5話「兄上、新しい耳飾りを手に入れました」
拝啓 兄上
今日、特注で依頼していた耳飾りがついに完成しました。俺の行きつけの鍛冶工房にお願いしていました。冒険者向けなんですけど腕は確かです。行ったことはないけれど、王都にもそうそうないレベルだと思っています。ちなみに師匠はよくこの鍛冶工房に行っては「使い方がなっとらん!」と怒られていました。あの様子は必見です。
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数日は薬草の採取には行かなくていい程のストックは出来た。というわけで、本日は街へ注文していた耳飾りを受け取りに行く。特注だったからいつもより完成が遅かったなーと思いつつ、鍛冶工房へ向かう。
冒険者向けの鍛冶工房で、俺の行きつけ……というか師匠に紹介してもらった工房だから腕が確かなのはお墨付き。いいところを紹介してもらえて助かった。
工房長のおっちゃんもすっごくやさしい。
俺が初対面のときにおっちゃんを見て
「ドワーフですか?うっわ、マジでいるんですね、すげぇー……」
って言ったのを見て
「……目を輝かせているとこ悪いんだが、人間だ」
と苦笑いしながら答えてくれた。
ちなみにこの世界でもドワーフは存在しない。あとエルフもいない。いるのは精霊と魔獣。
今思い出しても恥ずかしいくらいの出来事だが
「何の曇りもない目でドワーフと言われたのは初めてだな。……悪くないな」
とおっちゃんは言ってくれた。
「すみません。何か俺の中でめっちゃ理想のドワーフに見えたんで、きっとすげぇの作るんだろうなーってついテンションが上がっちゃいました……」
謝ると「いいって!気にすんなよ、坊主」と背中をバンバン叩かれた。以降、ずっと装備品などはこの工房の世話になっている。
「おっちゃーん!受け取りにきたよー」
そう声を掛けるとおっちゃんはよたよたと店から出てきた。
「おっちゃん顔色悪いけど大丈夫?土産で薬草酒持ってきたんだけど飲む?」
「誰のせいでこうなったと思っている?老人に無茶な依頼しやがって……」
「いやー、この依頼を受けてくれるのおっちゃんしかいないって思ってさぁー」
ケラケラ笑って言うと背中を叩かれた。
「坊主は……本っ当に調子がいいよな。ほら、試着もするだろ?上がってけ」
工房の中には火の精霊に土の精霊たちもいて賑やかである。
「ルィ゙ルァ゙ピ!」
と口々に「こんにちは!」と精霊たちが声をかけてくるけれど手を振るに留める。さすがの俺も先日のミレア姉さんのリアクションで反省した。
「ほら、注文の品だ。確認してみろ」
ご丁寧に艶のある木目の美しい箱に耳飾りは入っていた。鈍く輝く銀色に、繊細な蔦模様の透かし彫り。蔦から垂れ下がるように揺れる淡い緑と青灰色のグラーデーションの魔石。そっと持ち上げる。
「おっちゃん、これ完っ璧じゃん!」
「……そうだな。もう二度とこんな依頼はするなよ、坊主」
想像を越える出来栄えにため息がもれる。
「……兄上の誕生日には何を贈ろうかなぁ」
「やめろ、坊主。不穏なことを言うな。いいから付けてみろ」
おっちゃんに依頼したのは防音耳飾り。ちなみに冒険者装備でもある。声で攻撃してくるタイプの魔獣もいるからな。防音耳飾りは魔獣の鳴き声とか一定以上の大きさの音を遮断する。それ以下の音は通すから、パーティー内の連携などに支障はない。制作者の腕次第ではあるけれど、おっちゃんのなら間違いなくその性能は保証されている。
今回、俺が依頼したのは「完全防音」耳飾りだ。通常は両耳に装備だけれど片耳だけの依頼。
いやー……片耳難聴って逆に音が響いてつらい。聞こえないのを補うために無駄に大きく聞こえる音があるんだよね。
例えば居酒屋に行くとテーブルにジョッキとか皿を置く音。店員のお姉さん、何か怒ってる?!と思うくらい「ドンッ」て響く。
一人で食べている時と、ミレア姉さんと食事をする時には全然気が付かなかったんだけどね。貴族の食事マナーってすごいんだなって改めて実感した。
ドアを閉める音や、風呂で水を流す音がすげぇ響くの。これは日常生活でだるいやつと思って、いっそ完全防音にしよ!と思って依頼した。
そっと耳飾りを付けてみる。
「ね、おっちゃん何か喋ってみて」
自分の声はちょっと違和感あるかも。まぁそのうち慣れるだろう。
「どうだ?坊主、使い心地は」
おっちゃん、声がデカいからさっきまで頭に響く感じだったんだよね。防音耳飾りをするといい感じ。
「めっちゃよさそう!これ絶対、狩りのときとかすげぇ助かると思うわ。ありがとう、おっちゃん」
「そうか、それはよかったよ」
おっちゃんはほっとしたように笑って言った。
「坊主、耳はあれからどうなんだ?お前ほどの薬師だから少しはどうにかなったのか?」
心配そうに言われる。
「いやー全然?とりあえずクッソ苦くてマズい薬煎じて試してみたけど正直もう飲みたくねぇしなー。今のとこ鹿くらいなら狩れるし大丈夫」
その狩りもゴルディと精霊たちに頼ってだけど、危なげない感じで確実に狩れるのが鹿と猪。
「今から熊のシーズンだからな。熊を狩るためにこれを依頼したんだよ!」
笑って言うとおっちゃんも何だか呆れたようにしている。
「まぁ……無茶はするなよ」
おっちゃんとしばし、完全防音耳飾りの制作でどんな魔法を使うのかなど色々聞いてみた。おっちゃんは快く何でも教えてくれるからメモを取りながら聞く。
「ところでリシアン。もう一度聞くがそのニ属性複合魔石には何の魔法も容れなくていいのか?これだけの魔石だから色々できるぞ?」
ニ属性複合魔石はその名の通り、二つの属性がある魔石のこと。魔石自体が魔獣から採れるレアな素材なんだけど、複合魔石はもっと珍しい。
その属性の数が増えるにつれてさらに希少価値が上がっていく。
耳元で揺れる魔石をつついて指差す。
「え?これは飾りってちゃんと前も説明したじゃん?」
「……何でそんなにもったいないことを」
おっちゃんが頭を抱えている。
「いや、ちゃんと大事に取ってたやつだし!だって、兄上と俺の瞳と同じ色のグラーデーションだよ?そりゃあ大事なときに使わないと」
おっちゃんはしばし俯いてからガバっと頭を上げた。
「あとその魔石をドロップ型に研磨してほしいってのは何だったんだ?」
「え?オシャレだから」
おっちゃんはしばし机に伏せて頭を上げなかった。「木と水属性の二属性複合魔石……」「これがあれば複合魔法も……」とかずっとブツブツ言ってた。
「ドゥ゙ニャー!!」
「ィ゙ピルァー」
「うっわ、何?!てか、何でお前らの声は聞こえんの?」
俺らの様子をずっと見ていた精霊たちが退屈になったのがやって来た。
「どうした坊主?どっか具合が悪いか?」
どうしたも何も完全防音のはずだよな?何でこいつらの声は聞こえるんだ?でもここで精霊が喋るとか言ったら、確実にヤバいやつ認定される。
俺は話しかけてきた火の精霊と最近よく俺の周りを飛び回っている風の精霊を捕まえた。
「おっちゃん、ごめん。ちょっとうとうとしてて寝言!ゴルディも待ってるし、そろそろ帰るわ」
「黙ってろよ」と精霊には目で圧をかける。
おっちゃんは怪訝そうにしながら「不具合があればまた来いよ」と見送ってくれた。もう一度おっちゃんにお礼を言ってから工房を出た。
ゴルディに精霊を咥えてもらって爆速で森の麓の家に帰る。
「……もう二度と俺の出先で声を掛けてくるなよ?いいな?」
「「……ピニァー」」
精霊はそろってぶんぶんと頭を縦に振っていた。分かってくれたようで何より。




