情報交換2とアイジス
「なんでって……そんなの知るわけないだろ?そもそも、それについて何か知ってることがないかを一番聞きたかったんだから。」
秀人の突然の一言に戸惑いながら、それでも話を進めるために千博は答える。千博からすれば、知るはずのないことを聞かれたので秀人がふざけたのかと思ったくらいだった。それくらい、突拍子のない言葉だったのだ。
「……となると、やっぱりおかしいな。この大陸……つまり、デントロー大陸に割り振られたのは僕のはずだ。君が他の大陸からやって来たのなら納得がいく。でも、君は僕と同時期にこの大陸に来ているどころか、なぜこの大陸にいるのかもわからないときた。どういうことなんだ?何で君はここにいる?」
秀人はそう言いながら千博の前を行ったり来たり少し歩いた。
「ま、待った!今、『割り振られた』って言ったよな?それって誰にされたんだ?」
うろつく秀人に尋ねると、彼は足を止めた。
「誰……うーん、名前は分からないけど2人組の男だったな。どちらもフードを被っていて顔もあまり覚えてない……ただ、僕達をこの世界に連れて来たのは彼らだよ。」
「2人組の男……?」
千博はこの世界に来た時のことを必死に思い出す。しかし、寝て起きた時には既にこの世界にいたのだ。その男達に会っていたとしたら、それは千博の寝ている間だ。覚えているはずがなかった。
「どう?思い出せるかい?」
「いや、覚えてない……むこうで寝て、起きた時にはこっちの世界だったんだ。俺はそいつらには会ってない。それで、なんでそいつらは俺たちをこの世界に連れて来たんだ?何か目的があったんだろ?」
いくら考えても思い出せないので、千博は詳しいことを知るために質問をしていく。
「目的か。それは気になって僕も聞いてみたんだ。そしたら、彼らはこう言った。『君には、この退屈な世界を掻き乱して欲しい』ってね。」
「掻き乱す?どういうことだ?」
随分とざっくりした言葉だ。具体的にはどういう行動が求められているのだろうか。千博は気になった。
「彼らは、どんな方法でもいいから世界を混乱させたり変革させたりして欲しいらしいんだ。例えば、新たな文明や文化を作ったり、戦争を起こしたりとかね。当然、そんなことを求めるなんて一体何者なのかって聞いたよ?けど、それには答えてもらえなかった。ただ、『俺たちはつまらない世界に変革を求める者だ』とだけ言われたよ。」
「……?い、意味がわからないんだけど。変革を求める者?なぁ、その話本当なのか?適当に作ってないよな……?」
どうにも、秀人の言葉はにわかには信じられなかった。変革を求めるのに平凡な高校生などが選ばれることがあるのか。確かに秀人は頭がいい。でも、それだけでこの世界に変革を起こすほどの影響を持つとは必ずしも言えないはずだ。だが、千博達がこの世界にいるのは事実であり、秀人に嘘を言っている様子はない。
「本当だよ!おかしな話だけど証拠はちゃんとある。僕の力、《恩恵・透明化》がそれさ。」
秀人は真面目な表情で千博の疑いを否定し、そう言った。
「《透明化》って、アレギスでのあれか?《恩恵》って言ったけどさ、あれは固有魔法じゃないのか?」
「魔法だって?いやいや、魔法なんて使えるわけないよ。あの力は彼らからもらったものさ。いくら違う世界から来たと言っても、僕らは凡人だ。世界を混乱させるなんてのは難しすぎる。だから、彼らはそのための力を僕達に与えたんだ。それが《恩恵》さ。君の力だってそうだろう?そう言えば、君のはなんていう《恩恵》なんだい?戦闘向きの力のようだけど。」
秀人に説明されて千博は考えた。言われてみれば、この世界に来た時から魔法が使えるようになったし、魔力量が他の人よりも多いのも秀人の言う《恩恵》の影響だとすれば納得はいく。
「……確かに、俺にも力がある。俺はこの世界の人よりも桁違いに魔力量が多い。秀人の話が本当なら、これが《恩恵》だと思うよ。」
「魔力だって?待って、じゃあ千博は魔法が使えるのかい?!……そんな馬鹿な!」
大きな声を出して驚く秀人。すると、その声に外を眺めていたミーツェが気づいて千博の隣にやって来た。
「どうしたの?何かあった?」
「あ、いや、何でもない。ただ、ちょっと秀人と話をしてたんだ。」
「ふーん?何か内緒話……してた?」
ミーツェは少し不満そうな顔で千博を見た。確かに、ミーツェだけ仲間はずれのようになっていたが他意はなかった。この2人にしかわからない内容なのだ。
「あ、いや、内緒話っていうかな……そう言えばまだミーツェには詳しく説明してなかったっけ。」
出身でも聞かれることがない限り、異世界から来たことを言う機会はあまりないのだ。しかも、信じてもらえる確率も低いから詳しく説明する場合も少ない。今の所、近衛隊などでは遠くの田舎から来たと言うことで話を通してある。千博は秀人と顔を見合わせた。秀人は無言で頷く。特に秀人は異世界から来たことを隠したりしているわけではないみたいだ。説明してもよさそうだ。千博は秀人にも手伝ってもらいながら異世界から来たことをミーツェに伝えた。
「……その話、本当なの?」
「あぁ、本当だよ。隠すつもりはなかったよ。でも、話す機会もあんまりなくて今まで黙ってたんだ。……やっぱり、信じられないよな、こんな話。」
千博達の話を聞いたミーツェは案の定信じられない様子で疑っているようだ。クロードさんやフェリス、グッさんにこの話をした時は明らかにこの世界に馴染みきれていない様子があったが、今はだいぶ馴染んでしまっている。ここまで来ると急にこんなことを言われても信じられないのが普通だろう。
「いや、疑ってるわけじゃないんだけど……信じたくないって言うか……」
「信じたくない?」
予想外の言葉に千博は訊ね返した。信じられないのではなく、信じたくないとなると、信じてくれる気はあるということだ。ではなぜ信じたくないのか?千博は疑問の眼差しを向けた。
「……だって、今の話が本当なら、チヒロはその、ニホンに帰るかもしれないんでしょ?そしたら、チヒロと離れ離れになっちゃう……から。」
寂しげな表情でミーツェはチヒロの袖をきゅっと掴んだ。……あぁ、そう言うことか。秀人の方を見ると微笑んでいた。
「心配しなくていいよ。もし帰ることになってもかってにいなくなったりしないし、きっとまたこの世界に来るさ。」
「……本当?」
ミーツェは不安げに千博を見上げる。なぜか別れの雰囲気が醸し出されているが、現状では帰る手段など知らないのだ。
「大丈夫ですよ、ミーツェさん。今の所、僕たちは日本へ戻る手段を知りません。しばらくはこちらの世界にいることになります。」
千博の考えを汲み取ったように秀人が補足の説明を加えて安心させようとする。それを聞いて、ミーツェの袖を握る力が少し弱くなった。
「じゃあ、もし帰るなら、その時は私も連れてってくれる?」
「あぁ、もちろん。」
千博はそう言ってミーツェに笑いかけた。ミーツェもその言葉を聞いて嬉しそうに笑った。そして、日本に帰る時の同行者の人数がどんどん増えていくなぁと心の中で苦笑いした。
「えぇと、それじゃあ話の続きをしてもいいかな?」
はたから見ればカップルのような状態で笑い合う千博とミーツェの様子を大人しく見ていた秀人だったが、耐えきれず話を切り出した。
「あぁ。えっと確か……俺が魔法を使える話だっけ?」
「うん、とても驚いたよ。だって、僕たちが《恩恵》を貰えたのは魔法が使えないのも理由の1つだからね。聞いた話では、魔法を使うには魔力生成器官がいるらしいんだ。それを僕たち日本人は持ってない。だから魔法を使えるはずがないのに……まさか君の《恩恵》ではその不利が消された上に強化されてるなんて!」
「あぁ……まぁ、そういうことらしいな。ただ、その《恩恵》の名前ってのは教えてもらってないから知らないけど。」
千博は秀人の言葉にどこか納得がいかない部分を残しながらも頷いた。日本人にはやはり魔力生成器官など存在しなかったのだ。あると言われたから受け入れたが、自分は間違っていなかった。秀人の言う通り、千博にとっては人より優れた魔力生成器官こそ《恩恵》ということになるらしい。
「まぁ、あるもんは事実だしこの話はいいや。《恩恵》よりもやっぱりそれをくれた人物の方が俺は気になるな。そう言えばさっき、大陸に『割り振られた』って言ってたよな?あれはどう言うことだ?」
《恩恵》の内容についてはもうすでに把握しているので十分と判断した千博は話題を変えた。先ほどまでの話で気にかかったところだ。
「言葉通りさ。この世界には大陸が5つあるだろう?それぞれに日本人が1人ずつ割り振られたんだ。」
「っ?!なんだって?!」
秀人の言葉の意味を理解して驚く千博。
「へぇー、じゃあチヒロやアンタみたいな異世界から来た人が他にあと3人いるって事?」
「そうです。そして、ここで疑問が浮かび上がってくるんですよ。」
驚いている千博の代わりにミーツェが確認すると、秀人は頷いた。そして、人差し指を立ててみせる。
「なんでデントロー大陸にチヒロとアンタの2人がいるのかってことだよね?」
「えぇ、その通り。初めから千博と僕は同じ大陸にいた。何かの手違いなのか、意図したものなのかはわかりませんが、疑問ですね。」
「なるほどな……」
千博はとても驚いていたが、それと同時に嬉しくもあった。同じ日本人が他に3人いることはなんとなく嬉しい。この先会えるかはわからないが同郷の者がいるのはなんとなく心強いものだ。
「ちなみに、あとの3人がどういう奴らかってのは分かるか?」
「いや、僕が知っているのは君だけだ。彼らもお互いに面識はない筈だよ。大陸を越えて接触しない限りはね。」
「そうか……」
他の3人が今何をしているのかは気になるところだ。暇があれば会いに行くのもいいかもしれない。
「会ってみたいな、他の人にも。」
「……いや、僕はやめておいた方がいいと思うよ。」
なんとなく呟くと、秀人が反対した。
「何でだよ?お前だって会ってみたいだろ?」
「確かに会ってみるのもいいかもしれないけどね。ただ、彼らも強力な《恩恵》を持っていて、世界を混乱させるように言われているんだ。僕がいうのも何だけど、会った時に何をされるか分からないよ?良心的な人もいるかもしれないけど、人は力を持つと変わってしまうものだからね……」
そう言った秀人の顔には反省の色や気まずそうな表情が浮かんでいた。思うところがあるのだろう。
「……ひょっとして、お前があんな大ごとをしでかしたのは2人組の男に世界を混乱させるよう言われたからなのか?」
「……言い訳をするわけではないけど、それも少しあるよ。でも、脅されたりしたわけじゃないんだ。力を得て気が大きくなった結果、彼らの言葉にのっただけさ。だからあれは僕の意思だ。」
「そうか。ごめん、変なことを聞いたな。」
千博は秀人に謝った。秀人はすでにあの時のことを反省し、罪を認めて贖罪をしようとしているのだ。今の発言は本人の意思を侮辱するようなものだった気がした。
「はは、謝る必要はないよ。ただ、やっぱり僕は他の3人がどういう人たちかは分からないし、会うにしても警戒する必要があると思うよ。」
「ま、どちらにせよ今の所は会う必要はないかもな。疑問は残るけど、この世界に来る時の情報は秀人から聞けたし。」
そう言って千博は窓の方に目を向ける。気づくと少し先の方に城と城下町があるのが見えていた。やはり速い。1時間ちょっとというところで到着した。
「僕たちは5大陸に1人ずつ分けられ、特殊な力をもらい、この世界を混乱させるために呼ばれた。簡単にまとめるとこんなところだね。ただ、その中で起きているイレギュラーな現象については謎だ。」
「なぜ俺たちが選ばれたのか……何で俺には記憶がないのか。それは呼んできた奴らに聞かなきゃ分からなさそうだな。会えるか分からないが。」
千博と秀人はお互いに残りの疑問を確認したが、それは考えてみても分かるものではない。顔を見合わせて苦笑いした。
「さて、それじゃあもうそろそろ到着みたいだ。お互い仕事に戻ろうか。」
正直なところを言えば、秀人の話で引っかかる点はいくつかまだある。しかし、どうやらそれは千博だけが感じているだけのようだった。とりあえずこの世界に来た経緯は分かったし、呼ばれた理由も分かったが、やはりもう少し情報が欲しい。そのためにももし他の転移者と会えたら友好的に接していこうと思った千博だった。
(なぜ千博があそこまで何も知らない状態なのか……。考えられるのは記憶障害や何かの手違い。だが、本当にそれだけか?)
窓の外の景色に視線を戻した千博を見て秀人は思った。そう、可能性はこれだけではない。そもそもの前提から間違っていることだってあるのだ。ただその場合、今の話し合いは全くの無意味だったことになるのだが。秀人は頭を振った。いや、やはりそれはないだろう。
「……千博は、僕らとは違う方法でここに来た、なんてことはね。」
ーーーーー
「ふわぁ……疲れた。」
千博は椅子に手を掛けながら欠伸をし、席に着いた。
「私も疲れた!護衛の仕事は内容は簡単なんだけど退屈なんだよねぇー。」
隣に座るミーツェも千博に同意し、伸びをする。
「2人とも疲れてるね。僕は楽しかったけどなぁ。」
しかし、2人とは違い、千博の左隣の秀人は1人楽しそうに笑っていた。今3人はアイジス国王との面会を終え、さらに飛行艇の件についての話を済ませて夕食の席に呼ばれたところだった。
「だってなぁ……月に飛行艇を何便飛ばすかとか、乗船賃はどうするとか、船着場をどうするかとか……事務的な話ばっかりだったし。」
「うんうん、決まったかと思ったらまた考え直したりするし。会議が長過ぎて欠伸我慢するのが大変だったよ。」
2人は小声で先ほどまでの時間の退屈さを語った。アイジスへ着くと国王自らが出向いて温かい歓迎をしてくれた。そして、王城へ着くと、てっきり部屋へ案内されて休めるものかと思っていたがすぐに飛行艇についての会議が行われたのだ。正直、飛行艇の移動で疲れたわけではなかったので問題はなかったが、会議の内容がまずかった。お昼頃に到着したので、昼食を食べてから話し合うのかと思いきや、昼食の場でも話題は飛行艇の話ばかり。その後に会議部屋へ移動してから飛行艇のことについて5時間近くぶっ通しで話し合っていたのだ。その間千博たち護衛はというとずっと見ているだけ。初めは秀人の後ろに立っていたのだが、1時間ほどすると気を遣って椅子を用意してもらえた。それはありがたかったが、千博たちは話し合いに参加するでもなく本当に見ているだけだったのだ。最後の方はほとんど睡魔との戦いだった。
「なぁ、会議に護衛は要らないんじゃないのか?アイジスは友好国だし、会議中は使用人以外人の出入りもなかっただろ?」
「ダメだよチヒロ。仕事なんだから。万が一に備えるのが護衛なんだよ?」
「そうだけどなぁ……これは予想外のしんどさだったよ。」
ミーツェの言うことは正しい。実際、部屋を出入りする使用人やアイジスの大臣と国王達の動きには警戒してはいた。だが、気を張り過ぎていたせいもあり最後の方は集中が続かなかった。正直、少し甘く考えていたかもしれない。
「ただ、休みなしはきつかったね。本当はああいう会議って休憩を挟むものなんだけどなー。」
ミーツェは口を尖らせた。確かにそうだ。普通は休憩なしであんなに長く話し合いしたりしない。だが、それには理由があった。
「仕方ないさ。アイジスは今忙しいみたいだからね。」
秀人が言うように、アイジスの城の中は何やら慌ただしかった。モンスターの襲撃への対処に忙しいようで、大まかなことは今日中に決めたかったようだ。
「これからまた話し合うんだろうなぁ……。」
昼食の時もあの調子だったのだ。これから夕食だが、きっとまた話し合いが始まるのだろう。
「はは、まぁ今度は初めから座れているしさっきより楽じゃないか?」
ため息をつく千博を励ますように秀人は言った。しかし、その予想ははずれた。食事には会議に参加していた大臣達はおらず、国王だけがやってきたのだ。どうやら、個人的に食事に招待してくれたようだ。アイジス国王、フランツさんは食事の間は飛行艇の話はしなかった。護衛のチヒロとミーツェのことも聞いていたらしく、色々と質問された。アレギスの話は少ししづらかったのであまり秀人の方に話が飛ばないようにした。気さくな人で、最近仕事が多いことへの愚痴なども漏らしていた。魔物から国を防衛するのは特に大変なようで、ゼウシアに協力してもらえてとても助かっているそうだ。そんな話をしながら食事を終えると、一人の従者がフランツ国王に耳打ちし、国王が少し気まずそうに口を開いた。
「食事が終わったばかりですまないのだが、どうやら今、大規模な魔物の群れが森の方から発生したらしい。そこで、君達に頼みがある。ここのところ我々は休まず魔物と戦い続け、戦線の者達は疲労している。今、国中から兵力を集めているがそれでももちこたえるので精一杯だ。君達の強さは聞いている。来客であるのもわかっている。無礼を承知で、力を貸してはもらえぬだろうか。この通りだ。」
そう言ってフランツ国王が頭を下げたので、慌てて千博達は止めた。そして、互いに顔を見合わせた。
「……どうする?」
小声で千博はミーツェと秀人の2人に意見を聞いた。
「うーん、魔物との戦いを見学させてもらいたかったからそれはいいんだけど、前線に出るのはね……」
秀人は顎に手をあてながら考えている。確かに危険は伴う。当初の目的は秀人の護衛なのだから、秀人を城へ置いて行くわけにもいかないし、かと言って秀人から離れて前線で戦ったりもできない。前線に出るのなら、秀人から離れられないだろう。
「私は手伝うべきだと思う。確かに私達には護衛の任務があるけど、国王様にここまでお願いされたら流石にね。それに、今はザック兵長とゴラン将軍の軍がいるんだ。合流して、アサクラにはそこにいてもらうのも手じゃない?」
確かに、今いるゼウシアの軍と合流すればミーツェの言うことは可能だ。だが、それは護衛任務を放棄することにはならないのだろうか。千博は迷った。
「……それじゃ、一旦ゴラン将軍達に合流して、どうするべきか聞くのはどうかな。どちらにせよ、秀人は魔物との戦闘が見たいんだから戦場には行くことになるだろうし。前線に出るかどうかはついてから考えよう。」
「そうだね。現場の状況を見て判断するのがいいかもしれない。」
「うん、いいと思う!」
千博の考えに2人はうなづく。これで意見は固まった。
「分かりました。私たちも戦闘へ参加させていただきます。ただ、一度ゴラン将軍達と合流したいのですがよろしいですか?」
纏まった事を秀人がフランツ国王に伝えると、国王の顔は安堵の色に染まった。
「おお、感謝するぞ!もちろんゴラン将軍と合流してもらって結構だ。それでは、案内させよう。」
そんな経緯で、千博達3人はアイジス、ゼウシアの連合軍が魔物達と戦う前線へと向かうことになったのだった。
ーーーーー
日も沈んでいたので、辺りは暗くなっている時間帯のはずだったが、防衛線の近くは予想以上に明るかった。そこかしこに設置された篝火がゼウシア・アイジス連合軍の陣営を照らしている。人がせわしなく動き、声が飛びかっていた。負傷者を運ぶ者、物資を運ぶ者、見張りをしている者など様々だ。千博達3人は、テントの群れの一番奥へと案内された。中では、6名程の人物が地図のようなものをのせた机を囲って話あいをしていた。3人がテントへ入ると、視線が集まる。そして、青い甲冑に身を包んだ男が口を開いた。
「どうした!何の用だ?軍議の途中だぞ!」
「はっ!失礼します!アイジス城よりゼウシアからの使者の方々を案内致しました!」
甲冑の男に対し、ここまで千博達を案内した兵士が敬礼しながら答えた。
「使者だと?そんな知らせは聞いていないが……。ゴラン殿、何かご存知ですか?」
甲冑の男に尋ねられた男はじろりと千博達を一瞥した。とても大きい男だ。初めに山道で戦った山賊の長よりもさらに少し大きいかもしれない。上から鋭く見下ろさせるような視点に、千博は思わず身構えそうになった。
「貴国との交渉のため、使者がつかわされたとは聞いている。しかし、戦闘に参加するとは聞いておらん。お前達、所属はどこだ。説明を……む?」
質問の途中でゴラン将軍はミーツェの顔を見てとまった。
「お前は確か、グスタフの娘の……」
「あれ、ミーツェちゃんじゃないか!どうしたんで?第4班が援護に来たんですかい?」
ゴラン将軍がミーツェに声をかけようとした瞬間、それを遮ってミーツェの方に無精髭の男が近づいて来た。
「ザックおじさん、久しぶりだねー!元気?」
ミーツェも明るくそれに反応して手を振った。なるほど、あの人が兵長なのかと千博はザックを眺めた。ゴラン将軍やグッさんとは違ってムキムキという感じではない。中肉中背、しかし体が鍛えてあることは雰囲気から見てとれた。そういえば、ザック兵長はグッさんとの古くからの知り合いらしい。だからミーツェのことも知っていたのか。それに、おじさんと呼ばれているくらいだ。ミーツェとの付き合いも長いのだろう。しかし、2人が仲良く話を始めようとしたところでゴラン将軍が咳払いを一つし、遮った。
「それで、どうしてお前達が居るんだ?説明してくれるか、ミーツェ。」
「えぇっと、私達、フランツ国王陛下から魔物討伐の手伝いをして欲しいって頼まれたんです。でも、今はこの、アサクラヒデトの護衛任務についてるから持ち場を離れるわけにもいかなくて……」
「なるほど、それで指示を仰ぎに来たわけか。お前もミーツェと同じで護衛任務についていた者か?」
状況を説明し、ゴラン将軍は千博達の目的をすぐに理解した。そして千博の方を見た。
「はい。第4班の真中千博です。ミーツェと同様、朝倉秀人の護衛任務を受けています。」
「マナカ……?変わった名だな。」
「マナカ チヒロ?……おいおい、こりゃ驚いたな。チヒロっていうと、あのアレギスの件の新人かい?」
千博が名乗るとザック兵長の目は興味津々と言わんばかりに輝いた。
「なんだと?あの新人か。ほう、そうか……」
2人は千博のことを聞いていたらしい。ゴラン将軍も興味を持ったようで千博を眺めたが、すぐに素の表情に戻った。
「しかし、何故ここへ来た。護衛任務ならどうするべきかは明瞭だろう。それも分からぬお前達ではあるまい。何か理由があるのだな?」
「はい、こちらの朝倉秀人が魔物との戦闘の様子を見て見たいと……」
「ほう……?」
千博が説明するとゴラン将軍の目が次は秀人の方に向く。鋭い眼光に秀人も一瞬たじろいだが、すぐに返答に入った。
「はい、私がお願いしました。私はゼウシアで開発職に就かせていただいています。魔物との戦いの様子を見れば新しい武器の案が浮かぶかと思いまして。」
「アサクラ殿と言ったか。……また珍しい名前だな。魔物を見たことがないのか?」
「いえ、魔物を見たことはあります。ですが、戦いの様子を見たことはありません。」
千博は少し疑問に思ったが、その場では追求しないことにした。魔物を見たことがあるというのは本当なのだろうか。千博はまだ見たことがなかった。……いや、サンドゴーレムは魔物なのか?だとしたら見たことはあるのか。
「そうか。今は辺りが暗い。あまり良い見学にはならないかもしれないが、それでよければ後方の方で私とザックと共にいてもらおう。それならば護衛も問題あるまい。ここまで来た以上、ミーツェとチヒロの2人には前線へ出てもらう。一般兵だけでは今は心もとない。魔法は使えるな?2人が前線へ出れば多少は士気が上がるだろう。それでいいな?」
千博が魔物のことを考えて居る間に、ゴラン将軍はすぐさま2人に命令を出した。見た目によらず頭の回転の速い人のようだ。
「はい、分かりました。でも、良いんですか?俺達は護衛任務をほったらかしにすることになるんじゃ……。1人でも残った方が良いんじゃないですか?」
初任務でもあり、きちんと任務はこなしたい千博は心配になってゴラン将軍に尋ねた。
「馬鹿者が。そう思うなら何故来たのだ。今は魔物の攻撃が激しいと聞いていたのだろう。護衛を優先するなら見学はもっと攻撃が穏やかな時にするべきだったのだ。しかし、お前達はフランツ国王に頼まれて今、ここへ来た。それはフランツ国王の頼みが重要だと思ったからではなかったのか?それなら前線で活躍してもらわねば困る。」
「あ……そ、それは……」
自分の言葉に戸惑う千博を見てゴラン将軍は眉間にしわを寄せた。
「いいか、新人。もしここへ来たのがフランツ国王の頼みを断れきれなかっただけならば、それは最も愚かな行動だったと反省しろ。自分は何が大切なのか、何をすべきかを決めて行動しろ。でないといつか後悔するぞ。」
ゴラン将軍にそう言われ、千博は考えた。確かに、自分は護衛と魔物との戦いと、両方をこなそうとしていたかもしれない。魔物と戦うなら、秀人はゼウシアの軍の誰かに任せると割りきり、護衛を考えるなら時期や状態をもっと考えて安全を確保するべきだった。
「そうですね……じゃないと、自分の行動に責任も持てないですから。ありがとうございます。」
千博がそう答えるのを聞くとゴラン将軍は厳しい面構えの中に笑みを浮かべた。
「それでいい。活躍に期待する。では、詳しい状況を説明しよう。」
その後、千博達はゴラン将軍、ザック兵長とともに軍議に参加し、連合軍が魔物と戦う場所まで移動を始めた。




