番外編 「高田さんちの4月1日」
突発○○の日シリーズ。
母親が祭り好きだった。
季節のイベントも積極的で、クリスマスにはブッシュ・ド・ノエル、正月には3日前から仕込んだ3段重ねのおせちを作って周囲に配るのは毎年のこと。
学校行事があれば友人たちが2度見する弁当(手作り菓子付き)を持たされた。
子供は男しかいないのに関わらず、ひな祭りを自宅で開催し、近所の子供を集めて料理を振る舞うのを諦めたのは小学4年5年あたりだったと記憶している。
家が騒がしくなるのを喜んでいたのは母と兄だけだったな。
仕事人間だった父親は、母がやることを応援はしても参加したことがない。
そんな家で育ったわけで、季節のイベントは最早習慣的なものになっていた。
幼少期の情緒教育の賜物……個人的には弊害かもしれない。
この日も当然なにか仕出かすわけなのだ。
「ただいま」
せっかくの休日だというのに、朝から母に呼び出され、実家に帰って制作の手伝いをさせられていた。
今年のテーマは「屋台飯」。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、フライドポテト。
作ったこれらはフライヤー用に撮影したあと、地域の子供会に配るらしい。
……うちの子供はみんな成人しているんですけど。
こういうものは子供が喜ぶのだからいいんだけど。
少しお裾分けをもらったので奴らに食わせようと思う。
健吾用の餃子もつくったので、イベント的には万全と言えよう。
「これ、うちの母親から」
手持ちの袋からパックを取り出す。
「なんすか。いっぱいありますねー」
「おいしそー! チンしていい?」
「お好み焼きは豚玉か? イカ玉か?」
「はらへったわー」
リビングには全員が揃っていた。
わらわらと料理が広がっているテーブルに群がる。
「冷めても美味いんでそのまま食ってください。健吾は餃子な」
「指定なのかよ」
一応体に気を使ってやってるだけなのだが、怪しまれてしまったか。
それでも腹が減っているのは本当みたいなので、さっそく餃子をつまみ上げる。
「んあ? あー、そういう」
感触だけで中身が何なのかわかったようだ。
ちゃんと焼き色つけたのにな。
他の品にも目を向ける。
確信したかの様な視線を寄越すので、すっと避けておいた。
うちがどんな家か知っていることもある。
「なによぉ」
「別にぃ? 美味いぜ、餃子」
「そりゃどうも」
健吾が食べれるものを作っているんだから、不味いなんて言ったらはっ倒す。
「ずるーい。私はたこ焼きもらうわ」
「俺はつくねいただきます」
「豚玉!」
想像と違う味だろうが、美味い筈だ。
反応が楽しみでガン見してしまう。
3人が揃って口に入れる。
工夫はしたが間近で見たら気づくだろう。
熱はないし匂いも違う。
「なにこれ、シュークリーム?」
「ドーナツだ!?」
「甘っ!」
母が作ったのはびっくりスイーツ。
見た目はたこ焼きやお好み焼きだが、甘い菓子でできている。
たこ焼きはプチシューにチョコソースをかけ、ドライチェリーのシロップ漬けで紅生姜や青のりを表現している。
つくねは一口ドーナツ。つくねっぽいゴツゴツした感じを出すのが肝。
お好み焼きはパンケーキに、これもチョコソースと食紅で色付けしたチョコがまぶしてある。
焼きそばはモンブラン、フライドポテトはスイートポテト。
餃子は求肥であんこを包んだ餅。焼き目はバナーで炙った。
どれも手が混んでいるものばかりだ。
「高田先輩、これなんすか!?」
「だから、うちの母親からの手土産」
普通の家庭はこんな手土産持たせたりはしないだろうけれど。
案の定、3人は疑問しかないようだ。
「こいつんち、そういう家なんだよ」
「あぁ。料理教室やってるんだったな」
金子は行ったことあるんだったな。
今日はただの趣味なんだけど。
「もしかして、エープリルフールをかけてる?」
「…………そんなところです」
「嘘……フェイク料理ってヤツっすか」
「今日4月1日か。なるほど」
納得された。
ネタにも笑いにもならないこの空気。
やっぱり実家は変な家だったようだ。
隣でにやにやしている健吾をはっ倒したくなった。