表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
77/141

北の大陸へ




 翌朝。


 ルーンたちは早々に街を発ち、港町へと移動した。

 潮の匂いが濃く漂う船着き場の桟橋に、一行の足音が乾いた木を叩く。


「じゃあフィラーラ、お願い」

「うんっ」


 準備が整うと、フィラーラが荷物袋をごそごそと漁り、小さな船の模型を取り出した。


「それじゃ、いくよ」


 彼女はそれをそっと海へ浮かべ、澄んだ声で歌い始める。

 やわらかな旋律が風に乗り——次の瞬間、小さな船は淡い光に包まれて、みるみるうちに本来の大きさへと膨らんでいった。


「なっ、」


 一緒に来ていたガルシアが目を見開いて驚く。

 そりゃ、驚くよな。

 口をあんぐりと開けたまま動かなくなったガルシアを見て、ジェイクが言った。


 準備を終え、彼から順に船へ乗り込む。


 風向きと波の様子を見極め、タイミングを計って船を出航させた。

 桟橋がゆっくりと遠ざかっていく。


「じゃあなー!兄ちゃんたちー!」


 岸から大きく手を振りながら、ガルシアの声が響く。

 それに応えるように、甲板に立つフィラーラも両手をぶんぶん振った。


「またねー!」

「オレ!兄ちゃんたちのこと絶対忘れないからー!!」


 ガルシアは叫び続ける。

 やがて、港町は水平線の向こうへ小さく消えていった。



+


 目的地は北の大陸。

 舵を取るシオンの隣で、ルーンは地図を広げ、航路を確認していた。


「このまま北西を維持して。しばらくしたら少しだけ東に寄せて」

「わかった」


 短い返事とともに、シオンは舵を微調整する。

 甲板では、フィルとフィラーラが手すりに捕まり、穏やかな海を眺めていた。

 ジェイクは、船内で眠り込んでいる。


 静かな航海だった。

 風は穏やか、波も高くない。

 何かが起きる気配もなく、時間だけがゆるやかに流れていく。


「シオン。操縦、変わる」

「ああ。頼む」


 操舵は交代制で、数時間経ったのち、それはフィラーラの担当となる。

 甲板にて、ルーンとフィルが今後の話をしているところにシオンが割って入った。


「カラーは、まだ二つ残ってるわ」


 ルーンが静かに言う。


「北の大陸にあるホワイトと、東の大陸にあるグリーン。この二つの雫をブルーテイルに飲ませれば——世界の崩壊は止められる」


 風が彼女の紫の髪を揺らす。


「あと二つか…。最初は五つも集めるとか結構大変だなと思ったけど、意外とあっという間だったな」

「そうね。でも、まだ終わったわけではないわ。これからもカラーとの遭遇時には何が起こるかわからない。今まで以上に油断しないようにね」


 その言葉に、シオンとフィルは同時にうなずいた。



+



 ——それから一日。


 船は順調に航路を進んでいた。

 昨日と変わらず、海は静かだ。

 手すりに頬杖をつきながら、ジェイクがぽつりと漏らす。


「……こんなに何もない時間が続くと、これから先の航路でなんか起きそうだよな」


 隣で海を見ていたルーンが、風になびく髪をかき上げながら即座に返す。


「そんな事言うと、本当に起こりそうだからやめて」

「長年の経験で、自然とそう思っちまうんだよ」


 ジェイクは海から目を離さないまま答えた。


「何もないのが一番よ。特に、海の上ではね」

「……そりゃそうだ」


 二人は同時に、小さく息を吐いた。

 そして、しばらく無言で波を眺めたあと——ルーンが口を開く。


「そういえば、聞きたかったことがあるの」

「ん?」

「ジェイクは、いつから探求者をやっているの?」


 問われたジェイクは、少しだけ空を見上げた。


「そうだな……お前さんくらいの歳には、もうやってたと思うぜ」


 懐かしむような声だった。

 ルーンはさらに続ける。


「そう。…なら、シオンとは、いつから知り合いなの?」

「あいつとは——」


 ジェイクは、操縦席の方へ視線を向ける。


「シオンとは、三十過ぎてからすぐに出会ったんだ。そこからの付き合いで、探求者としてのスキルを磨きたいってんで、一時期俺たちは相棒だったんよ」

「相棒……」

「懐かしいな」


 くつくつと肩を揺らす。


「あの頃からあいつは無愛想でな。何考えてんのか、さっぱりわからねえ奴だった」


 少し間を置き、肩を竦める。


「……ま、今でも時々わからんけど」


 口元を緩ませて言うと、ルーンも同じく口元を緩ませた。


 その時。

 ——ゴトン。

 鈍い音が、船体のどこかから響く。


「何だ?」

「……?」


 ルーンとジェイクは同時に顔を見合わせる。


 そのあとも再び、

 ——ゴトン、ゴトン。と音が響いた。


 二人は手すりから身を乗り出し、音のした方を覗き込む。

 波間に、緑色の何かが見えた。


「何だあれ?」


 ジェイクが目を細める。

 揺れる海面のせいではっきりしないが、それは手足のようなものをばたつかせ、溺れているようにも見えた。


 魚か、海藻か。

 それは何度も船体にぶつかり、気になる音を立て続ける。

 ルーンは小さく息を吸い、指先を持ち上げた。


 淡い魔力が波の上に伸びる。


「……ちょっと引き寄せるわ」


 慎重に、落とさないように。

 緑色のそれをゆっくりと甲板の上へと運び上げる。


 目の前に置かれた“それ”を見て、ルーンは首を傾げた。


「…………」


 それは、ゆっくり、ゆっくりと。

 小さな手足を動かし、甲板の上を、のそりと這うように進む。


 それを見下ろした、ジェイクが納得したように呟いた。


「……こりゃ、亀だな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ