37 生き抜けよ
「あ、前俺を診てくれた先生!」
━お久しぶりです。━
「お、怪我はそこまで酷くならなかったようだね。」
「内本、よくやった。」
「せ、先生だなんてそんな…。」
「だからもっと自信を持ちなさいって!」
「自己肯定、大事。百目木、見習え。」
「ちょっと前も聞いたけどそれどういう意味?」
━内本先生、桃内先生、百目木先生って言うんですね。ありがとうございました。━
「アンタらの怪我はそこまで酷くなかったから、少し安静にしておけばすぐ治るよ。SST8の方では何人か骨まで行ってたけどね。」
「アドレナリン、大量故、今更、気づいてた。」
「そうだったのか…そこまでして戦ってくれたあの人たちにはお礼言わないとな。」
「何より問題なのは千装隊長です…あの人まだ完治してないのにすぐに仕事に取り掛かって…。」
「仕方ないね。あの人は誰も止められないよ。」
「流石隊長、言うべきか、否か。」
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崩壊連星、アンとダイとの戦いは終わったものの、民間人への被害や、アクアライン、羽田空港といった首都圏での生活において欠かせないインフラの一部にも被害が残り、ここまで大きな事件となってしまったために、知念総隊長を始めとしたスタビライザー本部、特殊派遣部隊、京葉隊、川崎隊は対応に追われた。
「問覚ー!オレンジジュースもう一本!」
「貴方これで何本目ですか!?健康診断引っかかりますよ!」
「うるさい!これがなきゃやってらんない!」
「問覚君も苦労してるんだね。」
「本当ですよ…総隊長だというのにずっと子供のようで。」
「リン、こっちの書類は終わったぞ。それもこっちに回してくれ。」
「止境隊長、ありがとうございます。私はもう少しかかりそうで…。」
「良いさ。あんな死闘を繰り広げた後に大量の書類を任せるわけにはいかない。まあ、少しはやってもらうがな。」
「止境隊長だってアンと戦ったじゃないですか。でも、手伝ってくださるのはありがたいです。書類関係はどうも苦手で。」
「デスクワークが苦手なのは変わらないな。戦闘面は僕より上だけど。」
「あはは…まあ優秀な仲間に頼りすぎてるのかもしれませんね。」
「良い仲間を持ったな。うちの奴らと来たら毎日僕をいじってばかりで…。」
「止境隊長が可愛いからじゃないですか?」
「っ…り、リンお前まで!」
隊長を含む隊員たちは、戦いで肩にのしかかっていた重荷を少しは下ろすことができ、荒波は凪始めていた。だが白波も少し残っていた。
夜、知念総隊長とロゴスは話をしていた。
「千装隊長とライフブレイカーも理超を果たしたか。」
━スタビライザーでは黒淵、我々に引き続き3人目。恐らく崩壊連星が狙ったのもそれが目的だろう。━
「理を超えた者がいることは、彼らに取って大型新人2人を切ってでも解決したい厄介ごとなんだろうね。」
━いや、今回はそれだけではないと我々は考える。━
「…あの2人のこと?」
━ああ。以前、彼らのことを調べたときに我々の中に欠片も情報が出てこなかったのは覚えているな?━
「あんときね。」
━それからというもの、お前の無意識空間を用いて無知の知を解き明かすべく我々は奮闘したのだが…情報は、出てこなかった。━
「空き容量が足りなくてそりゃどうもすいませんねって、"情報"、は?」
━性質は出てきた。彼らは、崩壊連星と対極の性質を帯びている。━
知念総隊長は目を見開いた後小さく息を吐いた。
「なるほどねえ…ロゴスはこの世の知の全てを含んでいるから、それから抜け出したってことはもう、彼らも理超に近しい状態なんだ。」
━そういうことになるな。もっと解き明かしたいものだが…。━
「自慢だけど」
━自慢なのか。━
「私、頭結構人間の上澄みだからね?それでも彼らの情報を出して読めないってことは他の人間でやったら脳弾け飛ぶよ?」
━別にお前を責めているわけではない。寧ろ、この無知の感覚は嫌いではない。まあ早く解き明かさないとならないのは分かっているのだが。━
「私も頑張らないとな。」
知念総隊長は窓の外に輝く東京の夜景を見ながら水を一口飲んだ。
「崩壊連星も動き始めてる。理超、八代ミツキとガイードの正体、崩壊連星の主の情報…分からないことを分かるようにしないとね。」
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皆が多忙に追われるその一方。
晴るに満ちた午後。千葉県佐倉市、表札には千速と刻まれたとある民家。アウトロードはインターホンを鳴らした。
少しすると、ドアが開いて中から50代ほどの女が出てきた。アウトロードの姿を見ると、目を見開いた後、両手をしっかりと握って家へ招き入れた。
居間には新聞を読んでいるこれまた50代ほどの男が座っていた。男は一言、アウトロードに座るよう促して、アウトロードもそれに従って座った。
アウトロードは話した。千速との楽しかった思い出、千速を奪われた苦い思い出、自暴自棄になって復讐のみを追いかけていた思い出、そして…自分を取り戻してくれた2人のことを。
男は口を開いた。
「墓…遺骨はないが、建てるか。」
女は同意し、付け加えた。
「綺麗な、仏壇もね。」
帰り際、アウトロードがドアを開けると、その男女は背中を押した。
「生き抜けよ。」
アウトロードは振り向かずに呟いた。
━応。━
アウトロードは走り出した。
京葉編はこれにて完結となります。
5/13から新人合同訓練会編(短)、その後は鎌倉編(京葉編と同じくらいの長さ)を投稿します。
改めまして、ここまでの応援ありがとうございます!これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。
では私はブルアカで石かき集めてきます。




