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米が食いたい!  作者: 月湖畔
3 シーズン
21/28

餅の行方

2021年最初の「飯家」です。

師走になると食品売り場の目立つ一角に並ぶ商品がある。

餅だ。

年末から年始にかけて、日本中で大量に消費される。

会社も学校も長期休暇に入り、家にいる時間が増える為、家で食事をとる回数も必然的に増える。

保存が効き、1つ2つでカロリーと満足を得られる。

焼いて醤油を塗って海苔を巻いたり、きな粉を塗したり、餡子を乗せたり、鍋に入れたりとアレンジも多彩。

冬場は最も重宝する食材の1つだ。


年明けはやはり餅が食いたい。

そう思い、12月の中頃にお徳用大入り袋を購入した。

家に帰って、ホウレンソウは大事だな、と思った。


「元旦はやはり雑煮だよな。なので餅を買ってきたぞ」


金子が得意げに見せびらかしてきたのは、お得用大入りの餅の袋。

しかも3つ。


「金子先輩も買ったんですか」


小石川が出したのも餅の袋。

同じく大入り袋。


「被らなくてよかったわ」


被らないと言うのは真澄先輩。

だが、先輩が出したのも餅。

飾る目的の鏡餅だが、パックを開けると切り餅が詰まっているタイプ。

結局それも食わなくちゃいけない。


「毎日食っても1月中に食い切れるか?」


こいつは買ってないな。よし。

1つの食材を困る量買ってくる常習犯だ。

誰が処理していると思っているんだ。学んでほしい。


「とりあえず、焼くか」

「これは正月用なのであって、まだ12月なのだが?」

「来月の食卓は毎食餅が食いたいのかわかった」

「量が量だしな。今から少しずつ食べようじゃないか」


あっさり手のひらを返してきた金子に同調した他の面々も、問題ないと頷く。

一度に5つ焼けるほど、この家にあるトースターは大きくない。

食パン2枚が限界のサイズのトースターでは4つ、焼くと膨らむので3つが上限だろう。

向きを工夫すれば5ついけるか。

とりあえずトースターの台座にクッキングシートを敷く。

網の上に直接置くとくっついてしまって後々面倒だ。

端から1つずつ並べていくと横に2つ、縦に3つ入った。

まず1人1つある。

とりあえず焼けた餅に砂糖を溶かした醤油を塗って、1つずつ取った。

餅を食うのは約1年ぶり。

初めの一口は格段に美味く感じる。

他の面々の表情から同じように美味いのだとわかる。


餅との格闘の初日は、喜色が濃いスタートだった。






「…………今日も餅か」

「誰のせいだ」

「俺だけのせいじゃないだろう」


角餅を包丁でスライスしているところに金子が顔を覗かせた。

このところ、餅の消化のために3日1度は餅料理がテーブルに並んでいる。

これが餅が切れるまで続く。

主食として、餅は優秀な食材だが、いかんせん年末年始の特別感があるため、米やパンのように毎日食べようとは思わない感がある。

こういうものは少量だからいい。

賞味期限はまだまだ先だから一気に食べる必要もないけれど、春はともかく夏に食べたい物ではない。

食べ切るなら1月がピークだ。気分的に。

少しでも飽きないように味は変えているけれど、白米のように食べ飽きない味はないだろうかと、最近の悩みの1つだ。


「何を作っているんだ?」


今まで焼いたり、煮たり、揚げたりしていたが、形は袋入りの物と変わらない、そのままのサイズだった。熱を通したせいで膨張したり溶けたりしたけれど。

刃を入れて形を変えたことがなかった。

だから不思議に思ったのだろう。


「どうせお前ら酒盛りするだろう」

「正月休みの最後だからな」

「だから、つまみになるもんだよ」

「!? 餅は、つまみになるのか?」


餅は主食かおやつだと思っていたらしい金子は心底驚いている。

保存も効くし、何にでも合う、アレンジ次第でなんでも作れる万能食なのに。

今のところ、一番喜ばれたメニューはおでんの餅巾だったりする。


「せんべいだって原料は餅だぞ」

「そうなのか? 生丸はあられでビール飲むしな」

「あいつの場合、好き嫌いが激しいから、食いもんが限られてんだよ」


アレルギーがあるといっても、元々偏食の気がある。

メニューを考える方も大変だ。

用意しないと食べようとしないので手がかかる。


「で、何作ってるんだ?」

「んー、餅ピザ」


スライスした餅をフライパンの上に隙間なく並べる。

弱火で火を入れる。

温まるまで上に乗せるトッピングを用意する。

玉ねぎとピーマンをスライスして、格安ベーコンを適当に切る。

冷蔵庫の在庫処分のため、使えそうなものを並べる。

年末年始、家籠りするため大量に食材を買い込んだ。

正直、年越しそばに焼き餅入れて力そばにしたのはやりすぎたとは思っている。

胃もたれしてなかなか眠れなかった。

そばの付け合わせで金子が買ってきたたくあんがまだ多く残っている。

たくあんのピザも面白いかもしれない。

まだ保存が効くけれどコーン缶も開けるか。

トマトはないから洋風より和風にするか。ならネギとノリも用意して。

5人もいるし、3枚くらいつくるからそれぞれ味を変える。


「うん? ピザ生地に餅を乗せるんじゃないのか?」

「いや。餅を生地にする」

「ものすごく伸びそうだな」

「そうだな」


ソースは3種類。

ケチャップと明太子と味噌。

ケチャップは洋風にスライスした玉ねぎとピーマンとベーコンを乗せ、コーンとおつまみモッツァレラチース、昨日の鍋で残ったしめじをまぶして、さらに上にとろけるチーズをふりかける。

スタンダードなピザが出来上がった。

明太子ソースは、明太子にマヨネーズを混ぜて作る。

レンジで熱を加えたジャガイモを一口サイズに切り、ソースを塗った生地の上に玉ねぎと一緒に並べて、チーズとノリを散らす。

こちらもデリバリーピザでよく見る人気のピザだ。

味噌ソースにもマヨネーズを混ぜる。こちらにはちょっとだけ砂糖を入れる。

刻んだネギをどっさり盛って、細く短冊切りしたたくあん、唐揚げ用に買っておいた鶏肉を少し切り分け一口サイズにカットしてボウルに残った残りの味噌ダレで下味をつけてネギの上に乗せる。

ネギを押さえつけるように蓋をして蒸し焼きにした。

ネギの量が減ったら蓋を取って山のてっぺんに温泉卵を落とし、さらに焼く。


「おい。俺の分……」


3枚目ができる前に、すでに1枚目2枚目は1切れもなかった。


「お前らには思いやりってもんがないのか」

「美味しくって、つい」


てへ、と真澄先輩が苦笑する。


「カリカリモチモチでめっちゃ美味いっす」

「次は何味だ?」


寄せてくる期待の目にイラッとした。


「もうねーよ。これは俺と健吾の分」


チーズがダメな健吾用の餅ピザだ。


「オレのあんの?」

「お前だけないのはおかしいだろ」

「ほーん……あるなら、いただきましょーかね」


ひとりローテーブルで飲んでいた健吾がいそいそとダイニングテーブルにやってくる。

3人はまだ足りないと席を退く気がない。

仕方なしにもう1枚作ることにする。


「真澄先輩、納豆もらいますよ」

「どおぞー」


冷蔵庫から納豆とキムチを出す。

追加の餅をスライスしてフライパンに並べる。

熱で重なった部分がくっついていく餅の上に納豆とキムチを混ぜた具を敷いていく。その上にチーズを散らして蓋をし、蒸し焼きにする。

キムチの匂いがキッチンいっぱいに充満する。


「善行ぃ。全部食っちまうぞー」

「食わないのならもらってやるぞ」

「ざけんな。食うから取っといて」


食い意地が張った奴らのために追加を焼いているというのに、血も涙もないのか。

焦げないように火を弱めて、テーブルへ向かう。

ネギの上に鎮座していた温泉卵はぐちゃぐちゃに崩され、掬い用がないくらいさらに残っていなかった。

お情け程度にネギにかかっている分しかない。

まだ1切れも食べていないというのに、6等分に切り分けた2切れしか残っていない。


「美味かった。ごっそーさん」

「…………食えたならいいけど」


少し冷めて固くなった餅ピザを食べる。

甘じょっぱい味噌ダレとくたくたになったネギの相性がいい。時々覗かせるたくあんがネギの甘さを引き立てていてバランスも取れている。


「そろそろいいかな」


4枚目のピザの様子を見にいく。

答えなど言わずとも、匂いでわかるだろう。

これも食いっぱぐれないように確保しないといけないだろう。

待ち構えていた狩人たちが、我先にと手を伸ばす。


「ホント、ゼンくんいいお婿さんになるわ。結婚して!」

「心から遠慮します」

「美味い! 酒が進む」

「餅ピザいいですねー」

「納豆とか邪道じゃね?」

「お前は明太餅でも食っとけ」


食事に満足してくれるのは嬉しいが、こいつらはまだ餅の恐ろしさを知らない。

角餅1つで、茶碗1杯と同じカロリーがあることを。

ピザ1枚作るのに餅いくつ刻んだと思っているんだ。


翌日、真澄先輩の悲鳴が脱衣所から響いた。

2021年の「飯家」は季節をテーマにしようかなぁと思っています。

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