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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
33/199

謎の少女





「……まじゅう、いない」


 ぽつりと、少女は呟いた。


 きょろきょろと周囲を見渡しながら、濡れた髪を揺らす。その視線は砂浜と岩場を行き来していて、その言葉から魔獣の姿を探しているようだった。


「フィル!ジェイク!」


 船のあった場所から戻ってきたシオンとルーンは、フィルたちのもとへ駆け寄り、目の前に立つ少女を見つめる。


「あっ、シオン!あの子、いきなり海から出てきたんだよ!」


 フィルが驚いたまま言うと、シオンは頷く。

 ジェイクは腕を組み、少女の姿をまじまじと観察した。


「………、」


 少女は全身びしょ濡れで、髪も服も水を滴らせているのに寒そうな素振りひとつない。濡れていても気にしていない、という様子だった。

 海から現れた。という事実が、ジェイクの中でもっとも引っかかり、彼の中で疑問が膨らみ続ける。


「(これは、もしかしすると…?)」


 あるひとつの答えに辿り着き、ジェイクは眉をひそめた。


「シオン。あいつは――おそらく人魚だ」


 シオンの方に顔を向けて言うと、彼はジェイクの方を見て、同じく眉をひそめる。


「人魚って?」


 ルーンが首を傾げた。


「半分人間で、半分魚の“ローレライ”って呼ばれてる種族だ。海底深くに住んでて、滅多に地上に出てこない珍しい連中さ」


 ジェイクは口元を緩ませながら続ける。


「人魚にはな、“幸運を与える力”があるって噂もある。その姿を見たやつには、もれなく幸運が授かるって話だ。――俺は信じてないけど」

「幸運…」


 説明を聞き、ルーンは顎に手を添える。

 眉唾ものね。と、心の中で思った。


「……まじゅう、あなたたち、やった?」


 少女が首を傾げながら、たどたどしく尋ねてくる。

 その問いに、シオンは短く答えた。


「ああ」


 それを聞いた瞬間、少女は目を見開き――、ぱっと表情を明るくする。


「いなくなった…!…よかった」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「ここ、わたし……おきにいり、ところ。ずっと、まじゅう、いた、から……こまってた」


 そう言って、少女は四人のそばまで歩み寄り、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとう」


 髪に留められた髪飾りが、きらりと光る。


「わたし……おれい、したい。まじゅう、たおした……おれい」


 屈託なく笑いながら言う少女に、ルーンたちは顔を見合わせる。


「俺たちは別に助けたわけじゃない」


 シオンがそう言うと、少女は彼の方を見て、きょとんと首を傾げた。


「まじゅう、いなくなった。あなたたち、おかげ。わたし、こまってた。だから……おれい、する。したい」


 言葉を探すように、顎に手を添えながら必死に伝えてくる。

 それでも、シオンは首を振った。


「礼はしなくていい」


 だが、少女は聞く耳を持たなかった。

 しばらくシオンと少女の会話は続いたが、一向に進まないそれにしびれを切らし、ジェイクが口を挟む。


「まぁ、いいんじゃねぇの?」

「ジェイク」

「減るもんじゃねぇしよ。したいって言うなら、させてやれよ」

「おれい、したい。わたし……なんでも、する」


 少女はにっこりと笑った。

 その屈託のない笑顔に、シオンは深く息を吐く。


「……オレ、人魚って初めて見たよ」


 フィルが、ぽつりとルーンに言った。

 シオンとの会話が終わったあと、ジェイクはフィルの肩に手を回し、ニヤニヤと笑う。


「人魚には美人が多いらしいぜ。運が良けりゃ、ひとりくらい紹介してくれるかもな」


 その顔は、すっかり緩みきっていた。


「び、美人……」


 フィルは呟き、頬を赤く染める。

 一体、何を想像しているのか。


「……………」


 その様子を見て、ルーンは無意識に眉をひそめた。




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