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任務と防衛戦

「ごめんね、チヒロ。私ももうちょっと考えるべきだったよ。フランツさんの様子を見たら断りにくくて……」

千博の隣でミーツェはテントでのことを謝った。

「いや、ミーツェが謝ることないよ。俺もフランツ国王を……アイジスの人達を手伝ってあげたいと思ったのは事実だし。俺の気持ちが固まってなかっただけだ。いい勉強になったよ。」

ゴラン将軍の言葉は本当にためになった気がする。自分がしたい事、大切にする事を決めたら、それに沿って行動する。任務以外でも大切になる事だろう。覚えておかなければ。

「そういえば、ミーツェは魔物と戦ったことはあるのか?」

「うん、たまに城下町の外れの方から依頼がくるから討伐に行ったことはあるよ。チヒロは初めて?」

「あぁ、サンドゴーレムがどうだったかは知らないけど……少なくともあれ以外に魔物は見たことはないな。やっぱり、強いのか?」

ミーツェに聞いてみると、やはり魔物と戦ったことがあるようだ。魔法があるくらいだから魔物も珍しい存在ではないようだ。アイジスとゼウシアの連合軍が戦う場所へと急ぎながら色々と考えた。

「そうだね。気をつけなきゃダメだよ。魔物は上位の方になると魔法を使ってくることもあるからね。それに、人よりも魔力量が多いから魔法の威力も高いよ。」

「……なるほど、強力な魔法攻撃を考慮した陣形が必要なわけか。」

魔法は誰でも使えるが、使えるようになるまでが難しいことに加え、魔力は限られているので使いこなせるものは少ない。人より魔物の魔力量の方が多く、魔物の群れがみな魔法を使ってくるとすれば、確実に人間の魔法を使う軍より強力であるはずだ。

「魔法を使えるのは中位以上の魔物だけで、私も中位の魔物までしか見たことはないんだけどね。今回は下位と中位の魔物の群れらしいから下位に気を取られて魔法攻撃をくらわないよう注意してね。」

「わかった。気をつけるよ。……っと、見えてきたな。戦いの最中みたいだ!」

前方を見ると魔物と戦う兵士たちがちらほらと見えてきた。隊列を組んだりしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。兵士が戦っている魔物は緑色の肌の小さい人型の魔物や、犬の様な形のもの、コウモリの様な形のものなど、様々だった。だが、ここから見える限りでは人よりは小さい魔物しかいない。

「ゴブリンとフォレストウルフが多いみたいだね。ブラッドバッドも……スライムもいるかな。この辺は仕留め損ねた下位魔物を倒しているみたい。」

「なるほど、それじゃ、前線はこの先か。」

「はい、この先です!ここからは気をつけてください!」

案内してくれた兵士にそう言われ、千博は気を引き締める。両手には、魔力を《留化》させた。隣でミーツェも《大蛇ドラゴンファング》を顕現させた。

「よし、それじゃあ行くか。」

「うん、私から離れないようにね、チヒロ。」

お互い準備ができたことを確認し、前線へと向かう。

「え……あ、あの、マナカ殿?武器は使わないのですか?」

アイジスの兵士が俺の様子を見て心配してきた。腰にはグッさんから預かった剣を帯刀しているが自分にはこちらが合っていたので無意識に魔力を拳にまわしていた。確かに、魔物がどんな相手かわからない以上素手は少し危険かもしれない。

「い、いえ、使いますよ?!使いますとも!」

そう言って千博は剣を持ち、剣に魔力を《留化》させた。

「よ、よし!それじゃ、行ってきます。」

「はい、お2人にご武運を!」

改めて準備し終えた俺たちはアイジスの兵士に見送られながら前線へと向かった。



ーーーーー



「はあっ!」

右手に持った剣で目の前のスライムを斬りつけ、両断する。周りを見ても、まだまだ魔物はいてきりがない。

「ったく、モーガンの時の泥人形を思い出すな……」

そう言いながら近づいてきた狼型の魔物に蹴りを食らわせ、斬った。

「面倒だなぁ、もう!結構な数だよこれ!」

ミーツェも愚痴をもらしている。が、言葉とは裏腹に次々と変幻自在の鎖は魔物を貫き、締め、倒していった。戦況は未だこちらが押され気味だ。魔物の動きは統率はとれていないが数が多い。加えて、連戦に次ぐ連戦でアイジスとゼウシアの兵は疲弊しきっている。負傷兵の救助が行われようとしているが、魔物の多さのせいで上手く行われていなさそうだった。

「救護兵が動きやすいように、時間稼ぎが必要だな……。」

そう考えた千博だったが、今の一体ずつを相手とる戦い方では効率が悪い。だが、今の千博には多数を対象にした攻撃方法はない。この間覚えた《変換》による魔法がないわけではないが、実戦に使えるほどのものではない。土と水はかなり安定して生み出せるが、どちらも球体を作るくらいしかできず威力はない。電気は生み出すことができるし、威力も文句はないが周りに人が多いこの状況では制御が不安だ。ただ、《変換》が使えなくても、千博にはまだ『魔拳』がある。加えて、今はボアさんのおかげで魔力のコントロールもかなり上手くなった。この戦いで、千博は色々と試してみようと思った。

「練習台……ってわけじゃないけど、幸い相手は倒しちゃって問題ない魔物だ。ここで色々経験を積ませてもらうか!」

まず試すのは『魔拳』だ。千博は足に魔力を集めた。『魔拳』といっても、これから試すのは魔力を打ち出して攻撃する『魔拳』ではない。直接的な攻撃としてではなく、ボア仙人が跳躍に使っていたような、サポート的な使い方を試すためだ。

「ふっ!」

足に込めた魔力を《可視化》させ、瞬時に放出し、地面を蹴る力に合わせることで超加速を行う。そして、その勢いを利用したまま、目の前の小さい人型のモンスターを一閃した。

『グ、ガァ……』

ゴブリンと呼ばれていたそのモンスターは両断され、短く呻き声を出して絶命した。

「お、おぉ……こりゃ、ちょっとエグいな。魔力を《留化》させた剣を使ったのもあるけど真っ二つとは……。」

千博は自分の攻撃の威力に若干引いた。人型の魔物だったせいもあってか、後味も少し悪かった。

(けど、戦う以上こういうのにも慣れてかないとな……うん、今回はいい経験になる。)

そう思いながら、今度は続けて5体程、今の要領で魔物を倒した。低位の魔物であれば十分戦える。千博は手応えを感じた。

(魔力で攻撃するのも試しとくか……)

仲間がやられたからか、周囲の魔物の目標が千博に移る。そして、左右から狼型の魔物、フォレストウルフが挟み撃ちをするように飛びかかってきた。千博は剣を地面に刺し、素早く二頭の方に手のひらを向けて《可視化》させた魔力を放った。だいたいリンゴくらいの大きさの魔力球だ。飛びかかる二頭のフォレストウルフは魔力球があたると、数メートルほど後ろに弾かれるように飛ばされて動かなくなった。魔力球が当たった場所はその形に凹んでいる。内臓にまでダメージが浸透しているようだ。

(うん……これも使える。サンドゴーレムの時は加減がわからなかったけど、魔力球のサイズによって威力は調節できそうだ。射程は10メートルってとこか。)

この世界に来てから何回か戦闘の経験を積むうちに、落ち着いて思考もできるようになって来ていた。今試したことを用いて、千博は魔物の討伐のペースを上げようと考える。

(移動は足からの魔力の放出で、攻撃は剣と魔力を使っていこう。)

千博は両手で握っていた剣を右手に持ち直し、左手は魔力の放出に使うことにした。

「ふっ……はぁっ!」

高速移動と剣による斬撃、そして少し離れた敵には魔力球を。接近戦と中距離戦を同時にこなすことで千博は次々に魔物を倒していく。

「す、すごい……」

「速い……!あれは魔法か?」

「おぉ、いける、いけるぞ!」

それを見て、アイジスとゼウシアの兵たちの表情に明るさが戻る。疲弊した兵たちにとって、単騎で同時に数体の魔物を相手とる千博とミーツェの登場は下がり気味だった士気を持ち上げるのに十分だった。

「……驚いたな。あの新人、あそこまで強いとはな。」

「す、すげぇなありゃ。あれなら女王様の救出の話も納得ですわ。」

前線から離れたところでその様子を見ていたゴラン将軍とザック兵長も、千博の力に驚いていた。

「感謝します、ゴラン殿。彼らのおかげで我々も体勢を立て直せそうです!皆の者、今のうちだ!負傷者を後ろへ!動ける者はあの2人に続け!」

千博とミーツェの奮闘を見て、アイジスの司令塔である青い甲冑の男、レミエルが兵たちへと指示を出す。これが好機と、兵たちを励ました。

「お、同じ高校生とは思えないな。」

そして、ゴランとザックの隣でそれを見ていた秀人も呆気にとられていた。自分がやられるのも当然だ、と苦笑いする。

「ふむ……レミエル殿、ザック、ここは任せる。私も出よう。長期戦になる程こちらが不利だ。一気に片をつける。」

「そりゃ構いませんがね将軍……無理はしないで下さいよ?将軍だって疲れてるはずなんですし。」

「そうです、ゴラン殿!聞けば貴殿はわれわれがいない時も、毎晩魔物と戦っていたそうではありませぬか!ここは彼らに任せて……」

ゴラン将軍が背に背負った身の丈もある大剣を手にし、前線へ行こうとすると残りの司令官2人が止めようとする。が、ゴランは振り返るといつもの無表情な顔から、僅かに口元を緩めた。

「新人にだけ任せてはおけんだろう?何、迅速に終わらせれば問題ない。ザック、アサクラ殿を頼む。レミエル殿、全体の指揮は貴殿へ。では、行ってくる。」

そう言ってゴランは前線へと向かった。

「全く、相変わらずだなあの人は。驚いたでしょ?あの人、将軍なのにいつも前線に出たがるんだ。」

やれやれと言った感じで手を上げながらザックは秀人に言った。

「いえ、兵達を先導する将軍は立派ですし、頼もしいと思いますよ?それに、今将軍が前線に行けば、さらにこちらの士気は上がります。」

「はは、まぁ、それは間違い無いんですけどねぇ。仲間思いでもあるんですけど、戦いが好きってのもあるんでしょうなぁ。あれは。」

秀人の言葉に同意しながらザックは苦笑いした。そして、どこか呆れたような様子だが、温かい目でゴランを見守る。その様子から付き合いが長いんだろうなと、秀人は感じた。



ーーーーー



一方、前線で戦う千博は着実に魔物の数を減らしていた。しかし、戦いの手は一体の魔物の発見で一旦止まった。

「あれは……?」

離れたところからこちらへ接近してくる魔物の群れの中に、明らかに大きな個体を発見したのだ。それは、今まで相手にしていた魔物よりもひと回りもふた回りも大きかった。巨大な体に異様に発達した腕をもつ人型の怪物だ。

「っ、気をつけてチヒロ!あれはオーガだ!中位の魔物だよ!」

ミーツェもその存在に気付き、隣に来て千博に注意を促した。

「中位……ってことは!」

警戒した瞬間、千博はオーガの手に馬一頭はありそうな大きさの岩が出現し、それをこちらへ向かって構えているのを見た。

(土魔法か!それにあのサイズ!俺より全然魔法上手いぞ?!)

そして、オーガは作り出した岩を軽々とこちらへと投げてきた。千博とミーツェは飛んで来た岩を横にとんで避ける。

「すごい力だな……」

オーガは再び手に岩を作り出す。あの巨岩を食らったらひとたまりもないだろう。幸いなのは、まだ避けられる速度であることだ。幸いに周りには他の兵は居ない。これなら岩で巻き添えが出ることはないだろう。

「ミーツェ、どうする?かなりでかいけど俺たちでなんとかできるか?」

「う、うーん、本当は遠距離から魔法攻撃で動きを止めつつ、倒すんだけど……」

ミーツェに尋ねると、困り顔でそう答えられる。

「動きを止める、か……それじゃ、俺が囮になるからその隙にオーガを《大蛇ドラゴンファング》で止められるか?」

「えっ?!う、うん、できるけど……2人でやるの?!」

「やっぱ危ないかな?」

不安そうなミーツェの表情を見て、千博は考えを止める。魔物のことはあまり知らないため、迂闊には動かない方がいいという考えが頭をよぎった。千博に尋ねられたミーツェは少し考えたあと、周りの様子を見て表情を変えた。

「……いや、やろう!チヒロとなら大丈夫だと思う!それに、みんなの方に行かせるわけにはいかない!」

「おう、分かった!じゃ、動きを止めるのは任せた!」

そう言うと千博はオーガの方へ『魔拳』を使いながら走った。周りの兵士は今、負傷者を後ろへ移動させている途中であり、後ろへ行かせるわけにはいかなかった。幸いに、まだオーガは離れたところにいる。オーガが近づく前に倒すのが最善と、千博とミーツェは考えた。オーガは、自分の方へ高速で近づいてくる千博に向け、両手に作り出した岩を投げて応戦する。しかし、それを千博は『魔拳』を用いた跳躍で軽々と躱す。そして、そのままオーガを追い越した。オーガは千博の動きを追いかけ、次々に両手に岩を作り出し、投げつける。千博はそれを待っていたかのように迫る岩を躱し、時々魔力球を作っては岩にぶつけて砕いたりした。自分より小さい人間1人になかなか当てられないのが悔しいのか、オーガはイラついた様子の叫びをあげながら岩を投げるペースを上げる。しかし、千博は上手く距離をとりながら全てを躱していった。それをしばらく続けていると、ようやく魔力が切れて来たのか、オーガに疲れの色が見えてきた。

「よし!ミーツェ、頼んだ!」

「うん、任せてっ!」

オーガの手が止まったのを見計らい、千博が合図を出す。すると、オーガの背後を取っていたミーツェが4本の鎖によって両手両足をそれぞれ縛る。突然のことにオーガは困惑し、抵抗して鎖を切ろうとするが、《大蛇ドラゴンファング》は決して千切れない。

「今だよ!チヒロ、頭を狙って!」

「よし、任せろっ!」

今度はミーツェの合図により、オーガに接近した千博は魔力を拳に《留化》させ、さらに身体強化により腕力を上げた全力の拳を叩きつけた。加えて、拳がぶつかった後に拳から魔力を打ち出す。確実に仕留めるための攻撃だった。

「わ、わあっ?!」

殴られたオーガの巨体はその場で一回転する勢いで轟音とともに地面へと叩きつけられ、オーガを縛っていたミーツェも引っ張られてふらつく。オーガの顔は見るも無残に凹み、跡形もなく絶命していた。

「す、すごすぎだよ……。まさかこんな簡単にオーガを倒せちゃうなんて……」

オーガの死体を見ながらミーツェはあっけにとられながら呟いた。オーガの後方から近づいていた魔物達も無残なオーガを見て後ずさりする。

「おぉ!見たか今の?!」

「息ぴったりだな、すげぇ……」

遠巻きに見ていた兵も思わず感嘆の声を漏らしている。その様子を見てミーツェは千博の側へ駆け寄り、にっと笑った。

「ねぇねぇ聞いた?息ぴったりだって、私たち!」

「あぁ、上手くいったな。ミーツェのおかげだ。ありがとな。」

「えへへ、この調子で頑張ろー!」

戦場には似合わない明るい笑顔を見せられ、千博もつられて微笑んだ。そこへ、フォレストウルフが一頭飛び込んでくる。千博は慌てて剣を構えるが、フォレストウルフは背後からの思い斬撃で一刀両断された。

「気を抜きさえしなければ完璧だったな。」

千博たちの下へ現れたゴランは、大きな体躯に見合った、2メートルはありそうな大剣を肩にのせながら言った。

「ゴラン将軍!あ、ありがとうございました。」

突然の出来事に驚きながらも千博は礼を言う。

「構わん。それより、中位の魔物はまだ残っている。……まだやれるな?」

ゴランは目の前の魔物の群れを見ながら千博に尋ねた。オーガが2、3頭、先の方に見える。

「勿論です!行こう、ミーツェ!」

「うん、任せて!」

再び近づきつつある魔物の群れを見て力強く千博は答える。そして、隣のミーツェに呼びかけると、2人でオーガの方へと向かった。

「ふっ、そうでなくてはな……。私も負けてはおれん。」

先ほどの要領でオーガを圧倒する2人を確認すると、ゴランは大剣を構えた。成人男性1人よりも大きいサイズの大剣を両手で握ると、ゴランは目を閉じた。すると、ゴランの持つ大剣が淡い光を纏い始める。剣の輝きはどんどんと増し、周りの闇を照らすほどになると、ゴランは目をかっと見開いた。

「……ふんっ!」

そして、掛け声とともに勢いよく輝く大剣を振り下ろした。すると、凄まじい轟音とともにゴランの正面にいた魔物たちが吹き飛んでいった。正確には、ゴランが放った剣閂が地面を割きながら魔物の群れへと襲いかかったのだ。ゴランの正面には、魔物の死体が道のように一直線に並んだ。

「い、今のは……?」

再びオーガを倒した千博は一瞬にしてごっそりと減った魔物とゴランを交互に見て額に汗を浮かべた。人間の技からかけ離れた威力だ。

「うわぁ、流石ゴラン将軍だねー!今日は一段とはりきってるなぁ。」

「あ、あれは一体なんなんだ?魔法か?」

剣の一振りも鋭く力強いものだったが、今の一撃からは魔力を感じた。何らかの魔法で威力を上げたのだろうが、飛ばされた剣閃からは魔力を感じても、ゴラン将軍の体からはあまり魔力は感じられなかった。

「ふふ、驚いた?あれはゴラン将軍の特殊魔法でね、《全霊一刀ソウルブロウ》って言うんだよ。」

驚いている千博にミーツェが教える。

「特殊魔法……クロードさんのあれか。どんな魔法なんだ?」

「えーっとね、私も詳しくは知らないんだ。でも確か、自分の精神力とか生命力、体力の強さに応じて魔力で剣閃を生み出せるらしいよ?」

説明されるが、仕組みはやはりよくわからない。剣閃が魔力で生み出されたものなのは分かったが、あれだけの威力の魔法にはかなりの魔力を使うはず。しかし、ゴラン将軍は汗ひとつかいていない。つまり、あの魔法で特殊なところは、魔力の出どころのようだ。

「強さに応じて……まさか、無限に魔力を生み出せるのか?」

「ふむ、半分当たりといったところだな。」

一つの推論に至り、とんでもない魔法だと驚いているとゴラン将軍本人が近づいてきた。

「私の集中が続く限り、私が持つ全ての力に応じて魔力を生み出せる。だが、あくまで私の持つ力の全て、だ。上限はある。」

なるほど、と千博は納得した。しかし、魔力を得るための条件が様々な力、つまりパラメーターに応じてということは、何かを消費して魔力を得るわけではないと言うことだ。

「魔力が底をついて特殊魔法が使えなくなることはない、と言うことですね。」

「そう言うことだ。ただ、連続して使うのは難しいがな。……さて、敵の残りもあと少しだ。手早く片付けるとするぞ。」

そう言いながらゴラン将軍は剣を構える。確かに、中位の魔物もまだ少し残ってはいるが初めより少ない。今日は一日中神経を張り詰めていたし、さっさと倒して休もうと思いながら、千博も武器を構えた。



ーーーーー



1時間ほど経つと残りの魔物達も制圧され、ひとまずゼウシアとアイジスの兵達も陣地へと引き返した。魔物の死体は火をつけて燃やされ、処理されるようだ。てっきり素材の剥ぎ取りなどをするのかと思っていた僕はザック兵長にそのことを尋ねてみた。

「素材の剥ぎ取りですかい?あー、まぁ、今回は下位の魔物ばっかりでしたからね。中位もオーガくらいだったし、剥ぎ取りはしないですかね。」

「そうですか。確かに、上位の魔物やそれより上の魔物なら武器の素材になりそうですがこの辺りだと期待はできなさそうですしね。」

そこら中に転がる魔物の死体を見ながら僕はそう呟いた。

「へぇ!アサクラ殿は武器も作るんですかい?あの飛行艇を作ったと聞いてたんですごいとは思ってましたがね。あの新人といい、アサクラ殿といい、お若いのに大したもんですわ。」

「そんな、大したことありませんよ。あれは1から考えたわけではないですし、武器はまだ作ったことはありません。ただ、そう思っただけです。」

兵長に感心され、苦笑いしながら否定した。実際、飛行艇は飛行船の原理を知っていたから、動力を魔力を用いたものに変えただけだ。僕がしたのは知識の組み合わせで、0から1を作り出したわけではない。そんなことより、すごいのは千博、彼の方だ。魔法が使えるとは聞いていたけれど、高校生とは思えない戦いぶりだ。以前対峙した時よりも桁違いに成長している。とんでもない成長速度だ。

「はは、謙遜するこたねぇですよ。それより、どうでした?魔物との戦いを見たいとのことでしたが、参考にはなりましたかい?」

ザック兵長はにこりと笑みを浮かべながら僕に尋ねた。無精髭を生やし、なんとも人当たりの良さそうなおじさんといった雰囲気だが、その眼は鋭い。僕が何を目的として今回のお願いをしたか、それを計ろうとしているのだろう。

「えぇ、とても。今度は武器の製造に携わろうと思っていましたので、良い経験になりました。感謝します。」

「お、そりゃ楽しみですねぇ。期待してまさぁ。」

僕がそう答えると、ザック兵長はまたニッと笑って死体の処理をする兵達を手伝いに向かった。異世界に来てから、武器についてはよく考えていた。日本や元の世界の技術をこちらに取り込みすぎるのは文明を変え過ぎてしまう恐れがあるからはばかられる。だから、こちらの文明の発展の度合いに合わせて、これなら問題はないと判断して飛行船を模した飛行艇を作った。これからもこのスタンスでいくつもりだが、ゼウシアの、いや、僕が傷つけてしまった人たちの役に立つには多少の新しい技術の導入は必要だろう。今回の見学は、それを見極めるためのものだった。今回のような防衛戦の場合、やはり重要となるのは砦の有無だったり、侵攻を阻むような堀や柵の設置だったりするのだろうが、連続的に魔物を相手取るので暇がなかったのかそれらの設置は行われていなかった。それに、魔法を使う者がこちら側は少なかった。ゼウシアは一般兵や奴隷兵が主力だったため、その様な結果になったのだろうが、そうなると魔物が接近するまでに魔物を攻撃する手段が弓くらいしかないことが分かった。つまり、遠距離から魔物を間引く様な手段を一般兵は持っていないということだ。魔力が存在するこの世界では、どうやら遠距離攻撃は魔法が主力の様だ。今回のような軍の構成の場合の遠距離攻撃として使えるような武器を考える必要がありそうだ。

「……クラ殿、アサクラ殿。」

1人で考えをめぐらしていると声をかけられていたことに気づかなかったらしい。隣にゴラン将軍が立っていた。

「……す、すみません。少し考え事をしていました。」

「構わない。それより、一つ尋ねたいことがあってな。此度の戦いで何か気づいたことはないか?」

「気づいたこと、ですか?ええと、具体的にはどのようなことでしょうか?」

突然質問され、僕は意図がわからずにゴラン将軍に訊ね返した。

「ふむ、実はな、この一連の魔物の襲来について原因を調べているところなのだ。今朝周辺の森へ調査のために兵を送ったが、魔物の襲来にあってすぐに帰還して来たため情報が掴めなかった。アサクラ殿は飛行艇を設計した知恵の持ち主と聞いている。どんな些細なことでもいいのだが、何か違和感を感じたり、気になったことはないか?」

「……なるほど、そういうことですか。」

説明され、僕は再び思考を開始した。防衛戦をすると同時に、そもそもなぜ魔物の大量発生が起きているかの原因を探っているわけか。通常生き物の大量発生は周りの生態系の変化などが原因で起きるものだが、魔物がそれに当てはまるかは分からない。魔物に生態系があるのかも不明だ。だが、やはり大量発生の背景には何らかの環境の変化があったと考えるべきではないか?ここ最近の天気や温度、湿度とか……

「ん……?」

そこで僕はふと1つ、アイジスにきた時から感じていた違和感を思い出した。

「何か思いついたか?」

僕が考えている間、一緒に考えていたらしいゴラン将軍が少し期待したように眉を動かした。

「……魔物に関係があるかは分かりませんが、1つだけアイジスに来た時から思っていたことがあります。」

「構わん。教えてくれ。」

「その前に1つ確認を。アイジスとゼウシアとの間に気候の違いは存在しますか?」

僕がそういうと、ゴラン将軍は怪訝そうに眉をひそめた。

「いや、多少天気の違いはあるかも知れんが、気候の違いが出るほどゼウシアとアイジスのは離れていない。それがどうかしたか?」

やっぱりそうだ。それに、地形もどちらも平地に近いし気候に大幅な違いは出ない。アイジスだけ風が強いわけでもないし、今日は天気もゼウシアとアイジスは両方晴れだった。

「もしかしたら、魔物の大量発生は気温と何か関係があるかも知れません。今、アイジスはゼウシアに比べてかなり気温が冷えていて肌寒いです。」

「何?……そういえば、確かにこの時期にしてはここのところ肌寒いが……ふむ。」

僕の意見を聞いてゴラン将軍は考え込む。正直、魔物の生態については何も知らないので今のは本当にふと思ったことだった。

「すみません、的外れなことだったかも知れません。」

「……いや、そういえば森から帰って来た者達もそのようなことを言っていた。森の中がやたらと寒いとな。そうか……これは、無関係ではないかも知れんな。感謝する、アサクラ殿。もう少し調べてみよう。それでは。」

「はい、僕も何かわかれば報告します。」

そう言ってゴラン将軍は防衛戦の陣地へと戻って行った。それにしても、もし僕の違和感が魔物の大量発生と関係があるとすると、実に奇妙な話だ。アイジスの気温を変えるだけの要因がどこかに、ひょっとすると森の中に存在するという事だ。それは単なる異常気象に過ぎないかも知れない。しかし、もしかすると……

「この気温の変化を引き起こした何かが、森に存在するとしたら……」

1つの可能性が頭に浮かび、僕は背筋に嫌なものを感じた。もちろん確証はない。しかしもしこれが正しかったとすれば、アイジスを守るもの達にとっては非情な結末が待つかもしれない。

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