第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その46)
「だ、だからって・・・、それで辞めたの?」
孝は少し責める口調になる。初めて父親の弱点というか弱いところを見つけたと思うからかもしれない。
「い、いや、そんな単純なものじゃあなくって・・・。」
父親は、さすがに「うん、そうだった」とは認めない。
「で、でも、少なくとも、その長距離を走れって言われたことが理由のひとつだったんじゃないの?」
孝はきっとそうだろうと思う。
「いや、そうじゃあない・・・。実は、当時の陸上部は非常に偏っていてな。短距離走と走り幅跳びなどの跳躍競技は強かったんだ。県大会で優勝したこともあったりして、黄金期には短距離と跳躍の名門学校とまで言われたほどだった。」
「へぇ~、そ、そうだったんだ・・・。」
「その一方で、同じ走る競技でありながら、長距離にはまったく選手がいなくってな。
だから、競技そのものに参加もできていなかったんだ。
ま、中学生だから、長距離はまだ先で良いだろうって顧問の先生も考えていたらしい。」
「な、なるほど・・・。」
「ところが、全国的にみれば、駅伝を中心とした長距離への関心が高まっていた時代で、県内の中学校でも3000メートルを走らせる学校が増えてたんだ。
高校駅伝の有力校が有望な選手を全国から集めていたという大人の事情もあったりしてな・・・。
それで、お父さんが通ってた中学の陸上部も、その年から長距離選手の育成を始めたばかりだったんだな・・・。」
「へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」
孝は、父親の話に、ただ相槌を打つだけになる。
それでも、どうしてか、席を立つ気持ちにはなれなかった。もう、夕食は食べ終わっていたのにだ。
「そんなときに小さくてか弱そうなお父さんが入部したんだ。
タイミングが悪かったと言えばそうなんだが、どうやらお父さんの体形からすれば、瞬発力と集中力が絶対条件の短距離走には向かないと思われたんだろうな。
で、まだ“海のものとも山のものとも分からない”手探り状態の長距離選手へと振り向けられたんだ。」
「無理やりに?」
孝が訊く。
「いや・・・、入部申込みに行ったとき、『希望する種目は?』と訊かれたから、お父さん、一応は『短距離走、とりわけ100メートル走が希望だ』とは言ったんだ。」
「そ、それで?」
「一度走ってみろって言われて・・・。で、たまたま近くで練習をしていた卓球部の1年生を捕まえてきて、その子と併走させられたんだ。」
「勝った?」
「あははは・・・、言いたくない。」
父親は、そう言うことで結果を暗示する。
(つづく)




