5 分かれ道の運命
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「ねえ、お母さん!!」
明るい金髪のみつあみを揺らしつつ、ブラウンの瞳がきらきらと光っている。
私は家事の手を止め、娘を見た。
「なに?」
「これ見て。読んでみたんだけど、なんだかよくわからないの。」
すると娘は、古びた1冊の日記帳を、私に見せた。これは、この前の休日、娘が屋根裏掃除をしている時に見つけた戦利品のようである。私もかつて幼い時に、一度だけ見たことがあったが、時を経て、どこにいったかわからなくなっていたのだ。私は手を拭きながら、娘の手から日記帳を受け取る。中身は、私の祖母の祖母・・・が書いたもののようで、中のページはもちろん色あせているが、綺麗な字でびっしり書かれている。
娘には難しい言い回しがあり、文章への理解が未熟なため、途中なにを書いているか、わからなくなったようだ。
「・・・ああ、これは、おばあさんの、そのまたおばあさんのことが書いてあるのね。」
私は言葉を濁す。
其処に書かれているのは、過去に彼女が体験したことが書かれているのだが、あまり明るい内容ではなかった。両親の不幸、夫の不貞、周りからの嫌がらせ、孤立・・・
一言で言えば、彼女は道を間違ったのであろう。好きな人がいても、自分には伴侶がいる。そして、永遠の愛は幻で、何時しか彼女の夫への愛も覚めてしまった。其処に現れた、運命の人。
紆余曲折あって、夫との関係を修復したかに見えた。しかし、彼女は表向きは夫に従っていたが、心までは修復できなかったのだ。不器用な彼女も、次第に巧妙な仮面をかぶることを覚え、ある意味、夫や周囲を欺いていたのだろう。だが、この日記には、その心情が赤裸々につづられていた。
初めは夫への恋心、結婚できた喜び・・・しかし次第に夫・周囲への悲しみ、恨み。そして彼女の乾いた心に染み渡るような、欠けた心を埋めるような存在の出現。そして、忘れかけていた情熱の再燃。
驚くことに、彼女はその性格から考えられないほど、大胆な行動もとっていたようであるが、彼女は寂しかったのだと思う。
そして、日記を読みすすめていくと、ある期間、空白のページがあるのに気が付く。数ページ空いた後、再びつづられた日記帳の出だしは、
〝私の大事な天使。あの人と私の唯一の宝物。私は罪を犯したのだろう。だが、私はその罪を受け入れる〟
であった。その後のページは、もう文字は書かれていなかった。そこで日記帳は途切れていたのである。
そして、日記の最後には、ぼろぼろになった、二人の人物の肖像画が挟まっていた。
一人は女性で、特別美しいとは思えなかったが、優しそうな瞳をしている。もう一人は、理知的な眼鏡をかけている、整った顔立ちの黒髪男性だ。
恐らく、彼女と、相手の男性なのだろう。家の母の家系は、皆、金髪か茶髪だ。娘も、私も、母も、親戚も。黒髪の人間は、誰一人としていない。そして、黒髪というのは、このあたりでは、めずらしいものである。
そういえば・・・日記の最後のくだりのことは、私も昔、母に質問したことがあった。しかし、母は忙しいと、その話題に触れるたび、教えてはくれなかったことを思い出した。私も大人になると、この話題や日記帳の存在すら忘れてしまったので、彼女のことは、結局聞けないままであったが・・・。
多分、彼女は夫の知らぬ間に、相手との子供を妊娠していたのだろう。
この後彼女がどうなったかはわからない。出産したのか、夫とは別れたのか、相手の男性との関係はどうなったのか・・・全てはわからずじまいだ。母に聞けばわかったのかもしれないが、母は昨年亡くなっている。
興味はあるが、今となってはもう真相はわからない。今度、母方の親戚と会ったら、聞いてみることにしよう。だが、親戚は遠方に住んでいるので、何時になるかわからない。また、忘れているのかもしれないな・・・と私は思った。
その時、ぼんやりと考え事をしていた私を、娘がつついた。
「おかあさん、あのさ、今日お友達できたんだよ!転校してきた子なんだけど、お家にいったの。」
現実に引き戻された私は、娘を見ていった。
「そう。失礼はしなかった?」
「大丈夫だよ。あ、それでね、私、その子の部屋で遊んでたら、こんなの見つけたから、借りてきちゃった。ねえ、この日記帳と似てない?表紙とか。それに、後ろに書いてあった絵が、同じだったんだよ!!二人でびっくりしちゃった。その子のお母さんに、お話しようとしたんだけど、おば様、お留守だったの。だから、お母さんにみてもらおうと思って。」
無邪気に話す娘に、若干戸惑いながら、渡されたノートを見た。確かに古いもので、表紙はこちらの方が少し新しい気もするが、表紙は同じものである。促されるまま、ぱらぱらページをめくると、最後の方に、驚くべきものが目に飛び込んできた。
それは、あの日記帳にはさんであった肖像画と同じ人物が、描かれていたページである。
そのノートの初めにもう一度戻り、文章に目を通すと、家にあった日記帳の続きのような内容に驚く。妊娠したこと、その経過、そして夫である人との愛にあふれた生活・・・打って変わって、明るい内容ばかりだ。そして、そのノートは出産した一年後まで書かれて、終わっていた。
彼女がその後どうしたかはわからない。が、年月が過ぎ、こんな形で、彼女の軌跡をたどることになろうとは。運命はわからないものだ。私は娘に、内心の動揺を悟られないように尋ねた。
「その子の名前、なんていうの?オリエ??」
オリエは答えた。
「ウィルフレッドっていうの。このあたりじゃ珍しい、黒髪の、すごくかっこいい子よ!席が隣になったから、すぐ仲良くなったの。みんなで、ウィルって呼ぶことにしたわ。」