う。武器やスタイルによって秘奥義はいくつも存在する。今回も正式に取得しているわけでは無いが、秘奥義で底上げされた今ならそれに近い威力の魔法を使用することが出来る。今日は基本に忠実にいこうと思う。属性バランスが一番取れているだろうからね。
掌を目の前で合わせるとスッと開く。そうすると黄色に光る球体を作り出す。同じように3回繰り返して赤、青、緑と4色の光と用意する。目の前で正方形の状態に配置して最初は両手で時計回しに回転させる。勢いがついて来るとあとは制御に集中する。その間にも4色の光の球が回転する速度はドンドンと上昇していく。
既にハード改を着ていた男は早々に脱ぎ捨てて逃亡している。俺の目的は魔法無効化を謳った装備品を魔法で破壊することだから、それで構わない。
今回は土・火・水・風の基本属性を圧縮して放つものを採用している。魔法の秘奥義は他プレイヤーも作ったものが他にも色々とあるが、自分で作ったものが一番きれいだと思っている。さて、秘奥義の残り時間も残りわずか、しかし準備完了だ。地面の上に放置されたものへと狙いを定める。俺の位置から放っても後ろに誰もいないところへ移動した上でパージしたのだから中々切れ者であると評価しておこう。では。
「すべて消え去れ、秘奥義『四色螺旋光』」
既に4色の球は白い光の環にしか見えない状態で目標目掛けて進んでいく。進んでいくうちにさらに環の大きさを縮めて対象とぶつかると音もなく消し去り、そのまま地面を削って進んでいく。そのまま一直線に地平線の向こうまで飛んでいった。
≪なんてことしてくれてんの≫
頭に何か聞こえてきたが聞こえなかったふりをしよう。
「炎と氷の呪文を合成したあれみた~い…。これもロマンか」
魔法無効化のはずの物質を跡形もなく消滅させたことよりも、起こした結果の惨状を見てテンションが上がってしまったことにしてもいい。誰にも言わないけど、俺の心の中だけで呼ぶ別名が決まった。
その名が決まるのは閃光のように。石は投げないでください。
お読みいただきありがとうございました。




