鉱石(偽物)を届けに
夜の出発は、ガルシアの提案によるものだった。
街から王都までの距離を考えれば、今のうちに動いておけば明日の昼までには到着するだろう。とのこと。
せっかく合流したっていうのに、また別行動になるのか。
フィルはあからさまに肩を落として落胆していたが、
「すぐ戻る」
と、シオンが短く言い残すと、フィルは一瞬だけ唇を尖らせ、肩を竦めた。
「……兄ちゃんたち、気を付けてね!」
背後から飛んできたガルシアの声を受けながら、シオンとジェイクは振り返ることなく歩き出す。
夜気はひんやりとして、二人の足音だけが静かな道に響いていた。
街を離れてからしばらく進んだところで、ジェイクがシオンから鉱石を受け取り、月明かりにかざす。
「しっかし、お前も考えたな。ニセモンを作って渡そうなんて」
半ば呆れたような声だったが、その声には感心も入っている。
シオンは前を向いたまま、淡々と答えた。
「あとはそれに、もうひとつ手を加えたら準備は完了だ」
「……あ?」
ジェイクが眉をひそめた。
その時、不意にシオンの足が止まる。
つられてジェイクも立ち止まり、彼の視線の先へと顔を向けると、少し離れた道の上に人影がひとつ立っているのが見えた。
黒いフードを深く被った、マント姿の人物。
その人物は、二人の姿を確認すると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「やあ、シオン」
軽い調子の声。
自分より頭ひとつ分ほど小柄なその人物を、ジェイクは露骨に訝しむ。
「……知り合いなのか?」
低く問うと、シオンはわずかに間を置き、曖昧に答えた。
「まあ、そんなところだ」
「それがそうか?」
フードの人物は、ジェイクの手元にある鉱石へ視線を落とした。
「凄いね。あの少年が持っていたものと、まるで同じだ。これなら——彼らも騙せると思うよ」
言い方が妙に芝居がかっている。
ジェイクの眉間の皺は、さらに深くなった。
「頼めるか?」
シオンが短く言う。
フードの人物は小さく頷き、鉱石へと手をかざした。
次の瞬間。
鉱石が、淡い光を放つ。
ピキ……ピキピキ、と、内側から軋むような音が鳴った。
光はほんの数秒で収まり、静寂が戻る。
「これでいい」
フードの人物は満足げに口元を緩めた。
「……何したんだ?」
ジェイクが首を傾げる。
「ちょっとした小細工さ」
軽く笑うだけで、詳しい説明はない。
「……………」
ジェイクの中で、胡散臭さが増しただけだった。
+
一夜明け——
シオンたちは王都へと到着した。
巨大な城門をくぐった瞬間、空気が一変する。
行き交う人々の数、飛び交う声、立ち並ぶ露店。
そこはまさに、大陸の中心にふさわしい活気に満ちていた。
「へぇ……さすが王都。人が多いな」
ジェイクが周囲を見回しながら感心したように言う。
すると、すぐ横から声が返った。
「ここは大陸の中心部だからね。大陸中から様々な種族の人物が集まってくるんだ」
当然のように会話へ入ってきたフードの人物に、ジェイクの動きがぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと顔を向けた。
「……なんでまだお前いるんだ?」
率直すぎる問いだった。
フードの人物はまったく気分を害した様子もなく、そのまま喋る。
「私は君たちの行動を見届ける義務がある」
そして、意味深に続けた。
「それに——ここにいる“彼ら”が、その鉱石に触れてどんな反応を見せるかも、見ておきたい」
わけがわからない。
ジェイクの顔には、はっきりとそう書いてあった。
「…………」
その様子を、シオンは横目で静かに見つめていた。




