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心の見方

依頼主の姿から目を背けて私は部屋を出た。キッチンの隣には洗濯機がある。私は最初それが洗濯機だとは分からなかった。なぜなら洗濯機の蓋の上には湯沸かしポットと靴下とチラシがあったからだ。チラシをどけると下には切手くらいの黄色やピンクの紙が40枚ほど山になっていた。よく見ると浜屋と書いてある。すかさずネットで調べると、この付近の定食屋だった。おそらく割引券がなにかだろうが、何%オフのような文字はなかった。


お腹もすきましたしご飯に行きましょうと依頼主を誘った。


依頼主は赤くなった目を拭いてうちの子がお腹空いているかもしれないのに私だけ食べれないと言った。

私は頭の中でため息をついた後、お子さんが普段行っていた定食屋が近くにあるみたいなので調査に行きましょうと言い換えた。

定食屋はアパートから住宅街を歩いて10分だった。無言で私が歩いた後を依頼主が歩く。

定食屋はひっそりと佇んでおり、中に入ると亭主の気持ちいい挨拶が聞こえた。夫婦で営んでいるようだ。

すみません。この方ご存じないですか?と言って写真を出すと、亭主は手を拭きながら、あぁ知ってるよ。1年半前くらいからだったかなー。平日の夕方にいつもカウンターの奥から2番目に座ってカツカレーを頼んでたよ。いつも1人で静かに食べてたね。

そうなんですね。では私たちもカツカレー頂きます。と注文し、私は一番端に、依頼主はその隣の"奥から2番目"に座った。

依頼主はまた涙を浮かべ、窓の外を見て言い夕日ですねと言った。私はええ、と答えて窓の外をみたが、窓の外は他の建物の室外機が見えてその上から夕日が僅かに差し込んでいるのみだった。


カツカレーは至って普通の味だった。野菜は少なめでスープカレーに近い。横で依頼主は無言でむさぼっている。

周りを見渡すと背後には本棚があり、古い漫画が敷き詰められている。

カラカラと換気扇が回り、天井は油が染みている。期限の切れたチラシが貼ってある。見れば見るほど洗練とはかけ離れた定食屋だ。

また目を本棚に戻す。サイバーパンク的な背景に銃を構えた男が描かれている漫画が目に入った。失踪者の家にもあったなと、漫画を手に取る。「電気羊」という題名だ。工学系のやつはこういうのが好きなのか。


依頼主が食べ終わったので会計をしたが、その時に例の切手のような券を渡された。こちらは?と聞くと10毎集めたら無料になると説明された。


店を出ると向かいに建物に挟まれた薄暗い細道が見えた。人が見向きもしない道に何の意味があるのだろう。私は身震いして来た道を依頼主と戻った。外は暗くなっていたが、まだ記録が書けるほどの成果が残っていない。失踪者の家に戻りレシートの山を詳しく調べるとするか。依頼主の家を空けるとハエの音は収まっていた。そうだ、今のうちにゴミを調べなくては。カバンからマスクと手袋を取り出し新聞紙を広げ、ゴミを分ける。レシート、チラシは行動範囲を見るための重要な手がかりだ

(私は仕事をしている時間はゴム手袋、ジップロックは腕時計と同じ感覚で持ち歩いている)

ティッシュ、お菓子の袋、コンビニ弁当の容器…。このとき無機質な感情にならないよう気をつけなければならない。一つ一つに意味があるのではと常に意識しなければ仕分け作業と変わらない。ゴミ袋に入れられている順に並べておく。

コンビニ弁当の容器は重要な役割を果たす。消費期限を見て時系列を考えられる。

一番上のものから下のものまで期間が1ヶ月あった。

生ごみはキッチンのシンクに溜まっている。生ごみと言っても残飯のみで、野菜の皮などなく、料理はほとんどやっていないだろう。

コンビニ弁当は毎回同じもの、確かに普通の男性の量よりかは少ないが、食が細くないっていったわけではない。薬もやっていない。

私は経験上このような人は普通を実現するために辛い顔をして社会のレールを外れる事を最も恐れていることを知っている。私は生活レベルは人それぞれだが、人は全力で生きている限り、ある程度同じ人生曲線を描くと考えている。失踪者もきっとその曲線をたどっていたが、それがプツンと切れたような印象を受ける。

私はそれらのゴミの写真を撮り、袋に戻した。

捨ててあったレシートから失踪者は決まった店、古本屋やスーパーなどルーティンのように生活していることが分かった。もしかすると、再びそこに現れるかもしれないので、この依頼は早く済むかもしれない。私は安堵した。

依頼主は敷布団の隣にある段ボール箱の山の中を取り出していた。段ボールから取り出した服を見て、私が送った服結局着ていない。あの子はいつも親の言うこと聞かないで迷惑かけて、早く帰って来てと嘆いていた。

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