第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その45)
「そう言えば、そう言っておけば、恰好がつくとでも思ってたんだろうな。
でも、本当は、そうじゃあなかった・・・。」
父親は、その当時の自分を思い出すのか、目が痛むような仕草を見せて言う。
「だ、だったら? やっぱり、クラブに行くのが嫌だった?」
孝は「きっと、そうに違いない」と思った。
「嫌だった!? う~ん・・・、そうだったと言えるかもしれないし、そうではなかったとも言える。」
「んんん? それって、ど、どういうこと?」
「お父さんは、お爺ちゃんに『何でも良いから運動部に』って言われてたものだから、それで陸上部に入ったんだ。『陸上だったら、要はただ走るだけだし・・・』という安易な気持ちがあった。
例えば、野球だと、打つ、投げる、走る、守るといくつもの要素が必要だろ? それだけ、いろんな練習も必要になる。
それは、サッカーでもそうだし、バスケットでもそうだし・・・。いろんな練習があるだろ?」
「まぁ、それはそうだろうけど・・・。」
孝は、あまりに安直な選び方に呆れる。
「それだけじゃあない。お父さんはその当時、身体も小さくて細かったからな。
柔道だと大きな子には勝てそうになかったし、バスケットやバレーボールじゃあ背丈が足らんで、入れてくれそうになかった。身長だけは、本人の努力ではどうにもならんしなぁ・・・。
おまけに、体力なんてまったくなかったから、練習がきついと、とても付いていけそうになかったんだ。」
「陸上部だって練習はきついんじゃないの? うちの学校でもヘドが出るほど走りこんでるよ。」
「それでも、他の競技よりはマシ。そう思ったんだ。何しろ走るだけだし・・・って思ってたから・・・。100メートル走なら、お父さんにでも出来そうに思えたんだ。」
「・・・・・・。」
孝は、開いた口が塞がらない。
「ところがだ。入部したら、顧問の先生が、『お前の身体は、長距離向きだな』って言って・・・。」
「ん? 長距離って?」
「先生に言われたのは3000メートルだった。」
「ええっ! 3000!」
「そう、3キロだわな。100メートルの30倍だ・・・。」
父親は、そう言って、恥ずかしそうに笑った。
(つづく)