次の戦闘に向けて
お楽しみ頂けると幸いです。
「まったく!わたしが一人で治療してるときに2人ではしゃいでるなんてひどいよ!」
「遊んでたんじゃないぞ」
音は確かに周囲にもれていないが、光はかなり広範囲に広がっていた。少し離れたくらいのリセルのところからでは当然ながら見えていた。
そして、さすがに何かあったのかとリセルがそわそわしていたところに俺たちが戻ってきたのでとホッとした反面、盛大に心配されてしまった。
正直に言うと怒られるから誤魔化しても良いのだが、今後ずっと嘘をつき続けるわけにもいかず。正直に説明をすると、当たり前だが怒られてしまった。
≪イレブンが言う通りにしないと焼き鳥にするぞって脅してきてね≫
「おい。元から焼けた鳥だろうが。それに脅して言うことを聞くような存在でもないだろ」
≪ユーモアがないわね。そういう男は女の子からモテないわよ≫
「シャラーップ!正座を崩さない!」
「今の俺は正座したところで足が痺れることはないぞ」
≪私はこの骨格で正座をするのは厳しいからただ座っているだけになるわ≫
「ずるくないか?」
正座と言ったら慣れない者にとっては拷問行為だぞ。長らく正座なんてしていなかった俺には違和感がすごい。
「いいから大人しく2人とも座ってなさい!」
≪人では…ないのだけど、静かにしていた方が良いのね≫
リセルの睨みで朱雀も黙って座ることになった。
「で、正座以上に何かあるのか?」
「何も無いよ。放っておいたら何するか分からないから大人しくしていなさいってだけだよ」
それはそれで暇すぎる。何かすることが欲しい。少し考えてリセルに提案する。
「じゃあ、軽く武器を振り回していてもいいか?」
いまだに格闘術しか取得していなかったが、他にも武器を使えるようになっておきたい。やはり日本男児としては刀を使ってみたいし、抜刀術には憧れがある。
あと、忍者もどきもしてみたいと考えていたな。世界観を守ってまずは剣やら弓を使うところから始めようとは思うけれど。
「………見える範囲でならいいよ」
「助かった!何もしないのは暇で仕方ないからなぁ」
すぐにステータスを開いて、スキルポイントを割り振っていく。これも強くなるのに必要だ。なにせ本当に秘奥義を取得しようと思うと筋力が500を超えていないといけない。あと86ほど足りない。
9種類ほど筋力の上がる下級武術を取得しないといけないな。将来使わなさそうではあるが、取得スキルポイントが少なくて済むのでマイナーな武器種類も取得しておく。いつかどこかで何かの役に立つだろう。
筋力優先にしたので他の人気のある武器は放置だが、それはまた今度にする。一応取得したなら使えるようにはしておくのが礼儀だ。武器屋で購入して当てはまりそうな木造武器をいくつか引っ張り出す。
「そんなにたくさんの武器を出してどうするの?まさか…」
「全部やるぞ!使えるようにしないともったいないじゃないか。時間も、スキルポイントも、買った武器も」
≪変なところで貧乏性ね≫
「そう言われてもな。武術を上げるとステータスが上がるんだぞ。使わないスキルでも上昇させるのは常識だぞ」
「おまけの方を期待してるんだね」
「身の蓋もない言い方をするとその通りだ」
≪あっさりと正座から抜け出すためではなくて?≫
それもあるが、聞こえるように言うんじゃないよ。
「まあまあ許してくれ」
今手元にあるのは木で出来たものばかりだが、剣、刺突剣、大剣、槍、刀の5種類だ。他のはマイナーだから木で作ったものが無い。金属製のもので練習するのはまた今度にしよう。とりあえずは素振りから始めよう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「じゃあ……、頼む!」
≪いくわよ!≫
朱雀の掛け声とともに生じた火の玉が俺の周囲に発生する。素早く数えてその数が合計で15個であることを確認する。俺が確認したことを見計らったように、周囲を漂っていたところから一斉に俺目掛けて突進してくる。
手に持った木剣を近づいて来た火の玉に当てると消滅する。2個くらいまでなら一息だが、接近して来る数が多いので回避も混ぜないと命中してしまう。ただ少しでも数が減ることで回避の手間が減るので、俺が徐々に有利になる。これで6個目だ!
あとはなし崩しで叩き切っていき、ほどなく15個全てがなくなったことを確認する。
「ふぅ。これでクリアか?」
≪甘いわね≫
「え?…イテェ!!」
頭上からそこらに転がっているような石が頭に命中する。さすがに油断していて避けることはおろか、気づくことすら出来ていなかった。
「石ってなんだよ。ずるくないか?」
≪何言ってるのよ。火を司っているからって火しか使えないわけないでしょう?どうせ手伝うなら色々と策を弄するわよ。あなた正攻法にしか強くないんだもの≫
「だって俺の世界にはだまし討ちなんて余程でない限り決め手にならないんだもんよ」
今みたいに一撃を入れることが出来たとしても、少しHPを削るくらいで何度も通用したりもしない。必ず視覚効果を伴うエフェクトが発生するから見れば分かるのだ。
そこから必殺の一撃に繋がる可能性があるため、チーム戦なら攪乱や不意打ちは良くある手段と警戒する。が、俺はチーム戦はほとんど参加したことがない。ほぼ一対一専門だ。
とにかく速攻で決めることが多かったため、背後や頭上から何かされる前に倒していた。その癖のなごりだ。
「要するに油断をするなってことだな」
≪そういうことよ。周囲を探索することに慣れるか≫
「周囲を探知するようなことに役立つスキルを取得するんだな。そんなスキルは前には無かったからな。今まではあまりピンと来なかったけど、あったような気がするから探してみるか」
ステータスを出して再度検索をかけてみる。
「でも割とすぐに使えるようになったねぇ」
「まだ剣だけだ。やっぱり使い慣れているだけあって使いやすいな。武器の性能を求めだすとキリがないけどな」
「そうなんだ?」
リセルには何のことかあまりピンと来ていないらしい。武器防具を作るのもロマンあふれる世界らしいぞ。
「ああ。材料に鍛冶のスキルに付与を極めれば更に性能を伸ばすことが出来る。この世界にもドワーフはいるだろ?色々と技術を持っているはずだ」
「イレブンは自分で武器まで作るの?」
「作れるようになるだろうし、付与までは出来るだろうけど。俺には致命的にものづくりの才能が無いからな。簡単な使い捨て武器くらいだろうな」
そもそも地図がきれいにかけたくらいで喜んでいるやつにそこまで上等な武器が作れるようになるとは思えない。投擲で使えるような手裏剣とか鍛錬時に使う武器が出来れば十分だ。
「そのうち挑戦してみるつもりではあるんだね」
「可能ならな。やっぱり自分で自分の使うものを作ってみるってのは憧れがある。ただ、やっぱり専門家に頼る方が良いってのはあるよ。俺のは、下手の横好きってやつだ」
「ふ~ん。(メディさんが聞いたら怒るだろうなぁ)」
「何か言ったか?」
「べっつに~。そろそろご飯食べようよ」
「はいはい、ちょっと待ってくれ。『清潔』」
座っているだけとはいえ、実は日も沈んだ真っ暗闇だ。お腹は空いたらしい。そんな中で頭上から石を落としてくる駄神獣がいるんだから世の中コワイ。
≪余計なことを考えているところ申し訳ないのだけど≫
「なんだ?」
少し軽い雰囲気で対応しようと思ったが、真剣な声色で朱雀が声をかけてきた。静かにしているから何かと思えば、向こうの見張りをしてくれていたらしい。すごく有能だよな。
≪動きがあったわ。こちらに仕掛けてくるつもりのようね。夜明け前に攻撃を仕掛けるつもりで動くみたいね≫
「火の大精霊が問題なくらいにまで治るにはどれくらいかかるんだ?」
≪最初は明日の正午あたりかと思っていたけれど、順調にいけばもう少し早くはなるわね。でもさすがに夜明け前は厳しいと思うわ≫
「なら戦力は俺だけかな。相性の関係で元から俺だけと考えてたけど」
「力になれなくてごめんね」
「適材適所だよ。元から戦闘のつもりでリセルは俺に同行したわけじゃないだろう。しっかりと火の大精霊の治療に専念してくれ。守りは朱雀に任せて良いのか?」
≪それは構わないわ≫
よし。じゃあ今日一日で指摘されたところのカバーを考えつつ、戦闘について考えることにしますか。
お読みいただきありがとうございました。




