じわじわ追い詰める
お楽しみ頂けると幸いです。
「じゃあ動力室ってところまで連れて行ってくれ」
「もう何が何だか…」
「はやく!いざとなったらロイーグさんも逃げられるから!」
とりあえずこのままロイーグを結界に乗せて指示を急かす。デコピン一発くらいはガマンしてもらいたい。行き方を指示させた上で移動を再開する。
「ちなみに無理矢理壊していいの?」
「ここにこの要塞が居座ることになるぞ?それはどうなんだ?」
「すっごく面倒」
自然と顔が歪む。
「ならある程度で壊すのをやめよう。指示はするさ」
「素人考えだけどそんな絶妙なことできるの?」
「動力炉はそのままさ。伝達部分を壊せばそれで良いだろう?」
「理論上はそうかもしれないけど…」
反論を伝えようとしたときに声が響く。
『2階にて侵入者を発見!歩兵部隊の半数は現場に急行せよ!決して逃がすな!』
追手がかかるらしい。
「とは言っても、もう相手にならないよね。『雷弾』!」
『雷槍』ではやりすぎになることは分かっていたので一段落として攻撃する。相手は生身だし。
「圧倒的だな」
「雷の対策をしてるってことはそこが一番の弱点だもんね。そこから対策をしていくのが正解でしょ」
「そこの角を曲がれば動力室だ。俺も初めてだがたぶん見れば大丈夫だ。それくらいはどうにかする」
「何かのスキル持ち?」
バレないとでも思っていたのか、目を逸らされる。
「まあ、そんなものだ」
気まずそうだが、こっちは非常に良い話が用意できる。
「あんたこっちに亡命するつもりなんだよな。俺に雇われない?」
「はぁ?」
「ちょっと機械で作りたいものがあるんだよね」
何が出来るかはまた確認だが、俺よりも詳しい人がいるなら助けてもらいたい。俺が試行錯誤しながら作るよりは信頼できそうだ。
「詳しいことは相談してからだけど依頼するものを作ってほしい」
「ん~。詳しいことは元上司と相談していいか。あの人には結構な恩があるんでな。勝手に俺が決めるわけにはいかない」
「オッケー。じゃあここを脱出してからね」
「で、曲がらないのか」
「曲がるよ。待ち伏せを潰してからね。『雷弾』『雷弾』『雷弾』『雷弾』」
いつもよりも多めに発射しています。
「道中の再現だな」
「熱で焼き切った上で電撃が残っていればしばらく行動不能にできるもんね」
動力室内部は砲撃エネルギー充填のためにフル回転していて暑かったが、とりあえず冷やした。
「このくらいなら作業できる。あとは待っててくれ」
「何分くらい?発射は防げそう?」
「たぶん、おそらく」
「自信の無い返事は勘弁してくれよ」
はたから見ていると何をしているか分からないけど、エネルギー発生をまず止めて供給過多になり過ぎないように、同時に供給を少しずつ遅らせているそうだ。
エネルギー供給率を見ると少しずつ下がってきている。進捗としては間に合いそうかな。満タンにはならなさそうな感じらしい。
でもこの減少はまず間違いなくバレないかなぁ。
「涼しさは保っておくからあとは頼むよ?」
「ああ!とりあえず上司を助けてくれた礼の分くらいははたらくさ!」
「それでこれって割に合わない気がするけど」
「これくらいじゃ足りないくらいに感謝してると思ってくれたらいいさ。あと3分もあれば終わるからな」
「はいよ~」
動力室の正面で待っていると追加の人員が大量に送られてきたので、次々と処理していく。このあたりは特筆すべきところが何も無いのでカットです。
「建物内部では使用可能な武器にも限界あるもんね。やっぱり俺を中に入れたのは失敗だったと思うな」
要塞を傷つけないように威力を抑えたものだと俺がどうにでも出来るし、要塞の損傷を気にしないものは他と違って大型なので視界に入った段階で分かるから優先的に撃退する。
大きな問題は起こらず3分後には動力室の停止に成功した。
「終わったぞ」
「止めただけで再起動は出来るんだよね?」
「止めただけだからな」
今度は知らないところでやられるとたまったもんじゃないな。
「じゃあ兵装部分だけでも何とかしないといけないか」
「そろそろ俺は逃がしてくれないのか?」
「その前に外に出る道も教えてくれない?」
「はいよ」
やっと外に出られる。
☆ ★ ☆ ★ ☆
先程の動力室防衛のときに気が付いたけど、さっきから魔法無効尾ものは使って来ない。結界一枚で十分防げている。なんなら結界で押し出しながらの移動が可能だ。
「お前、怖すぎじゃないか?」
「魔法無効の原理って何?」
「あ~、簡単に言うと魔力を限界まで魔力とやらを抜かれた金属だな。聞いたことあるか?」
「初耳かな」
そんな設定の金属あったかな。覚えが無いな。
「要塞内だと強力だからな、内部では使用禁止なんだ。だからお前が中にいれば下手なことは出来ないな。ただでさえ相手にならないみたいだが」
「それよりも外に行きたいからね。ついでにこの大陸から出て行けってメッセージは送れないかな」
「一応さっき残してきたぞ」
「お、思ったよりも仕事のできる人だ」
いい拾い物をしたと思ったところで、大きな空間に出た。
「そこを出れば外だ」
「じゃあここで帰って」
「良いのか?」
「外で結構な戦闘になると思うけど一緒に行く?」
「あとは任せた」
素直な上に色々と仕事をこなしてくれる人材か。便利な人だ。送った後は扉を殴ってこじ開ける。
「一斉掃射!!!」
外から俺目掛けて銃弾が大量に迫ってきた。ほとんどが俺に当たる軌道を取っているよう。かなり腕の良い部隊みたいだ。でも、残念。狙いが良すぎて少しずれるだけで良い。全力の『縮地』で横に10メートルも移動すれば外にいる彼らからは見えなくなる。
「命中したか!?」
「中へと吹き飛んだのだと思われます!」
「確認せよ!」
「はっ!」
やったか!?ってやつだ。まさか言われる立場になるとは思わなかった。中に入ってきたやつを横から不意打ちで結界鉄剣で沈める。これくらいなら効果はあるらしい。では、行こう。
「仕事でやってるんだろうけど敵対しているんだから仕方ないと思ってくれ!」
「まさか先程の掃射を受けて生きているだと!?」
俺の方が申し訳なく感じるくらいに驚かれている。銃弾を受けるのは痛そうなので、集団の真ん中へと飛び込む。周囲にいた数人を沈めていく。
「こ、この野郎!」
「やめろ馬鹿!仲間に当たるだろうが!」
外側から銃を構えるが、隣にいる同僚に止められる。銃の同士討ちは威力が大きすぎて色々と禍根が残るよね。だからこそ最初にそうしたんだけどね。初手の段階で踏み込んだおかげで特に苦労もなく全員の制圧が終了する。
改めて要塞を見上げると先程は無かった長身の砲台が出現していた。すぐに傍まで空中へと上がって確認する。方角的にも狙っていたことは間違いないな。さっきの総司令官殿もたぶん外に俺がいるのを見て驚くか、怒るかしてるんだろうな。まず確認で色々と魔法を砲台に当ててみる。
特に消滅させられている感じはしない。丈夫な金属だから効果が無いような感じだ。であれば魔法無効化はされていないらしい。他にも色々と見える範囲に魔法を当てていくが同じような現象だった。要塞のように大きなものには使えないようだ。
「だったら話は早い!凍りつけ!『氷嵐』!!」
すぐに使えるレベルの大規模な魔法を使用する。段々と要塞の上部が凍っていく。根本的な破壊工作は出来なくても表面を凍りつかせることは出来る。この辺りがユーフラシアよりも暑いといってもそう簡単に溶けないくらいには凍らせることができた。
「潰しておきたいのは砲身だよね」
そう思っていたところで氷を破壊しながら砲身が更に熱がこもっていく。
「発射体制が整ってる?100%充填でなくても打ち出すつもりなのか!」
どこまでの威力があるか分からないが、せっかく止められるところまで来たのだから止めよう。砲身の前に回る。砲身の大きさは10メートルを大きく超えているし、砲口の大きさは1メートルはある。この大きさは威力が凄そうだ。
「中に魔法を打ち込んでも…、消されることも無いと。じゃあやることは決定だね」
一度地上まで戻ると地面に両手を触れる。そこからまた砲口前まで戻ってドンドンと注いでいく。ここでも使用するのは重力魔法を応用した圧縮して詰め込んでいく。中の構造がどうなっているか分からないからとにかく奥まで詰め込んでいく。下の様子を見ると結構な状態になっている。中断して近くの岩山からも同じように触って引っ張ってくる。
まあ簡単に言うと圧縮した土や石を砲口から詰め込んでいる。圧縮を解除したらさすがに壊すことくらいは出来るかな。少なくてももうこれは使い物にならないだろう。何とか続けていくうちに方針は動くのをやめているし、砲口付近までしっかりと詰め込むことが出来た。あとは時間稼ぎついでに他のところと同じように凍らせる。これでやっと一息つける。
「でもよく考えると他にもこれほどじゃなくても砲身はいくつかあるんだよな」
相手がどう思っているかなんて聞こえないし、知ったことではないので同じ作業を見えているもの全てに同じ作業をした。先に凍らせたからイチイチ溶かしてやらないといけなかったのは面倒だったが仕方ない。終わった頃にはしっかりと朝を迎えている。
「は~。ここまでやれば大丈夫かな」
アイテムボックスから朝ごはん代わりにサンドイッチでも摘まみながら下を覗くと見たことの無い武装が下に控えていた。
「あれの相手をしたらさらに心を折ることができるのかな?」
お読みいただきありがとうございました。




