72 信頼の鼓舞
ここ最近、フランたちは何かとコミュニケーションを取ろうとしてくる。気が付けば傍にいる感じだ。特にシオリは近い。理由は分かっている。フェンリル討伐は命がけだ。後悔が無いように一緒にいられる時間を大切にしているのだろう。
そして、瞬く間に時は過ぎ。ついに討伐当日となる。道中でレナとも合流するらしい。三人は不安を隠しながら無理やり笑みを作った。
「まさか私たちが仲良く組んでボス討伐なんてね」
「フフフ、確かに。少し前なら考えられませんでしたわね」
「特にフラン。絶対に無いと思った」
「珍しく意見が合うね。私もよ、シオリ」
お互い見つめ合うと吹き出した。彼女等は自然と笑う。その後、こちらを見ると、まるで脳裏に焼き付けるように凝視する。そして、行ってきます、と挨拶をかわした。笑顔で送り出す。静かになった家で10分ほど瞑想を行い、終える。
「さてと。用事を済ませるか」
【古代の森入口前】
ダンジョンの入り口が大勢でにぎわっていた。フェンリル討伐のために集まった猛者たち。二パーティーで編成されており、メインが26名。サポートが19名の計45名からなる大パーティーだ。フランたちもそこにしっかりと混ざっていた。
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メインパーティーのリーダー
黒須城慈
LV:43
ジョブ:ガーディアン
スキル:自称「魔弾」
サポートパーティーのリーダー
LV:33
伊西孝太郎
ジョブ:騎士
スキル:不明
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歳は三十代半ばだろうか。リーダーのクロスは高くなっている地形に移動し、力強い言葉で語り掛ける。
「今回のフェンリル討伐のリーダーを任された黒須だ。こっちはサポートのリーダーを任された伊西」
名前を呼ばれた伊西は手を軽く上げ、会話を妨げないようにジェスチャーで挨拶をする。
「さて、ここに集まったのは知っての通り、選りすぐりの精鋭。それ故長々と話す必要はないと考えている」
クロスは黙って戦士たちの顔を見渡した。それに応えるように多くの探索者が余裕のある笑みを浮かべている。だが彼等は油断している訳ではない。
皆、ギルドから渡された資料を完全に読み込んでいる。内容は作戦やある程度の個人情報が書かれている。ジョブは滅多に隠さないが、スキルや魔法は隠してる者が多い。
大きな討伐になるほど情報を明かす傾向にあるが、それでも言いたくない者もいる。要はなにが出来るかが伝われば問題はない。
しかし、どんなに策を練り、連携を強化しようとも予想外の出来事はほぼ毎回起こる。それが分かっているからこそ、余計な力を抜いていつも通りに振る舞い、力を最大限に発揮できるようにしている。彼等は死と隣り合わせであろうと生存してきた猛者である。
「ここ最近の事だ。誰もが驚いたと思う。短期間で階層ボスが次々と倒され、不可能だと思われていた記録が幾度も塗り替えられた……そして本日ッ。それに関わった者も参加している。そうッ!! フェンリル討伐は決して不可能ではないッ。今回その脅威を倒すのは我等であるッ!!」
リーダーの鼓舞に大きな歓声、共感の声が鳴り響いた。少し時間を置く。暫くすると自然と音量が小さくなり、次第にリーダーの方に注目する。
「今回は日本だけでなく、海外勢も興味を持っている。誰にも恥じぬ討伐になるよう、期待しているッ!!」
またしても気合の入った歓声が響き渡った。少し待つと締めの言葉を言う。
「三十分後、ダンジョンに入る。各自最終チェックを怠るな。以上だ!!」
クロスの話が終わり、一旦自由な時間となる。主に連携する者たちが作戦と初対面のパーティーメンバーと戦術の確認等を今一度行うのである。
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4/27 誤字報告下さった方、ありがとうございます。修正しております。




