Chapter3-1
決戦! オーディション!
「失礼します」
四人は入室の前に一度頭を下げ、部屋へと入った。
入った先は横に長い大きな空間が広がり、四人を待ち受けていた。
この建屋はオーディションの為に建てられた簡易的な建物の様であるが、奥行きは十メートル程、横幅はそれよりも倍ほど広く、かなり広々とした造りをしていた。天井の高く、さながら倉庫のような造りを彷彿とさせる。
扉はその室内のほぼ真ん中にあり、目の前には三人掛けの長い机と椅子が奥の壁に引っ付くように並べられていた。そこには、三人の男性、審査員と思われる人たちが座っている。
「どうぞ、中央の方へ」
左の男が四人を真ん中へ誘導し、「あなた方が二十一番の黒慧久様ご一行様ですね?」と訊ねた。久はそれにはいと即答する。
久が答えた直後、中央に座っていた男性が立ち上がった。若い男性だ。
髪を綺麗に整え、紺色のネクタイを首の下でしっかりと結んでいる。シャツも汚れの一つ見受けられず、茶色い革靴も磨きぬかれ艶が出ている。
抜け目が無い。それが久の第一印象だった。おそらく、久たちとそれほど年が変わらない筈だ。しかし、ばっちりと服を着こなすその姿からは、自分たちにはない、プロの雰囲気を感じる。
「私がこの映画の監督を務める、氷室雹です。この度は、我が社のオーディションへ応募して下さり、ありがとうございます」
中央の男性は氷室と名乗り、自分が監督と明言した。確かにそのような風格がある。苦労に苦労を重ね、若くして成功を収めたの人物なのであろう。
苗字も名前も何だか冷たい感じがするが、男性は物腰柔らかく、温かい笑みを作り、四人に礼をした。それを見て釣られるように、四人も頭を下げた。
姿勢を戻すと男性は椅子に座り、机の上に用意されていた書類に目を通しながら、「それではオーディションに移らせて頂きます」と宣言した。
その一言で四人にピリッと緊張が走る。ここまで来たら引き下がれない。全力で行くしかない。久らは今までに無い真剣な表情で監督の話に耳を傾けた。
「オーディションの内容ですが、皆様それぞれの特技の披露をお願いしています。特技は何だって構いません。披露はお一人ずつ。順番はそちらでお決めになって下さい」
オーディション内容は織葉たちの言った通り、特技の披露だった。監督は要点を説明すると、書類を机に置き、一番に誰が来るのかを待った。監督の目が“人を見る目”へと瞬時に変わる。
「まぁ、俺からだよな」
一番に名乗りを上げたのは久。当然といえば当然だ。残りの三人は後ろへと下がり、扉のある壁にもたれ掛って待機した。
「それじゃあ俺からいかせてもらいます」
久は右手に愛用の槍を持ち、監督たちの座っている前に歩み寄った。
「それでは一番は黒慧様。何を披露しますか?」
と今度は右の男が訊ねてくる。
久はふぅと一息ついた後、「槍捌きをやります」と宣言し、両手でしっかりと槍を構えた。
手にしていた槍を中段で構え、息を整える久。槍を構えるその久の姿は、まるで別人だ。きりりとした目を作り、眼前に敵がいるかのような、鋭いまなざしを向ける。
そして、久は構えた槍を大きく、振り回し始めた。
槍捌き。それは槍を振り回す演舞で、力強さや技の完成度などを競い合う競技である。
近年では演舞競技として認知されているが、本来は敵への威嚇や牽制の為に生まれたものだ。敵の前で槍を自分の身体の一部のように自由自在に振り回し、相手を翻弄しながら連撃を繰り出していく。高度な技術であるが、熟練すれば攻撃と防御を兼ね合わせる剣技となる。
久はこの槍捌きを非常に得意としており、今まで数々の大会で優勝を飾ってきたほどの腕の持ち主だ。また、大会だけでなく、クライアントからの狩猟依頼や、モンスターの襲撃などでも先頭に立ち、見事な槍捌きで敵を圧倒してきた。
その確かな技術を買われ、時には槍手を志す人たちに、講習を行ってほしいと頼まれることもあるくらいだ。
そして今、監督の目の前で久の槍がまるで意思を持っているかのように、自由自在に動き回っている。
腕を回り、胴体を回り、果ては宙へ舞う。一振りするたびに風が吹き、逞しさとしなやかさを感じさせる。その演舞を久は監督や審査員の人たちにしっかりと見せ付けた。
ここまでのオーディションで、久以外にも槍捌きを披露する者が何人かいた。
しかし、久の腕は今までの人たちとは一味違うものがある。それは、大会で賞を多く獲ったからではない。
確かな技術と慣れ、そして実戦によって裏打ちされた無駄のない動き。
逞しく、力強く。そして、繊細であり、機敏であり、美しい。一振り一振りに圧倒的な力と美を感じる、文句のつけようのない、完璧な演武。何度も久の槍捌きを見ているタケたちですら、目の前の久の演武に見入ってしまう。
ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら、久の周りを華麗に、激しく舞う槍。
その槍が身体の前で一瞬にして止まる。先程までの動きを否定するかのような、僅かなぶれもない静止。
いきなり槍が現れたかのような錯覚を感じさせた直後、久は槍を思いきり突き出し、槍の切っ先をまっすぐ監督へと刺した。
監督と槍との距離は、ほんの数十センチ。監督へ槍を突き出す久の表情は、今までに無い真剣な表情だ。
監督たちはあまりの出来事に、本能が目を閉じさせ、頭を大きく後ろに仰け反らせた。そして、状況を確認しようと目を開けたその時、槍から生まれた突風が監督たちの顔面の横を大きな音を立てながら吹き抜けていった。
右側に座っていた男は、驚きのあまり椅子から転げ落ちてしまった。久の圧倒的な槍捌きに、完全に飲み込まれていた。
監督は反った体勢を元に戻すと、久に驚きの表情を見せながら、拍手を送った。
「素晴らしい。これまでにあなた以外にも槍捌きを何人か見ましたが――これは比べ物にならない。ありがとうございました」
監督はそう述べ、優しく微笑みながら再び久に拍手を送った。目はオーディション前の優しい目へと戻っている。
久は槍を持ち直した後、軽く会釈をし、タケたちが待機している場所へ戻ってきた。そこでは三人も帰ってくる久に拍手を送っていた。
「やっぱり、何度見ても久の槍捌きは凄いわね」
ジョゼが拍手を送り、久とハイタッチ。久はフフンと胸を張り、もっと褒めてくれと言わんばかりのポーズを取った。久自身、今回の槍捌きは自分でも納得できるものだった。




