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誤解の騎士と和解

「確か城の方に走って行ったと思ったんだけどな…。」

やっとの事で兵士達の質問と賞賛の嵐から抜け出した千博はどこかへ行ってしまったフェリスが心配で探していた。こうしてまた城に戻ってきたわけだが今までとは違って案内してくれる人はいない。

「うーん、とりあえず誰かに聞いてみよう。」

周りをきょろきょろしていると見覚えのある人に話しかけられた。

「チヒロ様、どうかいたしましたか?」

「あ、あなたは確か部屋まで案内してくれた…」

「メイド長のアリスと申します。」

「あ、そうだった!先程はどうもお世話になりました。えっと、それで聞きたいんですけどフェリスさんがこっちに来ませんでしたか?」

「フェリスさんですか?ええ、来ましたよ。」

落ち着いた様子で千博の質問に答えるアリスさん。もしかしたらこの様子だとフェリスは割ともう落ち着いているのかもしれない。千博は少し期待したがそれもつかの間だった。

「凄い勢いで見張り塔の方に走って行きましたけど。どうかしたんですかね?」

「ええ⁈ やっぱりまだ落ち着いてないじゃん!見張り塔ってどこですか?」

「あっちに真っ直ぐです。行けばたぶん分かると思いますよ。」

「あ、ありがとうございます!」

礼を言って千博はすぐに走りだした。俺が怒らせたのか?分かんないけどあいつを傷つけたのは多分俺だと思う。急ごう。走っていくと恐らくフェリスがくるまで見張りをしていただろう兵士が外にいた。

「あ!あんた、下でフェリスと闘ってたやつだな?いやー、大したもんだぜ。」

いや、見張りが城の中見張ってちゃ意味ないだろ。そう思ったが口にはださない。今はそれよりフェリスのことだ。

「なあ、こっちにフェリスが来ただろ?この先で見張ってるのか?」

「ああ、急にやって来て『見張りを変わってやる!』って言って追い出されたんだ。」

「そうか。じゃあちょっと通してくれないか?」

「いや、駄目だ。フェリスに誰も入れない様に見張っていろと言われたからな。」

だからほんと何してんだこいつ?見張りの見張りとか一番意味ない仕事だろ。

「うん、ちょっと通るな。」

「あ、こら!」

「良いからお前は見張っといて。」

そう言って先に進むとフェリスは塔の上から空を眺めていた。

「っ⁉︎ チヒロか⁉︎ どうして…?」

目元を手で拭いて振り向いたフェリスの目は赤かった。

「………泣いてたのか?」

「なっ⁈ 違う‼︎ 泣いてなどいるか!私は騎士だぞ!」

強がっているのが見え見えだが千博は何も言わなかった。

「その、悪かった…。」

「は?なぜお前が謝るのだ。お前は何も悪いことはしていない。」

「え、でも……。」

「それにな………」

言いかけた言葉を一旦飲み込んで後ろを向いてから自らの間違いを認める様にフェリスは続けた。

「闘っていて思ったのだ。お前は力は強いが剣さばきはなっていないし身のこなしも遅いし。武術の嗜みがあるとは思えない。」

千博は黙って話を聞く。フェリスは続けた。

「それにお前は私を倒そうとしていなかった。違うか?」

千博は静かに頷いた。あの闘いからここまで読み取ったのか。驚く一方で千博はもうフェリスに闘う前の様な自分への怒りが無いことに気付いた。

「お前の様な優しい者があんなに嘘を一点張りできるはずがないのだ。疑って本当にすまなかった。」

「いいよ、もう。分かってもらえたんならそれで充分だ。」

千博は和解ができたことに安心してほっと胸をなでおろした。だがフェリスの口は止まらなかった。

「それに比べて私は…。本当に情けない。一時の激情に気をとられ冷静な判断もできなかった。」

そうか、騎士……。だからこんなに

闘いに真剣なのか。今まですごい努力をしてきたんだろう。女の子なのにあんなに強いんだ。そうでないはずが無い。そんな努力を重ねて強くなって、それなのによくも分からない俺みたいな奴が急に強くなったなんてことを言い続けたら……。彼女の努力がまるで意味のない物だったと言っていたようなものではないか。

「はは……、私は騎士失格だな。」

フェリスは俯いてしまった。完璧な騎士でいようとする彼女にとって今回の事は大きなショックになってしまったのだろう。

「そんなことない!」

千博は即座に否定した。フェリスの顔が千博の顔を見上げる。

「そんな励ましはいらな……」

「励ましじゃ無いよ。事実だ。こんなあったばかりのやつに何が分かるかって言いたいと思うけど。俺のことを疑ったのは用心深い証拠だし、剣の腕も凄腕だ。冷静でいられなかったと言ったけど今その時の事をこんなに冷静に反省できてる。」

「………。」

フェリスはじっと千博を見ながら話を聞く。

「俺はさ、用心深くて自分の事がよく見えてて、その上剣の腕もたつ様な、そんな人の事を騎士って言うんじゃないかなって思うよ。足りない所があるなら補っていけばいいさ。お前ならできるよ。」

「チヒロ………。」

千博は言い終えてフェリスの顔に悲しげな表情がないことが分かるとほっとした。何とか落ち着いてくれたかな。

「ありがとう、チヒロ。そんな風に言ってくれた人は今までいなかった。だから、その……嬉しい。」

頬を赤らめながら恥ずかしがってお礼を言うフェリスは1人の女の子に変わりなく、とても可愛らしかった。

「お、おう。そんなこと言われると俺も嬉しいよ。」

フェリスのかわいさに思わず目をそらして照れる。しょうがない。女の子とこんなに話すのは初めてだったんだ。頑張ったな、俺。が、会話が終わって気まずくなる。まずい、話題を考えないと。考えて天気の話でもしようかと思った時にフェリスの口が開いた。

「なあ、チヒロ。気になっていたんだがお前の住んでいたニッポンという国なんだが、一体どこなんだ?」

「え?ああ、日本はアジアの国だよ。場所で言うと太平洋上にあるんだ。地図とかないかな?あれば説明できると思うんだけど。」

「あじあ?たいへいよう?うーん、聞いたことがないぞ。まあ良い。書庫に行けば恐らく地図があるから。それで教えてくれないか?あっ!いや、その、暇ならの話なんだが…」

俺の予定を気づかって控えめに言い直すフェリス。けど今はいろいろ情報を集めたいし。この国の事も何か分かるかもしれない。

「ああ、是非連れてってくれ。」

現状把握は大切だからな。フェリスとは仲良くなりたいし、どうせ暇だし。そう返事するとフェリスの顔が幼い少女の様にぱっと明るくなる。

「本当か⁈ じゃあ、早く行こう!」

千博はフェリスに連れられて書庫へ向かった。


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