プロローグ
それは、誤字だった。
宇宙でも、神でも、真理でもない。
ただの――書き損じだった。
最初にあったものは、存在でも無でもなかった。
それは定義される前に崩壊する。
理解された瞬間に、別の何かへと転落する。
だから誰も、それを知らない。
知ったと思った瞬間、それはもう違うからだ。
やがて、そこに「差異」が生まれた。
0でも1でもない。
ただ「違う」という状態だけが発生した。
それが、最初の分岐だった。
分岐は止まらない。
枝は枝を生み、構造は構造を内包し、
世界は“世界であること”をやめながら増殖していく。
樹が生まれた。
だがそれは、ただの樹ではない。
無限に再帰し、
自分自身を含み、
崩壊しながら存在する――
真樹。
その中のどこか、
極めて矮小で、
極めて限定された枝のひとつに、
「人間の世界」はある。
彼らは思考する。
論理を作る。
名前を与える。
だが、そのすべては誤りだ。
名前は、本来の力を殺す。
定義は、存在を劣化させる。
理解は、真理を歪める。
それでも彼らはやめない。
なぜなら――
やめた瞬間、世界そのものが崩壊するからだ。
これは記録である。
ただし、真の記録ではない。
これは偽書であり、
読む者によって改変され、
理解した瞬間に崩壊する。
そしてもし、
この記録の「外側」に触れたならば――
あなたの世界は、書き換わる。
いや、違う。
「もともと書かれていなかったことにされる」。




