表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/335

翌日の要塞と落ち込む少年

お楽しみ頂けると幸いです。

遠目にまだ斜めになっている要塞を見つける。まだやっぱり動いていないのか。今ならもっと色々できるけど、追い打ちかけるかは様子を見てからにしようか。

動くことが出来るだけで監視は出来ていたはずだから近づいてきた段階で、歩いて近づくことにする。今の俺には次の予定が決まっているのでこんなところで時間を使いたくはない。


身を隠すスキルはあるけど、バレたら応戦するだけなので特に問題はない。外側から見て戦闘の兆候さえなければ良いのだ。でもこの時間に外から見て何か分かるものだろうか。

疑問はありつつ要塞の周辺が見えるところまで来た。特に誰かがいるような気配は感じない。そっと覗いてみるが誰もいない。見回してみてもだれもいない。

斜め45度だが、この中で眠ることは出来たみたいだ。そういえば穴の底に彫り込んだ2人は生きているのだろうか。見つからないように急いで近づき、穴の中を見てみたがこちらにも誰もいなかった。


何も残っていないから生きているうちに引き上げられたのかもしれない。放っておく理由もないだろうから助けるよね。

色々あって明確な止めは刺さなかったけどこれで良かったのかな。部下にも優しくなかったようだし、因縁だけが残っていたら嫌だな。

でもこのまま帰ったら、喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃないけど攻撃してくる可能性があるよな。何かメッセージになるものを残しておけば良いんだよな。


さっきの『雷魔法』で、雷が貫通した上に燃えたスーツを置いておけばいいかな。俺が無差別に打ちまくるだけで兵士は刈り取れるってメッセージになるかな。

さらに研究して上回ってこられてもイヤだけど、今はそれでいいか。


結論が出たのでアイテムボックスから取り出して、前に入り口付近だったところの正面あたりに置いておく。あとは、何だろう。俺が見せてたのは氷槍だ。これならたぶん俺だって分かるんじゃないだろうか。

じゃあせっかくなので今出来る全力を出してやってみよう。威力を重視するのは怖いから数を多く出してみようかな。


要塞を正面に見据える。さっき放置したスーツには当てないように、狙いを付けておく。しっかりと集中して過程を1つずつなぞる。イメージも最初から丁寧にだ。


空気中の水蒸気を、足りなければ魔力で生み出した水をイメージする。それらを槍の形に整えつつ、急激に分子が整列し固く結びつく状態で温度を下げていく。


パキパキと音を立てて槍が凍っていく。緩やかに冷やしたので透明度が高い。今更だけど物理法則も少しは残っているらしい。

ざっと見た感じかなりの数が作れたようだ。これをどうするかというと、入ってくるなよという意味も込めて柵のようにして立てておくのだ。


「『多連氷槍』っと。こんなもんかな」


ずらっと2列に分かれて等間隔に気を付けて地面に突き刺しておく。これを見れば何か良からぬことを考えていても少しは考え直してくれるだろう。


「じゃあユーフラシア行くか」


『空間接続』でくぐってユーフラシアへと向かった。まだ朝が早かったが、それなら一日中開いている冒険者組合にでも行って納品でもして来よう。査定の間は少し休憩させてもらえばよいとそちらに足を向ける。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


【???視点】


一人落ち着かない様子で過ごしている、部屋自体が斜め45度に傾いており、生活に大いに影響がある状態で夜が明けた。

朝から上官は会議に向かっている。昨晩はまずは治療を優先させることになり、それぞれの報告を収集し事実関係を把握するところからと決定された。


そして上官の会議が終わる時刻のはずだ。結論が出なければ延長もあり得るが、結論が出ない場合は各々が意見を持ち帰って再度意見を整えてから再開するのが通例だ。

何も打開策が見いだせない状況で足踏みはしていられない。そろそろだと思っていた時に開いていた扉から小隊長が帰ってくる。斜めになってから調子がおかしく開け閉めがしにくいので、いっそのこと開けっ放しにしておくようにとの上司の命だ。


「小隊長!どんな状況でしょうか?」

「良くはない。特に技術部担当者は強硬な姿勢を崩していない。20年かけた作戦をここで手放せば大幅な作戦の遅れを主張している。だからといってこのままでは全滅の可能性すら考えられる。このままでは危険だ。死んでまで過去の皇帝の言葉とは信じなくてはいけないものか?」


小隊長は甘い。軍人らしくないという言い方が出来る。通常なら多少の情はあったとしても軍の至上命令を疑うようなことはしない。

そんなことをする者は発言した段階で拘束、矯正されていくからだ。地位のある立場でこの発言をする彼の立場は本来なら危うい。


「こういう状況ですからあまり大きな声で発言すると周囲に聞こえてしまいます」

「何を言っている!こういう状況だからこそだ!……いや、すまない。だからこそ冷静でいなくてはいけないな」

「はい。ありがとうございます」


飲み物などコップに入れておけないため、通常は使用しない携帯飲料用容器を渡す。受け取り一口水分を補給する。


「すまないな。本来ならコーヒーの一杯でも飲みたいところだが」

「いえ、仕方ありません。飲むどころか淹れることすら出来ませんから」

「全く持ってそうだな」


そう言って元からのバランスが良いのかこの状況下で椅子に座っている。相変わらずすごいなこの人と思いながら、いつものセリフを言っておく。


「で、何があったんですか?」

「お前はいつもそれだな。まあいい。今日のは昨日と同じ、いやそれ以上かもしれないな。……外には出ていないな?」

「当たり前です。この状況下ではまだここに留まる方がいくらか安全でしょう。魔力さえ効かない状況を作ればいつでもこの世界は乗っ取ることができると言われてたのに、あんな恐ろしい相手に勝てるわけがありません」


あいつとなんてもう二度と出会いたくありません、とこぼす部下に同意したくなる気持ちをぐっとこらえる。本音は皆同じなのだろう。


「心情をいつまでも言うわけにはいかないな。情報を正確に共有しよう。今朝、アーマースーツ一着が外に放置されていた」

「返しにきたんですか?一着だけ?」

「返しに来たわけでは無い。これは警告だ。やつはこの一日で我々の想像を超えてきた。アーマースーツの下にはラバースーツもあった。その下は木で作った人形だったがな」

「はあ、それで?」

「科学技術ではないと判断して魔力検査にかけられたが、検出されたのは雷魔法の魔力のみだそうだ」


事情がよく呑み込めなかった部下は瞬きだけをしているが、内容を咀嚼していくうちに顔色が悪くなっていく。


「一応聞きたいんですけどラバースーツはどうなってたんですか?」

「熱で融けていた」


理解したらしい部下の表情を確認して結論までを伝える。


「魔法を無効化することは出来ていたようだが、効果が消えていく10秒の間に、いや着弾した瞬間に威力が受け止めきれずに貫通したのだろう。発生した熱でラバースーツも使い物にならなかった。当然人間が着ていれば即死だな」

「は~~……。無理ですね。それでどうなるんです?」

「落ち着け。まだもう一つあるんだ」

「もう無理です」


部下は耳を塞いではいないが、聞きたくないとうずくまる。しかし、聞かせなくては状況を正確につかんだ上での話し合いが出来ない。


「彼が使用していた氷の槍が多数等間隔に刺さっていた。昨日見たものよりも鋭く数も多い。ついでに透明度も高かったそうだ。時間さえかければこの量の氷の槍を受けるようだな。またこういった場合全力を出すことは無い。精々半分といったところだろうな」

「辞表出して良いっすか」

「意味が無いからやめておけ」


ギブアップの部下に最後の追い打ちをかける。


「さて、以上を踏まえてどこから強襲されるか分からない状況ではあるが、目標回収の作戦を考えるようにとの上からのお達しだ」

「死を覚悟しての特攻しかないと思います」


どう考えたとしてもそうだろうなとは思う。


「もう少し言葉を柔らかくしてまとめるとしよう」


警告はされた。自分もおそらくあの少年、青年だろうかに殺されるだろう。ただ、止まることは出来ない。たとえその先が死であろうとも。進むしかないのだ。


【イレブン視点】


「メディさん、いますか?」

「ん?あぁ、イレブンじゃないか。一人かい?」

「そうなんです。あ、サティさんもこんにちは」

「はい。こんにちは。そんなに日が経っていないというのに、明らかに強くなりましたね」

「あはは。色々ありまして」


まずはメディさんのところに来た。よほどでない限りは2人はここにいると思ったからだ。外に出る用事もそんなに無いはずだし。


「相談事がありまして。昼には帰るんですけど、少しだけいいですか」


何事かと顔を見合わせる。何となく思い当たったようで、ニヤニヤと笑っている。


「構わないよ」

「わたくしも。良いお話が聞けることを楽しみに致しますね」

「俺は楽しくないんですけど…」


そう言って、自分が今考えていることを話していく。大精霊や朱雀関係は隠す。話して良いことかの判断がつかないからだ。

まずは自分の勝手な思い込みで男だと考えていたこと、知らなかったとはいえ傷つけたのではないか。他にも不躾に触ってしまったこと、仕方なかったとはいえ人口呼吸をしてしまったことを話した。


とりあえず聞き終わるまで待ってくれていた2人は渋い顔をしている。


「お前、本当に気が付いていなかったのか」

「えっ!?」

「あたしたちは一目で気が付いていた」

「えっ…」

「あんなにわかりやすいことはありませんね」


もう言葉も出なかった。そんなに分かりやすかったんだ。俺絶望的にダメだ。やらかしすぎてる…。無意識に崩れ落ちて動ける気がしなかった。


orzしてます

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
私の魔法の使い方
https://ncode.syosetu.com/n8434ia/
婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
https://ncode.syosetu.com/n1262ht/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ