出し物、決定
翌日。学び舎。午後の授業の時間。
この時間、ルーンの教室ではサクラ祭の出し物を決めるための話し合いが行われていた。
生徒たちから提出された案を聞き終えたケインはチョークを片手に、内容が酷似しているものや以前に実施したことのあるものを除外しながら、一つずつ黒板に書き出していく。
並んだ案は全部で十個。この中から生徒たちの投票で実際に行う出し物を決めることとなる。
「ふむ。今年もみなさん、やりがいがありそうな案を考えてきてくれたようですね」
黒板に並んだ案を眺めながら、ケインは満足そうに頷いた。
「では、この中からやりたいものを選び、決まった人から順番に前へ出て投票をしてください」
そう告げると彼は黒板から離れ、教室の扉近くに置かれていた椅子に腰を下ろす。それを合図に生徒たちは一斉にざわめき始めた。
近くの席同士で相談する者もいれば、黒板の前まで行って案を確認する者もいる。
「…………」
ルーンもまた、黒板に書かれた十個の案を見つめて眉をひそめた。
上から順番に、一つずつ目を通していく。
クイズ、人形劇、演劇、お化け屋敷、展示、ファッションショー、休憩所、迷路、ライブ、占いの館。
残念ながらルーンが提出した案は、その中には含まれていなかった。
すべての案が採用されるわけではないと分かってはいたものの、いざ自分の案が候補から外れてしまうと、やはり少し残念な気持ちになる。
とはいえ、今はこの十個の中から自分たちがやりたいものを選ばなければならない。どれも面白そうで、なかなか決められそうになかった。
「ルーンちゃん、何やりたいか決めた?」
隣の席から、マキノが声をかけてくる。
「いいえ。決めかねているわ。……貴女は?」
「うーん。私も迷ってるんだよねぇ。どれも面白そうだし……」
マキノは眉尻を下げ、困ったように黒板を見上げた。彼女が提出した案も、残念ながら候補には残らなかった。
二人が悩んでいる間にも他の生徒たちは次々と黒板の前へ並び、投票を済ませていく。半分以上の生徒が投票を終えた頃に黒板を確認すると、現時点で最も票を集めていたのは人形劇だった。
「んー。この様子だと、人形劇に決まりかな?」
「決められないのなら、一番多く票が入っている人形劇に入れるのもありよね」
「そうだね。……人形劇に入れる?」
「……そうね」
顔を見合わせて頷くと、ルーンとマキノは席を立った。
すでにできていた生徒たちの列に加わり、自分たちの順番を待つ。そして黒板の前に立つと、それぞれ人形劇に票を入れた。
最後の生徒が投票を終えると、ケインが黒板の前へ戻ってくる。
「はい。みなさん、票を入れ終えたようですね」
ケインは、それぞれの案に入った票を確認していく。最終的な結果を見ても、最も多くの票を集めていたのは先ほどと変わらず人形劇だった。
「ふむ。では……投票の結果、今年のサクラ祭の出し物は人形劇に決まりました。みなさん、計画的に準備していきましょうね」
その言葉に、生徒たちは元気よく返事をした。出し物が決まると、今度は具体的な内容についての話し合いが始まる。
人形劇の題材は何にするのか。配役はどうするのか。人形は手作りするのか、それとも別の方法で用意するのか。背景や舞台はどうするのか。
次から次へと意見が飛び交い、教室は先ほどまでとは違った活気に包まれた。
誰かが案を出せば、別の誰かがそれに意見を加える。ときには意見が食い違うこともあったが、それも含めて話し合いは順調に進んでいった。
そうして、どれほど時間が経ったか。午後の授業の終了を知らせる鐘が学び舎に鳴り響いた。
生徒たちはそれぞれ帰り支度を始めるが、まだ話し足りないのか教室を出ようとする者はほとんどいない。
黒板には人形劇の題材候補がいくつも書き出されている。どれも昔から親しまれている童話で、誰もが知っている物語ばかりだった。
「ルーンちゃん、帰ろー」
鞄を手にしたマキノが、ルーンに声をかける。
「ええ」
ルーンは頷いて鞄を持ち、マキノと一緒に教室を出た。
昇降口へ向かうと、ちょうどショウコと鉢合わせる。どうやら彼女も帰るところだったらしく、三人はそのまま連れ立って学び舎の門へと向かった。
「ショウコちゃんの教室は、何をやるのか決めたの?」
歩きながら、マキノが尋ねる。
「ううん。候補が多すぎて決められなかった。だから、また明日話し合うの。…マキノたちは?」
「私たちは決まったよ。ね、ルーンちゃん!」
「ええ」
「何するの?」
「人形劇だよ。題材はまだだけど」
「人形劇かぁ。楽しそうだね」
「うんっ。今から楽しみだよ!」
弾んだ声で答えるマキノに、ショウコも楽しそうに笑った。
そんな会話を交わしているうちに、三人は学び舎の門を抜ける。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。またね!」
「ええ、また明日」
互いに手を振り合い、それぞれの帰路へとついた。
マキノとショウコを見送ったルーンは一人、家への道を歩き始める。
「ルーンさん!」
「?」
すると、しばらく進んだところで背後から聞き覚えのある声がした。
振り返ると桃華と依千蔵がこちらへ向かって歩いてくるのが見え、二人はすぐにルーンの両隣へ並ぶ。
「珍しい。ルーンさんと帰りが被った」
桃華が嬉しそうに言った。
確かに、この時間に桃華と依千蔵がここにいるのは珍しい。普段なら二人はルーンよりも先に帰っているはずだった。
何をしていたのかと尋ねるまでもない。おそらく二人も、サクラ祭の準備について話し合っていたのだろう。
「ルーンさんのところは決まったの?出し物、何をやるか?」
「……ええ。貴女たちは?」
「私のところも決まったよ。依千蔵のところもだよね」
「ああ」
桃華に話を振られ、依千蔵は短く頷く。それぞれの教室で何をすることになったのか、自然と話題はそちらへ移っていった。
桃華の教室は演劇。そして依千蔵の教室は、昨日の夕食時にルーンたちが食べた『ひとつは爆弾おにぎり』に決まったらしい。
「…………」
その言葉を聞いた途端、ルーンの脳裏に昨日の出来事が蘇る。
口いっぱいに広がった、あのわさびの味。思い出しただけで自然と眉間に皺が寄った。
「フィルさんのところも決まったのかな?」
「さぁ。帰ったら聞いてみたらいいんじゃね?」
「そうだね」
桃華は口元を緩ませて笑う。
その後も、ルーンたちはサクラ祭の話を続けた。出し物のことだけでなく、学び舎であった出来事や何気ない日常の話まで。
話題は尽きることなく、誰かが口を開けば、また別の誰かがそれに応える。そうして三人は家に着くまで言葉を途切れさせることなく、賑やかな帰り道を歩き続けた。




