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ステラの過去とチヒロの新居

「私はご存知の通り獣人と人間のハーフです。母が人間、父は狼の獣人でした。でも私は望んで生まれた生命ではないのです。」

「……どういうことだ?」

「この世界に私の様なハーフが少ないのはおかしいことではありません。寧ろ当たり前のことなんです。異種族間の恋愛などそうそうありませんし、まして人間の方達は自分達より立場の低い亜人達など生涯の伴侶に選ぶはずがありませんから。だから普通なら私も生まれるはずのない存在だったんです。でも父は…」

「お父さんがどうかしたのか?」

そこでぐっと言葉を飲み込むステラ。その時初めて彼女の怒りを感じた。

「……父は当時森に木の実を取りに来ていた母を見つけるとその場で襲い、犯しました。…その時の子が私です。」

「……そんな………!」

「私の父はその場からすぐに立ち去りました。村へ戻った母は獣人の子を宿したと、周りや家族からさえも避けられ、挙げ句の果てには村から追い出され、森の奥の小さな小屋で私を育ててくれました。」

「……そうか。お母さんは?まだ森に?」

つらい話で変わった周りの重い空気を少しでも変えようと質問をする。

「いえ、もういません……。少し前に病気で亡くしました。……それからは一人で木の実や野菜、果物を売って何とか生きてきました。幸い耳と尻尾を隠せば町に行くことはできましたし。」

「ぐっ………。」

更に重くしてしまった……。ステラは俯いてしまった。

「ステラ、落ち込んでいても仕方がない。今は先の事を考えなければいけない時だ。そうだろう?」

「フェリス様………。」

おお、流石フェリスだ。そうだな、今はくよくよしててもしようがないよな。

「で、今後のことなんだが……ステラを女王に会わせようと思う。」

「「えっ⁈ 」」

意外な提案に千博まで声をあげてしまう。確かユリア女王は国の経済力のために貴族には逆らえないはず。それなら城に獣人を入れる様な行為は駄目なんじゃ……。

「お、おい。大丈夫なのか?」

フェリスの近くに行き小声で尋ねる。

「……はあ、貴族を殴り飛ばしたお前が何を心配してるんだ?……大丈夫だ。さっきも言ったがユリア様はくだらん偏見など持つような人ではないし、そんな簡単に屈する様な人でもない。」

「……そうだな。よし、それなら後のことは女王様に任せよう。」

話がまとまると2人は慌てるステラの方を向く。

「よし、決まりだ!行こう、ステラ!」

「ええっ⁈ その……私などがお城に行って良いのですか?獣人の血が流れているのに……」

「安心しろ。ユリア女王様はきっと良くしてくれる。」

不安そうなステラだったがフェリスの誘いは断れ切れないようで、後ろで小さくなりながらも千博達についてきてくれた。

「……なるほど、それで彼女を連れてきたわけか。」

町での騒動を一通り話し終えると、ユリア女王は神妙な表情でステラを見つめた。その視線に萎縮して下を向きながらステラは震えている。

「はい。ですからどうか彼女に仕事と安全な家を………」

フェリスの話している途中で急にユリア女王が立ち上がった。一同の視線が一気に女王に集まる。やっぱり一個人のために女王様にそこまで頼むのはまずかったか…?その場の全員が心配そうに女王の発する言葉を待っていると…

「ステラ君、本当にすまなかった!」

「「「なっ⁈ 」」」

皆が素っ頓狂な声をあげる。それもそのはず、目の前で頭を深々と下げて謝まっているのが一国の主だったからだ。ただ、この場で最も状況が飲み込めないのはもちろんステラだった。目の前で自分に対して女王様が謝罪をしているのだ。困惑して当然だ。実際、よっぽど驚いているのかさっきからステラの尻尾は床でも掃除しているのかと思うほどせわしなく小刻みに動いている。

「ふぇ?あ……わわっ!あ、頭をお上げ下さいっ!どうして女王様がっ⁈ 」

「当然、君が困っているのは全て私の女王としての力不足から来たものだからだ。いや、君だけに限らないか。本当にすまない……」

焦りすぎてステラは女王様の前ということも忘れてなぜか立ち上がってしまっている。相当困惑している様だ。それに対して真摯に頭を下げるユリア女王。千博は思った。この人こそ理想の支配者だ、と。いくら平民と雖も、例えそれが自分自身が犯した罪でなくとも、こんなに迷いなく謝ることができる支配者はいないだろう。彼女が女王ならばこの国は遅かろうが必ず変わる。確信があった。

「よし……住居と仕事は任せておけ。きっと良いものを見つけておこう。それでどうか今は手をうってくれないか?」

「そんな……私には勿体無いくらいですっ!」

「すまんな。ではそれまではチヒロ殿達と同じ様に城に泊まってもらおうか。アリス!また頼むぞ。」

「承知しました。さあ、こちらへどうぞ。」

「へっ?ええっ?ど、どこに行くんですかぁ⁈ 」

ステラの背中をぐいぐい押していくアリスさんとされるがままのステラを見送ると千博にユリア女王が話しかける。

「君にも迷惑をかけたな。すまなかった。」

「良いんですよ、女王様がこの状況を変えようと思ってるのが分かっただけでも安心しました。」

「……面目ないな。……そうだ、チヒロ殿の家のことだが、決まったぞ。」

「!本当ですか?」

「一応、今すぐにでも住める状態にはしておいた。気に入るかは不安なんだが……。どうする?もうそちらへ行くか?」

うーん、移動できるならしようかな。城にいても何もすることないし迷惑そうだし。ちょっと暗くなってきてるけど大丈夫だろ。

「はい。できればお願いします。」

「よし、わかった。なら最後に夕食をとっていくと良い。流石に新居ですぐに食事の準備というのはつらいだろうからな。」

「すいません。最後までお世話になります。」

「構わんよ、君は宰相達の恩人なんだから。それに今日のこともあったしな。さあ、行こうか。」

「はい、お言葉にあまえます。」

その後、昨日と同じ様に食事をとったあと、千博は城を後にすると馬車に乗せられて新居へ向かうこととなった。フェリスも一緒だ。食事の時新居のことを話したら是非見たいと言うので連れてきた。

「すげー楽しみだなー。城から近いんですか?」

「そうですね。近いです。充分歩いてでも行ける距離ですよ。」

馬車を操る運転手に問いかけると前を向いたままそう答えた。

「………」

「どうしたんだ、フェリス?具合でも悪いのか?」

先程から窓の外を見てずっと黙っていたフェリスに話しかける。

「え?あ、いや、何でもない。」

「?ならいいんだけど。」

何か考え事でもしているのか、フェリスはその後も俺の新居(・・)に着くまで一言も喋らなかった。





「着きました。ここがチヒロ様のお屋敷でございます。」

「………。」

「…………。」

到着を告げられ馬車を降り、その新居(・・)を見て2人は絶句した。そして、

「やしきぃ⁈ 」

「……やはりそうだったか。」

千博は叫び、フェリスはため息をついた。

「え? 『やはり』ってどういうことだ?」

フェリスの意味深な一言にすかさず反応をする。

「……城の裏へ進んでいくからもしかしたらと思ったが……。この屋敷は見ての通り城からは確かに近いが森にも近い。加えて周りに民家はほとんど無いから不気味な廃墟として有名なんだよ。」

「まじかよ………」

別に屋敷の場所は問題ない。人が少ないのは静かでゆっくりできそうだし。外見もそこまで気にはならない。ただ驚いたのは目の前の建物が『屋敷』であることだった。

「あの……俺、一人で住むんですよね?広すぎませんか?もっと小さくても良いと思うんですけど……」

「いえいえ!我が国の恩人である方を粗末な小屋などにはとても……」

「いや、別に小屋とまでは言ってないけど………」

千博は頭を掻きながら目の前の新しい我が家をもう一度見る。うん、かなり立派だ。俺には勿体無い。

「……きっと女王様はもっと良い屋敷を用意しようとしたんだな。だがここに来て日も立たないチヒロにそんな屋敷を用意するのは貴族の連中が黙っていなかったのだろう。それでも何とか屋敷を用意しようとした結果………」

「なるほど…、これになったわけだ。」

フェリスの推測は大体当たっているんだと思う。あの人柄の良い女王様のことだからな。ただ、そんなにもてなしてくれなくても良いのに…。

「ま、まあ、立派な家が貰えて良かったよ。女王様にありがとうとお伝えください。」

「承知しました。それではフェリス様、馬車の方へ。」

「む、もう行くのか。分かった。」

返事をしてフェリスは馬車へ歩きだす。さて、俺も今日は早く寝よう。

「………チヒロ!」

急に振り返ったフェリスに呼び止められる。

「その……何かあったら相談してくれ。力になれるかは分からないが私も割と近くに住んでいるし………。別にこれくらいの距離ならいつでも来れ………」

少し最後の方が聞き取れなかったがフェリスの善意は伝わった。

「おお!心強いよ!ありがとな。」

片手を挙げてそう答え、そのまま

「じゃあなー」と手を振るとフェリスもぱぁっと笑顔になって振り返してくれた。フェリスを見送るとチヒロは新居(・・)に足を踏み入れた。




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