現状の整理
小さな手と足に思い通りに動かない身体。声帯が発達していないせいか、言葉もままならない。
いくら波瀾万丈な人生を送ってきた俺でも、この状況は許容の範囲外だ。
いったい、どうなっているんだ?
混乱していると、俺の顔に影が差した。
「――……、――――……!」
女性だ。女性が俺を覗き込んで喋っている。
しかし、彼女が何を言っているのかは分からない。まだ耳が発達していないせいか、言葉を上手く聞き取れないのだ。
落ち着け、落ち着くんだ俺。冷静になれ。まずは状況の整理をしよう。
気を落ち着かせる為に、俺は記憶を振り返ってみる。
魔族との戦争にて、俺は魔王を討伐することに成功した。
だが、俺は魔王の消滅魔法を受けて、致命傷を負った。
自分の身体が消滅するのを感じながら、俺の意識はそこで途切れた。
そして、目覚めたら赤ん坊になっていた。
……うん、気を落ち着かせてみたが、結局意味が分からない。
俺は確かに死んだ。なのになぜ、俺は赤ん坊になっているんだ?
これはもしかして『転生』というものなのではないか?
生あるものは必ず死ぬ。しかし、その魂は滅ぶことは無く、何度でも新しい肉体を得て生まれ変わると伝えられている。
もし、本当に『転生』したのなら、俺という自我があるのはなぜだ?
それに戦争はどうなった?
仲間たちは?
そして、ここはどこなんだ?
いくら考えても答えは出ない。教えてくれる人もいない。
情報が得られない状況にこれ以上の思考は無駄だと思い、取り敢えず俺は目の前の女性の観察を始める。
年齢は二十代後半ぐらいだろう。黒い髪を頭の後ろで束ね、エメラルドのような綺麗な瞳。
世辞抜きで綺麗な女性だ。俺が赤ん坊ではなく、前世の姿だったら口説いていただろう。
この女性は誰なんだ?
俺の母親か?
しかし、彼女はメイド服を着ている。どうやら彼女はメイドのようだ。
だとしたら、ここは貴族の家なのか?
そんな事を考えていると、女性は俺を優しく抱き上げると――
「――――♪ ――――――♪」
子守唄らしきものを口ずさみ始めた。
言葉も内容も分からないが、彼女の慈愛に満ちた眼差しと心地の良い感覚に眠気がさす。
考えなければならないことはたくさんあるが、今は眠るとしよう。
そして、俺は意識を手放した。
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