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米が食いたい!  作者: 月湖畔
2 エピソード
20/28

番外編 「高田さんちの4月1日」

突発○○の日シリーズ。

母親が祭り好きだった。

季節のイベントも積極的で、クリスマスにはブッシュ・ド・ノエル、正月には3日前から仕込んだ3段重ねのおせちを作って周囲に配るのは毎年のこと。

学校行事があれば友人たちが2度見する弁当(手作り菓子付き)を持たされた。

子供は男しかいないのに関わらず、ひな祭りを自宅で開催し、近所の子供を集めて料理を振る舞うのを諦めたのは小学4年5年あたりだったと記憶している。

家が騒がしくなるのを喜んでいたのは母と兄だけだったな。

仕事人間だった父親は、母がやることを応援はしても参加したことがない。

そんな家で育ったわけで、季節のイベントは最早習慣的なものになっていた。

幼少期の情緒教育の賜物……個人的には弊害かもしれない。


この日も当然なにか仕出かすわけなのだ。




「ただいま」


せっかくの休日だというのに、朝から母に呼び出され、実家に帰って制作の手伝いをさせられていた。

今年のテーマは「屋台飯」。

たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きつくね、フライドポテト。

作ったこれらはフライヤー用に撮影したあと、地域の子供会に配るらしい。

……うちの子供はみんな成人しているんですけど。

こういうものは子供が喜ぶのだからいいんだけど。

少しお裾分けをもらったので奴らに食わせようと思う。

健吾用の餃子もつくったので、イベント的には万全と言えよう。


「これ、うちの母親から」


手持ちの袋からパックを取り出す。


「なんすか。いっぱいありますねー」

「おいしそー! チンしていい?」

「お好み焼きは豚玉か? イカ玉か?」

「はらへったわー」


リビングには全員が揃っていた。

わらわらと料理が広がっているテーブルに群がる。


「冷めても美味いんでそのまま食ってください。健吾は餃子これな」

「指定なのかよ」


一応体に気を使ってやってるだけなのだが、怪しまれてしまったか。

それでも腹が減っているのは本当みたいなので、さっそく餃子をつまみ上げる。


「んあ? あー、そういう」


感触だけで中身が何なのかわかったようだ。

ちゃんと焼き色つけたのにな。

他の品にも目を向ける。

確信したかの様な視線を寄越すので、すっと避けておいた。

うちがどんな家か知っていることもある。


「なによぉ」

「別にぃ? 美味いぜ、餃子」

「そりゃどうも」


健吾が食べれるものを作っているんだから、不味いなんて言ったらはっ倒す。


「ずるーい。私はたこ焼きもらうわ」

「俺はつくねいただきます」

「豚玉!」


想像と違う味だろうが、美味い筈だ。

反応が楽しみでガン見してしまう。

3人が揃って口に入れる。

工夫はしたが間近で見たら気づくだろう。

熱はないし匂いも違う。


「なにこれ、シュークリーム?」

「ドーナツだ!?」

「甘っ!」


母が作ったのはびっくりスイーツ。

見た目はたこ焼きやお好み焼きだが、甘い菓子でできている。

たこ焼きはプチシューにチョコソースをかけ、ドライチェリーのシロップ漬けで紅生姜や青のりを表現している。

つくねは一口ドーナツ。つくねっぽいゴツゴツした感じを出すのが肝。

お好み焼きはパンケーキに、これもチョコソースと食紅で色付けしたチョコがまぶしてある。

焼きそばはモンブラン、フライドポテトはスイートポテト。

餃子は求肥であんこを包んだ餅。焼き目はバナーで炙った。

どれも手が混んでいるものばかりだ。


「高田先輩、これなんすか!?」

「だから、うちの母親からの手土産」


普通の家庭はこんな手土産持たせたりはしないだろうけれど。

案の定、3人は疑問しかないようだ。


「こいつんち、そういう家なんだよ」

「あぁ。料理教室やってるんだったな」


金子は行ったことあるんだったな。

今日はただの趣味なんだけど。


「もしかして、エープリルフールをかけてる?」

「…………そんなところです」

「嘘……フェイク料理ってヤツっすか」

「今日4月1日か。なるほど」


納得された。

ネタにも笑いにもならないこの空気。

やっぱり実家は変な家だったようだ。

隣でにやにやしている健吾をはっ倒したくなった。

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