VSハードローラー隊
お楽しみ頂けると幸いです。
「まずなんで空中に浮いてるんだよ」
「おい、降りて来るぞ」
「静まれ!構えろ!」
動揺は見られるけど、まだやる気がある人もいるらしい。兵隊が無駄口叩いている時点で統率力が疑われる気がするけど。
「このハードローラー隊が最後の砦だ!絶対に失敗は許されん!」
あれが前回名前だけ聞いてたハードローラーか。見た目は二足歩行可能なロボットだ。中に人が入ってるんだろうけど。ただ、工事機械のロードローラーの円柱部分が手の代わりに付いている。
立っているときのバランスとるのが大変そうだなぁ。パワードスーツみたいに補助が入ってるんだろうな。
観察しながら着地すると歩き素振りを見せずに少し屈んだ状態で動いて俺の周囲を円形に囲んだ。足裏に何かついてるのかな。スキーしてるみたいな移動だった。
「構え!発射!集合!」
端的な命令で下された命令で一気にロケット砲が飛んでくる。今度は魔法無効化のような気がしたので避けることにした。上空は読まれてそうだから違うところに逃げよう。
逃げた先で轟く爆発音がすごい。全員で15人だったから15発分の爆発だもんな。音が激しくなるのも当然か。
土中って音が割と届きやすいって聞いたけど本当だったんだな。足音がよく聞こえる。声までは聞こえないけど。
結界で体の周囲を立体的に囲んで土中に沈み込みました。そのあとは何となくの音から判断して、土魔法で移動をする。歩く必要も無いので楽です。
出るタイミングを失っていると地上でバタバタと周囲へと散らばっていく足音が聞こえる。
跡形もなくやられたって判断はしなかったらしい。固まっていられると実験もちょうど良く倒して回収も出来ないだろうから散らばってくれて助かる。
それでも3人がその場に残り、あとは2人一組で周囲へと散らばっていく。じゃあ周囲に散らばって行った6組の方から狩ることにするか。
選ぶ根拠となるようなものが無いので、なんとなく選んだ2人について行く。周囲から見えないくらいに離れた時点で地表の下を泥沼に変える。簡単に言うなら落とし穴だね。
「うわっ!?」
「はぁっ!」
はまったことを確認して地上に出るがすぐに周囲から身を隠して観察に回る。手がローラーだと頭まで浸かるような深さだと縁に着いても上がることは難しいよね。
しかも大きさも深さも俺の都合で可変だし。気密性とか空中に飛ぶことが出来るのかと性能の確認をしたい。あとはこの状況で通信が出来るのかとかも確認したいね。
バシャバシャと動いているが、沈む様子も脱出する様子もない。ただ、周囲から寄ってくることは確認できた。助けられるかはともかく、通信機能はあるらしい。
じゃあ寄ってくる奴らから撃退していこう。結界鉄剣を準備して、また先程と同じ姿勢で近づいて来ていた2人の頭を殴り飛ばす。きちんと気配が途切れて気絶状態になったことも確認する。殴れば一撃昏倒くらいの威力があるらしい。
まだまだ試す要素のあることはいくらでもあるんだけどな。思ったよりもそこまで丈夫でも無いな。魔法無効化にビビって攻撃の姿勢が疎かだったかな。結界が消えたことは確かだもんな。
「よし、物理的にボコるか!」
武器自体があまり丈夫なものでもないが魔法がかなり減じられてしまう以上はゴリ押ししかない。
「今まで補助魔法とか考えたことも無かったけどそっち方向も準備しておけば良かったな。効果が少しだし、魔法登録の枠の限界があったからなぁ」
思いついたものを現場でも自由に新規開発できるなら事前準備をがんばれば現場ではそれで十分というのは大きな違いだ。むしろやりたい放題が出来過ぎる。
「その鼻っ柱を叩き折ってくれたのがこいつらな訳だけど、まだ何とかなる範囲の強度で良かった」
別角度から現れた2人も同じように殴り倒す。別に構わないんだけどこいつら近距離からの攻撃手段しかないのかな。
そう思っていたら要塞の方から何かしらの発射音が聞こえる。まだ見えてなかった攻撃手段があるんだね。そっちもあとで迎撃しに行こうか!
飛んで来たものは魔法で防げるものもあれば貫通してくるものと様々だった。アイテムボックス内の肥やしになっていたただの木材をチャフ代わりに火をつけてぶつけに行く。
結界の表面で爆発もあるし、木材に当たったことでの爆発もある。吹き飛ばないように踏ん張りつつ、何が来るか見失わないように目は閉じない!煙が凄いけど!
正面から押しつぶしながらの接近音が2つ。4組目はわざと目立つように接近して来る。手についているローラーは四つ足状態になっても移動可能なようだ。
完全に体当たりを狙って接近して来る。面倒だったので落とし穴を作成して落とす。わざと音を出すための囮にしか思えない。咄嗟だったのでただの落とし穴だ。
騒音が消えたら音の出所が別におあることが分かる。残りの2組のうち1組は最初に泥沼の落とし穴に落ちている奴らを穴から引っ張り上げている。
もう1組は…俺の後ろ!音を消して移動も出来るんかい!
気配感知があるとはいえ、しっかりと意識していないと自分の力で動いてないこいつらを捉えにくい。自動的に気がついてくれるようにならないかな。察知って似てる言葉があるけどそっちかな。今度調べておこう!
せめて目隠しに土壁を作って少しでも怯ませる。戸惑いの気配だけは察したので、接近してきた2人から離れるように移動する。ちなみにその壁は君たちなら問題無く通過できると思うよ。
触れただけでそこそこ頑丈に作ったはずの土壁が砂へとあっさり変えられていくのは少々複雑な気分だ。ついでに確認のために『雷槍』『氷槍』『炎槍』と打ち込んでいく。
「魔法など!無駄だ!」
「近接攻撃が無力な証拠だ。突っ込むぞ!」
殴り倒したことについての情報共有はされていないようだ。ついでに現時点での最上級だと思われるハードローラーとやらの限界を確認しておこう。
距離や間合いを取りつつ、すれ違うこと数度繰り返しながら同じように何度も複数の魔法の槍をぶつけていく。
何度も無駄と言われながらも繰り返していた時に限界は唐突に訪れた。
「『雷槍』『氷槍』『炎槍』」
「無駄だ!そんがあああぁぁあ!」
「なんだとっ!?」
雷槍と氷槍は吸収しきれたが炎槍は全部は、というよりもほとんど吸収されることなく丸々貫通する。他のものと違って衝撃まで吸収出来ていた魔法無効化も限界まで吸収し尽くしたことで威力が丸々通った。
無駄だとノーガードで胸で受けていたことが災いしてきれいに胸を貫通している。叫び声の後にもう動かなくなる。さっきまでとは壊れ方が違うな。作り方で効果も違うのかもな。これは後で検討しよう。
もう一人の方も今倒した方と比べると少ないが、魔法はそこそこ当てている。逃げ腰になっているからここで仕留めてしまおう。
「『雷槍多連』『氷槍多連』『炎槍多連』」
何とかなったのは氷槍多連の最中までだった。炎槍多連は全弾命中した。轟轟と音を立てて燃えている。
「工夫次第でなんとかなるということが分かればそれでいいか」
救助した方とされた方の4人がこちらを見ている。発射待機させた状態の周囲に浮かせた状態で『縮地』を発動させると彼らまであと数歩のところまで近づく。一緒に付いてきた魔法たちをとりあえず当てていく。さっきのことを考えると30本くらい当てると効果が無くなるみたいだ。
彼らにとって魔法無効化は完全に信頼できる盾ではなくなっているから必死にかわそうとするが、すぐ後ろは泥沼だ。更に4人が距離の近いところに固まってしまっていたのでスペースが限られる。一度外れたとしても俺がもう一度操作すれば後ろから当てるというどうやっても逃げられない状態に混乱が隠せなくなる。
頭殴られて昏倒するのと痛みは無いけど死の恐怖にあてられるのとはどちらがマシかな。俺はどっちもイヤだけど。
動きが鈍ったところでちゃんとポーションは補給しておく。既にMPは残り20%を切ってるからね。途中で槍はやめて球体で数を増やして軌道が分からないようにして当てることを優先していく。
こっちの方が威力も消耗も低いのだが、彼らにはそれが分からないので『当たる』ということが恐ろしくなっているらしい。少しすると一人に魔法の効果が表れる。
雷に打たれたように痺れて動かなくなる。ついでに氷で足が地面と一緒に一体化する。それと間を置かずに残りの3人のうちの1人も同じように効果が表れる。
たぶんこの2人は最初に穴に落とした2人だろう。泥沼も魔法で作ったものだから、それが原因で無効化できる容量が減っていたんだろうな。
2人が攻撃対象から外れると残りの2人に対する弾幕の数は2倍。俺も対象への注意力も2倍だから簡単には避けられなくなる。よって程なく動きを封じることに成功。
まだ元気なのは穴に落としただけの2人組だ。覗き込んでみると、穴を拡張させていた。魔法を使ったもので削っていけば良いことが分かったので水を大量に注ぎ込んでおいた。
魔法無効化に使っているのはやはり金属なので水に沈んでしまうらしく動きの阻害には繋がっている。
「無理に動くと体力がなくなって溺れることになってしまうと思うよ。大人しく救助を待った方が良いよ。助けてほしかったらその鎧を譲って?」
「できるか!」
「ふざけるな!」
「残念だ。じゃあね~」
穴をより深くして簡単に救助できない状況にした上で放って行くことにする。
「ハードローラーとやらの鎧は手に入らないけど、仕方ないか。残りは最初の地点に残った3人だけだね」
お読みいただきありがとうございました。




