第13話 訓練場で模擬戦
「アイナさんの冒険者への登録と、お二人のパーティ結成の手続きは済ませましたよ」
「ありがとう」
色々ありながらも、ミリアさんはきちんと手続きはしてくれた。
「パーティ名はどうしますか?」
「それについては特に決めてないな……。アイナはなにか希望はある?」
「私の希望は、ご主人様の尊きお名前が他の方々にも広まるような、素晴らしいパーティ名です」
「具体的にはどんなパーティ名?」
「『偉大なるレースケ様による導きの一行』はどうでしょうか?」
なんだそのトンチキな名前!?
「導きってなに? 俺が何をどこに導くの?」
「私たちのような至らない若輩者を、レースケ様のお力とお知恵で正しき場所へと導いていただくのです。あるいは、私のような至らない若輩者の全てを、レースケ様というこの世の唯一の光へと導くのです」
「あなたたちは宗教でも始めるんですか?」
ミリアさんが再度ジトーとこちらを見ながら尋ねる。
ちょっとミリアさんが引いてるじゃんか。
さっきから引きっぱなしだったな!
「始めませんよ……。アイナ、そのパーティ名はダメ」
意味わからんこと言い出すうちの奴隷の意見は却下。
「パーティ名はいつでも変更できますから。いい名前が浮かぶまで、とりあえず仮の名前をつけることもできますよ。パーティのリーダーの名前を仮の名前として登録もできます。チーム・レースケという風に」
「ご主人様の名前が入っている……! 素晴らしいですね!」
アイナが目をキラキラと輝かせている。
そんなにパーティ名に俺の名前を入れるのが良いのだろうか。
「まあ、仮のパーティ名ならそれでいいや」
あくまでも仮の名前だ。
いずれ変更したい。
いつまでもパーティ名に自分の名前が入っているのは、さすがに恥ずかしい。
「では登録しておきますね。いつでも変更できますから」
「おねがいします」
「今日はどうしますか? 新しい依頼を受注しますか?」
「いいや。今日はアイナの訓練をしたいから。訓練場に行くことにするよ」
「わかりました。いってらっしゃい」
にこやかに手を振ってくれるミリアさんを尻目に、俺とアイナは訓練場に行く。
「アイナの訓練のために、これから模擬戦をするとしよう。アイナのスキルから考えて使うのは剣だよな。俺の剣を貸すから、それを使ってくれ」
「かしこまりました。お貸しいただきありがとうございます」
アイナに剣を手渡し、俺は予備の剣をアイテムボックスから取り出す。
いざという時のために剣は複数用意してある。
「遠慮しないでかかってきてくれ」
さて、『剣姫』の実力はどれほどだろうか。
見てみよう。
「いきます!」
アイナは踏み込み、一瞬で俺との距離を詰めて剣を振り下ろす。
それを自分の剣で受け止めると、さらに二度三度と剣を振ってくる。
怒涛の勢いで攻めてくるアイナの剣を防いでいく。
Sランクスキルの『剣聖』をもつ俺でも、余裕がなくなるほどだ。
「強い……!」
訓練場で他の冒険者と剣で模擬戦をしたことは何度もあった。
それによって、他の冒険者の実力は大体わかったのだが――。
彼女は俺が戦った中で最も強い!
これは期待以上だ!
「たぁー!」
アイナが鋭い一閃を繰り出すが、それも防ぎ、さらにはこちらからも剣を繰り出す。
「う!」
攻める側と防ぐ側が交代した。
攻撃面が想像以上に強いのはわかった。
さて、防御はどうだ?
防ぐ方に回ると、さっきまでの動きのキレはなくなった。
アイナの力が抜けたのを感じると、彼女の剣を弾き飛ばす。
「あ――」
その勢いで、アイナは尻もちをついて座り込んだ。
「負け、ました。さすがご主人様です」
はぁ、はぁ、と彼女は肩で息をしていた。
かなり激しい動きをしたからな。
疲れてしまうのもしょうがない。
特にアイナは、これまでまともな戦闘をしたことなんてなかっただろうし。
こういう動きは慣れていないから、疲れたのだろう。
「はぁ……はぁ……。私はこんなにバテバテなのに、ご主人様は息一つ乱さないで……。さすがはご主人様です」
「お疲れ。今の戦いでだいたいわかったよ。少し休んだら反省会をしようか」
「はい」
アイテムボックスから出した水筒の水をお互い飲みつつ休んだ後、訓練場の椅子に座って反省会を行った。
アイナの課題は防御面だ。
防ぐ側に回ると、体がこわばり力が上手く出せなくなっていた。
技術的な問題というよりも精神的な問題だろう。
いままで嫌悪の呪いのせいでひどい目にあわされてきたトラウマから、攻撃を受けると無意識に体がこわばってしまうのかもしれない。
トラウマを治す治癒魔法はないわけではないのだが。
あれはあまり使いたくない。
トラウマであっても過去の自分の記憶であることには変わりなく、それを魔法でどうにかすると不都合が生じてしまうものだ。
トラウマを治す代わりに、精神が不安定となり、どんな影響がでるのかわからないデメリットを抱えている。
それでもトラウマを抱えて自殺したり廃人になるよりかはずっとマシなのだろう。
でも戦闘時に体がこわばるといった程度なら魔法を使わずに根気よく治していったほうがいい。
防御面の不安点を伝えて、アイナに対人の模擬戦を繰り返して攻撃を受けることに慣れるように伝えた。
「わかりました。私、がんばりますね」
「ああ。俺だけじゃなくて色んな人と模擬戦をして、防御の問題を克服していけばいいさ」
「はい!」
その後、アイナは一日中訓練場で訓練を行っていた。
途中までは俺が指導し、それ以降はアイナは他の冒険者と模擬戦を繰り返す。
アイナが攻撃側に回れば瞬殺で倒してしまうため、できるだけ防ぐ側で行動するように指導した。
最初は体がこわばっていたが、続けて訓練していくうちにそれも少なくなっていった。
これならば、すぐに防御面での課題もなくなっていくだろう。
「ご主人様のおかげです!」
アイナはそれを伝えると、喜びながらも俺を称えてきた。
「いや、頑張ったのはアイナだろ?」
「いいえ。ご主人様のおかげなんです。ご主人様が一緒に寝てくれて、手を繋いでくれて、優しい言葉をかけてくれて。そういった嬉しい記憶が、どんどん私の辛い過去の記憶を覆い隠してくれるんです。だから、全部ご主人様のおかげなんです」
アイナは俺の手を取り、そしてギュッと両手で握りしめる。
「ありがとうございます。ご主人様」
「まあ、アイナがそう思うんならそれでいいや」
アイナが握っていない方の手で彼女の頭をなでると、アイナは嬉しそうに顔をほころばせた。




