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町と出会い

翌朝、千博はコンコンとドアをノックする音で目覚めた。もともとあまり深い眠りにはつかない方で朝も目覚まし時計がなれば瞬時に目が覚める。ノックの音はそんなに大きいものではなかったが千博が起きるのには十分だった。

「はい。どなたですか?」

ドアを叩いた相手に質問すると相手はメイドさんだった。

「チヒロ様、朝食をお持ちしました。」

驚いた。まるで旅館だ。千博は手ぐしで簡単に寝ぐせを整えてドアを開け朝食をうけとる。

「チヒロ様、お食事が終わりましたら女王様がお呼びでしたのでそちらの方にお願いしますね。」

そう言い残してメイドさんは帰って行った。

「え?女王様が?何だろう…。」

受け取った朝食をベットの横のテーブルに置いて食事をとりながら考えるがいまいちわからない。昨日食事会の時に自分の事とかは割と話をしたと思ったけど。まあ、行けばわかることか。そう納得して朝食を進め、終わるとユリア女王の所へ向かった。

「待っていたぞ、チヒロ殿!今日は良い提案があるのだ。」

ユリア女王は今日も朝から元気そうにニコニコ笑っている。機嫌が良さそうだ。

「提案?何ですか?」

「ふふ、喜ぶのだ。今日はチヒロ殿に城下町の案内をしてやろうと思ってな。」

「えぇっ⁈ わざわざ女王様がですか⁈ それは凄く嬉しいです!」

以外な提案に喜ぶ千博。だが千博の嬉しそうな顔を見てユリア女王は歯がゆい顔をする。

「うぅ、その、私も是非そうしてやりたかったのだがな……。」

そう言って横にいるバルトさんとクロードさんの方をチラッと見る。2人は城から出たそうな女王を逃がすまいと目を離さない。

「その、私もやる事があってな。すまないな。でもそんなに喜んでもらえるならこちらとしても是非案内してやりたいぞ。」

「はい!是非お願いします!」

「うむ!……で、話を戻すとだな、私の代わりに君を案内する者だが……」

「おはよう、チヒロ。悪かったな、案内するのが女王でなくて。」

「フェリス⁈ 」

まさかフェリスが案内してくれるなんて……凄い嬉しい。今のところ城の中では一番仲が良いと思うし。…可愛いし。

「ふん!どうせ私じゃ役不足だと思っているんだろう。女王にデレデレして!」

「ちょっ⁈ 何言ってんだよ‼︎ 何でそんな怒ってるんだ?」

「知らん‼︎ 」

…また何かしたのか?俺。分からない。謝ったらいいのか?いや、ここで謝るのは何か違うような…。

「いや、確かに女王様に案内して貰えないのは残念に思ったけど!フェリスと町を見れるのは凄い嬉しいって‼︎ 」

「なっ⁈ う、うるさい!もう黙っていろ!」

「ほう…、もうフェリスとここまで密になっているとは。流石だな。」

「ちょっ⁈ 密って‼︎ 何を言ってるんですか⁈ 私とチヒロはまだ…」

「まだ?」

「〜っ!ああ、もう!行くぞ、チヒロっ!」

「え?あ、ああ。」

フェリスに手を掴まれて城の外へそのまま引っ張って行かれる。

「なあ、よかったのか?女王様になにも挨拶してこなかったけど…」

「いいのだ!全く、あの方はいつもいつも私をからかって!」

「あはは…まあ、多分フェリスが困ってる所が可愛いから見たいんだよ。きっと。」

「なっ⁈ へ、変なことを言うな!ほら、行くぞ!」

「あ!ちょっと待てって!」

フェリスはスタスタと先に行ってしまう。城の門をくぐって外に出るとここに来た時となんら変わりもなく町は賑わっていた。道は綺麗にコンクリートの様なもので舗装されている。東西南北に広がる道の幅は大小様々で入り組んでおり、慣れるまでは一人で歩き回れそうにないなと千博は思った。道の両側に広がる店々を見ていると観光パンフレットで見たイタリアの町並みを思い出す。魚や野菜、肉を売る食品店はもちろんのこと、服や雑貨、家具を売っている店もあればレストランやカフェなども見られる。しっかりとした建物の店ばかりでなく、少し狭い道では祭の時の屋台や露店の様なものも店を構えていた。老若男女問わず皆が皆各々のやり方で町での時間を過ごしている。

「凄いな…。随分賑わってるけど今日は何かあるのか?」

「いや、いつもこれくらいだ。流石に城下町だからな。自然と人も物も集まるんだ。ほら、あそこに見える噴水がこの町の中心だぞ。」

フェリスに言われて見てみると真ん中に銅像が立っている大きな噴水があった。周りでは子供達が鳩を追い回したり、ベンチに座って会話する男女がいたりと、くつろぎの場となっている様だ。

「そうなのか…。あれ?噴水の真ん中の像は誰なんだ?女王様じゃないよな?」

「ああ、あれか?あれは前国王の像だ。ユリア様のお父上だな。あの方のおかげでこの国も随分発展したものだ。」

「へぇ……、これがユリア女王のお父さんか…」

白く立派な髭をはやし、全身を鎧に包んだ姿は騎士の様であるが、頭にのせた王冠と勇ましく、堂々とした立ちずまいは正しく一国の王のものであった。

「ユリア様には兄上もおられたのだが…ご家族は皆……。」

「そうか…だからまだ若いのに女王をしているのか…。」

でも何でユリア女王の家族は亡くなったんだろう。気にはなったがフェリスの悲しそうな表情を見てやめておいた。きっとこの王様は皆に親しまれていたんだろう。今はそんな話をする時じゃない。折角なんだから楽しまないと。

「行こう、フェリス。おすすめの店とか案内してくれよ。」

「え?ああ、そうだな。よし、いいだろう!私のお気に入りのケーキ屋さんがあるんだがな、特別にお前だけに教えて…どうかしたのか?」

噴水の広場を離れて路地裏の狭い道に一瞬目がいくと、千博は目をそらせなくなった。千博の視線にあるものに気づくとフェリスの表情が険しくなる。2人の見る先では女の子が3人の男に殴られ、蹴られ、うずくまっていた。

「何か獣臭えと思ったらやっぱりこいつ獣人かよ!」

「はっ!獣人なんかが町をうろつくと臭くてたまんねぇんだよ!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

男達に暴行されながら只々謝り続ける少女。その頭には犬の様な茶色の耳があり、尻尾もついている。

「何だよあれ……ふざけてんのか、あいつら!」

男達の方へ駆け出そうとする千博の前にフェリスが立ちはだかる。

「っ!フェリス!何で止めるんだよ⁈ あの子を助けないと‼︎ 」

「…駄目だ、耐えろ、チヒロ。」

「はあ⁈ 何でだよ!」

「あいつらをよく見ろ。あいつらは皆貴族の者たちだ。」

確かに男達の体はきらびやかな指輪や首飾り、帽子でかためられている。相当の金持ちなのだろう。

「貴族だからなんだってんだよ‼︎ 貴族だからってあんなことしていい訳ないだろ⁈ 」

腹からの怒りをフェリスにぶつける。フェリスは一瞬たじろいだが、それでも意見は変えなかった。

「駄目なんだ、貴族に逆らってはいけない。今この国が成り立っているのは彼らの様な貴族の経済力があるからなんだ。彼らに逆らいでもしたらこの国の平和は……」

「ふざけるな‼︎ これのどこが平和なんだ!フェリスは黙ってこんなの見てられるのかよ⁈ 」

「分かっている‼︎ これじゃいけないことは分かってるさ‼︎ でも…」

フェリスはぐっと唇をかみしめて我慢している様だった。フェリスもやっとのことで怒りを抑えているのだろう。だが千博は無理だった。

「へへっ、こいつ良く見たらいい体してんじゃねぇか!」

「そうだな。ちょっと遊んでやるか。」

そう言うと男達は少女の着ていたぼろぼろの服に手を伸ばした。布の破れる音。露わになる痣だらけの肌。

「や…めて……、お願い…です…からっ…」

絞り出すように必死に声を出し、蚊の鳴くような声でお願いする少女。見ているのはもう限界だった。千博は男達の一人に近づいて行った。

「誰だてめえ?」

返事はしない。代わりに右拳を男の胸へ叩きこんだ。声を出す間もなく男は壁に叩きつけられ泡をふいて倒れた。

「なっ⁈ 何者だ、お前!」

残りの2人がすかさず臨戦態勢になり拳を構える。

「くそっ!よくもやってくれたな‼︎」

片方が殴りかかってくる。普通の喧嘩だったら千博は男の拳を後ろに引いて避けるか両手で防ぐかしただろう。喧嘩など小学校の頃以来してない千博にはそれくらいの反応しか出来ない。だが今は違った。迫ってくる男の手が視える。男の拳の軌道がはっきりと予測できる程に。だから千博は男の拳を首を横にするだけの紙一重でかわした。そしてそのまま男の股を蹴り上げた。

「……後はお前か。」

股間を押さえて地面に這いつくばっている男を横目に、残りの1人を睨みつける。

「ひいっ!く、くそっ!覚えていやがれ!」

そうお決まりの台詞を吐き捨てると男は逃げだした。

「あ!おい!くそっ、逃がすか!」

後を追おうとするが後ろから羽交い締めにされる。

「チヒロ!もういい!あの娘は助かっただろ⁈ 追う必要は無い!」

「……フェリス…」

そうだ。俺はあの娘を助けたかっただけだ。目的は男達を全員倒す事じゃない。

「…ごめん、フェリス。ついカッとなって…。止めてくれてありがとうな。」

「あ、ああ。いや、分かってくれればいいんだ。」

とりあえず一件落着だ。だが千博には気になっている事が一つあった。

「あのさ、フェリス」

「ん?何だ?」

「そろそろ離して貰えないかな…その…ちょっといろいろきついんだけど…」

「ふあっ⁈ す、すまない!」

赤くなって急いで離れるフェリス。そう、先程から千博の背中には柔らかく心地の良い物が二つ押し当てられていたのだ。何がきついかといえば当然その感触を背中で味わいながら理性を守るのがだ。フェリスが離れて名残り惜しい様な、安心した様な感覚の中、千博は犬耳の少女を見た。少女は何が起きたのか分からないといった表情でまばたきをしていた。

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