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チート人外による異世界のモテアソビ方  作者: mawari
第0章 勇者召喚と人外
5/9

4.The Face Kills A Human

己のまさに人外の美貌に思わず本心から・・・・数瞬見惚れていたランヤは、ハッとなって再び周囲の警戒を始める。


「勘弁してくれ、女神サマ。不覚にも気を抜いてしまったよ...」


そう言ってランヤは空を仰ぐ。

視界に入る前髪から自分が銀髪になったことはわかっていたし、考えてみれば、【創造神の最高傑作】の称号があるのだから、容姿の造形も神懸かっているのは予想できた。

が、自分の予想をここまで裏切るとは思わなかった。


再び、水面に目を落とす。


顔の基本は地球にいた頃と変わらずランヤであるのだが、一つ一つのパーツの洗練度が違う。あるいは、もともとそれなりに顔立ちが整っていたからこそ、ここまでの美貌になってしまったのだろう。


切れ長の二重まぶたに、女みたいに長い睫毛。そして左右で色の違う、宝石のように美しい両の瞳。鼻梁は美しくスッと伸び、紅色の形のいい唇がその下にある。クールに尖った顎のラインと、整った眉、さらさらの美しい銀髪が、美しくもどこか男らしさを感じさせる。感情の欠落したその顔は、最高級の人形のようである。


......正真正銘、浮世離れしたイケメンであった。


(もしかして、厄介事というのはこのことか?この世界の美の基準は分からないが。...まあ、この程度の厄介事ならば問題ないが)



人前に出づらくなってしまった、と淡々と考えるランヤだった。







***


気配を殺して、草陰に身を潜める。約200m先の岩肌に開いた穴をじっと見つめるランヤの視線の先には、ガラの悪そうな恰好をした男2人が眠そうに欠伸をしながら、入り口の見張りをしていた。


──ランヤがこの森に入ってから5日。彼は今、一つの盗賊団を殲滅しようとしていた。


盗賊団【灰の狼】。この森、【ホルン大森林】をアジトにして、ここ【メェル王国】の、森に程近い村を襲ったり、森の中を通る商人の馬車から積荷を強奪したりしている問題集団。実力者がいる、というわけではないがその人数の多さのせいで国の騎士団も対処を困っている存在。(森の名と国の名は盗賊団員を鑑定した時に判明した)



とはいえ、ランヤは別に彼らに恨みがあるわけでも、身勝手な正義を振りかざすわけでも、王国に恩を売るつもりも無い。メェル王国は非常に豊かな国らしいのだが、行動を監視・制限されてしまうデメリットを考えると今はまだ目立たないほうがいいだろう。


彼が盗賊団を殲滅する理由──それは、単純にこの肉体での対人戦及び一対多戦闘のデータを取るためだけであった。

そこには良心の呵責や躊躇いは一切ない。情報のため、必要だからやる。それだけだった。


そうして、ランヤはこの盗賊団に目を付けた3日ほど前から彼らに関する情報を集め、今日実行に移すことにした。


構成員の数はおよそ40前後。実際にチェックしたのは30と少しだったが、この三日間でボスらしき人物は見ていないので、確認できた人数よりも数は多いと考えた方がいいだろう。また、ランヤが監視している3日間は略奪・密売行為をしている様子は無かった。


居眠りをしていてまるで見張りの役割を果たせていない男たちに音もなく近づくランヤ。

近くの岩陰から死角をついて飛び出した彼に、盗賊は慌てて得物──戦斧バトルアックス曲刀シミター──を構えるが、人外の敏捷を持つランヤに抵抗できるはずもなく、戦斧の男は声を上げる間も無くその首を撥ね飛ばされる。

空中を飛ぶ仲間だった男の生首を見て、顔を青くさせる曲刀の男。盗賊のくせに人の生首も見慣れていないのか、と思いつつランヤは呆けているその男の首に刀の峰を当て身体を押し倒し、その口に拳を突き込んで声が出ないようにする。


「──ッ!──ッ!」


「騒ぐな。助けを呼ぼうとするな。俺の質問に小声で答えろ。分からなければ素直にそう言え。そうすれば命だけは助けてやる。いいな?」


涙目になって必死に首を縦に振る男。ランヤはその口内に入れていた拳を外す。


「まず、【灰の狼】の構成人数は何人だ?」


「お、オレとそいつを入れて38人だ」


「ほう、概ね予想通りだな。団員で一番強いのは誰だ?武器は何だ?」


「だ、団長だよッ...」


「俺は何の武器を使うかも訊いたのだが?」


ランヤの目が剣呑な光を灯す。


「た、たいけんっ!!団長が使うのは大剣だッ!」


男は半泣きになりながらもそう答える。美しい少年のその瞳の虚ろさが男の恐怖を煽っていた。


「アジトの見取りを教えろ。それと、隠し脱出路はあるか?」


「な、中入ってまっすぐ行くと広間があって、下っ端連中は大体そこにいるッ...広間の右が牢屋部屋、左が倉庫と金庫、武器庫で、奥には幹部たちとボ、ボスの部屋があるッ!ボスの部屋の後ろに秘密の脱出路があるって聞いたことがッ...」


「金庫にはどれくらいの金が保管してある?」


「そんなん新入りのオレには知らされてねぇよ...なぁ頼む、命だけは助けてくれぇ...」


男のそんな懇願を無視し、そうか、とだけ呟く。


「まあお前に聞くことはこんなものだな」


ランヤがそう言うと、男の表情に希望が戻る。


「助けてくれるのかッ!?」


「はあ?あんなものお前に情報を吐き出させるための嘘に決まっているだろう?まさか本気で信じていたのか?」


その言葉を聞いた男が絶望した顔を作るより早く、ランヤは刀を裏返して力を込めた。


そして、必要最低限の情報は手に入ったランヤは、洞窟の中に入っていく。



結局、ランヤが広間に着くまで──グネグネとした一本道の20mほどの通路──は盗賊に会うことはなかった。


躊躇いなく広間の扉を開ける。


30人ほどか、その場で酒盛りをしていた盗賊たちの視線が一斉にランヤに集まる。ランヤのその美貌に一瞬見惚れるが、すぐにガンを飛ばし始める。


「ああ?なんだてめえ?どっから入ってきた?」


「おうおうイケメンの兄ちゃん、ここが何処だか分かってんのかぁ〜?」


「【灰の狼】のアジトに1人で突入たぁ、オレら以上に血の気が多いな!ギャハハ!」


明らかに見慣れない少年が入ってきても、まるで警戒する様子を見せない。そんな彼らにランヤは特に苛立ちもせず、自分が今何をするのが最適か判断する。


(......【威圧】発動)


少年から尋常でない威圧感と殺気が迸る。今まで感じたことのあるそれよりも明らかに強烈な圧迫感に、ある者は顔を引き攣らせて硬直し、ある者は酒の器を落とし、ある者は腰を抜かして尻餅をついていた。


(まだまだ全開には程遠いのだがな。まあ気絶されるよりはマシか)


ランヤの目的は盗賊団の殲滅ではなく、あくまで対人戦、乱戦のデータ収集にすぎない。殲滅するだけなら気絶させた方が早いのだが、それでは意味がない。

ランヤは【威圧】を解除する。

その途端、


「がああああッ!!」

「死ねェッ!クソガキ!!」

「オラァァアっ!」


硬直から立ち直った幾人かの男たちが、一斉にランヤに襲いかかる。


(こいつらのスキルLv.は大体3〜4辺りだったな)


ランヤは彼らが目前に迫ると身を低く屈め、腰に帯刀していた太刀の抜刀で男たちの足首を同時に狙う。スッと何の抵抗もなく男たちの脛は切断される。

そして、一気に崩れ落ちる彼らの頸動脈を寸分違わず切り裂く。返り血でランヤの恰好は当然血塗れになるが、ランヤは特に気にしない。


(残り26人......)


瞬殺された仲間たちを見て二の足を踏む盗賊団。


「て、てめえは一体何者だッ!なぜオレたちを殺す!?」


1人の男の問いに、ランヤは口を開く。


「なんだ、理由が聞きたいのか?別に俺は騎士団の連中でも、お前らに恨みがあるわけでもないぞ?ただの自分の力試しだ」


その言葉を聞き多くの男たちは理解できずに困惑するが、ランヤの言っていることが分かった幾人かは屈辱に顔を歪ませる。


「くっ、この人数相手にどうこうできると思ってんのか!やっちまうぞ、お前ら!」


そういって、彼らは雄叫びを上げながら駆け出す。


ランヤは彼らの頸動脈を裂き、首を飛ばし、心臓を突き刺し、時には体術で首の骨を折りながら、敵の数を恐るべきスピードで減らす。

ランヤの無駄の無い一撃必殺の動きを見て、1人の男が指示を出す。


「くっ、ボスにこのガキのことを伝えろ!!」


「わ、分かった!」


そう言って別の男が奥の通路を走っていく。


(ほう、思ったより冷静な指示が出せるんだな。あいつは幹部か?それにしても少々まずいな...)


ボスがこの場に出てきて彼らの統率をとり始める......ことがまずいのではなく、単純にボスに逃げられるのがまずいのだ。

盗賊団で一番強いはずのボスとの力試しを逃すのは、ランヤとしてはあまり嬉しくない。


とはいえ、すでに半数近くを戦闘不能にしているので、終わってから向かっても見つけられるだろう。


「たッ、助けッ」

「うわぁぁあ!」

「やっ、やめろッ」


戦意を喪失した者も、闇雲に武器を振るうものも、命を懇願する者も、等しくその生命を奪っていく。


結局、大広間が無惨な斬殺死体と、その血みどろの中に立つ返り血で染まった美少年だけになるまでそう時間はかからなかった。


(28...奥にいるのが残り8人か)


ランヤは生き残っている盗賊の人数を数えると、駆け足で奥の部屋へ向かった。







***


頭領の部屋まではそう時間はかからず到着した。開いていた扉をくぐると、そこは先ほどの大広間に比べて幾分か狭い部屋だった。

そして、その部屋の奥の壁に背を預けている身長2mはあろうかと思える大男。


「──ほう、てめえが侵入者のガキか。確かに男娼として高く売れそうな美少年だな」


「?状況を理解していないのか?俺はお前の部下30人を殺したんだぞ?ああ、それとも俺に対する挑発のつもりか?」


言いつつ、ランヤはこの大男のステータスを鑑定する。



**


《名前》Marc Grayマルク・グレー

《年齢》34

《種族》人間族

《天職》戦士

《職業》盗賊団【灰の狼】頭領

《称号》【悪の道】【賞金首】

《レベル》34

《能力値》

生命:522

魔力:307

筋力:584

耐久:614

器用:208

敏捷:247

知能:155

精神:463

知恵:306

魅力:196(+250)

《スキル》

【剣術:大剣】Lv.6

【体術】Lv.4

【威圧】Lv.4

【身体強化】Lv.4

【悪のカリスマ】Lv.3

《特殊スキル》

【成長補正:中】【自己陶酔:中】

《固有スキル》

──


**


盗賊の頭──マルクのステータスを見て、ランヤは違和感を覚える。というのも、ランヤの情報では【灰の狼】にはそこまでの実力者はいなかったはずだ。

が、このステータスの限り、マルクは相当強い部類に入る。スキル【剣術:大剣】など、ランヤの【剣術:刀】の1つ下のレベルにまで迫っている。そもそも、種族も天職も普通のこの男が、成長補正を持っていることも俄かには信じがたい。


この男のステータスを詳しく見て、ランヤはああ、そういうことか、と一人納得する。


**


【悪の道】


かなりの悪を積み重ねたものに与えられる称号。

スキル【悪のカリスマ】、特殊スキル【成長補正】【自己陶酔】を取得する。


**



どうやら、この男を殺すのは社会的に見ても問題は無いらしい。

──きっと、この大男が明らかな格上相手でも余裕綽々なのは【自己陶酔】のスキル(スキルというより呪い)のせいだろう。



とはいえ、むしろ積極的に戦ってくれるのならばランヤに文句はない。


「ガキがッ!!このオレ様がぶっ殺してやるよ!!」


「...」


汚らしく唾を撒き散らしながら叫ぶマルクに対し、ランヤは早くしろ、とでも言いたげに無言で刀の柄に手をかける。


「ウオリャアアッ!!」


先に仕掛けたのはマルクだった。彼はその巨体からは想像もつかないほどのスピードでランヤに近づき、上段に構えていた大剣を一気に振り下ろす。

その動きは、先程までの下っ端とは比べものにならないほどの力強さがある。


ランヤは真上から迫ってきた大剣に抜刀した刀の腹を滑らせ、男の右側に身を翻して一息にその懐へ飛び込む。


自分の渾身の先制攻撃を避けられたマルクは、一瞬だけ隙ができる。

当然その隙を見逃すランヤではなく、彼の首に向かって斜めに斬り上げる。


「うおッ!?」


首を逸らしながら慌ててバックステップで距離をとる大男を見て、ランヤは少し彼の実力を上方修正する。本気とは言わないまでも一応仕留めるつもりで攻撃したのだが意外と避けれられるらしい。


今度はランヤが攻撃に打って出る。


横薙ぎに一閃した刀をマルクは剣で受け止めようとするが、"銘無しノーネーム"は剣ごとマルクを斬りさく。


「なっ!そんなのアリかよッ!!」


斬られて出血している腹を抑えながらさらに距離をとり、喚く。


「ふむ、こんなものだな。そろそろいいか」


ランヤはそう言うと本気の速度でマルクに近寄り、速すぎて反応できていない男の心臓に刀を突き刺す。


「がッ、あ、アッ!」


大男はしばらく抵抗するようにもがいていたが、やがて事切れて動かなくなった。







***


死んだマルクの胸からゆっくりと刀を抜き鞘に納めると、ランヤは部屋の隅の方にある黄ばんだベッドへ歩み寄る。


──そこには身動きをしない裸の女がいた。


格好をみればその女がどのような扱いだったのかが分かる。ランヤが見張っていた3日間人攫いなどの様子は無かったから、それ以前から監禁されていたのだろう。ここにいるということは、ランヤの襲撃時も使われていたのかもしれない。


「女。盗賊団は俺が壊滅させた。お前はすでに自由だ」


声をかけるランヤに、女は


「殺して...」


とだけ返した。


「どうせ行くところなどないわ...夫も財産も、すべてあいつらに奪われてしまった...生きることに疲れてしまったのよ...お願い、一思いに私を殺して......」


女の目には絶望しかなく、ただランヤの無機質な美貌を映しているだけだった。


「なあ」


急に何かに思いついたランヤは、女に1つの質問をする。


「盗賊の慰み者にされるのと、ゴブリンの嬲り者にされるのと、どっちが不幸だと思う?」


あまりに唐突で、失礼すぎるランヤのその問いに、すでに怒る気力もない女は力なく答える。


「私は、ゴブリンの嬲り者にされたことは、ない、から、そんなの分からないわ...でも、私は絶対に不幸よ...人間は不幸だとは思わずにいられないのよ......」


女のその言葉にランヤは何も返さない。そして鞘から刀を抜くと、躊躇わずその首を跳ね飛ばした。





──他人の絶望程度で、ランヤの瞳は揺らがない...



「......人間は不幸だと思わずにはいられない、か」



ランヤのその呟きを聞く者は、誰もいない。

次回も明日の午前7:00頃投稿予定です。

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