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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
34/79

予想外





 港町に戻ってくると、シオンとジェイクはギルドへ依頼の報告に向かい、ルーンとフィルは少女を連れて宿屋へ。

 階段を上がって二階へ行く途中、カウンターにいた男性が、びしょ濡れの少女の姿を見て目を丸くしながら吃驚していた。


「(……そりゃ驚くわよね)」


 ルーンは内心でそう思いながら、少女の後ろを歩き、部屋へ。

 中に入ると、少女はルーンたちに振り返り、改めて口を開いた。


「……わたし、なまえ……ふい……ふい……」


 少女は口をもごもごと動かしながら、必死に言葉を探す。


「……ふい、らあら……ふいらあら……ふいらあら」

「ふいらあら?」


 フィルが首を傾げる。


「……“フィラーラ”って言いたいんじゃないかしら?」


 ルーンがそう言うと、少女は目を輝かせて、こくこくと何度も頷いた。


「ふい、ふぃらあら!ふいらあら!」

「フィラーラ……それがあなたの名前なのね」


 ルーンが言うと、少女――フィラーラは嬉しそうに笑った。


「あなたたち、なまえ、しりたい」


 二人は自分の名前を順番に伝える。


「ルーンよ」

「オレはフィル」


 それを聞いたフィラーラは、きょとんとして口を開いた。


「……るうん……ふ、ふい……ふいる……?」


 必死に口を動かすが、どうしても少し違ってしまう。

 フィルは思わず笑って、もう一度自分の名前を言った。


「フィルだよ」

「ふ、ふい……、ふぉ、ふい…」


 けれど、やっぱりうまく言えず、フィラーラは眉尻を下げる。


「にんげん、ことば……む……むごかしい……」

「むごかしい」

「“難しい”、ね」


 ルーンがそう教えると、フィラーラはハッとして、今度は流暢に、ルーンたちの知らない言葉を喋り出した。


「────」

「……?」


 今度はルーンとフィルの番だった。


「あー、…な、何て言ったの?」


 ぽかんとしたフィルに、フィラーラは首を傾げながら言う。


「あ。これ、わたしたち、ことば。にんげん、ことば……むごかしい。わたしたち、ことば、にんげん、むごかしい」


 どうやら、フィラーラに人間の言葉が難しいように、フィラーラたち人魚の言葉も人間には難しい。という事が言いたいらしい。お互い様だという事だ。


「…ちがう、ふたり、なまえ、…しりたい」

「違う二人?…シオンとジェイクさんの事?」


 そしてルーンたちはシオンとジェイクの名前も伝えたが、ジェイクの名前にも彼女は苦戦していた。


「……じぇ……じゃ……ぐい……」

「……ジェイクの名前も言えないみたいね」


 そのやりとりをしていると、扉が開き、シオンとジェイクが戻ってくる。

 入ってくるなり、ジェイクの苛立った声が響いた。


「くそっ、あの野郎、舐め腐ってやがる!」


 悪態をつきながら、ジェイクはベッドにどかりと腰を下ろし、腕を組む。


「どうかしたの?」


 ルーンが聞くと、シオンが答えた。


「明日出航予定だったラ=パープル行きの船が、急遽、出航中止になった」

「……は?」


 ルーンとフィルは目を見開く。


「船、出ないの!?」


 フィルの声に、ジェイクは舌打ちする。


「理由を聞いても?」

「…ダリアン絡みだよ。あいつが清掃作業をわざと遅らせてるらしい」


 新しい“汚れ”が見つかったから、それが完全に綺麗になるまでは船着き場の作業は中止。

 その間、船は一切出航しない。


「『僕はね、汚れを見つけたら完璧に綺麗にしたい主義なんですよ。だから、この汚れが片付くまでは船は出航しません』……ってな」


 ダリアンの口調を真似て言い、ジェイクは仰向けに倒れた。


「ふざけんじゃねぇ……!」


 船が出ない。

 それはつまり、西の大陸へも、ブルーのもとへも行けないということだ。


「どうする?」


 シオンはルーンを見た。

 ルーンは眉をひそめ、静かに息を吐く。


 そこへ、フィラーラが不思議そうに口を挟んできた。


「……ふね?」

「オレたちは、明日、船に乗って、ここを離れるつもりだったんだよ。だけど、無理になったみたい」


 簡単に事情を説明すると、フィラーラはきょとんとして首を傾げた。


「…………、」


 そして、少し考えたあと、ぽつりと言う。


「……ふね、あるよ」

「どういう意味だ?」


 シオンが聞くと、フィラーラはにっこりして答えた。


「わたし、いた、ふね……まだ、うごく」


 フィラーラが口にした船とは、西の海岸にあったあの船のことだろう。


「残念だけど、あの船じゃラ=パープルへは行けないわ」


 ルーンがそう言うと、フィラーラは首を振った。


「ふね……なおす。わたし、できる」


 その言葉に、部屋の空気が、ぴたりと止まった。



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