Chapter3-2
「それでは、次の方どうぞ」
監督は手持ちの書類にペンを走らせ、ひとしきり特徴などを書き込むと次を呼んだ。
「オレが出てもいいか?」
タケが二番手を名乗り出る。
タケはは盗賊二人の顔を見て確認を取ると、二人は「どうぞ」と表情を作り、二番を譲った。タケは先程まで久が立っていた場所まで進んでいく。
「二番は来駕様ですね。何を披露しますか? 射撃の披露でしたらあちらにターゲットもございます」
タケに訊ね、部屋の右の方を指差す。その数メートル先には、弓や弩の射撃練習の時に使われる、直径五十センチのターゲットが壁に設置されていた。タケは瞬時にターゲットの位置、距離、大きさなどを正確に測り取った。
「では、シュライブをさせて頂きます」
タケはそう短く言うと、ターゲットとは反対方向へ歩きだした。
審査員の机の右端からターゲットまではおよそ五メートル。タケは左の方向へとどんどん進み、部屋のほぼ左端まで進んだ。
距離にするとターゲットまでは十五メートルほど。弩の射程距離は数十メートルはあるので、距離としては非常に近く、ほぼ必中距離にある。
そこまで離れたタケは背負っていた朱色の弩を手に取ると、腰に装備している矢筒から、左手で矢を引き抜く動作を取った。
スパァン!
突如、ぶれのない心地よい音が、左側から耳に届いた。
誰もがタケと弩から視線を逸らしていなかった。だが、タケの弩からいきなり、何の前触れも無く矢が放たれた。先程まで矢筒に向かっていた左手も、いつの間にかしっかりと弩を握っている。
審査員の三人は何が起きたのか呆気に取られたが、数秒して状況を掴み、三人同じタイミングで一斉に首を左へと向けた。
三人の注目の先にある、自分たちが用意したターゲット。そこに目を凝らし注目すると、ターゲットには四本もの矢が中心を射抜いていた。
三人の審査員も、勿論久たちも、一瞬たりともタケから目を離してはいない。しかし、タケは間違いなく、矢を撃ち出していた。
シュライブとは、矢を同時に複数本射る射撃技術のことだ。ある程度の弓使い、弩使いになれば、誰もが放つことが出来る、中級テクニックの一つである。
特に珍しい技術でも何でもないが、驚くべきところは、三人の凝視をかいくぐり、残像も残さず、タケが矢を四本も正確に射ったと言うことだ。
シュライブは複数本同時に射るため、矢筒から矢を正確に引き抜かねばならない。
また、引き抜くだけではなく、その複数の矢を弦に合わせて狙いを定め、撃つ。という一連の動作になり立つ。慣れれば難易度の高いものではないが、それだけの動作を一瞬で行うとなると、成功率は激減する。
そのような難易度の高い動きを、四本もの矢で見せたタケだが、その動作に加えて、射った際に音にぶれが無い。これは、四本の矢全てが同時に刺さったということだ。
これを行うには、全ての矢に掛かる力を、均等に加えて射らなければならない。この精密に力を加える射撃は、非常に高等技術とされている。
時間にすれば一秒あったか、なかったか。そのほんの僅かな時間で、タケは正確に四本の矢を引き抜き、全ての矢に均等に力を加え、ターゲットの中心を射抜いた。まさに神業と言うにふさわしい技量だ。
監督の表情が驚いているのを横目で確認したタケは、もう一度矢を放ち、その直後、更に矢を放った。先ほどに比べ、かなり動作の速度を落として射るタケだが、それでも目で追うのが精一杯の速さだ。
タケは三度シュライブを行ったため、ターゲットには十二本の矢が突き刺さっている。しかし、直撃した音は三回。シュライブと聞かされなければ、三本しか射っていないと誤認してしまう。
「も、もう少しゆっくり撃っていただけませんか?」
あまりの速さについていけない審査員一同。右側の男性がタケに頼むと、タケは分かりましたと頷き、矢筒から今までと同じく、四本の矢を引き抜いた。確かに左手には四本の矢が握られている。
その矢を弩へと装填し、狙いをつけて矢を放った。
今回は終始、射撃動作を見ることが出来たが、放った矢だけは目で追えなかった。またしてもぶれのない音が鳴り、いつの間にか中心に突き刺って動きを止めている。
「ぶれもなければ命中率も素晴らしい。言葉が出ません。来駕さん、お見事です」
監督はターゲットの方から視線をタケへ移し、久の時と同じように拍手を送った。
「いえ、幼い頃から弩を触っていましたので」
タケは謙遜気味に答え、軽く会釈。その後、突き刺さった十六本の矢を引き抜くと、三人が待機している場所まで戻った。
久の時と同じく、拍手で迎えられる。壁にもたれていた久が、タケと片手タッチを交わした。
「やるなタケ。また速度が上がったんじゃないのか?」
久は矢を射るジェスチャーをしながら、タケに問い掛けた。
「自分ではあまり実感が無いが、そう見えたか?」
タケは弩を肩から下して壁に立てかけると、久の隣に立った。
「まったく。本当は分かってるんだろ?」
久はやれやれと言った感じに、立てかけた弩を見ながら肘でタケをつついた。タケの口元が僅かに緩む。
「へ? どゆこと?」
二人のやり取りを聞いていたハチが、久とタケへ問い掛けた。タケは「さぁな」と白々しく答える。
タケにあしらわれたハチは、今度は久の顔だけを見て、どういう意味? と言わんばかりの顔をした。すると久、親指でタケの方を指しながら、
「四回目の時、ゆっくり撃ってくれって言われてただろ? あの時、確かにゆっくり構えてた。でも、矢の速度は四発中、一番速かった。まぁ、速かったと言うより――な?」
「え? タケ、それマジ?」
久からの説明を受け、ハチは再びタケの顔を見たが、タケは壁にもたれたまま、ハチの質問には答えなかった。だが、数秒して、
「言われたとおりに射るなんて面白くないからな」
と、意地悪っぽくハチに笑って見せた。




