五十二話・メイリのお仕置き怖い!
「さて...モカ達もしばらく帰って来ないだろうし、暇だな...」
「それなら、クエストにでも行けばいいんじゃないッスか?」
「クエストか...」
そうだな...新しく覚えた『弧月斬』のおかげで、サポートがさえあれば
なんとか戦えるってわかったしな...。
「それに最悪、パーティを募集すればいいか...」
「そんな必要はないッスよ!だって、私がいるんッスから!」
サイカは自分の胸をドンと叩き、ドヤ顔をしてライに進言する。
「サイカが...?お前って、戦闘経験があるのか?」
「ふふ...戦闘経験って誰にモノを言っているんッスか?戦いの経験なんて、
少なく見積もっても、ざっと一万は軽く超えているッスよ!」
「い、一万...だと...!イヤ...いくらなんでもボッタもいい所だぞ...!」
どう見たって、俺より年下にしか見えないこいつが、何で俺の戦闘経験の
何倍も上なんだよ...ありえないだろ!
「ボッタって、なんッスか?」
「嘘つくなって話だよ...」
「う、嘘じゃないッスよ!主様は失礼な事を言う人ッスね!?」
ライの嘘つき発言に、サイカはプンプンと膨れっ面をして抗議する。
「じゃあ...LVも相当に高いって事だよな、サイカさんのLVはどれ程で?」
俺はちょっと意地悪な口調で、サイカのLVを聞いてみる。
「LVッスか...?LVは知らないッスね...!」
「LVを知らない...?」
「はいッス!」
「あ、もしかしてお前...ステータスカードを作っていないんじゃ
ないのか?」
「ステータスカード...?何ッスか、それ?」
サイカはキョトンとしたハテナ顔で、ライの事を見ている。
「え...お前、ステータスカードの事を知らないのか?」
「はい...知らないッスね...」
ライの言葉を聞いたサイカが、首をふるふると小さく振っている。
一体、どういう事だ...?ステータスカードを知らないなんて...。
基本、自己証明の為に非戦闘者でもステータスカードは持っているはず
なのだが...?珍しい者もいたもんだ...。
「よし!んじゃ...暇潰しも兼ねて、今からサイカのステータスカードを
作りにギルドへ行ってみるとするか...!」
そう思ったが吉日と、俺はギルドに出かける準備をする為に行動を
開始する。
それから数十分後......。
「それじゃアーミカ、門前まで頼むね...!」
「ハイ!任せて下さい!」
そう言うとアーミカは、綱をバシッと鳴らして馬車を発進させる。
「所で...ライさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん、何をだい?」
「その娘...誰ですか?」
ライの隣にちょこんと座っているサイカへ視線を向けたアーミカが、
その娘は誰かと聞いてきた。
「誰って、君達と同じメイドさんだよ」
「へえ...そうなんですか?私は見た事ないんですが、所属が違うからかな?
ねえ、あなた...。屋敷のどこを担当なんですか?」
「そんなの知る訳ないッスよ!だって私、メイドじゃないんッスから...!」
「え...!ライさん...これは一体、どういう事でしょうか?」
サイカの発言を聞いたアーミカが、少し困惑した表情でライへ
問いかけてくる。
「ああ...こいつ、メイリのお仕置きが怖いらしくって、どこに所属して
いるのか、全く教えてくれないんだよ...!」
「ごく...メイド長のお仕置きっ!?」
アーミカはメイリのお仕置きと聞いただけで顔を真っ青にして、
身震いをしている。
「それは...聞かぬがって、やつですね!」
「ああ、頼むがそうしてやってくれっ!」
「はは...了解ですっ!」
アーミカは空気を呼んで、サイカの事を何も見なかったし、
何も聞かなかった事にしてくた。
「ふう...さあ!着きましたよ!」
「ありがとう、アーミカ!」
「所でライさん、本当に私がついていかなくても大丈夫ですか?」
アーミカはライが迷子になったり、危険な目に合わないかと心配で
しょうがないようだ。
「大丈夫だって、アーミカ!ここの地図も大体が頭に入っているし、
それにこいつもいるから...!」
「ハイッス!私がいる限り、主様の身に危険はないッスよっ!」
ライの言葉を聞いたサイカがドヤ顔を決めて、ドンと来いという
表情をしている。
「そうですか...。ではライ様、夕方の時間にお迎えに来ますので、
それまでには帰って来て下さいね!」
そう言うとアーミカは屋敷の方へ馬車に乗って帰って行った。
「それじゃ、ギルドへ行こうか...」
「了解ッス!」
こうして俺とサイカは、ギルドへ向けて足を動かす。
それからしばらく歩く事、数十分...俺達はギルドの出入り口前に
迷わずに辿り着いた。
「やっと、ついたな...。それじゃサイカ、中に入るぞ!」
「ハイハイ、了解ッス♪」
俺がギルドに足を向けて歩くと、その後をトコトコとサイカが
ついてくる。
「おお!ライじゃねえか!今日はメイリさんはいないのか?」
「メイリは何か城に用があるって、ロザリー達と出ていったよ」
「そっか、ダーロット城に...。なるほど、それで今日は他の奴と
ギルドに来てるってわけか...それでその娘さんは誰なんだ?」
「サイカの事か?この娘は、あの屋敷のメイドさんの一人だよ!」
「メイドかぁ!メイリさんといい、アーミカといい、お前って本当に
あの屋敷のメイドにモテモテだよな!」
「はは...そう言われると照れるな!」
「そこは慌てるなりして、否定しろよ...ったく...」
今、俺に話しかけてきたこの冒険者は、この間メイリと一緒に来た時に
知り合った冒険者の一人だ。
メイリの説教から助けた事もあって、あれから何かと世話をやいてくれる、
ありがたい存在である。
「それで、今日はクエストをやりに来たのか?」
「まあ、それはまだ未定って所かな...?」
俺もできればそうしたいんだけど...。それはこいつ次第かな?
冒険者に別れの挨拶を交わした俺は、ステータスカードの登録の為、
受付嬢の所へサイカと共に歩いて行く...。




