探し物
探偵と聞くと犯人を突き止める推理をすると思うだろうがほとんど違う。お金持ちの心配事を調べるのが仕事と言っていい。と言うか”私は”それを仕事としている。不倫の証拠がどうの、人探しがどうのといったことだ。
いつもは調査のため外出しているので大体が電話の対応で依頼を聞くスケジュールを合わせる。今日昼から来る客の要件は人の捜索である。
捜索依頼をまとめた棚から昨日作った今案件のファイルを取り出し、メモを見直す。
メモ
依頼内容 依頼主の息子の捜索
捜索人特徴
29歳 男
小柄160センチ 痩せ型
住所…経歴…
経緯
〇/〇
会社から依頼主に電話があり失踪者の欠勤を聞く。失踪者と依頼主は別の県に住所があり、依頼主は警察に行き身元確認を依頼する。警察からは反応がないことを聞く。2日後依頼主の休日に失踪者の住所を訪れ、アパートの所有者に依頼し部屋に入ったがいなかった。机にはサヨナラとメモ書きがあったとのこと。
男はため息をついた。
ドアのノックがある。
男は、のそっと腰を上げてドアを開けた。
こんにちは、と小柄のおばあさんがお辞儀をした。タダでさえ小さい体が身を縮めてお辞儀をするものだからもっと小さく見える。
母様から見られたその人はどんな人間でしたか?
あの子はいい縁を持った子で、体は小さかったけど周りにも馴染めて人から優しくしてもらった子でした。小学校の頃は少年野球のキャプテンを務めていて、生き生きとしてました。私も少年野球の保護者の集まりも大変だったけどあの子が頑張っていたから何とかやれていました。
中学では卓球部に入ってました。県大会でも頑張っていたようで、自信にあふれてましたよ。でも家ではあまり話しませんでしたね。帰ったらすぐ寝ていたみたいで、観ている限り、その後0時くらいに起きてきてテレビを観て過ごして、朝方から学校に行くまで勉強していたようです。
高校に入ると寮生活でほとんど関わってないです。寮でもいじめられずに何とかなっていたようで良かったです。
その後大学に行って別々で暮らしているから全く関わりがありませんでした。電話もしてこないし、私も仕事で夜勤とかもあって電話しませんでした。
最後に会ったのはいつですか?
最後に会ったのは4年前に就職で大阪に引っ越した時です。働くことに不安があったのか、卒論で疲れてやっと卒業できたからなのか、元気な目をしてなくあの子は大丈夫もう帰って大丈夫だよと言ってそれっきりです。やっぱり地元で働こうって行ってあげればよかったのに
依頼主は泣き出した。
警察の方からその人がどこに住んでいるのか判明したのでその住居に行くことにした。
依頼主は私に
あの子は片付けが、できなかったから驚かないでください。大学生の頃も片付けをしに家に行ったことがあったくらいです。その時トイレが汚いからとトイレを貸してくれなかった。
管理会社から鍵を借りてドアを開けるとペットボトルがカラカラと音を立てて転がった。床にはごみがあり、生ごみの袋にはハエがたかっていた。
案の定である。
お子さんは子供の頃に学校の先生からお母様に言われましたか?
小学校1年の頃はよくボーッとしていて周囲の流れに乗れていない事があると言われました。でもその後は何もないですよ。
2年になると野球も始めて上の子の影響で本もよく読むようになって、作文とか絵で表彰されてました。
大学生では友達がいなかったからか少し辛そうにしてましたけど。
玄関を通り、キッチンの洗われていない皿と異臭に鳥肌を立たせながら居間のドアを開けた。案の定そこも整理されておらず、脱いだ服が散乱し、ペットボトルも床に落ちており、書類も散乱していた。その間に敷布団らしきものが垣間見える。
依頼主はずっとすみません、すみませんと言っている。
おそらく失踪者は少し鬱があるのかもしれない。
お子さんは突発的に行動することはよくありました?
はい、小さい頃はダンボールで戦車を作ってました。集中してご飯も食べ忘れる程でした。
小学校の図工の時間は集中しすぎて声をかけても返事がないほどだったそうです。
発達障害などは考えられましたか?
お母さんはすぐに
それはないと思いますと答えた。
本人は困ってないと思いますし、国立大学の工学部まででてます。先生からも、まじめで研究熱心な学生だったと評価されてました。
依頼主は
昔からあの子は服を脱ぎ散らかして大学の頃も家に帰ると何度も言ったんですけどねー
床に落ちていたジャンパーを拾い上げるとポケットから何枚も重なったレシートが入っていた。
ホント捨てないんだからと言いながらお母様は声を震わせて、なんで母ちゃんに言わないのと涙を流しだした。困っとったなら買い物でも料理でもやりに来てあげたのに。依頼主はジャンバーに顔を埋めて鼻をすすっていた。
依頼主の背中を見ながら私は失踪者が働いていた会社での聞き込みの様子を回想していた。アウトソーシングをメインとした会社だった。会社はオフィスビル街の一等地の20階ある立派な建物の15階にあった。インターホンを押すと顔の整った受付嬢が来て、会議室に案内された。児玉をお呼びしますので5分ほどお待ち下さいと言って部屋を出ていった。すぐにお茶が出されて、また、静かになった。お茶を飲み終わらないうちに、受付嬢とともに、180センチぐらいのひょろっとした中年男性が入ってきた。のほほんとした顔つきで、髪は広くなったおでこの端を活かし、横に流している。この人が失踪者の部長にあたる人だった。名刺交換を行った後本題に入った。
児玉は
ミスはチラホラあったけど真面目でしたよ。年配の人からは評判良かったですね。残業時間も多かったし頑張ってやってたんじゃないでしょうかね。
と興味なさそうにしていた。
彼はどこの会社に言ったか聞くと児玉は
運輸業だったり、半導体関連の会社ですかね。そちらにお繋ぎしましょうか?私は今から社員と一緒にご飯に行かなくては行けないのでソロソロと言った。引き留めようとすると、いきなり血走った目をして、私は知らないので他を当たったほうがいいですよと静かに言った。
会議室の外では若手社員が休憩のため外に出ていて、あの人のいなくなったんだって、いなくなっても人騒がせなんていい加減にしてほしいわと話をしていた
誰が悪いとは言わない。確かに失踪者は仕事を頑張っていただろうが、失敗がいくつか重なって周りに迷惑をかけていたんだろう。アウトソーシングは評判が大切だ。派遣先の会社と会社のつながりは強く、噂はすぐに回る。それは企業の損失を最小限に抑えるため確かに当たり前の事だ。
お母様もお母様で子供に期待していたのだろう。少ない給料で大学に行かせた分その期待は深まるばかりだっただろう。誰もが本人に重圧をかけていたに違いない。そしてできない奴は社会から落とされる。
私は泣いているお母様の背中を見ながら自分がこうだったらと考え身震いした。




