西の海岸にて
翌日。
依頼のため、シオン、ルーン、ジェイク、フィルの四人は、西の海岸まで足を運んでいた。
海の匂いが強く、潮風が肌にまとわりつく。
砂浜と岩場一帯を占拠しているのは、無数の魔獣たち。
骸骨の姿をした魔獣、ぬめぬめとしたスライム型、鋭い牙を持つ水棲魔獣――
種類も数もばらばらで、まるでそこは魔獣の巣窟だった。
「これじゃ、優雅に海水浴もできないわね」
ルーンが呆れたように言うと、ジェイクが拳を突き合わせて笑う。
「んじゃ、パッと片付けますか!」
会話はそれだけだった。
四人はそれぞれ武器を構え、魔獣の群れへと突っ込んでいく。
「グアアアッ!!」
こちらが仕掛けると、魔獣たちが気付いて、次々と襲い掛かってくる。
一匹倒しても、すぐまた次が現れ、協力して一体を仕留めても、別の方向から別種の魔獣が襲ってきた。
――数が多すぎる。
砂浜は次第に荒れ、魔獣の骸と痕跡で埋まっていった。
「うわっ!」
「フィル!……炎よ!」
「うらあ!!シオン、そっち頼む!」
「──っ!!」
魔獣との戦闘を始めて、どれだけの時間が経ったのか。
止まることなく手を動かし続けて、すべての魔獣を倒し終えた頃にはジェイクとフィルはその場にへたり込んでいた。表情に疲れの色が見える。
「…っ、だあ!…やっと終わった…!…どんだけいんだよ……!」
両手を砂につけ、ジェイクは空を仰ぐ。
「でも、こんだけ倒せば……報酬も追加されんだろ……」
そう言って、大きく息を吐いた。
フィルも、盾を支えに身体をだらりとしている。
「…………」
ルーンは立ったまま、周囲をきょろきょろと見渡した。
砂浜、岩場、海――
もう魔獣の姿は見当たらない。
「……?」
だが、その時。
ルーンの視界の端に、影が映った。
岩場の陰。
何かが、そこに“ある”。
「……、」
気になって、ルーンは足を動かす。
その背中を見て、シオンも無言でついていった。
岩場の向こうへ回り込むにつれて、影の正体ははっきりしてくる。
ルーンは足を止めて、それを見上げた。
「……あ、」
それは、巨大な船だった。
船体はところどころ壊れ、木は腐り、苔がびっしりと張り付いている。
「シオン、船よ」
「……ああ」
あとから来たシオンも、船体を見上げて頷く。
長い間、放置されていたのか。
よく見ると、船体の側面には大きな穴が空いていた。中に入れそうだ。
「…………」
ルーンは躊躇なく近付き、穴から中を覗き込む。
当然だが、船内は暗くてよく見えない。
「暗いわね…」
シオンが懐からライトを取り出し、船内を照らした。
壊れたテーブル、倒れた椅子。
床には穴が空いているのか、船内の半分以上が水に浸かっている。
「……どうして、こんな所に船があるのかしら」
「最近では見ないタイプの船だ。…おそらく、だいぶ昔に使われていた船なんだろう」
キョロキョロと見渡し、シオンがルーンの言葉に答えた、その時。
――バシャン。
「!」
どこからか、水の跳ねる音がした。
二人は同時に音のした方を見る。
水面に、波紋が広がっている。
何もなく水が跳ねることはない。
つまり、さっきまでそこに“何か”がいたということだ。
「………」
二人は顔を見合わせ、シオンが近付く。
ライトで水面を照らすが、そこには何もいない。
「……!」
足元を照らし、水の中を覗いた――
その瞬間。
シオンは、水の中の“何か”と目が合った。
それは、水の中で瞬きをし、ゆっくりと水面から顔を出す。
水色の髪。
翡翠色の、大きな瞳。
ぱちくりと目を瞬かせながら、それはシオンをじっと見つめていた。
――それは、少女のようだった。
「………」
「……(何だ、こいつ)」
シオンは眉をひそめる。
髪に付けられた飾りが、ライトの光を受けてキラリと輝いた。
しばらくして、少女はようやく口を開く。
「……あなた、だれ?」
少しだけカタコトな言葉。
それを聞いて、シオンはさらに眉を寄せた。
「シオン、何かいたの?」
そこへルーンも近付いてきて、少女を見下ろす。
「──!」
ルーンと目が合った瞬間。
少女は目を見開き、さっと水の中へ顔を引っ込めた。
そのまま身体をひねり、どこかへと泳ぎ去ってしまう。
そのとき、水面から一瞬だけ覗いたのは――
魚のヒレのようなものだった。
「……何、今の……?」
ルーンがぽつりと呟く。
「……俺にもわからん」
シオンが肩を竦めた、その時。
「わー!!」
外から、フィルの叫び声が聞こえた。
二人は船の外へ顔を向ける。
「フィルの声だわ」
「戻るぞ」
船内から出て、二人はジェイクとフィルのもとへ戻った。
まだ魔獣が残っていたのか。
そう思いながら、再び武器を構えて走る。
しかし、そこにいたのは魔獣ではなかった。
「!」
彼らの視線の先。
そこに立っていたのは、先程、船の中で見た――あの、水色の髪の少女だった。




